独占インタビュー「ラノベの素」 榊一郎先生『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2017年5月2日に講談社ラノベ文庫より『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』が発売となった榊一郎先生です。同レーベルにて完結も間もない『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』を手掛けている同氏の新シリーズに関するテーマやコンセプト、そして『アウトブレイク・カンパニー』との関連性の有無などについてお聞きしました。
【あらすじ】 『地球は、狙われている』遙かなる太古より地球は数々の生命体に狙われていた。その地球を救うための組織〈サキモリ〉は、今、司令官不在という未曾有の危機に陥っていた……。主人公・阿倍野晴克は何のへんてつもない高校生。いや強いて挙げれば貧乏なことだろうか。「普通」というものに憧れている極貧高校生だった。しかし突如現れた自称・姉によって晴克は拉致・監禁されてしまう。しかもその上、謎の組織までが彼を拉致して三つどもえの拉致合戦。どうやら地球を守る運命は、この極貧高校生に託されたのだ! 宇宙怪獣、ナントカ星人にetc。とんでもない侵略者たちから地球を守れ! |
――新シリーズのスタートおめでとうございます。榊先生は多数のシリーズを抱えていらっしゃると思いますが、率直な気持ちをお聞かせください。
何本新作を立ち上げても、やはり一巻目は不安になるものです。そもそもの作品コンセプト、世界観、主要キャラクター設定と配置、といった基礎部分は二巻以降で変更がまず効きませんから、『本当にこれが最善か?』と本当に発売間際まで自問自答が続きます。その一方で、やはり今までは文字でしかその存在が定義されていなかったキャラクターが、実際にビジュアル化されたその瞬間は、興奮します。今回は特に有名アニメーターでもある足立慎吾氏に絵を付けて貰っていますから、まるでもうアニメ化したかの様な気分――はさすがに言い過ぎですが(笑)。
――作品作りでは常に試行錯誤をされているかと思います。ライトノベルを含め、昨今のエンターテイメント業界で感じていることなどはありますか。
ライトノベルに限らず、エンタメ系はいずれも苦戦を強いられている印象ですね。本やDVDが売れなくなった、というより、人気の出る作品が一部のジャンルに偏ってしまって、それ以外は作品の出来不出来にかかわらず軒並み苦戦している様で。以前のやり方が通用しなくなってきた、そんな感じでしょうか。
――なるほど。そんな苦境にも立ち向かう『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』はどのようなコンセプトで執筆された作品なのでしょうか。
基本的にはSFですが、まあ、ハードな設定やら何やらはさておき、SFならではのシチュエーションを楽しめるものを、というのが本作のメインコンセプトです。先の『アウトブレイク・カンパニー』がファンタジーの皮を被ったSFだとすれば、今度はその逆で、SFの皮を被ったファンタジーというか。その意味では『アウトブレイク・カンパニー』とは色々な意味で対比構造にもなってます。
――本作では侵略者との戦いが描かれるわけですが、主人公の阿倍野晴克をはじめ「普通」「平凡」「日常」というキーワードも多く登場します。「侵略」とは反対側にある言葉が多く登場する理由などもお聞かせください。
まず、現実における『侵略』って何だろうと考えた場合、何が侵略で何がそうでないかの線引きって難しいんですよね。必ずしも軍隊率いて攻めてくるばかりが侵略ではなく、経済的な、あるいは思想的な侵略だって有り得る訳で。そもそも侵略って本当に『悪い事なのか?』と。
※地球を狙う侵略者たち
――確かに侵略の定義は難しいですよね。「萌える侵略者」という同じキーワードを有する『アウトブレイク・カンパニー』では文化的侵略者として主人公たちは描かれていました。
はい。そう考えるとやはり、我々が侵略という行為、現象を、否定的に考えるのは、自分達の日常を一方的に否定されるからではないのだろうかと。普段は意識していなくても、我々は努力して『普通』を維持している訳で、それを相手の都合で破綻させられるからこそ、我々は侵略というものに、拒否感を覚えるのだろうと。そういう話をするにあたって、主人公の晴克はむしろ『延々と自分の生活がヤクザや借金取りに侵略されまくって、普通の生活というものを殆ど知らない』人間に設定しました。そういうキャラクターの方が侵略に対して本質的なものの見方をするんじゃないかな、と。
――なるほど。だから阿倍野晴克のこれまでの境遇はとても難儀な背景になっていたんですね。侵略という言葉というか現象そのものに最初から受け入れられるだけの下地があったと。
そうですね。ただ、侵略は思想的なものも絡んでくる事が多いので、あまりシリアスにやると、現実社会における深刻な問題との兼ね合いが強調されてエンタメ性が損なわれそうな気がしました。なので基本的にはお気楽でスチャラカなドタバタ劇として本作は描かれていたりもします。
――ドタバタ劇という点に関しては第1巻発売前に公開されたオーディオドラマでも聴くことができますよね。発売前にオーディオドラマが大ボリュームで配信されました。
まるでもうアニメ化したみたいな――というのはおいといて(笑)。実のところ、作品立ち上げと同時にオーディオドラマを録るというのは初めての経験でした。アフレコにも立ち会わせてもらいましたが、私の中のキャラクターのイメージに色々と厚みが出てきた様に思います。「ああ、晴克ってこんな風に喋るんだな」みたいな。普段、私は新作を書く場合、キャラクターの描写についてはデザインを見てから最終調整をするのですが、その調整の際の参考要素に更に声が加わった感じでした。まあさすがに、根本的な部分まで調整している暇はありませんでしたが。
『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』WEBドラマ
――発売となった『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』ですが、読者にはどんな期待を持って読んでもらいたいですか。
ライトノベルでは現在、異世界系のファンタジーか現代の異能系、さもなくば特殊状況ラブコメがやはり強い訳ですが……本作では、昔懐かしいSFというか『宇宙人が攻めてくる!』的なシチュエーションを楽しんでもらえたらと思います。私の世代にとっては懐かしくても今の十代、二十代の読者さんにはむしろ目新しいのではないかと思ったりもします。基本の世界観コンセプトは『無責任なウルト〇マンの後始末に奔走する地球防衛軍』である訳ですが、色々今風に調整している部分もあります。主人公達の使う兵器はジェット戦闘機や戦車ではなくて、人型兵器ですし、そもそも地球防衛組織〈サキモリ〉自体が微妙に胡散臭いので、その辺の緩い感じを楽しんでいただければ、と。
※人型兵器も登場して地球を防衛する!?
――胡散臭い地球防衛軍の活躍に期待ですね(笑)。さて、ここまでで少し触れてはいるのですが、あらためて多くのファンも気になっているであろう『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』との関連性などはあるのでしょうか。
先にもお答えしましたが、『アウトブレイク・カンパニー』とは対比的な構造になってます。同じく萌える侵略者、という副題がついていますが、『アウトブレイク・カンパニー』の方では主人公が知らず知らずのうちに侵略者の側に立っていた、という話だったのに対し、『パラミリタリ・カンパニー』は防衛する側です。
――ここは私も読んでいて感じました。侵略者というキーワードに対して、この2作品は侵略する側とされる側の物語なんだなと。
これは意識的にそうしました。良くも悪くも同じ様なものを同じ様に書いてもマンネリ化してだれるので、『アウトブレイク・カンパニー』の後の新シリーズとしては、色々と『前とは違う』部分を出そうと考えたのです。こういうやり方は実は割とよくやるというか、他社でも『以前やってた〇〇みたいなのを新作でお願いします』と言われると、いくつかの要素を反対側にひっくり返す所から私は企画を作るので、今回はそれが顕著に表れているという事です。
――なるほど。物語の構造としては対比という関連性があるということですが、物語の内容としてはどうなのでしょうか。
内容における関連性ですが、現状ではありません。『アウトブレイク・カンパニー』の続編かと期待してくださった方には申し訳ありませんが、直接的な繋がりはありません。ただ、実を言えば折角だからキャラクター名については、むしろ手塚治虫のスターシステムの如く、『アウトブレイク・カンパニー』と同じ名前を使うのはどうか、という話もあったのです。これは担当編集の難波江さんに却下されました。ですが、逆に言えば、だからこそ慎一やミュセルが『パラミリタリ・カンパニー』の世界に居る余地も出てきたのではないのかなあと今では思っていたりします。場合によってはゲスト出演も可能な感じで。難波江さんに止められなければ、ですが(笑)。
――では『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』の発売にあたり、ファンや読者に一言お願いします。
割と好き勝手にやらせてもらった作品なので、逆に読者の方々に面白く見えるかどうかがむしろ分からずに不安です(苦笑)。書いていて面白いものと、読んで面白いものが必ずしも一致するとは限りませんから。ただ最近、ラノベではめっきり見なくなった『宇宙からの侵略者』とか『地球防衛軍』とか『怪獣』とか、そういうのも案外面白いかも? と皆さんに思ってもらえれば、幸いです。
――あわせて『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』もいよいよ次巻で完結となります。こちらも完結に向けて一言お願いします。
気がつけばなんだかんだで私の作品群の中でも屈指の長さを誇る作品になっておりました。割と初期の段階から、最終巻の、エピローグは決まっていたので、ようやく此処に辿り着けるな、と感慨深いです。その一方で慎一達はかなり書き手としても感情移入しやすいキャラクター達だったので、彼等の物語がこれで終わるのは、自分で決めた事とはいえ、寂しい気もします。いずれにせよ、ゴールが見えたとはいえ、最後まで気は抜かずに頑張ります。はい。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。
<了>
シリーズの完結が近づく『アウトブレイク・カンパニー』と同じ「萌える侵略者」と副題がつく新シリーズがスタートした榊一郎先生にお答えいただきました。侵略する側より、今度は侵略される側の物語を描いた本作に注目ですね。『パラミリタリ・カンパニー 萌える侵略者』は必読です!
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