【このライトノベルが売れて欲しい】第32回『サイハテの救世主』壊れてしまった天才の苦悩と世界を救う責任、そして癒しの物語

「世界を救えるのは、このぼくだけなんだ」

ということで始まりました。続きが読みたい!メディアミックス展開して欲しい!単純に沢山の人に手に取ってもらいたい!という願望を織りまぜてオススメラノベを紹介する『このライトノベルが売れて欲しい!』第32 回でございます。

今回ご紹介するのは1月に第2巻が発売した岩井恭平先生の新作

『サイハテの救世主』!!

サイハテの救世主

著者:岩井恭平

イラスト:Bou

~あらすじ~

日本国の最南端、沖縄―沙藤葉(さとうよう)はサイハテの地に降り立った! そこで出会ったのは隣に住む世話焼き美少女の濱門陸(はまじょうりく)や、現地アイドルの照瑠(てる)など賑やかな近所の人々。彼女たちに対し「ぼくは天才だ!構うな!」と葉は主張するものの誰も信じてくれずに、しぶしぶながらも楽しい生活を始める。だが未完成の論文破壊者(デモリッシャー)が完成していた記憶を葉が取り戻した時、世界滅亡のシナリオが動き始める。葉は救世主となり、世界を救えるのか!

天才を自称する少年は、サイハテの地に降り立つ

本作『サイハテの救世主』は主人公、沙藤葉(さとうよう)が沖縄の地に降り立つところから始まる。何者かから逃げているかのような独り言をブツブツと言いながら沖縄へと降り立った葉。やれ『ペンタゴンのセキュリティは知り尽くしている』だの、『国家機密を他国に売る』だの、まるで虚言癖があるのではないか?と疑いを持つほど意味不明なことを呟く彼の姿は、今風に言えば中二病そのものだろう。

彼は自らを『天才』だと自称し、自分が作り上げた論文が認められず、嘲笑を受けたことを憤り、嘲笑った者たちを見返そうと息巻く。沖縄に来たのは、あくまで息抜きのために来たのだと、論文を完成させて、自分の天才性を認めさせるのだと。

自分を『海外の大学の最年少教授であり、アメリカの軍事顧問、国家機関のアドバイザーをするほどの天才』と息巻き、周囲への無駄な攻撃性を発揮する主人公。その姿はまるで子供だ。そんな意味不明な中二病的発言は、沖縄に住む人々からはまったく理解されず、むしろ彼らの大らかな性格から、『ドク』という愛称と共に難儀な住人として受け入れられようとしていた。

葉は徐々に沖縄に住む人々のお節介をきっかけに交流を増やしていく。

隣家に住む少女、浜門陸(はまじょうりく)のお節介をイヤイヤながらも受ける葉。自分が天才であると言っても、まったく信じない彼らに憤るものの、今の生活に少しの安らぎを感じていた――

しかし、物語は彼の創りだした論文『破壊者(デモリッシャー)』によって大きく動き出す。

壊れてしまった天才に、世界の命運は委ねられる

物語の真偽は逆転する。自称『天才』は、本当の『天才』になる。葉が語ったすべてのことは事実だったのだ。彼は世界に貢献する技術作り出し、新たな法則を見つけ出し、幾度と無く世界を救い続けた唯一無二の天才そのものだったのだ。

――しかし、その天才性はすでに失われてしまっていた。

葉はかつての天才的な頭脳はすでに持ち合わせていない壊れたガラクタに成り下がってしまったのだ。

本作の魅力は『天才』に課せられる『責任』と向き合う、この『壊れた天才』という部分だろう。葉は自らがつくり出した世界を滅亡に導くシナリオ『破壊者』と呼ばれる論文と、沖縄の地で向き合うことになる。自分が創りだしてしまった悪魔のような論文、しかし自分にはかつての才能は消え去り、どうすれば世界を救えるのかわからない――

世界を破壊から救うため、葉は立ち上がる。

しかし、その頭脳にかつての天才性は備わっていなかった――

本作は徹底的に『天才』の責任というものがピックアップされるのが特徴だ。世界を救う天才に人間らしい生き方など不要、世界を救う部品になれと多くの人間に強制される主人公の姿は虚しさすら感じる。

しかし、主人公はすでに天才ではないのだ。天才ではなくなったのに、天才であった頃の自分を誰もが羨望の眼差しで見つめ続ける。「救ってくれ」「助けてくれ」と葉の脚にすがり続けるのだ。神に祈るように誰もが葉にすがりつく、救ってくれるのが当然であるように――

そんな彼に訪れた沖縄での『天才じゃない自分』を認めてくれる人々との生活は、救い以外の何者でもないだろう。本作の素晴らしさは、非情な世界と温かな世界の対比だと言える!!

 

「はいはい天才天才」という風に馬鹿にされる主人公だが

その対応が、逆に主人公にとっては救いになっていく。

第2巻がすでに発売されているが、こちらも1巻以上に『世界を救う天才』というテーマを深く言及した物語になっている。1巻を越えるエグさはさすが岩井恭平先生と言ったところか!! ある意味『天才』とは化物なのだ。化物が普通に生きていくことの難しさは、岩井先生の『ムシウタ』に共通した部分だろう。『ムシウタ』シリーズも佳境を迎えているため、両者とも楽しみに次巻を待ちたいところだ!!!(早くデテー)

ということで、第32回【このライトノベルが売れて欲しい!】は以上になります。

個人的にサイハテの救世主2巻のダメージは半端ないことになりました。主人公に課せられた責任は重く伸し掛かり続ける。一回、世界を救っちゃったら、一生世界を救い続ける責任を負うということですからね。

もう『俺が世界を救ってやるよ!!』なんて簡単に言えませんね(言う機会ないですけどね)。

【記事:ゆきとも】