ライトノベル翻訳事情 フランスその他編

英語圏以外でのライトノベル翻訳を紹介したいと思うのですが、報告者の語学力の限界から紹介出来るのはフランス語だけです。

とはいうもののフランス語のライトノベル翻訳事情の紹介はあっという間に終わります。2011年7月の時点で『涼宮ハルヒの憂鬱』、『図書館戦争』、『十二国記』などが確認される程度ですから。(上橋菜穂子、乙一なども訳されているらしいですが、深入りはしませんでした。)アメリカに次いで日本のポップカルチャー流入が激しく、プロジャポネ文化形成が進んだとされるフランスなのですが、ライトノベルの翻訳は大して進んでいないのです。もちろん、フランスのオタク達はマンガやアニメの原作などになっているライトノベルの存在を知っていて、日本語が読めるごく一部のオタクは原文で読んでいますし、読めないオタクも英訳されたライトノベルを買ったり、翻訳サイトで読むかして好奇心を満たしてはいるようです。しかし、ライトノベルに対する関心は概して高くありません。

試しにGoogleでフランス語ページを対象に”Light Novel”で検索をかけてみたのですが、「ライトノベルとは何なのか」を解説するところから始めている記事ばかりで、フランスではライトノベルは「未だ存在していないに等しい」と断言するものも数件ありました。

傘下のYenPressに英米圏での『涼宮ハルヒ』の翻訳を行わせたフランス企業のHachetteは2009年にフランス語でも“La melancolie de Haruhi Suzumiya”を出版しますが、売れ行きは振るわなかったようです。英語版が続巻を発売しているのに対して、フランス語ではその動きは無く、第一巻を出したきりです。体裁は、アメリカで発売された普及版と同じで、”Planèt Filles”(女の子の惑星)というレーベルから出されました。これはメグ・ギャボットの翻訳も収められている、純然たる少女小説のレーベルです。

表紙の体裁は英語版と同じですし、マンガ版の宣伝サンプルを巻末に載せる等のメディアミックス戦略も英語版と同様です。しかし、カラーの口絵もイラストも著者のあとがきもありません。マンガのサンプルを載せても、挿絵は抜くという編集判断がどのようなものなのかは不明ですが、日本でのライトノベルの出版形態をまったく採用していないことは確かです。翻訳自体は、かなり良心的なもののようですが、注釈をつけてフランス人に馴染みの無い日本の慣習を説明するなど、妙に真面目です。『ハルヒ』に特徴的な「鍵括弧の付け外し」がどうなっているかも調べてみたのですが、語り手の内面の声と判断される部分に丸括弧を律儀につけていました。Amazon.frの読者レビューにも「文法の誤り」を指摘するレヴュアーが複数存在していまして、フランス人ってのは書き手も読者もテキストの扱いが真面目なんだなあと感心してしまいます。

フランス語へのライトノベルの翻訳例としては、『図書館戦争/Library Wars』もあります。元の日本語版が「脱ライトノベル」戦略でイラスト抜きのハードカバーで出版されていますから当然のことながら、イラストはついていませんが、これもマンガ版とのメディアミックス戦略が計られ、巻末にマンガ版のサンプルがついていました。残念ながら、あまり評価はされなかったようです。インターネットサイトでは、たとえばLe journal de G(eek)(おたくジャーナル)などというサイトでは酷評されていて、紋切型のシチュエーションを詰め込んだ量産消費型の文芸だとこき下ろしていました。これには反論も寄せられていましたが、サブカルチャーのコミュニティーの中ですら文芸としてのポジションを固められないでいるのが、ライトノベルの現状なんじゃないでしょうか。

『十二国記/Les 12 Royaume』も出版されていました。もっともこの作品は日本でも脱ライトノベル化してしまいましたし、フランスでもオリエンタルなファンタジー小説という扱いのようですが、日本版と同じ表紙とイラストを用いて文庫版サイズの版形で出版されています。(カラーイラストと著者後書きはありません。)

詳しくは調べられませんでしたが、ドイツではTokyopop社がまだ活動を続けていて、ライトノベルでは『ブギーポップ/Boogiepop』や『Gosick/Gosick』『マリア様がみてる/Rosen unter Marias Obhut』『キノの旅/Kinos Reise』を発売していました。版形の大きさ、表紙、カラーイラスト、挿絵とすべて日本のオリジナルを踏襲。ただし、著者の後書きだけは省かれていました。日本のアニメやマンガへの傾倒はフランス程ではないとされているドイツなのですが、ライトノベルに関してはフランスよりすんなり受け入れられているようにも見えますが、ドイツ語の批評を読んでいないのでなんとも言えません。

 

スペインでも『ハルヒ』が発売されているらしいのですが、これはまだ調べていません。

(報告:太田)

記事提供:ライトノベル研究会