独占インタビュー「ラノベの素」 秋月煌介先生『崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2017年8月25日にMF文庫Jより『偽りの英雄が英雄エルフちゃんを守ります! 崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方 Step3』が発売となる秋月煌介先生です。シリーズは続々と重版、タイトルと作品内容のギャップも大きな魅力となっている本作の見どころや最新3巻についてお話をお聞きしました。

【あらすじ】

人と獣の激闘は続いていた。未だ意識を取り戻さない英雄、フィオに代わって偽りの希望となった弟子のウェズリーはキリエ達と共に奔走するが〈黙示録の獣〉の圧倒的な成長力に為す術もなく蹂躙されていく。獣の進化により突如、出現した大樹の振り撒く瘴気の影響で、人類滅亡までに残されたリミットは僅か三日間に。憔悴していくウェズリーのため、ソーニャは決戦に向けてある行動を開始する。そんななか、眠り続けているフィオは。「わたしがいるべきなのは、辛くて残酷な世界だから。そこがどんなに辛くても、ヒューイット様が守った世界だから」その身に刻め、獣。おまえたちの憎悪なんかに屈しない、人間の力だ」――世界が英雄の目覚めを待っている。

――それでは早速ですが、ますは自己紹介からお願いします。

秋田県出身で、第11回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「佳作」を『天牢都市〈セフィロト〉』で受賞し、デビューしました。中学2年くらいまでは、なんとなく漫画家を目指していた時期もあったのですが、ライトノベル作家に辿り着きました。昔からハリウッドのアクション映画や時代劇など、エンタメのドラマや映画をずっと見てきた影響もあって、創作的なものに惹かれる傾向は強いです。

――漫画家を目指していた時期もあったとのことですが、ライトノベルにはいつ頃から興味を持たれたのでしょうか。

漫画家は目指していたと言っても、まともに描けるようにとりあえず絵の練習をしていただけですね(笑)。ライトノベルは中学2年の後半あたりから読み始めたと記憶しています。文章という限られた手法の中で、独特な表現を為し得る媒体であることに惹かれて、漫画家から小説家に目指す方向を転換しました(笑)。実際のきっかけになったのは秋田禎信先生の『魔術士オーフェン』だったと思います。

――転換の思い切りの良さもそうですが、実際に新人賞へ応募を始めたのはいつ頃からだったのでしょうか。

ライトノベル作家を目指そうと思ってからは、まず読むことに徹しました。なので、実際に新人賞への投稿を開始したのは、決意した1年後の中学3年の頃でしたね。その後、多少のブランクを挟んだりしつつ、デビューまで10年以上かかって今に至ります(笑)。

――苦労をされてデビューの後、『崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方』シリーズが大きな注目を集めています。本作の内容について教えてください。

本作は「英雄」の主人公がすべてを救うようなストーリーではありません。特別な力を持たない人達すべてを含めた群像劇を描いています。200年もの間ずっと劣勢の戦いを続け、領土も蝕まれ、人々は絶望することにも慣れた、変な安定のある世界なんです。第1巻の「英雄」であるヒューイットも、同じように絶望に慣れてしまっている人間で、自身の死期を悟りながらも焦ることなく虚無的な視点で生きていた人物です。そんなヒューイットが奴隷の少女フィオと出会うことで、少しずつ人間味を取り戻していくことになります。この出会いが「英雄」として世界に影響を及ぼし、そして「英雄」は引き継がれていくことになります。

※ヘルベルカ/ヒューイット/ソーニャ/フィオ

――本作はタイトルも特徴的ですよね。『崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方』がメインタイトルで、サブタイトルは物語の内容とギャップを感じるタイトルでもあります。

作品のタイトルについては散々悩みました。第1巻の時は『ざるそば(かわいい)』のつちせ八十八先生からアイデアをいただいたりもしましたね(笑)。読者の方はタイトルから物語の内容を想像したり、期待を抱いて読まれると思うので、あまり逸脱し過ぎず、でもタイトルと内容のイメージをズラしていきたい。ちょっとした駆け引きではあったのですが、うまく噛み合ってくれたと思っています。緩めのタイトルから喜劇を思い浮かべるかもしれないけどそうではない。でも悲劇の物語というわけでもない。どこまでも前向きな物語であると私自身思っているので、タイトルでは良い意味で騙されたと思っていただけると嬉しいです。

――喜劇でも悲劇でもない。それでも「英雄」には過酷な運命が待ち受けているわけですが、本作はどのような着想の元生まれたのでしょうか。

最初の着想はゲームでもたまに見かける世代交代ものの作品をイメージしました。主人公が変わっていくタイプの作品ですね。衰えていく英雄と伸びていく弟子のような構図はひとつ面白いかなと。そこにフィオの元となっている主従関係があり、従順なヒロイン像を重ね合わせ、現在のような形になりました。とはいえ、当初の企画段階では結構苦労しまして、担当編集さんとディスカッションをしながら詰める方法をとりました(笑)。

――企画もかなり色々なものを考えられていたと伺いましたが、ボツになった企画を教えてください(笑)。

私自身の傾向として、かなり物語の枠組みからやりたいものを考える傾向が強いんですよね……。当時、モンスター娘が流行っていて、人外系ヒロインの企画だとか、変わり種では水泳のコーチものの企画もありましたね。一応水泳はやっていたので、経験を活かせるかなと。

――ちょうど「世界水泳」が終わったばかりですが、水泳は長くやられていたんですか。

2歳くらいから中学校までやっていました。いろんな競技に出てこそいましたが、県を越えての大きな大会に選抜されたりとかはなかったですね。この間、何年かぶりに泳ぎに行ったんですけど、衰えを感じました(笑)。

――様々な企画の中から組み上げられた本作ですが、「英雄」以外にも魅力的なキャラクターが登場します。秋月先生のお気に入りのキャラクターを教えてください。

メイドのヘルベルカとヴァルトシュタイン家当主のエドアルドですかね。脇役に愛着が湧くといいますか、他のキャラクターと絡めやすいんですよ(笑)。メインではやはりフィオでしょうか。

――フィオはヒロインであり主人公でもある存在ですが、ヒューイットにかなり依存しており、少し危うさを感じるキャラクターでもありますよね。

そうですね。フィオはもともと自己評価が低く、ヒューイットに肯定をしてもらって自信を持てるようになっていくんです。親子の関係というか、恋人とは少し違うんですけど。やはり主従の関係が一番しっくりくるんですが、下手なカップルよりも濃い関係として描いています。なので、精神的な支柱としてヒューイットの存在は、フィオの中ではとてつもなく大きいです。ヒューイットあってのフィオなので、焦がれるあまり、少しだけ破滅的な思想も匂わせるように描いています。とはいえ、はっきりとした破滅的な思想を持っているわけではありません。ただ、フィオの肩には世界の命運がかかっており、後進の育成もある。プレッシャーだけではありませんが、何かがあったら一気に傾いてしまう危うさは持ち合わせています。

※「英雄」を継いだフィオ

――脇役でお気に入りのキャラクターとして挙げられたヘルベルカやエドアルドは、コミカルな面が目立ちます。

この作品の大筋はどうしても暗い方向へと向かいかねない物語なので、バランスをとる意味でも明るいキャラクターとしてコメディ的な面をエドアルドやソーニャに担ってもらっています。このキャラクター達が登場したら少し空気が変わるぞ、と。タイトルと同様で、この物語は悲劇としてとらえてほしくないんです。日常コメディとシリアスな部分、この両方を行き来しながら、物語は進んでいくんだぞ、ということです。

――これまでの本作の中で、印象に残っているイラストやシーンがあれば教えてください。

初めてヒューイットがフィオに心を開くシーンは、水鏡まみず先生のイラストも相まってとても印象深く残っています。主従関係もここで初めて結ばれたと言っていいのかもしれません。

※フィオに心を開いたヒューイットは「英雄」としてどんな最期を迎えるのか(第1巻より)

あとは第3巻でヘルベルカが颯爽と駆け付けてくるシーンも見どころですね。また、イラストにはなっていないのですが、第1巻のラストシーンでの会話は、主役二人の内側に極限まで溶け込んで、一言一句を慎重に紡ぎました。第2巻、そして発売となる第3巻を読んだ後で読み返すと、また違う感慨が湧くかと思うので、何度も読んでいただけたら嬉しいです。

※誰かのピンチに駆け付けるヘルベルカ(第3巻より)

――本作の「英雄」は決して誉れ高いだけのものではありません。あらためて、秋月先生が考える「英雄」像について教えてください。

私が考える「英雄」は多分に特撮ヒーローものの影響を受けているのかなと思います。最近の傾向は少し違いますが、仮面ライダーは素顔を隠す孤独なヒーローのイメージがある。誰かの称賛や見返りを求めない、そういうところから掘り下げている部分もあります。この物語の世界観的にも絶望的な状況が続いていて、この世界の「英雄」は、突然現れて去っていくようなタイプではありません。「英雄」という存在が世界のシステムとして組み込まれており、人を守って当たり前だと思われている。つまりモチベーションの維持に相当するものがほとんどないんです。とはいえ「英雄」も人間なので限界があるわけです。

――「英雄」も一人の人間である、という点は重要な点ですよね。

そうですね。陰ながら自分の身を削り続けられるほど、人間は強くないと思っています。そこに未熟さや脆さが出てくるわけです。ただ、だからこそ描かれる人間味こそが、「英雄」の魅力なのかなと思っています。ヒューイットは英雄として多くの戦場を生き延びながらも絶望にとらわれていました。ウェズリーも英雄に憧れながら足りないものがあって、背伸びをしてきた少年です。キャラクターごとに「英雄」の捉え方も違うので、これからも様々な英雄像を描いていきたいですね。

――発売となる最新3巻の見どころを教えてください。

第2巻ではフィオが意識を失い、迫りくる黙示録の獣(アロスティア)と戦うために、ウェズリーが偽英雄として立ち上がるところまでが描かれました。英雄になることに憧れ、頑張り続けてきた上で、英雄の偽物となることを決意したことは、自分の夢を裏切る行為でもあるわけです。しかも偽物を騙っているので、バレれば罵倒、糾弾される未来も見えていたと思います。それでも、そうするしかないと決断したウェズリーが辿る道を第3巻では描いています。ウェズリーはどこに辿り着くのか、そんなウェズリーを前にキリエやソーニャはどう動くのか、ぜひ注目してもらいたいです。

※フィオとウェズリーの一幕(第2巻より)

――第3巻ではキリエのバックボーンにも触れられています。第2巻ではちょっとした伏線もありました。

そうですね。キリエはウェズリーと対比の存在として描いていて、二人は天才と秀才です。一方でキリエはそもそも英雄になりたいと切望するキャラクターでもなく、ゆえにこの二人は衝突を繰り返しています。そんな二人の掛け合いや決意もぜひ注目してください。

※無邪気に見えるキリエの過去も明らかに

――『崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方』シリーズをこれから読もうとしている方へPRをどうぞ。

ヒロインであり主人公でもあるフィオが、このシリーズを通しての中核的存在です。熱い物語を書きたかった思いを詰め込み、大きな盛り上がりに向かって読者のテンションも高まっていく物語だと思って書いています。漫画の創作論をベースにしている点も多く、物語の結末ではなく展開を楽しむ構造を下地としているので、常に物語の先を気にしてもらえるよう毎巻執筆しているので、ぜひ手に取ってみてください。第1巻の終わり方はフィオから見たら不幸な出来事かもしれませんが、ヒューイットの想いと決意を最大限に汲んだ終わり方で、物語が次へと繋がっていく点にもぜひ注目してもらいたいです。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

文章を15年ほど書き続けてきていますが、イラストレーターさんに絵を描いていただけるとはいえ、やはり文章で伝えられる情報量には限界があります。メディアの枠を超えて楽しんでもらえるような作品を作り続けて行きたいですね。とはいえ、まだまだラノベ作家としても2年経っていない駆け出しなので、引き続き頑張っていきたいです。めちゃくちゃ高いハードルですが、特撮ものの脚本を書く、というのも野望のひとつとしてあります。

――それでは最後にファンのみなさんへ一言お願いします。

作家は、本を書き上げた時点で完成だとは思っていなくて、受け取り手である読者のみなさんが読んで、初めて世に出した意味が生まれる仕事だと思っています。読者の皆様に育てていただいて、作家足り得ていると思っていますので、これからも楽しんでいただける物語を書き続けることで、報いていけたらと思っています。5年後、10年後も物語も送り続けていけるよう頑張っていきたいです。この作品ではテンションが下がったり、暗くなったりする部分もありますが、この作品を手に取っていただいたことに感謝をお伝えすると共に、今後の展開にもご期待をいただけると嬉しいです。

――本日はありがとうございました。

<了>

サブタイトルからはなかなか想像しづらい「英雄」の物語を綴る秋月煌介先生にお話をうかがいました。偽英雄として立ち上がったウェズリー、眠り続けるフィオ、自らの役割に縛られているキリエ。迫りくる黙示録の獣(アロスティア)を前に、どう立ち向かっていくのかを描く第3巻『偽りの英雄が英雄エルフちゃんを守ります! 崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方』は必読です!

©秋月煌介/KADOKAWA メディアファクトリー刊 イラスト:水鏡まみず

[関連サイト]

MF文庫J公式サイト