【レポート&インタビュー】参加者の熱意や意欲に主催者も圧倒! カクヨムユーザーミーティングの模様をお届け

2016年5月29日(日)に角川第3本社ビルで開催された「カクヨムユーザーミーティング」の模様をお届けする。本イベントはKADOKAWA×はてなが運営する小説投稿サイト「カクヨム」初のイベントとなり、実際に「カクヨム」上で作品を投稿、かつ作家志望のユーザーを対象として開催された。イベントへの参加応募者は非常に多かったようで、申込倍率も6倍と高いものだった。今回はイベント参加を見送った方、また残念ながら抽選に漏れてしまった方も、本イベントではどのような話が行われ、会場はどのような雰囲気であったのか、気になっている方も多いに違いない。本記事では「カクヨムユーザーミーティング」第1部のトークショー、そして第2部の作品講評会の模様についてお伝えする。さらに主催者であるカクヨム・カドカワBOOKS編集長の萩原氏と、ファンタジア文庫・角川スニーカー文庫の統括編集長の森井氏に、イベント終了後に感想やその手応えについてお話も伺った。カクヨムの今後の展開についても聞いているので、ぜひチェックしてもらいたい。

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●初のイベントとなる「カクヨムユーザーミーティング」

「カクヨムユーザーミーティング」は予定通り14:00よりスタート。参加者の集まりも非常に良く、事前に欠席連絡のあった方以外は当選者全員が揃う素晴らしいスタートとなった。イベントでは第1部としてトークショー「編集者はこう見ている! こう書籍化する!」を、第2部として編集者による作品講評会が実施される形式で行われた。イベント全体を通して印象的だったのは、幅広い年齢層の参加者がいたことはもちろん、参加者のそれぞれが筆記用具やパソコンなどを携えて、トークショーの内容や講評の内容をメモにとり、自身の糧にしようという積極的な姿勢が見て取れたことだ。後のインタビューでも語られる参加者の「熱意」をいたるところで見て取れるイベントとなった。

●二人の編集長が語る人材発掘の在り方とは

第1部のトークショー「編集者はこう見ている! こう書籍化する!」には、ファンタジア文庫・角川スニーカー文庫の統括編集長である森井氏と、カクヨム・カドカワBOOKS編集長である萩原氏が登壇。編集者はどのようにWEB小説を見ていて、どのように人材発掘や書籍化を行うのかをテーマとした。新たな人材の発掘にはメジャーな手段としてある新人賞、そして他の業界や業種からデビューするパターンについてそれぞれ紹介。その中で、現在のWEB小説については後者の流れの延長線上にある、という見解を示した。そのうえで、WEB作品からの書籍化というステップは今後も継続するだろうとしながら、非常に増えたWEB発作品という市場における希少性は失われているとも語った。

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※森井統括編集長と萩原編集長

では今後、どのように変化をしていくのか。その答えは編集者ごとに異なるとしながらも、二人の編集長は共通の見解として、作品以上に作家を見るようになるだろうと語った。それは作品の中から見える独自性であり、作家本人のバックボーンであり、その作家である必然性だという。引き出しの多さはもちろんだが、WEBだからこそ丸見え状態の人間性も見られることになるだろうと語った。

そして、書籍化するWEB小説については「カクヨム」を例に挙げつつ、タイトルとキャッチコピー、次ページのあらすじ、第1話と順繰りに読者の期待通り、またはその期待を超えてくる作品を中心に探しているとも語った。トークショーの最後に両氏は、自分じゃなきゃ書けないものを意識し続け、考えながら作品を書いて欲しいと語り、締め括った。

●質疑応答では踏み込んだ質問も飛び出す 「次のジャンルは何が来るのか」

続いて行われた質疑応答では、「10代の読者層の現状と今後に関して」や、「次にどんなジャンルが来るのか」といった、踏み込んだ質問も飛び出した。10代の読者層に関する質問について森井氏は、世の中の時間を使うエンターテイメントの選択肢が増え、コミュニティが細分化し、他に取られていることも実情だろうと語った。数年前から比較すると流入数は減少傾向にある一方で、学校などのクラスのコミュニティは存在しており、10代に凄く売れている作品があるなど、10代の読者が大きくライトノベルから離れているわけではないとも語った。また、次にくるジャンルについて萩原氏は、「わかっていたら既に作っている」と会場の笑いを誘いながらも、現在ある仮説をもとにしてチャレンジしていくしかないと回答。さらに、レーベルごとに次に来るものがすべて同じになることはないだろうとも語り、全員が全員同じ方向を向く時代は終わったのではないか、という見解も示していた。

●参加者と編集者による1対1の作品講評は、両者とも身振り手振りを交えて実施

第1部のトークショーが終了し、イベントの第2部となる作品講評会も行われた。作品の講評会では、1人あたり10~15分を目処に、参加者と編集者による1対1での講評が行われた。編集者は事前に作品(今回は短編または長編プロット)を読んだうえで講評に臨み、プロットの良し悪しに関する指摘や、作品に何が足りていないのかなど、具体的に踏み込んだ内容で参加者と向かい合った。また、参加者の多くはメモとペンを携え、身振り手振りも交えて行われるアドバイスを一字一句逃さないよう、メモを取る参加者も多く、中には自前のパソコンを持ち込みメモを取る参加者もいた。講評会は出張編集部のような様相で行われ、参加者の非常に前のめりな姿勢があちこちで見られる講評会となった。自身の作品の講評を終えた参加者は、普段は得ることのできない多くのものを持ち帰ることができたに違いない。

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※参加者との作品講評の様子

「カクヨムユーザーミーティング」は、好評の中で終えたと言って差し支えなかったと思う。イベント会場には「カクヨム」の開発を担当するはてなの担当者も足を運んでおり、会場の一角で参加者から直接意見をうかがっている場面も見て取れた。ここで拾った声をぜひ「カクヨム」の中で反映してもらいたい。そして、以下からはトークショーにも登壇したカクヨム・カドカワBOOKSの編集長である萩原氏と、ファンタジア文庫・角川スニーカー文庫の統括編集長である森井氏へのインタビューとなる。イベント開催のきっかけから、実際にイベントを終えてみての感想。そして今後の「カクヨム」の展望など必見の内容となっている。

――お時間をいただきありがとうございます。イベントから引き続きですが、よろしくお願いします。

萩原・森井:よろしくお願いします。

――まずはお疲れ様でした。実際にイベントを終えてみて、いかがですか。

萩原:思った以上にいい手応えでした。活気もありましたし、応募倍率も6倍くらいあって、とにかく熱意のある方に集まっていただけたと思います。募集期間が短かく、長編プロットの提出もしくは短編のアップという「事前課題」もあったため、参加のハードルが高すぎたかなという危惧はありました。その分、我々のハードルも上がっていたのですが、足を運んでいただいて、つまらなかったという顔でお帰りになった方はいなかったように見えたので、そこはとてもよかったです。

森井:私も直接プロットを拝見して、ご質問もいただいたんですけど、本当に皆さん「書く」ことに対する熱意が高く、年齢関係なしに面白いものを書きたいという意欲の高い方々に今日は集まっていただけた、という風に思っています。本当に良いイベントになったなと。

――イベント会場を見て回らせていただきましたが、年齢層の幅広さには驚きました。

萩原:そうですね。10代から50代まで幅広い年齢層の方にお越しいただきました。「カクヨム」もユーザー年齢層の幅が広いので、そこがイベントにも表れたのかもしれません。

――正式オープンから3ヶ月が経過しましたが「カクヨム」の利用者状況はいかがでしょうか。

萩原:会員登録数が6万人を超え、総PV数は約5,500万ですね(2016年5月29日時点)

――利用者も着実に増えてきていますね。さて、今回初のイベントということでしたが、開催の経緯についてお聞かせください。

萩原:やりたいという思いはずっとあって、それがようやく叶った形です。2月末のコンテスト開始や、「カクヨム」オープン後の機能改善など様々なことに追われて、なんとか一息つけたのが4月の半ばを過ぎてからでした。なので、正式にちゃんとやろうと決まったのも4月の下旬でしたね。もちろんWEBからユーザーの声を拾うという手段もあったのですが、バイアスのかかるケースも多いですし、やはり直接ユーザーからお話を伺いたいなと思いまして。編集者と作家でもそうなんですけど、ちゃんと顔を合わせて会うことはとても大切だと思っていて、喋っている時のトーンや表情を見ながら、聞きたいという考えがずっとありました。「カクヨム」の開発を担当しているはてなさんも、次の改善に向けてユーザーの声を聞いてやりたいということで、意図は合致していました。なので、はてなさんにも足を運んでいただいて、今回の開催となりました。

――実際にイベント開催を経て気付きや得られたものはありましたか。

萩原:一番はユーザーの小説に対する熱さですね。物語を書くだけだったら編集者はいらないじゃないですか。書いて、読んでもらう、だけではなく編集者の話を聞きたいという思いは、書籍化希望の有無はともかく、上手くなりたいという意欲の表れだと思っています。そういう方々が、抽選に漏れて来られなかった方も含めて、本当にたくさんいてくれたんだなと。今回はまだどんな雰囲気のイベントかも分からない1回目で、しかも募集開始から1ヵ月程度での開催というハードルの高さでしたので、次回以降はユーザーの心理的にも、もっと応募しやすくなると思います。

――2回目や3回目のイベント開催も視野には入れられているわけですね。

萩原:カクヨム編集部としてやりたいという意思はあります。今回のイベントの振り返りを行い、そこでポジティブな声が大きければ、自然とそういう流れになると思います。

――なるほど。では直近の「カクヨム」の予定について教えてもらってもいいですか。

萩原:検索機能については5月に改善していますが、もう一段階バージョンアップを予定しています。時期については明確には申し上げられないのですが、そんなに遅くはならないだろうと思います。企画については現在2つのコンテストが動いていて、ひとつが少年エースとの共同企画による「漫画原作小説コンテスト」です。漫画原作のコンテストはなかなかないと思います。そしてもうひとつが「エッセイ・実話・実用作品コンテスト」です。KADOKAWAの中にはエッセイやビジネス書を扱う部門もありまして、そこの主催コンテストとなります。カクヨム編集部の仕事として、「カクヨム」をこんな形で使ってみませんか、一緒になにかしませんか、といった他の領域への営業も積極的に行っています。なので、今後ももちろん小説のコンテストは定期的に行われますが、それ以外のコンテストや企画も動いていくことになると思います。

――今回のイベントやコンテストなど書き手向けの企画が充実していると思うのですが、読み手に向けたアプローチで何か予定はないでしょうか。

萩原:検索機能の改善は読む人向けの施策だと思っています。もちろんそれ以外にも、たとえばレビューを書くことに対するプライオリティを高めようだとか、運営として考えていることはあります。また読む人たちへは物理的なアプローチ以外に足りていない部分もたくさんあると思っているので、導線強化はしっかりとやっていきたい。それと今やっているコンテストに関しては初夏に結果の発表が行われるのですが、その後もKADOKAWAから作品の削除を呼びかけることはありません。書籍刊行前にその内容を読むことができる、というのは読者に向けたひとつのフックになるのではと考えています。もちろん、だからこそ編集者は書籍ならではの付加価値を考える必要がありますね。一方で、そもそも書く人がいなければ読む人も増えないんですよね。現状で書き手が100%満足できているかというと、残念ながらまだそうなっていないと自覚しています。なので、書く人の満足度をまずはしっかりと高めていきたい。

――コンテストで書籍化となる作品の続きなど、展開の方法は決まっているのでしょうか。

萩原:書籍を刊行するのは、本コンテストに参加している各レーベルになるので、方針は作者さんと刊行レーベルが話し合って決定することになると思います。そのあたりも含めて、レーベルのカラーが出てくるのではと思います。

森井:「カクヨム」にはファンタジア文庫編集部も角川スニーカー文庫編集部もとても注目しています。イベントでお会いした方々のように、書く熱意に溢れた方が多く集まっていることを、あらためて編集部として認識しておりますので、新人賞だけではなく違った関わり方があるのかないのかという部分も含めて、考えていきたいと思っています。

――それでは今後の「カクヨム」に期待している皆さんへ一言ずつメッセージをお願いします。

森井:ファンタジア文庫と角川スニーカー文庫は新人賞も募集しているので、そこにも応募していただきたいです。一方で、書くという作業は非常に孤独な作業で、「カクヨム」での読み手から反応を貰えるという点は、大きな意味合いを持つ場所だなとも考えています。書くことや書き続けることはみなさんにとっても大事なことだと思っていますし、今はそのフォーマットを書き手である皆さんが選べるところにあるのだと思います。「カクヨム」でもいいですし、新人賞でもいいので、書き続けていただければと思います。

萩原:「カクヨム」では今後も日々改善を重ねていくつもりですし、過去に決めたことに対して、固執をしないつもりでいます。ジャンルなど、今決まっていることについても、みなさんの意見を受けながら変えていくことは大いにあります。一番の目的は『面白いものが集まる場所にする』ことです。投稿サイトも含めて、WEBサイトはひとつの雑誌のようなものであり、またひとつの文化だと思っています。居場所と言ってもいいのかな。これは「カクヨム」を含めたあらゆる小説投稿サイトでも同じことが言えると思います。そして「カクヨム」は場所ができたばかりで、まだ見えていないものもたくさんある。時間が解決する部分もあるので、見えてなくても当然ではあるんですけど、とにかく面白いものが生まれやすい場所になるよう運営していこうと思っています。何より「カクヨム」の文化を作るのはここで書く方、読む方、参加するユーザーのみなさんだと思っていて、それがまさに今。文化のできていないところに文化を作るのが、今のユーザーの皆さんです。この数年後のユーザーは、今のユーザーの皆さんが作った文化を受け継ぐ人になる。本当に今、生まれるタイミングにいる、ということを楽しんでもらいたい。そういった状況ですから、今のユーザーさんに負荷をかけている部分もたくさんあると思っています。ただ、最終的にはいい場所に落ち着くよう運営していこうと思っていますので、現在参加している方は継続して、ちょっと遠巻きに見ている方は、お祭りをやっているんだっていう感覚で飛び込んできてほしいと思います。

――本日はありがとうございました。今後も「カクヨム」の動向を楽しみにさせていただきます。

萩原・森井:こちらこそ本日はありがとうございました。

<了>

主催者サイドも参加者の熱意や意欲に、大いに発破を受けた「カクヨムユーザーミーティング」。次回開催についても前向きな検討が期待される。今回のイベント参加を見送った方や、残念ながら抽選に漏れてしまった方は、ぜひとも次回の開催に注目してもらいたい。

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[関連サイト]

小説投稿サイト「カクヨム」

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