独占インタビュー「ラノベの素」 北条新九郎先生『常敗将軍、また敗れる』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2018年5月1日にHJ文庫より『常敗将軍、また敗れる』が発売された北条新九郎先生です。第11回HJ文庫大賞にて「大賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。気になる「大賞」受賞作の内容はもちろん、規格外の主人公や「敗北」に込められた意味など作品の魅力について、お話をお聞きしました。
【あらすじ】 「貴様はこれまで父ローディアスと二度、長兄シャルクとは一度戦っているはず。そして、どの戦にも負けた」「しかし、まだ生きている」ティナの声が少し弾んだ。世界最強の「ヴァサームントの騎士団」当主の娘、ティナは初陣にて『常敗将軍』と渾名される異端の英雄、ドゥ・ダーカスと出会った。陰謀に満ちた戦乱の世界で破格の生き様を見せる英雄ダーカスと、その姿を追いかけるティナや姫将軍・シャルナら魅力的なキャラクター達が織り成す一大ファンタジー戦記! |
――第11回HJ文庫大賞「大賞」受賞おめでとうございます。本日はよろしくお願いします。
ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
――まずは自己紹介をお願いします。
名前は北条新九郎です。今回、作品に登場する主人公が年齢も国籍も出身も不明という設定なので、自分も年齢や国籍、性別をはじめとした個人情報はすべて不明ということでよろしくお願いします! プロフィール以外については普通にお話しますけど(笑)。
――今までになかったアプローチで斬新です(笑)。では第11回HJ文庫大賞「大賞」受賞の感想をお聞かせください。
最初に受賞の連絡をいただいた時は、嬉しさもあり不安もありだったと思います。受賞したことそのものはとても嬉しかったのですが、大きな喜び以上に、ついに作家としてスタートするんだという思いの方が強かったように記憶しています。スタートラインに立ってしまったのだという。
――受賞には自信を持たれていたというお話も小耳に挟んだのですが(笑)。
自信という大層な話ではないです(笑)。ありがたいことに最終選考へは応募したうちの2作品が残ったので、どちらか1作品は受賞してくれるかなという淡い期待を抱いていた感じですね(笑)。まさか「大賞」をいただけるとは思っていませんでした。
――見事「大賞」を受賞されたわけですが、HJ文庫大賞に応募しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
新人賞への応募歴はそこそこ長めにありまして、それこそいろんな新人賞に送っていました。HJ文庫大賞については、正直なお話をすると応募規定の枚数制限をどうしても満たせず、応募できない状況が長らく続いていたんです。ただ、第11回から規定の緩和があり、それを契機に初めて応募しました。なので、今回の受賞作も応募規定の緩和がなければ応募できませんでしたし、当然送ってさえいなかったと思います。そういったことを考えると第11回の規定緩和は、自分にとってとてつもない幸運だったと思います。「大賞」をいただけたのも、実力以上に運の要素が大きかったのかなと感じました。
――巡りあわせを感じるエピソードですね。ちなみに小説を書こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
ライトノベルを書いてみようと思ったのは、会社を辞めたことがひとつ契機でした。もともとアニメが好きで、アニメ会社で仕事をしていたんです。自分はアニメの脚本家になりたかったんですが、務めていた会社ではなかなかその道が拓けそうにはなくて会社を辞めたんです。その後、脚本の勉強をしていました。そういった中で、勉強だけでは発散しきれない創作意欲もあり、ふと目に入ったものがライトノベルでした。そこで勉強ばかりではなく、小説の執筆も並行して挑戦しようと考えたことがきっかけだったと思います。
――なるほど。アニメの脚本家を目指す中で、アニメとも決して遠い存在ではないライトノベルに挑戦してみようと思ったわけですね。
そうですね。お恥ずかしながら、書き手としても読み手としてもライトノベルとの接点は薄かったわけですが、おっしゃられるようにライトノベルがアニメに近い存在だったことが大きかったように思います。小説とは違うけれど脚本も文字を書く仕事なので。ライトノベルは脚本よりも書ける内容や表現も自由だと思っているので、ともしたら脚本家よりもよかったのかもしれません。そもそも脚本家を目指そうと思っていなければ今もアニメ業界にそのままいたと思いますし、こうして作家としてスタートラインに立つこともなかったと思います。会社を辞めた結果、こうしてデビューすることになったわけですから、人生って本当にわかりませんね(笑)。
――それでは「大賞」受賞作でありデビュー作でもある『常敗将軍、また敗れる』はどんな物語なのか教えてください。
物語の舞台は架空のファンタジー世界で、数多の国が群雄割拠の時代を迎えている戦記ものにあたるかと思います。「常敗将軍」という不名誉ながらも名を馳せている傭兵が主人公の物語ですね。とある国に数多の戦場を渡り歩いてきた経験を買われ、その国が「常敗将軍」を抱えたまま戦争へと突入することになります。「常敗将軍」の名が示す通り、物語は約束された敗北に向かって進んでいくことになります。
――私も拝読させていただきましたが、「常敗将軍」は非常にミステリアスな存在だと感じました。
「常敗将軍」ことドゥ・ダーカスは、年齢、国籍、出身、そのほとんどが不詳なんです。ただ、あらゆる戦場で敗け続けているという経歴だけが大陸中に響き渡っています。力もありますし頭も回ります。でもなぜか負け続けている。その一方で、この戦乱の時代を生き残り続けているわけでもあります。名高いのに負け続けている不思議なキャラクターですが、だからこそ彼にしかない魅力があるんだと思っています。
――いち読者としてもドゥ・ダーカスの行動からは目が離せなくなります。
ありがとうございます。この物語はダーカスに感情を移入して読むよりというよりは、彼の周囲にいるキャラクターの目を通して、ダーカスを見極めていく物語でもあります。執筆時からそういった意図を持って書いているところもありますので。担当の編集者さんからも著者視点で書かれているライトノベルとしてはかなり珍しいタイプの作品だと言われました。
――そんな本作はどういった着想のもとで生まれたのでしょうか。
この作品の着想、というよりは自分自身の執筆の取っ掛かりに関してなのですが、少々変わっているかもしれないです。自分はこのジャンルを書こうとか、そういった観点から執筆することはほとんどなくて、情報として耳に入ってくる話題のジャンルを、もし自分が書いたらどうなるんだろうという感じで物語を書きはじめる傾向が強いです。たとえば「異世界転生」が盛り上がっているなら、それを自分が書いたらどうなるだろうかとか。アニメ化が決定した作品はこんなジャンルだから、自分が書いたらどうなるんだろうかとか。話題の発端になった作品そのものを読むことはなく、あくまで頭の中で浮かんだものを気になったジャンルにあわせて書いてみようという。自分が書いた場合の異世界転生作品、自分が書いた場合のSF作品、自分が書いた場合の学園ラブコメ作品、という感じで執筆を続けてきました。
――そういった中で生まれた本作において、筆が進みやすかったところや苦手に感じたところはそれぞれありましたか。
ストーリーそのものはガンガン進めることができました。暗躍や謀略のシーンは特に筆が進みましたね。ただ、戦闘シーンの苦手意識はあったように思います。どこまで関係があるかわかりませんが、脚本家志望だったのもあって、動きのあるシーンを苦手と感じてしまうのかもしれません。余談ですけど、脚本は原則台詞と行動を中心に文字としておこすんです。たとえばアニメの戦闘シーンの動きは演出家さんが決めたりするんですよ。なので、剣を振るうことは脚本家が決めるけれど、剣の振り方は演出家さんが決めるので、演出要素が入ってくると苦手と感じてしまうのかもしれませんね(笑)。
――なるほど。裏を返せば、それだけ会話劇が中心の箇所は北条先生の強みであって、自信を持って送りだせているということですね。
そうだったら嬉しいですね、はい。
――あらためて、ご自身で印象に残っているキャラクターや、イラストを見た時の感想を教えてください。
どのキャラクターにも魅力や役割を持たせて書いたつもりなので、なかなかこのキャラクターだというのは難しいのですが、敢えて挙げるのであれば王弟のデイルかなと。作中での役割を含めて、個人的には一番印象深いキャラクターかもしれません。ダーカスの味方なのか、それとも敵なのか。何を考えていて本当の目的は何なのか。最初と最後とで抱く印象がかなり違うキャラクターでもあるかもしれません。
イラストに関してはやはりダーカスについて触れなければいけないのかなと。キャラクターデザインの段階からイラストを担当していただいた伊藤宗一先生には多大なご苦労をかけてしまったんですよね。どういうことだ、と思われる方もいるかもしれませんが、ダーカスは執筆した自分の頭の中でさえ、唯一明確な姿を思い浮かべることができないまま描かれたキャラクターなんです。執筆者でさえぼんやりとした輪郭しか思い浮かべられないキャラクターを描いて欲しいというわけですから、伊藤宗一先生には本当に頭が上がらないです。補完しきれていない状態でお願いをさせていただいて、そこからしっかりと具現化していただきました。すごく嬉しかったです。
※数少ない女性キャラクターにも注目!
――ダーカスは読み手からだけでなく、書き手としても掴みどころのないキャラクターだったわけですか。
そうですね。強さと頭の良さのそれぞれを兼ね備えた姿。そして戦場で生き残り続けた男を、見事にビジュアル化していただきました。
――ダーカスの異名にもある「常敗」。この作品で描かれる「敗北」にはどんな意味が込められているのでしょうか。
ひとつは「敗北」は些細なことであるということ。これは普段の生活でもそうですが、僕も新人賞に落ち続けて今があるわけで、敗けることは大したことではないのだということですよね。極端な話、最終的に敗けたからこそ、事態がよくなることもあるわけで。勝ってボロボロになるよりは、敗けて活き活きとしたい。ぜひみなさんにもこの作品を通して「敗北」とは何か、もう一度考えてみてもらいたいですよね。
――本作の見どころ、注目のポイントがあればアピールをお願いします。
見どころはぶっちゃけ全部って言いたいんですけど……都合よく主人公側が勝利するわけではないというところでしょうか。主人公が敗けつつもカタルシスや納得を得られるように書いています。予想は裏切るかもしれないですけど、読者の期待は裏切らない作品になっているんじゃないかなと思います。
――今後の目標や野望があれば教えてください。
第2巻の刊行も既に決定しているので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいというのがひとつ。そしてシリーズ化を目指していきたいですね。気持ち的にはこの作品で10巻以上書きたいです!(笑)。また、本作にはダーカス以外にも大陸に轟いている傭兵もおり、そういった異なったキャラクターからこの世界を描いてもみたいです。作品の世界観をどんどん広げていけたらと思います。
――最後に既に本作を読んだ方、そしてこれから読もうと思っている方へ一言お願いします。
この作品は魔法やモンスターが出てこないファンタジー戦記ものです。世の中には勝者の物語が多いと思いますが、たまには主人公が敗ける作品も読んでみたいと思われた方や、主人公が敗ける作品に興味を持たれた方、タイトルに「おっ」と思っていただいた方をはじめ、ファンタジー好きや戦記もの好き、歴史もの好きの方にもぜひ手に取っていただければと思います。感想のファンレターもお待ちしております!
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第19回えんため大賞「優秀賞」受賞作家・波口まにま先生
⇒ 第11回HJ文庫大賞「大賞」受賞作家・北条新九郎先生
【質問】
受賞して獲得した賞金の使い道を教えてください。
【回答】
賞金はですね……もちろん貯金です! このご時世では何があるかわかりませんし、突然入院しちゃうかもしれないじゃないですか! なので散財はせず、この蓄えを減らさないよう、むしろ増やしていけるよう頑張っていきたいです!
――本日はありがとうございました。
<了>
第11回HJ文庫大賞「大賞」を受賞された北条新九郎先生にお話をうかがいました。著者にも読者にもなかなかその姿を掴ませない主人公が、「常に敗北すること」を背負いながら戦乱の国々を渡り歩くストーリーにはとにかく注目です!「敗北」の意味をあらためて問う傑作『常敗将軍、また敗れる』は必読です!
©Shinkuro Hojo
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