独占インタビュー「ラノベの素」 竹町先生『スパイ教室』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年1月18日にファンタジア文庫より『スパイ教室』が発売された竹町先生です。第32回ファンタジア大賞にて「大賞」を受賞し、満を持して書籍を刊行されます。世界最強のスパイによる、世界最高の騙しあいを展開する驚愕の痛快スパイアクションを描く本作。作品の内容やその魅力はもちろん、ファンタジア大賞「大賞」受賞作では異例ともいえる全面改稿の理由など、様々にお聞きしました。

【あらすじ】

陽炎パレス・共同生活のルール。一つ 七人で協力して生活すること。一つ 外出時は本気で遊ぶこと。一つ あらゆる手段でもって僕を倒すこと。――各国がスパイによる“影の戦争“を繰り広げる世界。任務成功率100%、しかし性格に難ありの凄腕スパイ・クラウスは、死亡率九割を超える『不可能任務』に挑む機関―灯―を創設する。しかし、選出されたメンバーは実践経験のない7人の少女たち。毒殺、トラップ、色仕掛け――任務達成のため、少女たちに残された唯一の手段は、クラウスに騙しあいで打ち勝つことだった!? 世界最強のスパイによる、世界最高の騙しあい! 第32回ファンタジア大賞《大賞》受賞の痛快スパイファンタジー!

――第32回ファンタジア大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

静岡県出身の竹町です。作家業への憧れが昔からあって、仕事を辞めたことを契機に2年程新人賞に応募をしていたところ、このたび第32回ファンタジア大賞にて「大賞」をいただくことになりました。読書と散歩くらいしか趣味のない人間ではありますが、文芸作品では東野圭吾先生や伊坂幸太郎先生などの作品が好きなのと、ライトっぽいミステリ小説がとにかく好きです。苦手なことは対面でお話をする際にアニメやゲームの話を深く突っ込まれてもピンとこない、というのが目下の悩みですね。

――アニメや漫画などはあまり嗜まれていないとお聞きしています。

そうですね。それこそ最近になってライトノベルを定期的に読むようにはしていますが。サブカルの知識としては本当に週刊少年ジャンプの王道作品や、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『ソードアート・オンライン』など、広く知られているコンテンツならまだなんとか理解している、という程度です。それこそ自分は『ドラクエ』もプレイしたことがなく、ファンタジーでは当たり前のように登場する勇者や魔王という概念もいまいちピンとこないんですよ(笑)。なので、今作のテーマにもなっているスパイといった存在の方が、自身の創作としては取り組みやすかったのかなって感じています。

――ご自身のバイブル的な作品や、ライトっぽいミステリ小説が持つ魅力は何だと感じていますか。

まず自分の中で大きなウエイトを占めている作品が、石田衣良先生の『池袋ウエストゲートパーク』。ミステリ的な要素や事件を追っていくタイプの作品ですね。あとは湊かなえ先生の『告白』も面白いですよね。現在のバイブルはこの2作品でしょうか。ライトっぽいミステリ小説の魅力に関しては、作品への没入度にあると思っています。謎というわかりやすい物語の提示から作品に入り込めること、そしてトリックや物事が明かされていくにつれて見えてくる、登場人物の想いや苦しみだったり、人間像が次々に提示されていくカタルシスが非常に好きです。知的好奇心が旺盛なのかもしれません(笑)。

――あらためて第32回ファンタジア大賞「大賞」を受賞した際の感想をお聞かせください。

半期で入選の連絡をいただいたのですが、その後も最終結果が出るまではそわそわしていた感じですね(笑)。ファンタジア大賞では第29回「大賞」受賞作『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』がすごく印象に残っていて、本賞への応募もこの作品がひとつきっかけではありました。ライトノベルにはいろんな新人賞があると思うのですが、受賞した際にどれくらい作品をプッシュしてくれるのだろうかという点も見るようにしていました。あくまで客観的にではありますが、ファンタジア大賞では投票企画や販売店の施策など、積極的に受賞作を推してくれるという印象がありました。なので「大賞」を受賞させていただき、これはしっかりと推してもらえると、そんな喜びもありましたね。

――その一方で、本作はファンタジア大賞「大賞」受賞作では異例ともいえる全面改稿が行われたんですよね。

そうですね。受賞時の作品のあらすじと、実際に発売される作品のあらすじを見比べてみて、「あれ?」と思われた方も多いんじゃないかなと思っています。まず自分として全面改稿は納得ずくであるということは、みなさんに伝えておきたい点です。決して嫌々全面改稿したわけではありません(笑)。受賞作に関しては選考委員の先生方に認めていただいた部分は非常に嬉しかったのですが、自分自身受賞となった作品に納得しきれていない部分もかなりあったんです。シリーズ化を意識しても先があまり見えなかったこともあり、全面改稿のお話をいただいた時は、自分自身も救われたという印象が強かったです。

――全面改稿、実質的には一から作品を作るにも等しかったと思うのですが、不安はなかったのでしょうか。

不安はほとんどありませんでした。今回の受賞に関しては、選考委員の先生方に作品を評価していただいた点はもちろんありますが、作品と一緒に自分自身の実力も評価していただけたのだろうと、勝手に思い上がって取り組みました(笑)。才能に対して賞がついた、そういった解釈の下で、より自分らしさを発揮できる作品に、そして「大賞」を受賞した作品と並び立てる作品にしようと高いモチベーションで取り組むことができました。しっかりと面白い作品に仕上げることができたという自負もあります。

――改稿前の受賞作品を読んでいないので明確な比較こそできませんが、終盤のシーンは唸らされてしまう程面白かったです。ちなみに改稿されていない受賞作についてお披露目の機会は……?

そう言っていただけると非常に嬉しいです。改稿前の作品のお披露目については、今のところ予定はしていません。ただ惜しい舞台設定ではあるので、活かせる点は取りいれながらやっていけたらいいなとは思っています。当初は受賞作と改稿作を同時に発売してみては、といった案もあったりなかったりしたようですが。

――それではあらためて、『スパイ教室』がどんな物語なのか教えてください。

本作は世界最強の凄腕スパイ(自称)が、死亡率九割と言われる不可能任務を達成するために、様々なスパイ養成機関から落ちこぼれと揶揄される七人の少女を集めるところから始まります。なぜ落ちこぼれの少女たちばかりが集められたのか。理由も告げられぬまま、世界最強のスパイ・クラウスによる、少女たちへの授業が始まるわけなのですが……とある事情から、一風変わった授業で少女たちを鍛えていくことになります。アクション、バトル、頭脳戦、スパイたちによる痛快な物語になっています。

※スパイたちによる世界最高の騙し合いが始まる……!

――作品の着想についてもお聞きできれば……とは思うのですが、全面改稿ゆえにちょっと難しい質問になってしまうかもしれませんね(笑)。

おっしゃるとおりで(笑)。本作の着想は受賞作なんです。ついでに言うと受賞作の着想はまた別のところにあるという。受賞作は色仕掛けにも比重を置いたスパイバトルだったのですが、改稿にあたって自分の得意分野である頭脳戦やアクションにより大きくシフトしたことが挙げられるのかなと思います。また、テーマのひとつとして、優秀な主人公の指導方法や教鞭の執り方への「自分だったらこうする」と抱いていた違和感を解消できたらという思いもありました。ゆえに、いわゆる教師ものの作品でもちょっと違った、教えられない教師が主人公のクラウスであり、少女たちもまた教えられない主人公の授業よりも、実践を通じて学びを獲得していくことになるのが本作の特徴かもしれません。

※実践を通じて成長していくスパイ見習いの少女たち

――受賞作と本作とで共通している点は「スパイ」だと思うのですが、スパイを題材にしようと考えたきっかけはなんだったのでしょうか。

きっかけのひとつとして柳広司先生の『ジョーカー・ゲーム』がありました。アニメでは『プリンセス・プリンシバル』という作品も印象的で、ミステリ的な手法をうまく取り入れてキャラクターが活躍している作品だと感じていました。エンタメで描く騙し合い、情報を隠した中で展開するミステリ要素。自身がミステリ好きであることや、スパイとミステリ要素の親和性に着目した結果、スパイを題材にしようと考えました。

――それでは本作に登場するキャラクターについて教えてください。

クラウスは授業ができない教師というコンセプトから始まり、授業のできない世界最強のスパイです。クラウスは世界最強であると師匠に認められるほどの能力があるのですが、行動の大半を直感に頼り過ぎているので、ありとあらゆる物事を「なんとなく」や「花のように、蝶のように」といった比喩でしか伝えることができません。傍から見ればふざけているように見えるかもしれませんが、本人は至って真面目なんですよね。彼は自分の言いたいことが、本当に「なんとなく」で伝わると思っている。非常に凸凹とした一面を持ちつつ、どんな罠をも見抜ける最強の男であることも間違いのない事実なんです。

※世界最強のスパイ・クラウス

リリィは銀髪の少女で、毒使いのスパイ見習いです。キャラクターの設定で一番苦労したので、思い入れが強い女の子でもあります。クラウスが真面目なキャラクターなので、実力では難しくてもメンタルでは張り合えるキャラクターにしようというコンセプトから誕生しました。この女の子も素敵で面白いキャラクターになっていると思っていて、作中では自己中心的であると言ってはいますが、仲間思いであったり、強い心を持っていたり、クラウスに立ち向かうこともできる女の子なんです。集められた少女たちのリーダー的な存在であり、ムードメーカーですね。

※メンタルではクラウスにも匹敵するスパイ見習い・リリィ

――クラウスについては「教えられない教師」のお話にも繋がりますが、非常に芸術家気質で、論理性を他者には説けない、という教師への不向きさは非常に印象的でした。

そうですね。先にも触れた点と少し重なるのですが、これまでのファンタジア大賞の教師ものとは一線を画そうという意識もゼロではありませんでした(笑)。系譜がありつつ、差別化も必要だろうと思ったので。その中で、どうオリジナリティのある指導ができるのか、この作品でしかできない主人公の授業とは何かを考えた結果、授業のできない先生という構図ができあがりました。

※芸術家気質ゆえに教えられない教師が誕生した

――また、クラウスに集められた少女たちですが、キャラクターを髪の色で表現している点も特徴ですよね。

七人もいるので、固有名詞にしてもわかりにくいかなと。いや、その理由も最後まで読めばわかってもらえるとは思うんですけど……伏線ということで(笑)。

――お気に入りのイラストや印象的なシーンがあれば教えてください。

お気に入りのイラストは口絵の集合イラストですね。キャラクターも多いのにトマリ先生には苦労をおかけしました、というイラストでもあるのかなと。あらゆる意味で本作を象徴する印象的な一枚だと思います。キャラクターではリリィの格好いいシーンで描かれた一枚が記憶に強く残っています。ボート上でクラウスに挑むシーンですが、リリィはただの噛ませ犬ではなく、可愛いだけの女の子じゃないぞという。彼女にはぼけっとしている部分と格好いい部分とそれぞれありますが、その格好いい部分を切り取った、トマリ先生には感謝しかない一枚です。

※スパイとしての顔をのぞかせるリリィの格好いい表情にも注目

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

スパイ同士の騙し合いが作品としての大きな推しになりますので、彼ら彼女らが騙し合いを通して成長していく過程と、騙し合いによって敵を倒す姿が一番爽快なシーンだと思います。本作は様々なところで伏線を張っており、物語の終盤、ラストで一気に回収していくミステリ的な要素も楽しんでいただけたらなと思います。なぜ彼女たちが選ばれたのか。あの訓練にはどんな意図があったのか。なんで七人ものスパイ見習いが登場したのだろうか。いずれも最後まで読めばストンと落ちてくれると思います。キャラクター同士の騙し合いはもちろんですが、読んでいる読者をも騙す物語ということでひとつ(笑)。

――今後の野望や目標があれば教えてください。

本作はファンタジア大賞「大賞」受賞作品から全面改稿した作品となるので、「大賞」に相応しい評価を受けられる作品を目指しました。もちろんこの第1巻だけでなく、これから続いていく物語も含めて、「大賞」に恥じない作品にしたいです。また、本作はほかの書籍ジャンルではできない、それこそライトノベルでしかできない表現をいろいろと試せる作品なのかなとも思っていて、第1巻の集合イラストをはじめ、物語の続きでも様々なチャレンジを織り交ぜていきたいです。それがこの『スパイ教室』に託したい野望です。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

本作はこれまでのファンタジア大賞における「教師もの」の作品を読んだことがある方であれば、違った面白さを織り交ぜつつ読んでもらえるのかなと思っています。また、ミステリ好きでもアクション好きでも、バトル好きでも特定のジャンルに縛られることなく様々な楽しみ方ができる作品だと思います。そして多少繰り返しになってしまうかもしれませんが、漫画や一般小説、アニメでは難しく、しかしライトノベルだからこそできる仕掛けを盛り込みました。どうメディアミックスしたらいいんだと悩ませられるくらいの作品を目指したのが『スパイ教室』です。ライトノベルでしかできない仕掛けを、ぜひ味わっていただきながら作品を読んでもらいたいです。読み終えた時に、自分が伝えたかったことがきっと伝わっているはず! このままでは漫画化、映像化不可能な物語をぜひ堪能してください!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第11回GA文庫大賞「優秀賞」受賞作家・小林湖底先生

 ⇒ 第32回ファンタジア大賞「大賞」受賞作家・竹町先生

【質問】

原稿の執筆中に自分自身で「つまらないな」と思うことがあります。後から読んだらそれなりに面白かったりする場合もあるのですが、本当に面白いのかと悩むことがたびたびあり、そういった経験はありますか。また、つまらないと思いながらも、一旦は忘れて続きを書くようにしているのですが、ひとつのシーンがつまらないとその後も面白くないような気がしてきてしまい、モチベーションを保つのが大変です。

【回答】

原稿を執筆していて「このシーンはつまらないかも」と感じることは自分も時々あります。気のせいだったりすることも多いですが(笑)。自分も一旦はつまらないかもしれないと思いながら続きを執筆しますが、頭の片隅で「なんでつまらないと思ってしまったのか」を考え続けて、思い浮かんだら書き直しますし、思い浮かばなかったら第三者にぶつけてみたりしますね。モチベーションについては、直すかもしれないことは前提としつつ、その先の展開には自分が面白いと思っているシーンもあるわけですから、まずは面白いところまで書き切ろうという思いでやります。

――本日はありがとうございました。

<了>

世界最強のスパイ、そして落ちこぼれのスパイたちによる驚愕のスパイアクションを綴った竹町先生にお話をうかがいました。スパイのノウハウを教えられない教師と、実践から学ぶしかない落ちこぼれの生徒たちは、スパイ同士の騙し合いと死亡率九割と言われる不可能任務へと挑んでいくことに。スパイの騙し合いはもちろん、読者さえも騙されてしまいかねない本作。その真実を自らの目で確かめてほしい『スパイ教室』は必読です!

©竹町/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:トマリ

[関連サイト]

『スパイ教室』特設サイト

ファンタジア文庫公式サイト