独占インタビュー「ラノベの素」 紙木織々先生『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年12月25日にオーバーラップ文庫より『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』が発売される紙木織々先生です。第6回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。ソーシャルゲームを物語のキーワードとして、「諦める」ことと「好きである」ことに全力でぶつかっていく思春期真っ只中な少年少女の青春を描く本作。クリエイターになろうとあがくキャラクター達についてはもちろん、作品の内容やテーマのきっかけなど、様々にお聞きしました。

【あらすじ】

ソーシャルゲームは遊ぶだけじゃない、作るものだ――。ある事情から命薫高校へと転校してきた白析解は、転校初日に弱小ソシャゲ部の部長・青井七花に出会う。廃部寸前のその部に所属するのは、ガチャ狂いのプログラマー・黄島文に自分で描いたイラストの可愛さに失神するイラストレーター・黒羽絵瑠と変人ばかり!? 元プランナーである解の入部によって部員不足は解決し廃部は免れた――と思いきや、『他校との対抗戦で結果を出さなければ廃部は覆せない』と生徒会に通告され――!? 試されるのは今あるソシャゲをより面白くする『運営』の力。過去に培ったものと新たな仲間と共に、解は最高のソシャゲ作りに挑む!

――第6回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

あらためまして、第6回オーバーラップ文庫大賞「金賞」を受賞いたしました紙木織々と申します。出身は新潟県で、東京在住です。過ごした期間も半々くらいになるかもしれませんね。現在はゲーム業界でお仕事をしています。好きなものは漫画と邦楽ロックで、2週間に1度は新宿にあるタワーレコードに出没して、いろいろと試聴をしていたりします。漫画も大好きで、2019年は500冊程読んでいると思います。あとは、最近とあるアニメの影響を大きく受けまして、南極に行けたらいいなと思っています(笑)。

――南極は2018年に放送された某アニメでしょうか(笑)。漫画もかなり読んでおられるようですが、ご自身にとってのバイブル的な作品はあったりしますか。

バイブルはたくさんあり過ぎて選べないのですが、自分の創作は漫画からの影響を受けていることは間違いないと思います。好きな作品というか作家さんで挙げると、志村貴子さんの作品は大好きですね。『放浪息子』や最新作の『おとなになっても』もすごく面白いですし、『敷居の住人』はモノローグの言葉が鋭くて好きでした。あとは最近読んだ漫画では、ヤマシタトモコさんの『違国日記』もすごく好きです。この作品は女性の小説家が女子中学生を引き取って同居することになる物語なんですが、人間の描き方がとにかく上手で。人が孤独の中に在りながら生きているということを描き出す力が素晴らしくて、とにかく感情を揺さぶられるんです。百合が好きだし読んでみようという軽薄な動機で手に取ったんですけど、まったく予想外の物語に出会うことになりましたよね(笑)。

――ご自身の創作の根幹には漫画作品があるということですが、ライトノベルや小説もたくさん読まれていたりしたのでしょうか。

僕が小説を書き始めた理由がライトノベルを読んで……というわけではなく、Keyというゲームブランドの『CLANNAD』をプレイしたことがきっかけでした(笑)。『CLANNAD』をプレイするまでは漫画以外の、それこそ小説や文字ものはほとんど読んでおらず、苦手ですらありました。友達が私のパソコンに『CLANNAD』を勝手にインストールして、半ば強制的に始めることになったわけですけど、当時の心境を言葉にするなら「感情をぶん殴られる衝撃」とでも言えばいいんですかね。本当に面白くてしばらくはBGMを聴いただけで泣いてしまうという状況に陥りました(笑)。

――なるほど(笑)。そこから小説やライトノベル、ひいてはご自身の執筆活動に繋がっていくわけですね。

そうですね(笑)。『CLANNAD』をプレイしてから二次創作を始めることになるのですが、文章にまるで触れてきていなかったので、小説の書き方もよくわからない中で小説を書く、という凄まじい状態になっていました。そうして何作か書いていくと、自分でも上手じゃないということが分かってくるんです。そこから反省も兼ねて、いろんな作品を読み漁るようになりました。ライトノベルだけでなく、古川日出男さんや桜庭一樹さんの作品をはじめ、本当にいろいろと読んだと思います。

――そうした経緯を経てライトノベルの公募に応募され受賞に至るわけですが、応募に際して本賞を選んだことには何か理由があったのでしょうか。

オーバーラップ文庫大賞に応募しようと思ったのは、十文字青さんの作品がめちゃくちゃ好きだったことが、ひとつきっかけでした。僕自身定期的に公募へと作品を応募していたわけではなく、今回が2回目だったんです。1回目は大学生の頃で、それこそ就職したくないという一心でした(笑)。当時は二次創作で少し波に乗れていたような感覚があって、謎の自信に満ちていたんですけど、あっさり一次で落選しました。就職した後は日々が忙しく、ちまちまと書いてはいたものの、作品を応募できるような状態ではありませんでした。

――公募への再投稿のきっかけはなんだったのでしょうか。

何と申しますか……仕事があまりにも忙しすぎて身体を壊してしまい、1年程新潟に戻っていた時期があったんです。その時に自分が本当にやりたいことを考えて、最初に思い浮かんだのが小説を書きたいということでした。書きたいままに書きたいと思っているものを書こう、それがこのたび「金賞」を受賞した『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』だったんです。

――受賞の連絡を聞いた際の感想や、改稿作業などで大変だったことがあれば教えてください。

二次選考を通過した時点で作品数もかなり絞られており、「ひょっとしたら……」という気持ちはありました。一方で、大学時代に一次落選を経験していたこともあり、現実はそこまで甘くないとも思いながらそわそわしていました。連絡をいただいた時は会社の廊下で「ありがとうございます!」と言いながらガッツポーズをしましたね(笑)。その後、通期の受賞連絡をいただいたのですが、正直なお話をすると一番上の賞か一番下の賞のどちらかだと思っていました。ファンタジー色の強いオーバーラップさんの中で、明らかに自分一人だけタイトルもジャンルも浮いていたので(笑)。改稿作業は自分が第2ターンでの受賞だったこともあり、スケジュールだけが心配でした。10月に受賞者の集まりもあったのですが、自分だけ改稿が終わっておらず、焦りとプレッシャーが半端なかったです(笑)。改稿自体は比較的スムーズにいったと思います。

――それではあらためて、『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』がどんな物語なのか教えてください。

この作品はソーシャルゲームの開発と運用を高校の部活動として、ソーシャルゲーム部の面々が頑張って取り組む、という物語です。内容としてはクリエイター的な面、そして僕自身が書きたいと考えていた青春的な面、この二軸がメインになっています。また、お仕事小説といえばいいんでしょうか。働く人達の視点も交えた要素も入っている欲張りな小説になっていると思います。そのぶん、内容も濃くなっていると思います。

――物語が主人公の弾劾から始まるという点も非常に印象的でした。

プロローグにあたる部分は、投稿時点からほとんど変わっておらず、自分の書きたかった物語をそのままスタートすることができました。弾劾を経て傷ついた主人公が、遠くの地で仲間と出会い、少しずつ傷を癒していく。これまで得ることのできなかった仲間や青春、成功を手にしていく物語になっています。

――先程お仕事ものの要素も含まれているというお話でしたが、敢えて登場人物たちを学生にフォーカスした理由はなんだったのでしょうか。

クリエイターはクリエイターでも、思春期の只中にいるクリエイターを描きたかったのが理由のひとつです。クリエイターという立場に就いた人達ではなく、クリエイターになろうと足掻いている人達の姿ですね。それと、例えば社会人クリエイターの視点でソーシャルゲームを深く語ろうとすると、課金やガチャといったどうしても生々しい部分が出てきますし、深く触れざるを得なくなってしまうとも考えました。僕が書きたかった青春ものという観点からも遠ざかってしまうだろうなと。今や若い人達も当たり前のようにソーシャルゲームをいじっているわけですし、そういう若い人達に読んでもらいたいという思いもあって、部活動として青春の苦悩にも触れながら、面白い物語にできたんじゃないかと思っています。

※学生として、部活動としての青春がこの物語の大きな見どころのひとつ

――仰る通り本作におけるソーシャルゲームの生々しい部分と学生たちの青春のバランスは非常に絶妙だと感じました。

ありがとうございます。この作品を書く上で最も苦労したのがそのバランスでしたので(笑)。リアリティに寄り過ぎてしまうと自分が書きたいものから遠ざかってしまうんですよね。それでも話題として生々しい部分に一切触れないという選択肢もなく、程よい生々しさ加減で伝えようという点は非常に神経を使いました。そんな一方で、部活動内での喧嘩のシーンや、苦悩する青春のシーンは描いていて楽しかったですし、筆も乗りました(笑)。

――それでは本作に登場するキャラクターについて教えてください。

主人公の白析解は名門ソーシャルゲーム部を有する月ヶ瀬高校で起きたとある事件で弾劾され、新潟の命薫高校へと転校することになります。ゲーム作りが大好きで、でも自分にはゲーム作りの才能がないと思い込み、後ろ向きな性格も相まってドツボにはまっていくタイプのキャラクターでもあります。書いている自分でさえ、なかなかに面倒なキャラクターだと思います(笑)。とにかく悩んで考えまくる主人公なわけですが、一人の女の子との出会いが、白析解を再びソーシャルゲーム部へと向かわせることになります。

※命薫高校に転校してきた白析解

青井七花はヒロインではあるのですが、ある意味でもう一人の主人公と言っても差し支えないと思います。解からしてみると日向の明るい場所にいるようなキャラクターですし、自然体で本当に良い子なんです。ただ、彼女は解にも通ずる悩みを誰にも悟られないよう抱え続けています。青井七花というキャラクターには自分の経験を重ねている部分もあって、読者の方にもこの著者が一番書きたかったことが彼女の中にあったのだと、そう思ってもらえたら嬉しいですね。

※命薫高校ソシャゲ部の頑張る女の子・青井七花

――二人ともそれぞれ大きなテーマを内に抱えていて、口絵で描かれている背中合わせのイラストも印象的です。

僕も本当にそう思います!(笑)。隠すことが苦手な解と隠すことを得手とする七花。抱えているものこそ違えど、根本的な部分で二人には通ずるものがあるわけです。二人の関係性を示す一枚と言っていいと思います。

※表裏一体を連想させる七花と解を描いた1枚

――命薫高校ソシャゲ部のメンバーである、プログラマー・黄島文とイラストレーター・黒羽絵瑠も非常に印象的なキャラクターですよね。

命薫高校ソシャゲ部の愉快な仲間達ですね。解と七花の地に足の着いた青春を描きたいと考えた結果、落ち着いたキャラクターとなっている主人公二人のぶんまでヤバいキャラクターになりました(笑)。黄島文は圧倒的な能力のクリエイターなんだけど正体不明といいますか、いつ勉強しているかも分からないし、いつも遊んでいるようにしか見えないけどアウトプットだけはとんでもない、というキャラクターを目指しました。また、ガチャの業を背負った廃課金キャラクターでもあります(笑)。黒羽絵瑠は自分の描きたいものを描き、その素晴らしい出来栄えに自ら失神するという特異なキャラクターです。裏を返せばそれだけ情熱を持っているイラストレーターということですね(笑)。

※命薫高校ソシャゲ部のプログラマー、そして廃課金者・黄島文

※命薫高校ソシャゲ部のイラストレーター・黒羽絵瑠

――最後に一人だけ。月ヶ瀬の名門ソシャゲ部部長・久連内茜にも触れていただければと思います。

そうですね……。まず月ヶ瀬高校における解の理解者であったことは間違いありません。完璧なキャラクターという印象の一方、彼女がもう一歩踏み出していれば、解が弾劾されることもなかったのではないか、そういったもどかしさもあります。彼女もまた難しい立ち位置にいるキャラクターの一人ですね。

※解が去ることになる名門・月ヶ瀬高校ソシャゲ部の部長である久連内茜

――お気に入りのシーンやイラストがあれば教えてください。

シーンに関しては、この物語で一番書きたかったのは後半で描かれる七花のシーンとだけ。実際に読んでいただきたいのですが、そのシーンで描かれている挿絵イラストも、日向さんから逆提案をいただいたりして、非常に印象的な1枚に仕上げていただいています。日向さんにはキャラクターを本当に理解していただいていて、僕がイメージしていたビジュアルよりも数段上のイラストをいただいている印象です。その象徴でもあるのが、口絵のキャラクターが全員並んだイラストですね。それぞれキャラクターの特徴をとらえたポーズになっていて、キャラクターへの理解がなければまず描けないというくらいの1枚です。読者の方もこの口絵イラストを見れば、どんなキャラクターが登場するのか、それぞれどんな関係性なのか、一目でわかるんじゃないでしょうか。

※キャラクターの雰囲気が一目で分かるイラストに

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

作品タイトルにソシャゲ部とあるように、ソーシャルゲームの開発や運用をフックにしている作品ではあるのですが、自分としては10代の少年少女の青春小説という点にフォーカスしているので、そこを楽しんでいただけたらと思っています。ソシャゲのパートに関しても、物語序盤から「開発するぞ!」という作品ではなく、中盤あたりから開発のお話は動き出していきますので。ゲーム開発の小難しいイメージではなく、10代のキャラクター達の葛藤を見てほしい。とにかくめっちゃ青春ものやぞっていうことですかね(笑)。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

僕自身としては『CLANNAD』をプレイして、二次創作を書くようになり、結果として作家になるという、作品によって人生を変えられた人間の一人だと思っています。仕事のゲーム製作もそうですが、僕自身の作品も誰かのそんな存在になれたらというのは常々思っています。いつか僕の作品を読んで、人生が変わってしまったという人が一人でも出てきてくれればうれしい、というのが一番の野望でしょうか。もちろん、本作だけで終わってしまってはそれも叶わないので、作家として作品を出し続けたいというのが現実的な野望ですね(笑)。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

率直な一言としては、まず買っていただけたら嬉しいなと(笑)。何度も申し上げているように、本作は青春ものとしてフォーカスをしました。そのうえでソシャゲ、クリエイターものとして描いています。一方でキラキラした青春は苦手という方もいらっしゃると思います。そういった方にこそぜひ読んでいただきたいです。僕が書きたかった青春は、それこそ本作の主人公のように、陽の当たる場所からこぼれてしまった人達の物語です。彼ら彼女らの苦悩の先にある物語をぜひ読んでみてほしいです。また、全文試読という剛毅な企画に興味を持って参加いただいた皆様には大変感謝しています。反応が非常に怖かったのですが、ソシャゲものとしてはもちろん、青春小説として「面白かった」という声を多くいただけたことは非常に力になりました。引き続き『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』をよろしくお願いします!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第7回集英社ライトノベル新人賞「金賞」受賞作家・森月真冬先生

 ⇒ 第6回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・紙木織々先生

【質問】

受賞作の発売に向けて作業をしていく中で、似た要素やアイデアを含んだ作品が、一足早く世に出てしまったらどうされますか。アレンジしようと考えるのか。それとも自分を信じてそのまま行くのか。アレンジするタイミングの有無もあるかと思いますが、仮にアレンジする時間や期間があったらどうしますか。

【回答】

とんでもなくタイムリーな質問でびっくりしました(笑)。自分の原稿は既に完成していましたが、まさしくという状況があり、話を聞いた時には「嘘でしょ!?」ってなりましたよね。なので、いただいた質問にはリアリティをもってお答えできるのかなと(笑)。既に原稿が校了していたという面もありつつ、仮に改稿のタイミングがあったとしても変えなかったと思います。この物語は僕が書きたいものを書いてやる、というところからスタートした物語でもあったので、仮に先行した作品を読んでいたとしても、それはそれ、これはこれ、と判断していたでしょう、おそらく(笑)。もちろん揺れる部分や、叫びたくなることはゼロではありませんでしたが、この小説に関しては変わらなかったんじゃないかなと思います。

――本日はありがとうございました。

<了>

ソーシャルゲームの開発と運用をテーマに、思春期只中の少年少女の青春をダイレクトに綴った紙木織々先生にお話をうかがいました。陽の当たる場所からこぼれてしまい、苦悩と葛藤から描かれる青春模様は、これからクリエイターを目指す若人から、好きなことを貫きたい大人まで響くものは多いはず。誰かの人生を変えるかもしれない『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』は必読です!

©紙木織々/オーバーラップ イラスト:日向あずり

[関連サイト]

『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』特設サイト

オーバーラップ文庫公式サイト