【特集】『弱キャラ友崎くん』×『千歳くんはラムネ瓶のなか』最新刊同時発売記念 屋久ユウキ×裕夢 青春ラブコメ対談インタビュー
2019年10月18日に『弱キャラ友崎くん』第8巻、『千歳くんはラムネ瓶のなか』第2巻が同時発売となった。このたび2作品の最新刊発売を記念して、両作品の著者である屋久ユウキ先生と裕夢先生をお招きし、青春ラブコメ対談インタビューとしてお話をお聞きした。両作品は小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞すると共に、キャラクターや物語において「リア充」という存在も欠かせない共通点として有している。お互いの印象から各作品のキャラクターに込められた想い、地元を物語の舞台にした理由など幅広く語っていただいた。
・屋久ユウキ(やくゆうき)
第10回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞し、『弱キャラ友崎くん』にてデビュー。「このライトノベルがすごい!」において3年連続でTOP10入りを果たしている。エゴサーチに定評のある作家としても知られ、10月11日には『弱キャラ友崎くん』のアニメ化企画も発表された。
・裕夢(ひろむ)
第13回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞し、『千歳くんはラムネ瓶のなか』にてデビュー。発売後には緊急重版も行われるなど、ガガガ文庫の青春ラブコメロードを突っ走る。『千歳くんはラムネ瓶のなか』のドラマCD化も発表された。
――最新刊の発売を記念して、本日は屋久ユウキ先生と裕夢先生にお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。
屋久&裕夢:よろしくお願いします!
――早速ですがまずはお二方の自己紹介をお願いします。
屋久:第10回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞させていただきました、屋久ユウキです。18歳頃からしばらく芸人をやっていて、その後は動画投稿などを経て、急にラノベ作家になるという少し変わった経歴を辿ってきています。執筆歴は『弱キャラ友崎くん』を書いたのが初めてなので、執筆歴とデビュー歴はほとんど変わらないですね。最近ハマッていることは……なんだろう。
――エゴサでは?(笑)
屋久:エゴサはハマッているというよりもライフワークなので……。エゴサについてはいろんなテクニックを習得し続けています。OR検索やマイナス検索、名前だけを省く検索だとか。なのでそうですね、今日はエゴサーチの極意についてもお伝えできたらと思います!
裕夢:第13回小学館ライトノベル大賞にて「優秀賞」を受賞させていただきました、裕夢です。出身は福井で、上京してから大学院を卒業後、雑誌の編集者として出版社に籍を置いていた時期もありました。その後、特に予定はありませんでしたが「小説家になります!」と大見得切って会社を辞め、しばらくはフリーライターとして活動をしていました。ライターとしての活動があまりに楽しくて小説の執筆を忘れていた時期もありましたが、晴れて『千歳くんはラムネ瓶のなか』でデビューすることができました。
※左:『弱キャラ友崎くん』/右:『千歳くんはラムネ瓶のなか』
――お二方とも「優秀賞」受賞という共通点もあるわけですが、小学館ライトノベル大賞に応募しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
屋久:正直に言うと応募締切のタイミングが近くて丁度いいところに……みたいな(笑)。
裕夢:僕も一番の理由はちょうど9月末に原稿を書き終えて……だったり(笑)。
屋久:あとは多くの方が抱いているように、ガガガ文庫は青春ラブコメのイメージが強かったので、応募作がレーベルの色としても合ってるんじゃないかなって思いましたね。
裕夢:そうですね。屋久先生がおっしゃられるように、僕もそのイメージは強かったです。それこそ僕の時には『弱キャラ友崎くん』もあったわけで、自分の書いた作品もそういった類型に続くような作品でもありましたし、ガガガ文庫に送ってよかったなってあらためて思います。
■裕夢先生「屋久ユウキ先生は、本当に優しい先輩です!」
――既にお二方は何度か顔を合わせているとお伺いしているのですが、お互いの第一印象はいかがでしたか。
屋久:僕は『千歳くんはラムネ瓶のなか』の発売前に、担当編集さんが一緒ということもあって、原稿を事前に読ませていただいていました。それで僕なりの感想なんかも伝えさせてもらったりして。実際に顔を合わせてお話をして、チラムネを書いていそうなのがなんとなく納得できたというか(笑)。
裕夢:どういうことです!?
屋久:雰囲気かな?(笑)。チラムネって主人公がリア充で、自分の信念を貫くみたいな方向性の物語だとも思っていて。裕夢先生と話をした時の印象で、そういう感じの人かなって。
裕夢:ありがとうございます、でいいんですかね(笑)。僕は屋久先生にお会いして最初に感じたのは、ちょっとえらそうになってしまって恐縮なんですけど、頭のいい人だなっていう印象でした。Twitterを見ていても読者相手に面白いことを言ったり、それこそエゴサについて語っていたり、凄いなという印象はもともとあったんですけど。
屋久:ほうほうほうほう……!
裕夢:それと今回の対談企画も含めて、チラムネは友崎くんからたくさんの恩恵を受けさせてもらっているし、屋久先生もそれをよしとしてくれている。本当に優しい先輩です(笑)。
屋久:そうなんですよ。「優しい先輩」の箇所は記事では太字でお願いしますね!(笑)。
裕夢:とはいえ、お会いする機会はたびたびありましたけど、じっくりお話したことはなかったんですよね。
屋久:確かにそういう感じではなかったよね。だいたい周りにも誰かしらいて、集団の中でちょっと話をするみたいな感じがほとんどだったと思います。
――では今回をじっくりお話する機会にしていただけたら幸いです。あらためてお互いに聞いてみたかったことはありますか。
屋久:さっきも少し触れたんだけど、チラムネの原稿を読ませてもらった際に、感想や指摘を担当編集さんに伝えていて、たぶん裕夢先生にも伝わっていたと思うんですけど、この指摘は面白かったとか、そういうのってありましたか。
裕夢:そうですね。実際に指摘をいただき「なるほど」と思って直したところはいくつかありました。ひとつは健太くんがスタバに行くシーンですね。「福井ではスタバに行ける層、行けない層」みたいな描写が当初はあったんですけど、「時代的に今はそこまででもないのでは?」という指摘に、確かにそうだなと思って(笑)。僕が福井にいた頃は、ガチでスタバに行ける層と行けない層みたいな格差イメージがあったんですけど、さすがに最近は薄れているのかなと表現をマイルドにしました。もうひとつの指摘も印象深くて、健太くんにブーツカットを履かせて、「一周回ってオシャレだと思ったのかな」というキャラクターの反応を描いていたシーンがあったんです。そしたら屋久先生から「ガチで一周回ってオシャレになってきているけど大丈夫か」という指摘をいただいたんです。
屋久:それね! ちょうど波がきてたんですよ(笑)。
裕夢:その指摘を受けて、このままでは健太くんがファッションの最先端になっちゃうって(笑)。屋久先生を通して日南葵から指南が入ったような感じでした。
屋久:――(笑)。裕夢先生から僕に聞きたかったこととかって何かあります?
裕夢:そうですね……『弱キャラ友崎くん』って、どのタイミングから作品として波に乗ったと感じるようになったのかは個人的に気になっています。いつ頃から人気や注目が出始めたことを自覚したのか、みたいな。
屋久:売れているとか売れてないとかとは少し違うんだけど、自分の中では第2巻のみみみ編であったり、第3巻のエピソードを書き切った時に手応えを感じてましたね。このまま書き続ければ大きな結果がついてきそう、って。それが具体的にいつ売れているや人気に繋がったかまではほとんど覚えてないけど、個人的な手応えはそこだったと思う。僕は原稿を書きながらいいシーンが書けた時に、独りで「おもろ!」とか言っちゃう人なんですけど、第2巻や第3巻を執筆していた時の声量はかなり大きかったはずです(笑)。
裕夢:なるほど。今後の参考にさせていただきます(笑)。
屋久:これ参考になる?(笑)。
※屋久ユウキ先生自身も書きながら大きな手応えを感じていたという第2巻と第3巻
――お二方はガガガ文庫と言ったら青春ラブコメというイメージを持たれているというお話でした。あらためて青春ラブコメ作品を執筆しようと思ったきっかけを教えてください。
屋久:僕は何かを作る時は、いつも抽象的なテーマから始まる傾向が強いんですね。それをみんなに伝えるため、どうすれば多くの人に伝えられるのかを考えた時に、テーマを翻訳するイメージでメディアやジャンルを選ぶことが多いんですよ。そういう意味では『弱キャラ友崎くん』で伝えたかったことをより多くの人に伝えるためには、ライトノベルの中でも嫌いな人が少なさそうな王道ジャンルである青春ラブコメがいいんじゃないかなと。みんな学校というものを知っているし、どんな形であれ青春を経験するわけだから、間口の広さもあるだろうと。少しでも広く伝えたいと思った結果、青春ラブコメという形になったんですよね。
裕夢:僕の場合はそこそこ明確な理由がありまして。もともと純文学や一般文芸といった本はずっと読んでいたんですけど、大学院時代にすごいオタクの友人がいて、当時は興味を持っていなかったラノベをはじめとしたオタクコンテンツをずっと勧められたりしていたんです。そんな友人が自分の誕生日に丸戸史明先生がシナリオを担当していたゲームをプレゼントしてくれて、さすがにプレゼントでもらった以上はプレイしないわけにはいかないと思い……結果としてドハマリすることになったわけです(笑)。そこからアニメを見るようになり、ラノベも読むようになってどんどん沼にはまっていった感じですね。最初のゲームがまさに青春ラブコメの作品で、いつか自分も書きたいという思いを抱くきっかけになったことは間違いないです。
屋久:あとは2015年から2016年にかけては、いわゆる“なろう系”って呼ばれる俺TUEEEな異世界ファンタジーの勢いが増していたタイミングでもあったと思うんです。自分としてはどこかで読者の嗜好がそういったジャンルから別のジャンルにも移っていく可能性は考えていて、それならば真逆に位置するであろう、成長要素のある青春ラブコメは狙いどころだとも考えていました。それが自分の伝えたいこととうまくハマったので、これだ!と。
裕夢:それは僕も一緒です。屋久先生がおっしゃられたことはもちろん、いち読者としても優しい世界のラブコメ作品が多いと感じていて、僕自身ももっと違う青春ラブコメを読みたいと感じるようになっていました。なので、どこかのタイミングで読者自身が自分の中でしっかりと噛み砕いて考えられるような、少し読み心地のずっしりした青春ラブコメが注目されるようになる可能性があるんじゃないかなとは考えていましたね。
■作品で描かれる「リア充」はリア充属性そのものへの問いかけ
――さて、ここからは具体的な作品の要素にも触れていきたいと思います。お二人の作品には物語の中心的な位置に「リア充」と呼ばれる存在が確たるポジションを持って描かれていることも特徴のひとつだと思っています。特に『千歳くんはラムネ瓶のなか』に至っては「リア充」が主人公として描かれているわけで、お二人は「リア充」をどんな存在として描こうと思ったのでしょうか。
裕夢:まず僕自身は「リア充」の主人公がそこまで斬新な設定だとはまったく思ってなかったんですよね。もちろん、ライトノベルにおいて「リア充」をチラムネのような形で描くのは珍しい類の作品なんだろうなとは思いましたが。
屋久:僕も前提として、特段に意識して「リア充」を描こうというつもりはなかったんですよ。
裕夢:作品のキャッチコピーでバンバン使われてはいますが、僕は「リア充」や「非リア」という言葉の在り様に疑問を抱いている節があります。この言葉がお互いに見えない敵を作っちゃっているような気がするといいますか。
屋久:それは僕も感じていて、オタクの中にだって明るいオタクもいれば暗いオタクもいるわけじゃないですか。それと同じように、リア充にだって悩みのないリア充もいれば、悩みを抱え続けているリア充だっているし、頑張って周囲にあわせているリア充だっている。それどころか、めっちゃオタクでめっちゃリア充な人だっていると思うんですよ。
裕夢:なんとなく「リア充=嫌な奴」というイメージが根深いような気がしているんです。僕としてはリア充だから嫌な奴なんじゃなくて、たまたま描かれたリア充が嫌な奴だっただけなのではと。そもそもリア充はクラスの中心にいるわけじゃないですか。本当にそんな性格の悪い奴らばっかり集まっているの?って疑問に思うんですよ。自分の学生時代を振り返ってみても、嫌なだけの奴はそもそもクラスの中心にはいなかったし、いられなかったと思うんです。
屋久:僕も裕夢先生も、リア充と非リアとか、リア充とオタクとか、その対比構造はどうなの?っていう疑問を持っているスタンスだと思うんです。だから、その構造って変じゃない?ということを伝えたいからこそ、物語の中でリア充を登場させる必要があったし、メッセージを伝えようとすればするほど、「リア充」をはじめとした言葉を多く用いなくちゃいけなくなって、結果として目立つようになっただけだと思うんですよね。
裕夢:そうですね。僕も書きたいものを書くためには、リア充に対する誤解や偏見を解いてからでないとダメなのかなと思った節はありました。逆にそれ自体がすごく新鮮な設定として受け取ってもらえたわけですけど(笑)。
屋久:そういう意味でも、僕はリア充を選択して描いているというよりは、「人間」を描く上でリア充も描かなくては成り立たない物語を綴っているんだと思います。若者みんなが抱えていたり、共有・共感できる悩みを描いていく中で、リア充だってみんなと変わらない悩みを抱えているんだよって。
裕夢:チラムネに関しては、リア充を最も身近なヒーロー像として描いている側面が強いです。友崎くんは物語の中にリア充になるためのノウハウがあって、それを「友崎くんチャレンジ」みたいに読者が実際に実行して、作品と一緒に成長できるという構造があると思うんですけど、チラムネの場合はそういったノウハウとは別に、格好いい主人公に憧れて、その憧れから自分も変わろうという成長の姿もあるんじゃないかと思ったんです。誰かに憧れてあんな男になりたいと自分を変える成長の物語でもあって、その指標のひとつが千歳朔というリア充でもあるんです。
※千歳朔には誰もが目指したくなるヒーロー像の姿も描かれているという
――なるほど、たいへん興味深い構造の中で「リア充」キャラクター達を描かれているのですね。そうなると登場する他のキャラクターもどのように創り上げていかれたのか非常に気になります。
屋久:僕の場合は先に描きたいテーマを持たせてキャラクターを創り上げています。みみみの場合は負けず嫌いの普通の女の子。壁にぶち当たっても勝ちたいと思い続ける、けど「普通」の女の子だからどうしてもある一線は越えられない、そんな女の子が結論としてみみみになった感じです。泉も自己主張ができなくて周囲の視線をとにかく気にしながら生活しているんだけど、そんな自分のことを嫌だとも思っている。にもかかわらず変える勇気がなくそのままの自分でいる女の子、という感じです。そうやって描きたいテーマを持たせたキャラクター達を創り上げていった結果、ひとつのグループが出来上がったイメージです。それもあくまで「リア充」っていうよりも「人間」で、「リア充グループってこういうものだよね」とか「リア充グループのあるある」ありき、というわけではないんですよね。
※みみみや泉をはじめ、キャラクター達にはテーマが課せられているという
裕夢:僕の場合は千歳朔を身近なヒーローとして描きたかったということと、タイプの異なるヒロインをたくさん登場させたかったという点は大きかったですね(笑)。ただ、千歳朔がトップにいて、グループ全体がそれに追従するようなキャラクター達にはしたくありませんでした。チーム千歳のメンバーは、自立性の高いキャラクターが多くて、自分の中に大切なものや核となる芯を持っているんです。だからこそ、他のメンバーが持つ大切なものや芯を尊重することができる。誰かに寄り掛かるのではなく、互いに互いを支えて尊重する対等なグループ、キャラクターを描きたいという思いは強くありました。
屋久:だから『弱キャラ友崎くん』と『千歳くんはラムネ瓶のなか』の二作は、リア充のことも描いているという点では共通しているんですが、実はその「リア充」キャラクターの描き方は真逆に近いのかもしれないですね。チーム千歳のメンバーは自分の中に核となる芯を持っている、すごく強い人間の集まりだと思うんです。逆に、友崎の属するリア充グループのメンバーは、思いのほか弱い人間が多い。みみみや泉はもちろん、なんでもそつなくこなす水沢だって、何事にも熱中できないという悩みを抱えながら日々を送っている。最強の魔王たる日南も、表面的には最強であるものの、彼女が本当の意味で自分を肯定できているかというと疑問が残ります。同じリア充でも描き方が違うんですよね。
■屋久ユウキ先生「竹井の存在はファンタジー(笑)」
――そんなリア充グループの中には、両作品で共通点の多いキャラクターが存在していると思うんです。ズバリ言うと竹井と海人なんですけど。
屋久:竹井(笑)。
裕夢:竹井はもはやマスコット的な存在ですよね(笑)。
※マスコット化が際立つ(!?)竹井
――竹井にあてがわれたテーマがあるならぜひ聞いてみたいのですが!
屋久:うーん、 竹井は友崎くんのキャラのなかでもほぼ唯一と言っていいくらい、存在がファンタジーに近いので(笑)。
一同:――(笑)。
裕夢:まだ海人の方が現実にいそうな気がする(笑)。
屋久:けどそうですね……少しだけ真面目な話をすると、自分だけでは自分を肯定できない「弱い」人物が多い中で、本質的な自己肯定感を持っている人物の一人ではあるのかもしれません。ほかにもそういった人物をあと数名だけ設定しているんですが、竹井は『弱キャラ友崎くん』では数少ない「強さ」をもったキャラクターだと言えると思います。ただ基本的には賑やか、楽しい、和める、うるさい、を担当しています(笑)。
裕夢:海人も竹井に通じる点があることは否めないですけど、僕も少し真面目なお話をすると、日常生活でいろんなことを考えながら注意を払い続けている人達にとって、良くも悪くも取り繕う必要のない相手がグループの中にいるのはとても貴重なことだって思うんです。いろいろ考え過ぎて一歩を踏み出せないキャラクターが少なくない中、感情ひとつで前進できちゃう。これは主人公の朔にだって難しいわけで。
※竹井に通ずるところもあるという浅野海人
屋久:日南葵も千歳朔もリア充としての仮面を被っている。もちろん二人だけじゃないんだけど、仮面を被って本来の自分とは違う自分を見せるキャラクターが多い中で、竹井や海人は仮面を被らない存在という対比なのかもしれないね(笑)。
裕夢:良くも悪くも眩しい存在ですね(笑)。
屋久:ちなみに竹井の名前は最終回を迎えても明かされることはないでしょう(笑)。
――竹井や海人といった魅力的なキャラクターがそれぞれ登場する両作品において、お互い気になっているキャラクターはいますか。
屋久:気になっているキャラクターは七瀬悠月かな。第1巻の原稿を読んだだけでも一筋縄ではいかないという感じがすごく強かった。ミステリアスなのに、ただミステリアスなだけでないリアリティも与えられている。僕にはすごく魅力的に映りましたね。
※屋久ユウキ先生が気になるというヒロイン・七瀬悠月
裕夢:ありがとうございます。言いたいことはたくさんあるんですけど、まずは七瀬悠月を中心に描いている第2巻を読んでいただきたいとしか言えない(笑)。
屋久:楽しみにさせてもらいます(笑)。
裕夢:僕はやっぱり日南葵が好きで、彼女の話が深堀りされることをすごく楽しみにしているんですよね。普段の完璧な仮面であったり、たまちゃんに見せた執着のような感情であったり。仮面を被る理由がどんな理由であったとしても、そこがどう描かれていくのかがとにかく楽しみです。僕から見たら完全に魔王ポジションにいるので、彼女は人間に戻るのか、それとも魔王のままなのか、屋久先生がどう調理していくのか期待しかありません(笑)。
※裕夢先生が好きだという日南葵
屋久:第8巻までそれぞれのヒロインについて描きながらも、日南の努力の正体やモチベーションの在り様といった日南自身のテーマには、実はまったくと言っていいほど触れてないんですよね。ゆえに言えないことしかないんですけど(笑)。考えてはいるので楽しみにしていただけたらと思います。
■出身地や地元を物語の舞台にしたワケ
――『弱キャラ友崎くん』は埼玉県大宮、『千歳くんはラムネ瓶のなか』は福井県と、それぞれ自身の出身や長く過ごしてきた地元が物語の舞台になっていますよね。
屋久:僕は小学生の頃から大宮近辺に住んでいたので、書きやすさはありました。大宮は僕の中では大都会ですし、住みたい街ランキングでも年々上位に上がってきている。それと埼玉県人って埼玉愛があると思うんですよ。僕も大宮に対しては結構強い思いがあって、自分で小バカにするのはいいけど、周りから言われると腹が立つみたいな歪んだ愛情もあります(笑)。自分が好きな街を書くのは書いていて楽しいし、筆も乗る。結果として読者も楽しんで読んでもらえるだろうという思いはあります。
裕夢:書きやすさは僕も一緒で、自分が青春時代を過ごしてきた街を描きたかった。みんなが想像しやすい東京を舞台にすることもできたわけですけど、田舎町の青春を描きたかったというのもあります。都会は電車一本でショッピングセンターにも行けて、どこでも服を買えて、疲れたらオシャレなカフェに入れて……でも福井にはそれがない(笑)。移動も自転車がメインですし、都会とはやっぱり違うんです。ガチで不便だからこそ、田舎町でしか描けない青春の姿もあると思うんです。
※チラムネは田舎を舞台に描かれる青春模様にも注目!
屋久:埼玉の青春で言うと、大宮という街はすごく『弱キャラ友崎くん』のキャラクター達に合っていると思うんです。さっきリア充の仮面というお話もしたと思うんですけど、大宮もちょっとそんな感じがしません?(笑)。大都会の仮面を被る大宮、みたいな。
一同:――(笑)。
屋久:駅から5分も歩けばすぐ住宅街で何もなくなります。でも駅前はすごく栄えている(笑)。作品で描く弱いリア充であったり、仮面で繕うキャラクターであったり、舞台が大宮だとなんかしっくり来るんですよね。キャラやテーマ自体が大宮っぽいというか(笑)。
裕夢:僕もヒーローという話をしましたが、最強リア充みたいな主人公が福井の高校生というのが個人的には面白いなって思ってます(笑)。それと田舎の青春と切っても切り離せないのが上京問題。高校を卒業して福井に残る人達と、田舎が嫌で都会に飛び出す人達ですね。たとえば埼玉であれば、電車で東京に行けるし、東京の大学にも実家から通うことだってできると思います。でも福井から東京に行くのは、完全に異世界に行くようなものです(笑)。俺は故郷を捨てて遠くの町に行く、みたいなノリになるわけで。そんな田舎と都会の関係のようなものにも今後は触れていきたいって思いますね。
――作品作りに関してもうひとつだけ。物語の舞台は高校であり高校生なわけですけど、今時の学生を描く上で参考にされている情報などがあれば教えてください。
屋久:最近の流行りといった具体的なガワの部分は拾うようにはしていますけど、それぐらいですかね。人間としての抽象的な部分に関するリサーチとかはほとんどしないです。学校という集団の中における人間の本質的なところって今も昔も基本は変わらないと思っているので。
裕夢:僕もリアリティの面では今使われている言葉、使われていない言葉を意識するくらいです。屋久先生の言われている通り、具体的なガワの部分は変化するかもしれませんが、高校生という普遍的な学生像そのものには劇的な変化はないと思っているので、あんまり調べることはないですね。
屋久:言葉のリアリティでいうと、僕はそれこそ重箱の隅をつつくような細かなリアリティを散りばめるように心がけています。「こんな会話の感じやノリあるよね」みたいなあるあるネタに近いものですね。たとえば第3巻の合宿で女子部屋のコンセントが携帯の充電器だらけになっていたりする描写です。女子高生ってコンセントがあるととりあえず充電するよな~、みたいな(笑)。フェチ感というか、なんとなく共感できるという描写には常に注意を払っています。これは僕がもともと芸人だったことも影響しているのかなと思っていて、大喜利やお笑いのネタ作りに近いのかなって思うんです。日常の細かなあるあるをいっぱい出して、共感するかどうかを厳選するような職業って、恐らく芸人以外にはなかなかないと思うんですよね。僕はそれを何年間もやっていたので、ラノベ作家になってちょっと変なこだわりへと繋がっているのかもしれません(笑)。
■最新刊では新章が始動する友崎くん、ラブコメ要素が強くなるチラムネ
――それでは『弱キャラ友崎くん』最新8巻について教えてください。
屋久:第7巻で大きな節目というか、ラブコメという物語において友崎は誰と付き合うかを決めました。それもなんとなく付き合う、とかではなく二人の考え方を含めた強い繋がりをお互いに確認し合いながらの関係です。なので、第8巻からはあらすじでも触れられているように、新章のような感じになりますね。ラブコメもこれで終わりではないですが、これまでのことを前提にしながら、これまでとはちょっと違う、青春ラブコメ人生攻略に加えて新たな楽しみの要素が入ってきます。
――新たな要素ですか?
屋久:そうです。それは第1巻から描いてきた「アタファミ」のお話です。友崎のゲーマーとしての道というか、ゲームでの熱い戦いや、強敵ゲーマーとの出会いであったり、これまでにはあまりなかった「勝負ごと」の描写が増えると思います。新たな挑戦なので不安はありましたが、自分でも面白く書けたと思っているのでぜひ読んでいただきたいです。もちろん、高校2年の冬を迎え、進路という学生の誰しもが通るリアルなシーンもあります。友崎たちのこれからの生き方もテーマとして描かれることになると思います。
【第8巻あらすじ】 文化祭が終わり、冬休みが明けて。人生攻略に大きな区切りをつけた俺の目の前に、新たな難題が立ちふさがっていた。――進路調査票。ある意味「人生を決める」問題が、明確な期限をもって迫ってくる。もちろん日南の課題も継続中だ。「日南と同じくらいのリア充になる」ため、新学期も俺は課題をこなしつつ、自分の本当にやりたいことを追求していく。アタファミのオフ会、たまちゃん宅への訪問、そして菊池さんとの新しい関係……。新しい日々は、新しい出会いを連れてきて――? 大人気人生攻略ラブコメ、新章開幕の第8弾! |
――新たな章も楽しみですが、友崎くんと菊池さんのカップル描写も大変気になるところです。
屋久:そうですね。菊池さん派の人が読んだらすごくニヤニヤできるシーンは多いと思います。これまでは天使として、すべてを上からニッコリと微笑みながら見ていた彼女が、男の子と恋人同士になったことで、天使から人間の女の子になるわけです。女の子になった菊池さんがどんな可愛さを見せてくれるのか、期待して読んでいただければと思います。
※最新巻ではどんな菊池さんを見ることができるのだろうか
――それでは『千歳くんはラムネ瓶のなか』最新2巻についても教えてください。
裕夢:第1巻は自分の中ではエピソード0のような位置付けでした。第2巻からは千歳朔とヒロインを巡るラブコメ要素が一気に強くなります。第2巻では七瀬悠月があるトラブルに巻き込まれ、そのトラブルから身を守るために、朔との偽物の恋人関係となり、物語が動き出していくことになります。第1巻では健太くんがヒロインポジションでしたが、第2巻からはちゃんと女の子がヒロインとして描かれているので、安心してラブコメを楽しんでいただければと思います!(笑)。
【第2巻あらすじ】 「千歳しかいないの。どうかお願いします。私と付き合ってください」面と向かって女の子にこんなことを言われたら、大概悪い気はしないだろう。それが、七瀬悠月のようなとびっきりの美少女ならなおさらだ。でも、うまい話には大概裏がある。美しい月の光が、ときに人を狂わせるように。――これは、そうして始まった、俺と七瀬悠月の偽りの恋の物語だ。人気沸騰の“リア充側”青春ラブコメ、待望の第2弾登場! |
――では最後にそれぞれファンの方に向けてメッセージをお願いします。
屋久:既にご存じの方も多いとは思いますが、『弱キャラ友崎くん』のアニメ化企画が進行しています。『弱キャラ友崎くん』という作品は読者や書店員をはじめとした、ユーザーひとりひとりの推しの力で大きくなり、広がっていった作品だと思っていて、その作品が3年半をかけてアニメ化発表まで辿り着くことができました。推してくれていた方々にとって待望だったと思うし、僕も待望だし、本当に嬉しいです。これまでずっと応援してくださって本当にありがとうございますということと、これからも面白いものを作っていきますし、アニメも良いものになるよう作っていくので、安心してついてきてください! これからもよろしくお願いします!
裕夢:『千歳くんはラムネ瓶のなか』も嬉しいことにドラマCD化が決定しました。屋久先生の話をうけるなら、『弱キャラ友崎くん』はアニメ化というある意味で推しのひとつのゴールに辿り着いて、ずっと見守ってきた読者の方にとってもひとつのゴールを見届けたことになると思います。そこで今からまだまだ推す楽しみのあるチラムネの方にも余ったパワーを少しでも分けていただければ! こちらはまだ推せば進む先があります! ぜひお力添えください(笑)。
屋久:共通のファンもいっぱいいるからね!(笑)。
裕夢:何卒よろしくお願いします!(笑)。
<了>
2019年10月18日に同時発売された『弱キャラ友崎くん』第8巻と『千歳くんはラムネ瓶のなか』第2巻。それぞれの世界観をもって青春ラブコメを綴る屋久ユウキ先生と裕夢先生のお二人にお話をうかがいました。アニメ化やドラマCD化といったメディアミックスに向けて動き出している両作品。「リア充」なキャラクター達が、ひとりの人間としてどんな悩みを抱え、どう行動していくのか、読み返すことで新たな発見があるかもしれません。話題沸騰中のガガガ文庫の青春ラブコメ2作品をこの機会にぜひ読んでみてください!
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