独占インタビュー「ラノベの素」 瘤久保慎司先生『錆喰いビスコ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2018年8月10日に電撃文庫より『錆喰いビスコ』第2巻が発売となった瘤久保慎司先生です。第24回電撃小説大賞「銀賞」受賞作にして、滅びを迎えた世界を舞台に、生命力溢れるキャラクターが熱い絆と共に大冒険を繰り広げる本作。気になる作品の内容から誕生秘話、そしていよいよ発売となった第2巻の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

《錆喰い》由来の特殊体質を治すべく、大宗教国家・島根を訪れたビスコたち。しかし――そんな一行の前に野望の不死僧正・ケルシンハが立ちはだかる。不意打ちで胃を盗まれたビスコの余命は、僅か――五日!? 暴走した《錆喰い》体質で心臓にキノコが咲けば即アウト! 相棒・ミロとともに様々な宗教ひしめく島根の中枢《出雲六塔》に潜入した彼らは、はたして無事、元の身体を取り戻せるのか。そしてかつて立った頂点奪還を目論むケルシンハの暴虐に、相棒の絆は打ち勝てるのか――!? 熱い絆で射貫く怒涛の冒険譚、再び!

――それでは自己紹介からお願いします。

瘤久保慎司です。生まれも育ちも埼玉ですが、しれっと作品の中では滅ぼしてしまいました。恨みがあるとかそういうわけではないです!(笑)。高校を卒業した後は音楽の専門学校を出まして、その後に美術大学に通い、ゲーム会社に勤務しました。ちょうど会社を退職した頃に電撃小説大賞にて「銀賞」をいただいた感じです。テレビゲームがすごく好きで、自分の創作の糧の多くがゲームからきてると思います。たとえば『メタルマックス』っていうゲームがあるんですけど、生物と機械が融合したようなキャラクターや、世界観がものすごく好きですね。

――『メタルマックス』は『錆喰いビスコ』の世界に共通するところがありますよね(笑)。ちなみに音楽の学校を卒業されているとのことですが、どのようなことを学ばれていたのですか。

音楽の学校ではあったのですが、専攻は映像だったんですよ。プロモーションビデオを製作したりする学科で。もともと映像を撮りたいという想いも強くあって、専門学校を卒業した後も美術大学の映像科に進学しました。今思うと、映像も作る時はまず文字から入るんですよね。絵コンテにおこして映像化しなくちゃいけないので、ひょっとしたら間接的に小説執筆の勉強ができていたのかもしれないです。

――具体的に小説を書きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか。

小説を書きはじめたのは大学を卒業してからですね。こんなことを言うと映像関係の方に怒られそうですが、当時は、カメラを回すのが大変だから小説を書こうと思って(笑)。カメラを使って映像を編集していくと、どうしても一人の表現能力だけでは完結できないんですよ。『錆喰いビスコ』みたいに、蟹に乗って旅をする二人組の話とか、どれだけ労力が必要なのかと。だったら小説でいいんじゃないかな、みたいな(笑)。文字にして、自分が撮りたい映像を読者の頭の中で再生させるのであれば可能なわけです。あくまでいち個人の意見ですが、映像よりも小説の方にスケールの大きさを感じたのがきっかけでしたね。

――本作には少年漫画のようだ、映像を想像できる、イメージしやすいという声も多くありました。映像を創られてきた経験が活きているのではと思うのですがいかがでしょうか。

癖で絵コンテのようなことを想像しちゃうんでしょうね(笑)。キャラクターの動きひとつをとってみても、どう動いているのかはまず頭の中にあって、なるべく再現できるよう文章にしています。僕は夢枕獏先生の大ファンでもあって、『キマイラ』や『餓狼伝』の動きの描写はすごくリアルに書かれているじゃないですか。文字なのに漫画や映像のように脳内で再生されるわけですよ。とても尊敬していて、僕自身もすごく影響を受けていると思いますね。

――ありがとうございます。ほかにも好きなものや苦手なものなどがあれば教えてください。

好きなものというか、趣味が歌舞伎鑑賞なんです。市川海老蔵さんの大ファンで(笑)。歌舞伎のお話って実はご都合主義的なところも多分に含んでいるんですけど、見入っちゃうとボロボロ泣いちゃうんですよ。ご都合主義だろうがなんだろうが、理屈を吹っ飛ばして人の感情を揺さぶる凄まじい力を歌舞伎は持ってるんです。僕自身が最終的にやりたいと思っているゴールのひとつがまさにこれで、冷静に見たら不自然だなと思うかもしれない表現も、作品に触れている時に面白ければ大正義だと思うんです。苦手なものは、読むぶんには良いんですけど、女の子がきゃぴきゃぴしているラブコメは難しいかもしれません……もちろん書けと言われれば頑張りますけど。

――女の子の描写や可愛さを表現することが苦手ということでしょうか。

担当編集のお二方のご指導で克服しつつあるんですけど、最初は女の子を描写することそのものがすごく大変だったんです。応募原稿時の『錆喰いビスコ』には、大茶釜チロルが存在しておらず、改稿の中で登場させることになりました。立ち位置として『もののけ姫』に登場するジコ坊みたいなキャラクターがいいですねっていうアドバイスをいただいて、いざ執筆したら本当にジコ坊みたいなキャラクターになってしまって……。喋り方も女の子として破綻していましたし、「そのものを書けとは言っていない」って編集さんにもツッコまれました(笑)。結局何回か直して、可愛くなってくれました。『錆喰いビスコ』を執筆するまでずっとヒーローばかり追いかけていたので、女の子メインで展開する物語にあまり触れてこなかったんですよ。なので、迷いもありつつ手探りで、最初はやっていました。おかげさまで、今ではチロルとパウーの会話も問題なく繋がるようになりました(笑)。

――女の子の描写を試行錯誤するにあたって、参考にしたものはあったのでしょうか。

女の子のキャラクターを描くために『ベルサイユのばら』や『パタリロ!』を参考にしましたよね。

――少女漫画として参考になった部分はあると思いますが、そのチョイスは正解だったのか(笑)。

むしろミロのキャラクター性が育ちました(笑)。とにかく今も模索を続けています。正統派幼馴染みヒロインを描くのは僕の中では相当難しいですけど、ちょっと達観しているだとか、この世ならざる浮世離れしているタイプの女の子ならいけるんじゃないかと思っています。第2巻に登場するアムリィは、楽しく書けましたので。ぜひ注目していただきたいですね!

――それではあらためて、『錆喰いビスコ』の物語について教えてください。

『錆喰いビスコ』は「愛」をテーマにした作品で、人間の生命力というか、生きていく力に対する讃歌を書きたかったんですよね。だからこそ世界は滅んでいて、世界が滅んでいるからこそ人間の生命力が光る。『北斗の拳』に登場するモヒカンたちがいるじゃないですか。彼らはケンシロウに瞬殺されてしまうんですけど、その刹那に至るまでは幸せそうで、輝かしい存在だと思うんです。輝かしい人間の命、善悪はともかくそれを描きたかったんです。

――作中における「愛」という言葉は、とても多様な意味が含まれていると感じました。

「愛」の定義ってものすごく広くて、家族愛や恋愛もそのうちのひとつでしかないわけです。ミロがビスコに対して「きみを愛してる」というシーンがあるんですけど、正直、ここで言う「愛」がどのような感情なのかは書いている自分も定義できないし、ミロとビスコも言葉にできないと思います。ジャビとビスコの間には「家族愛」、ミロとパウーの間には「姉弟愛」。でも主人公二人の間には「相棒」という言葉こそあれ、「ビスコとミロの関係」としか言い表せない。よくわからない大いなる気持ちなんです(笑)。

――そういった「愛」にあてられてか、SNS上では「錆喰いビスコはいいぞ!」という言葉をよく見かけます(笑)。

発端は読者の方が「いいぞ!」って言われているのを担当編集さんが見つけて、公式でも使ったと聞きました(笑)。あらためて考えると「いいぞ」ってどういうことなんだろうとは思いますけど(笑)。ただ、『錆喰いビスコ』はライトノベルという媒体において特殊な部類であるという自覚はしているので、受け入れてもらえているというのは、本当に嬉しいの一言ですよね。

――また本作は滅んでいる世界を舞台にしているとのことで、世界観についても簡単にご解説をお願いできますでしょうか。

『錆喰いビスコ』は、未来の世界のお話です。人類が一度滅んでから長年かけて復興しているのですが、生命を蝕む錆び風というものが世界中に吹いていて、天寿をまっとうできる人間が圧倒的に少なくなっています。一方で、錆び風に対抗するための生物兵器だとか、独自の技術が発展してきています。県も滅んだり新しい県ができたり、それぞれの県が武力を持ってお互いの領土を競い合っている。戦国時代みたいなイメージですね。汚染されているところは住めないし、化物が出現したらそこは滅びちゃうし、そんな愉快で元気な世界です。

※県同士も群雄割拠する日本列島。第2巻の物語は西日本へ。

――ではそんな愉快で元気な世界で活躍する主役(2人と1匹)について教えてください。

赤星ビスコは劇中のヒーローで、一直線に自分が思ったところに向かっていく「矢」を象徴したキャラクターです。他の何ものにも影響を受けず、自分の思ったことに対して進み続ける中立的な存在。ただ物語の序盤は、彼は強さこそ持っていましたが、その意味を持っていなかった。どこに向かっていいかわからないから、暴れていたわけですね。そんなビスコに方向性を与えたのがミロであり、「愛」だったという。力を持てあましていた男が信念を得て正義のヒーローに生まれ変わる、そんな姿を世紀末の世界観にのせて描いています。

※劇中のヒーローである赤星ビスコ

猫柳ミロは母性を詰め込んだ男で(笑)、劇中での「俺たちは弓矢だ」っていうセリフの通り、「矢」であるビスコが向かう方向を決める「弓」の立場になる存在です。出会った頃は慈悲深い性格で通していたんですけど、最近だんだん修羅感が出てきていますね(笑)。ビスコとミロはお互いに影響を受け合っていて、それぞれに寄ってきているんですよ。第2巻ではビスコも優しさや情けを見せるようになっていますし、一方でミロは激しさを増して男前になってきている。そういう意味では二人をコンビにしたメリットが出てきていると思います。絶えず変化する二人の姿に注目してもらいたいです。

※慈悲深いながらも修羅感が加速しているという猫柳ミロ

アクタガワは、二人組に乗り物がいるなと思った時に、蟹以外に思いつかなかったんですよね(笑)。アクタガワは特に何かを喋るわけでもないんですが、動作が可愛くてそしてデカイ。パワーキャラクターという意味でも、旅の道連れとしては蟹以外になかったんじゃないですかね(笑)。

※旅の道連れには蟹しかありえなかったというアクタガワ

――アクタガワは具体的に言葉を発したりするわけではないですが、泡を吹くシーンは印象的ですよね。

犬や猫だと表情から感情がわかったりするところもあると思うんですけど、蟹はわからないじゃないですか。コイツ、マジで何を考えているんだろう的な。書き手としてもそこをなんとなく想像しながら、泡を吹かせたり、土を掘らせたりして感情を表現して……そういった距離感もすごく気に入っています。

――本作は第1巻で黒革、第2巻ではケルシンハという、苛烈とも言える悪役が登場するわけですが、彼らはどのようにして考えられているのでしょうか。

僕の考える悪役は主人公の裏の存在であって、見方を変えれば主人公としての素質を持っているキャラクターだと思うんです。たとえば黒革も書き方を変えれば、意味の分からんすごいキノコ守りを知略で倒すお話になったかもしれない。ケルシンハはもっと顕著で、この作品が電撃大賞に受からなかったら次の主役にしようと考えていたキャラクターが原型です(笑)。ぜひ二人の暴れっぷりも読んでいただきたいなと思います。

※第1巻ではビスコを苦しめた黒革にも主人公の素養はあった。

――キャラクターとあわせてひとつ気になっていたのですが、本作では会話のシーンで「」の中に句点を残すパターンとそうでないパターンがありますよね。意志というか決意というか、そういったものが込められているのではと感じたのですがいかがでしょうか。

これは感覚としか言いようがないんですが……この作品の中での空気感を表現する話法であり、味にあたるのかなと思ってます。句点のない会話シーンはさらっと読めるんですけど、句点があるシーンにはそれぞれ間があるんですよ。ここは校正さんにも何回か直さないのかと指摘されていたんですが、敢えて直さないでくださいと。なので、あれはそういうものだと思って読んでいただいて、都度そのシーンの景色を想像してもらえたら嬉しいですね。

――ご自身でお気に入りのシーンやイラストがあれば教えてください。

これはどう考えても第1巻ラストの見開きシーンでしょう。ビスコがミロに教えた弓の心得を、今度はミロがビスコに教えるシーンです。このシーンはビスコとミロを喋らせていたら、偶然生まれたシーンでもあるんです。赤岸K先生のイラストのミロが精悍で凄く格好よくて、とても気に入ってます。ぜひ第1巻で確認してもらいたいです。

あとはオープニングの見開きイラストです。最初に僧侶のふりをして敬語を使っているところから、急に荒々しい主人公の姿をさらすところとか、気に入っているシーンですね。mocha先生の世界観イラストも相まって、本当に素敵だなと思います。

※オープニングの見開きイラスト。物語はここから始まる。

――本作の少年漫画らしさは、赤岸K先生やmocha先生も大きな役割を果たされていますよね。

本当にそうだと思います。赤岸K先生のジャケットイラストとmocha先生の世界観イラストとのコラボという形でジャケットが生まれましたし、作品タイトルのロゴも書家の蒼喬先生に制作していただきました。本当に豪華すぎる装丁で、恵まれたことこの上ないです。

※赤岸K先生による躍動感あふれるビスコが印象的な第1巻ジャケット

※mocha先生の第1巻世界観イラスト

※mocha先生の第2巻世界観イラスト

――ではいよいよ発売となった第2巻の内容について、どんな物語なのか教えてください。

第2巻は広大な大地を冒険した第1巻とは趣を変えて、島根の出雲六塔という、信仰の支配する閉鎖的な空間での物語となります。信仰の塔の秩序を掻き回す、不死僧正ケルシンハ。それに対抗する出雲の宗教。そして、全然それらとは関係のない胃を盗られたビスコ。そんな三つ巴の争いが描かれます。キノコ守りが信仰の都でどんな活躍をするのか、そしてビスコの前に立ちはだかるケルシンハという爺を特に力を入れてきたので、その悪辣っぷりを見てもらいたいです。あとはいろんなインチキ宗教が出てくるので、未来ではこんな宗教が信じられているのか、みたいなところを楽しんでもらえると嬉しいですね。

※ビスコとミロの前に立ちはだかる不死僧正ケルシンハ

――ケルシンハは、いろんなことを「知っている」キャラクターでもあるんですよね。

はい。読んでいただけたらわかると思うんですけど、ケルシンハという爺は天才なんですよ。ただ、ものすごい力を持っているくせに器がものすごく小さい(笑)。崇められたいとか、無限に生きたいとか、野望がしょぼくて俗っぽい。ただ、意思を貫くということに関しては、ものすごい力を有しているんです。見方を変えると、ケルシンハはミロに出会わなかったビスコの未来であったのかもしれない。修羅の力に対して、愛の力を手に入れたビスコがどう立ち向かうのかが大きな山場になっています。

――そして少し気は早いですが、『錆喰いビスコ』第3巻の発売も決定しているんですよね。

おかげさまで、第3巻の発売も決定しております。第2巻で語られた謎があるんですが、第3巻ではもっとえらいことになると思います。ビスコたちはどこまでトンデモないところにいくのか、ぜひご期待いただければと思います。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

本にしていただいて、それを面白いと言っていただける方がたくさんいらっしゃることそのものが夢のような話なので、なかなかそれ以上の野望と言われてもすぐには難しいですね(笑)。ただ、求めていただけている限りそれに応えていきたいと思っています。あとは本当に面白いものを思いついて、それを書かせてもらうということでしょうか。『錆喰いビスコ』は自分のアウトプットでもかなり純度の高いものが出たと思っていて、新しいものはこの世界観とは別のところでやりたい。もちろんビスコのおいしい要素は残しつつ、ちょっと違う層の読者の方にアピールをしてみたりだとか。なんかちょっとずついろんな嗜好の方に読んでいただけるようなことをやっていきたいなと思います。

――それでは最後に一言お願いします。

第2巻を楽しみにしていただいている方には、まず第1巻を読んでいただいてありがとうございます。『錆喰いビスコ』を楽しんでいただけたという時点で、相当肝っ玉が太い方だと思いますので、第2巻でもご期待に沿えるよう味付けの薄くなっていない物語を提供しています。ちょっと違う味わいになってはいますが、ビスコは美味しいままなのでご安心ください(笑)。本作をまだ読んだことがない方は、『錆喰いビスコ』は王道な物語で全然キワモノではありませんので、安心して手に取ってみてください(笑)。よろしくお願いします。

担当編集A:『錆喰いビスコ』はいいぞ! 担当も楽しんで作っている本作、ちょっと異彩を放っているかもしれませんが、面白いことは保証します!

担当編集B:『錆喰いビスコ』はいいぞ! シリーズは継続中! さらにアツい物語が続きますので、まだ読んでいらっしゃらない方もぜひこの機会に楽しんでください!

――本日はありがとうございました。

<了>

滅んだ世界を圧倒的な熱量と熱い絆で描き、渡り歩くキノコ守りの冒険譚を綴る瘤久保慎司先生にお話をうかがいました。第2巻では「錆」とは何か、そして胃を盗られたビスコの大立ち回りが描かれる最新刊。ビスコとミロの熱い絆を改めて描く『錆喰いビスコ』第2巻も必読です!

©瘤久保慎司/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:赤岸Kmocha

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