独占インタビュー「ラノベの素」 伊達康先生『友人キャラは大変ですか?』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2017年8月18日にガガガ文庫より『友人キャラは大変ですか?』第3巻が発売となる伊達康先生です。主人公の友人ポジションの確立に日々心血を注ぐ小林の姿が多くの笑いを生み出している本シリーズについて、作品のテーマをはじめ、今回こそは脇役に徹することができるのか注目となる第3巻の展開についてお聞きしました。
【あらすじ】 唐突に持ち上がった蒼ヶ崎さんの縁談。相手の名は月見里朝雄――通称「アーサー王」。どでかい剣術道場の跡取りらしいが、こっちは世界を救うヒロイン三巨頭の一人、全くもって釣り合わない。だというのにこの野郎、「いいかい怜、道場経営とはビジネスなんだ」「今のままでは、蒼ヶ崎道場に未来はない」「女だてらに今より強くなってどうする?」ゲストキャラのくせに調子こきやがって……。メインキャラへの無礼千万、お天道さんが許してもこの小林一郎が許さねぇ! サイドストーリーは突然に、大人気助演ラブコメ第3弾! |
――それではまず、自己紹介からお願いします。
みなさん、はじめまして。伊達康と申します。出身は兵庫県神戸市で、第8回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「佳作」を受賞し、『瑠璃色にボケた日常』という作品でデビューしました。かつてインタビュアーの仕事をしていたことがあるのですが、される側は慣れていませんので、とても緊張しています。
――インタビュアーをされていたとのことで、逆にこちらも緊張してしまいますね(笑)。無難に好きなものを教えてください。
好きなものというより、趣味になるのですが、敢えて挙げるならゲームです。といっても、主にソリティアですが。執筆に行き詰まったとき、仕事が増えたとき、締め切りが近いときなど、無性にやりたくなります。「ヤバい……そうだ、とりあえずソリティアを……」と。
――まさか現実逃避手段の暴露から始まろうとは(笑)。それでは早速ですが、ソリティアと共に生み出された『友人キャラは大変ですか?』はどんな物語なのか教えてください。
基本的には友人キャラを自負する小林一郎が、主人公的存在の火乃森龍牙を支えるためにドタバタ、アワアワする話です。それは第1巻と第2巻、そして第3巻も変わっていないのですが、作中における彼の立場は、どんどん友人キャラからかけ離れていっています。彼の迷走は、ある意味この作品の迷走と言えるかもしれません(笑)。
――脇役が主人公という面白い構図が特徴的な本作ですが、どんな着想のもとこの作品は誕生したのでしょうか。
脇役視点のバックステージ的な話を書けないかな……と単純に考えたのが始まりです。実はこの作品、デビュー作が終わる頃にはすでにプロットまで出来ていたのですが、僕の中でお蔵入りになっていました。「ここまでメタっぽいのは、ちょっと企画として通らないかな?」と。なので、こうして世に出せたことは、個人的に感慨深いものがあります。最初のプロットからは、それなりに変更点も多いのですが。
――友人ポジションをとにかく突き詰めたがる主人公、小林一郎はどのようにして誕生したのでしょうか。
小林一郎については、特に誕生秘話なんて上等なものはありません(笑)。世界をメタっぽく見ていて、物語の脇役であろうとする、何だかおかしな人……最初はそれだけしか決めていませんでした。ただし、その時点ですでに【魔神】は憑いていました(笑)。
――本作にちなんだご質問になるのですが、伊達先生は様々な作品を観たり読んだりする際、どういった点に注目されているのでしょうか。やっぱり脇役は気になりますか?
基本的にはキャラクターに注目します。キャラが魅力的だと、多少ストーリーが退屈でも全体的な評価は高くなりますね。とりわけライトノベルはキャラクターの魅力が大切だと思っていますので、自作でも重視しています。作品を観たり読んだりしていて特に注目してしまうのは、やっぱり脇役でしょうか。もっと活躍して欲しい……でも活躍し過ぎるとウザい……その絶妙なバランスを持った脇役が、僕にとって名脇役なのだと思います。
――ちなみになのですが、創作ではなくこれまでの人生の中で、「この人、人生という物語の主人公なんじゃないの?」と感じた人との出会いはあったりしましたか。
そういう人には滅多に巡り合えませんね……でも強いて言えば、高校時代の後輩でしょうか。当時ハンドボール部に在籍していたのですが、その彼は強豪校の誘いを断って、僕たちの平凡な公立高校に入学してきたんです。何だか「スポーツ物の主人公みたいな奴だな」と思ったのを覚えています。僕は試合中、彼を活躍させることばかり考えていましたもの。「とりあえずこいつにボール渡しとけば、何とかするだろ!」って(笑)。実際何とかしてくれたので、彼はやっぱり主人公だったのかもしれません。
――そんな脇役好きの伊達先生は、本作を執筆する際に小林一郎が望む物語と、実際の物語のそれぞれのパターンを考えて執筆されていたりするのでしょうか。
基本的に本作のストーリー構想は、小林が理想とする展開の「逆張り」をするという作業です。おおまかな話の流れを考えて、その中で小林がより困る展開にすることを意識しています。小林自身が考える理想的な展開というのは、実はそこまで詳細には詰めていません。彼の理想なんて知ったこっちゃありませんので(笑)。
――なるほど(笑)。本作はラノベニュースオンラインアワードで第1巻、第2巻と続いて「笑った部門」で選出されました。読者の反応については想定通りでしたか。
もちろんコメディ物ですので、「笑った部門」で評価していただいたのは非常に光栄です。ですが、想定通りというわけではありませんでした。笑いのツボって人それぞれですし、正解がないというか。だから毎回、コメディ部分は戦々恐々として書いています。特に僕の場合、笑い所を書いているときに、それが面白いのか面白くないのか分からなくなる事態が多々ありまして……よく「コメディ物だから楽しそうに書いてそう」と言われたりしますが、とんでもないです。この作品を書いているときの僕は、九割方しかめっ面です(笑)。とはいえ、「笑った」と評価してくださった方々がたくさんいたということは、素直にとても嬉しいです。しかめっ面が報われた気がします。
――ありがとうございます。それではあらためて、本作の脇役であり主人公でもある小林一郎について教えてください。
本音をぶっちゃければ、小林は「薄気味悪い奴」ですね(笑)。勝手に世界を「物語」として捉えて、展開によっては自分が死ぬことすら厭わないという。明らかに何かが壊れた人です。コメディ物だから笑いで済んでいますけど、あまり友人にはしたくないタイプですね(笑)。
※友人のプロを目指す主人公・小林一郎
――本作のイラストは紅緒先生が担当されていますが、小林一郎は脇役であり主人公という難しい配役のキャラクターだと思います。キャラクターデザインで要望されたことなどはあったのでしょうか。
紅緒先生には、どういうオーダーを出しましたっけ……。確か「中肉中背」「髪型は普通」「顔つき凡庸」「特徴のない無個性なビジュアル」とお願いしたはずです。紅緒先生、「どないせいっちゅうねん」と思われたかもしれませんね(笑)。
※キャラクターデザイン(小林一郎・火乃森龍牙・雪宮汐莉・蒼ヶ崎怜・エルミーラ=マッカートニー)
――見事な没個性オーダーだったと(笑)。さて、第3巻ではそんな小林一郎が脇役として輝けるシーンを作り出す本当の脇役キャラクターの登場も見どころだと思っています。
第3巻の脇役として登場する佐々木や田中は、本来の意味での「正しい脇役」ですね。彼らは必要なときだけ登場し、果たすべき役割をこなすと退場します。小林も見習うべきでしょう。ストーリー的に必要だったから出したキャラクター、と言ってしまうと身も蓋もないですが、どこか小林に対するアンチテーゼの意味合いはあったような気がします。なので必然性があれば、また出てくるかもしれません。それが「正しい脇役」ですから。
――小林一郎も大層喜んでいましたからね(笑)。そんな彼のへそとうなじへの執着は伊達先生譲りでよろしいでしょうか。
いいえ。僕は「頭のつむじフェチ」なので。それをご理解いただくために、今回のインタビューを受けさせて頂いた次第です。
――並々ならぬ決意でお受けいただき恐縮です(笑)。小林の視線がへそとうなじに行きがちな第3巻の注目のキャラクターを教えてください。
第3巻に限っていえば、やはりメインの蒼ヶ崎怜でしょうか。加えて魅怨にも注目していただけたら嬉しいです。この二人は因縁のライバル関係という位置付けなので、蒼ヶ崎の出番が増える今回、結果として魅怨の出番も増えることになりました。あと個人的には、脇役の宮本女史にも注目していただきたいです。まさかイラストにしてもらえるとは、それもカラーページで描いて頂けるとは思いませんでした(笑)。僕の中で、宮本さんの株が急上昇しています。
※イラスト化された宮本さん。小林と戦うシーンのようだが、登場の役回りに注目だ。
――発売となる第3巻を含めて、お気に入りのシーンやキャラクターがいれば教えてください。
お気に入りとは違うのかもしれませんが、第1巻で龍牙が女であることをカミングアウトするシーンは印象に残っています。何故かあのシーン、ピタリと筆が止まってしまいまして……。一週間で数行しか進まなかった記憶があります。軽くトラウマです(笑)。お気に入りのキャラクターは、トウテツでしょうか。彼が出てくる場面では、筆が止まったことがありませんので。バカキャラは書きやすいんだと思います(笑)。
――それではあらためて、第3巻の見どころを教えてください。
今回は蒼ヶ崎の結婚を懸けた、他流剣術道場との対抗戦がストーリーの軸となります。小林はそれを本筋から外れたサブストーリーだと認識し、なるべく出番を控えようとします。果たして小林の理想的な展開になるのか? ならないのか? なりそうでならないのか? 全くならないのか? といったお話です。見どころは、どこですかね……ライバル関係の蒼ヶ崎と魅怨が、少しずつ距離を縮めていく過程でしょうか。作中の時期が夏休みということもあり、二人には水着になってもらいました。カラーページにもなっていますので、是非ご覧下さい!
※眩しい水着姿で登場する蒼ヶ崎と魅怨
――これからの目標や野望があれば教えてください。
まずは今のシリーズに、とにかく全力で取り組むことを考えています。ヘトヘトになるまで頑張って書いて、でも気楽に読んでもらう。それが理想です。もう一つ個人的な目標としては、「そろそろ作品を他者に読まれることに慣れたい」ということです。デビューして何年も経つのに今さら何言ってんだという話ですが、未だに言い知れぬこっ恥ずかしさがあります。プロ意識に欠けていると思います。こんなことだから駄目なんです。
――それでは発売となる第3巻を楽しみにしている方、ならびにこれからこの作品を読もうとしているみなさんへ一言お願いします。
プロローグからエピローグまで、全編にわたり気合いを入れて書かせていただきました。読み終わったとき、漠然とでも「ああ面白かった」と思っていただければ作者冥利に尽きます。また、本作を読んでいないという皆様。このインタビューを機会に、よろしければ是非お手に取って下されば嬉しいです。恥ずかしい気持ちはありますが、読んでくれるのが貴方なら、私……きっと平気だから……。気持ち悪いですか?
――本日は本当に、本当にお疲れ様でした(笑)。
ありがとうございました。何か最後、すみませんでした。
<了>
サイドエピソードを彷彿とさせつつも盛大に予想を裏切ってくる第3巻が発売となる伊達康先生にお答えいただきました。己が突き進むべき脇役街道をひた走り、挙句突き抜けてしまう小林一郎の存在はもちろん、主人公級(小林視点)のキャラクターたちに振り回されるドタバタラブコメに注目ですね。『友人キャラは大変ですか?』第3巻も必読です!
©伊達康/小学館 イラスト:紅緒
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