独占インタビュー「ラノベの素」 小林湖底先生『ひきこまり吸血姫の悶々』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年1月15日頃にGA文庫より『ひきこまり吸血姫の悶々』が発売される小林湖底先生です。第11回GA文庫大賞にて「優秀賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。ひきこもりで働きたくない吸血鬼の少女が、周囲に担ぎ上げられ、あれよあれよという間に将軍で指揮を振るうことになる本作。一番注目してもらいたいというテラコマリの可愛さはもちろん、コメディとして描かれながらちょっとシリアスでもある物語の内容など、様々にお聞きしました。

【あらすじ】

「……ふぇ? な、なに?」 引きこもりの少女「コマリ」ことテラコマリが目覚めると、なんと帝国の将軍に大抜擢されていた! しかもコマリが率いるのは、下克上が横行する血なまぐさい荒くれ部隊。名門吸血鬼の家系に生まれながら、血が嫌いなせいで「運動神経ダメ」「背が小さい」「魔法が使えない」と三拍子そろったコマリ。途方に暮れる彼女に、腹心(となってくれるはず)のメイドのヴィルが言った。「お任せください。必ずや部下どもを勘違いさせてみせましょう! 」 はったりと幸運を頼りに快進撃するコマリの姿を描いたコミカルファンタジー! 引きこもりだけど、コマリは「やればできる子」!?

――第11回GA文庫大賞「優秀賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

小林湖底と申します。出身は埼玉県で大学時代は北海道で過ごし、現在は関東に戻り神奈川県に住んでいます。好きなことというか趣味は本を読むことです。また、このたびはGA文庫大賞だけでなく電撃大賞でも賞をいただいたこともあって、『ポケモン』の新作にハマったばかりなのに改稿作業が忙しく、ほとんどプレイできていません(笑)。

――読書がライフサイクルになっているほどお好きだと伺っているのですが、いつ頃から熱心に読まれるようになったのでしょうか。

読書は小学生の頃から好きで、童話系の物語からはじまり、宮沢賢治などの作品をよく読んでいました。小説だけではなく漫画も大好きで、特に好きだったのは吉崎観音先生の『ケロロ軍曹』です。自分自身、今回受賞した作品を含め、影響されたところは多分にあると思っています。中学時代にライトノベルも少し読んでいたのですが、ライトノベル作家になろうと思ったきっかけは、高校の古典の授業だったんですよね。

――古典の授業からライトノベルですか?

このフレーズだけを聞いたら不思議に思いますよね(笑)。あとがきでも触れているのですが、高校の古典の授業で司馬遷の史記にある項羽と劉邦の物語を漢文で読んだんです。項羽のキャラクター性と、劉邦のキャラクター性の対比がすごくて、最後に項羽が死ぬシーンもすごいなって感銘を受けて。自分でもこんな物語を書いてみたいと思ったきっかけのひとつになりました。そこから歴史ものというか古典チックな物語を少しずつ書き始めるようになりました。初めて書いた小説は古典を題材にした歴史小説だったんですが、大学で所属した文芸部の部員に「ライトノベルのようだ」という評価をもらったんですよ(笑)。自分もその指摘に「なるほど」と思うところもあって、ライトノベルを書いてみようと思うようになりました。自分も読んですごく面白かった『86-エイティシックス-』をはじめ、ライトノベルを本格的に読むようになったのもこの頃ですね。

――小林先生にとっては文芸部員の言葉はある意味で金言であったと(笑)。作品の投稿を始めたのもその頃だったのでしょうか。

そうですね。実際のところそこまで多くの作品を投稿していたわけでもないのですが、受賞まで4~5作品くらいだったと思います。最初は一次落ちばかりだったので、このたびGA文庫さんに評価をいただき、受賞できたことは驚き以外のなにものでもありませんでした。

――受賞の連絡をもらった時はいかがでしたか。

半期の入賞の連絡をいただいたのが、大学の卒業式の翌日だったと思います。ちょうど飛行機に乗っていて、最初は出られなくて。後になって調べてみたらGA文庫さんの番号だということがわかり、「入賞しました」とあらためて連絡をいただきました。先ほども言いましたが、一次落ちが続いていたので現実感はありませんでした。通期の受賞結果については異例だったらしいんですけど、はじめての打ち合わせの際に口頭で伝えられたので、あまり思い出という思い出もないという(笑)。「優秀賞」と聞かされてすごく嬉しかったんですけど、「大賞」がいるとも聞かされて、そこは少し残念というか悔しい気持ちもありましたね。

――それではあらためて、受賞作『ひきこまり吸血姫の悶々』がどんな物語なのか教えてください。

この作品を一言で言うとファンタジーコメディです。主人公のコマリがいきなり帝国の将軍に抜擢されることになるのですが、本人は引きこもりたいし将軍なんてやりたくない。にもかかわらず周囲はどんどん彼女を持ち上げていくし、彼女も持ち上げられる一瞬だけは満更でもなかったりしながら、本人が意図しない方向へと展開が進んでいってしまう物語です。

※コマリ様は引きこもりたいし働きたくもないのだが……

――本作の着想は主人公のコマリから始まったそうですね。

そうですね。この作品はキャラクターありきだったので、周囲の設定は後から固まっていきました。とにかくコマリを一番魅力的にみせられる設定ってなんだろうと考えた時に、周囲とのギャップや温度差があるコメディがいいんじゃないかなと。コマリは当初の設定ではもっとアクティブなキャラクターだったんですが、変遷のすえ現在のようなひきこもりで働きたくないキャラクターになりました(笑)。ただ、読者の方に好かれるようなキャラクターにしたいという思いは強くあって、彼女自身の口はちょっと汚いかもしれないですけど、根っこの部分は優しいキャラクターにしようとも考えましたね。

――本作を執筆する上で楽しかったシーンや苦労したシーンがあれば教えてください。

執筆が特に楽しかったのは、コマリのシーンはもちろんですが、やはりキャラクター同士の掛け合いのシーンですね。掛け合いのシーンはかなり頭を使って書いたつもりではあるんですけど、自分でも笑えるシーンができるとすごいよかったなという気持ちになるんです(笑)。特に周囲のキャラクターとワイワイやっているシーンは楽しかったです。逆に書いていて筆が止まりがちだったのは、コメディ以外のちょっとシリアスが混じるシーンであったり、バトルシーンでしょうか。コメディとの落差はもちろん、敵役の背景を考えたりと物語としての調整で結構悩んだと思います。ただ改稿を重ねるにつれ、作品として確実によくなっているという実感はあったので、そこはよかったかなと思います。

※コマリ様が随所で巻き起こすコメディシーンは必見!

――コメディシーンを楽しく書かれているということで、やはりコメディ系の作品もお好きなんですか。

いや、実はコメディ系の作品ってあんまり読まないんです。それこそ好きな作品を聞かれれば『十二国記』などのファンタジー系を答えてしまいます(笑)。自分自身のコメディ要素は、最近読んだ作品からというよりは、昔読んだ作品に影響されているんだと思います。それこそ『ケロロ軍曹』ですよね。とはいえ、コメディの勉強もしなくちゃとは思っているんですけど、なかなか手が伸びず……(笑)。

――ありがとうございます。では続いて、本作で大活躍するコマリをはじめとしたキャラクターについて教えてください。

大活躍するかどうかは実際に読んでいただくとして(笑)。コマリは引きこもりで、それこそずっと引きこもって働きたくないと言い続けている吸血鬼の女の子です。なのですが、父親や周囲の人たちの画策により、コマリがあずかり知らぬところで七紅天大将軍という将軍位に就けられてしまいます。絶対に働きたくないと駄々をこねつつも、周囲に持ち上げられて本人の進みたくない方向へとどんどん進んでいってしまう、そんな苦労人でもあります。

※七紅天大将軍に抜擢されたテラコマリ

コマリ付きのメイドであるヴィルヘイズは、コマリありきで誕生したキャラクターですね。コマリが己の意思を貫いて引きこもっているだけだと物語がそもそも進まないので、彼女を引っ張り出してくれるキャラクターが必要だなと(笑)。ヴィルヘイズはとにかくコマリのことが大好きなキャラクターで、セクハラしまくりのキャラクターでもあります。コマリとヴィルヘイズのやり取りは百合っぽく見えることもあり、意図したわけではありませんが、女の子同士の姦しいシーンは百合っぽい作品が好きな方にも楽しんでいただけるかもしれませんね。

※コマリのことが大好きすぎるお付きのメイド・ヴィルヘイズ

あとは幹部の3人であるベリウス、メラコンシー、カオステルにも触れておきましょうか。基本的にはコマリの引き立て役ではあるんですが、最初はあんなに個性豊かなキャラクターではありませんでした(笑)。軍団としてコマリについていく理由を考えた時に、気付いたら変人や変態ばかりになっていたというか。彼らを含め、軍団には様々な理由から左遷されてきた問題児も多く、コマリを引きずり下ろそうと下剋上を狙っていたり狙っていなかったりしますね(笑)。

※コマリの傘下となる軍団幹部も曲者揃いで……

――コマリはおだてられるとついつい調子に乗ってしまう「チョロさ」加減も魅力だと思います。

ありがとうございます(笑)。コマリはあまり深慮遠謀を巡らせるようなキャラクターではありません。やりたいことを素直に貫きたいという意思はあり、今回で言えば引きこもりたい働きたくない意思を貫きたいわけで(笑)。とにかく自分の欲望に忠実なキャラクターにしようと思いました。周囲に持ち上げられ、ついつい調子に乗ってしまうシーンもありますけど、本心では働きたくないという思いがあり、いつも後悔しているわけです。演説も調子に乗って大きな言葉を掲げちゃうわけですが、彼女の趣味が奇しくも語彙力を高める結果となっているのも皮肉でしょう(笑)。

※ついつい調子に乗ってしまうチョロインなコマリ様(後悔ばかりしている)

――ちなみにテラコマリという名前は、メガ、ギガ、テラからきていたり……?

そこはおっしゃる通りで、コマリがめちゃくちゃ困っている感を名前から出していきたかったです(笑)。

――お気に入りのシーンやイラストがあれば教えてください。

お気に入りのシーンはメイドのヴィルヘイズにコマリがこっそり書いていた小説を読まれてしまい、ばらまかないでくれと懇願するシーンは個人的によかったんじゃないかなと(笑)。そういうコメディシーンをみなさんに読んでいただきたいです。イラストは最初にキャラクターデザインのラフをいただいたときに、すごいすごいと語彙力を失うくらいに衝撃的で素晴らしいものでした。りぃちゅ先生に担当していただけて本当によかったなと思いましたよね。お気に入りのイラストは、口絵のコマリと部下たちとヴィルヘイズが並んでいる迫力のあるイラストでしょうか。拝見した時に雰囲気もあって、とにかくすごいなと。イラストのことは門外漢ですけど、こんな風に描いてもらえるのは幸せだと思いました。

※お気に入りの1枚だという軍団の集合イラスト

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

注目してもらいたいのはやはりコマリです。彼女のキャラクター性はもちろん、可愛さを追求して書いた節もあるので、そこを楽しんでいただきたいです。また、前半のコメディ部分から後半にかけては雰囲気も結構がらりと変わっています。そこにはただのコメディで終わらせたくなかったという思いもありましたし、なぜコマリは引きこもりになってしまったのか、その理由や決着についても触れられています。敵に立ち向かうことはとても勇気がいることで、周囲から応援されながらも、最終的には自分の意思で立ち向かっていくコマリの姿は見どころだと思います。

――今後の野望や目標があれば教えてください。

できるだけ長く作家を続けたいとは思いますが、今思っているのはできるだけ多くの方にコマリを見てもらいたいし、読んでもらいたいという気持ちが強いです。自分でも改稿を経て、自信をもってお送りできると思っているので、コマリの魅力を広げていけたらいいなと思っています。あとは遠い未来に、それこそ定年退職したくらいに歴史小説を書きたいと思っています。とはいえ、今の時点ではラノベのことで頭がいっぱいなので、それは本当に遠い将来の話だと思います(笑)。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

『ひきこまり吸血姫の悶々』は難しいお話ではなくて、読んで楽しい、可愛いと思ってもらえる物語だと思っています。表紙のイラストに「おっ」と思っていただけたら、そのイメージと作品の内容は乖離していないと思うので、ぜひ手に取っていただけたらと思います。普段あまり本を読まない方やライトノベルをあまり読まない方にも雰囲気的な楽しさを感じてもらえるんじゃないかなと。コメディ好きな方、ファンタジーやバトルものが好きな方、あとは想定していませんでしたが、百合っぽい作品を好む方にも楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。また、少し早いですが第2巻は2020年の春頃を予定しています。コマリが頑張るお話は続いていきますし、七紅天も全員登場することになると思います。コメディ的な部分も第1巻以上に磨きをかけておりますので、ぜひご期待いただければと思います!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第6回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・紙木織々先生

 ⇒ 第11回GA文庫大賞「優秀賞」受賞作家・小林湖底先生

【質問】

執筆環境において質問です。僕は邦楽ロックが好きで、原稿の執筆時は必ず音楽を流しています。無音だと筆が乗らないし、むしろ音楽を流さないと書けないレベルです。歌詞もかなりしっかりした音楽なので、周囲からは執筆に影響が出るレベルだと言われることも多いのですが……。原稿を執筆するにあたって、習慣であったりルーティンであったり、自分は普通だと思っているけれど、周囲から見たら特殊かもしれないユニークな儀式があれば教えてください。

【回答】

自分はまったく逆で、完全に窓も締め切って音が聞こえないようにしないと集中できないですね。執筆環境は人それぞれだと思うんですけど、自分は音があると集中しづらいです。ただ、執筆以外で音楽を聴いて集中力を高めてから、すべてをシャットアウトして取り組むことはよくあります。あとは、執筆作業は基本夜にやるんですが、夕飯を食べ、お風呂に入り、歯を磨いて、常に寝られる状態にスタンバイしてから執筆を始めます。余程特殊な状況でない限り、睡眠欲には逆らわないようにしていて、原稿に飽きたらそのまま寝られる状態を作っています。原稿の後は何もやりたくないんですよ……。

――本日はありがとうございました。

<了>

引きこもりたい、働きたくないコマリが担ぎ上げられて始まるファンタジーコメディを綴った小林湖底先生にお話をうかがいました。ついつい調子に乗ってしまうコマリの姿はもちろん、ボロボロになりながらも何かを掴み取る彼女の姿も見どころとなり、前半のコメディから後半のバトルに至るまで、コマリを追いかけながら楽しむことができる本作。将軍なんてやりたくないコマリの魅力にあふれる『ひきこまり吸血姫の悶々』は必読です!

©小林湖底/ SB Creative Corp. イラスト:りぃちゅ

[関連サイト]

『ひきこまり吸血姫の悶々』特設サイト

「第11回GA文庫大賞受賞作」特設サイト

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