独占インタビュー「ラノベの素」 岬鷺宮先生『三角の距離は限りないゼロ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2018年11月10日に電撃文庫より『三角の距離は限りないゼロ』第2巻が発売された岬鷺宮先生です。二重人格の女の子と、明るく楽しい男子高校生を演じている少年の、不思議で切ない三角関係を描く本シリーズ。作品誕生の裏側やその内容、そして発売された第2巻の見どころについてお聞きしました。
【あらすじ】 一人の中にいる二人の少女、「秋玻(あきは)」と「春珂(はるか)」。二重人格の彼女たちと触れ合ううち、矢野四季は秋玻と恋人に、春珂と親友になった。そんな幸福にどこか浮かれていたある日、彼らは友人の須藤伊津佳から相談を受ける。告白をされたいう相談――その相手は、同じく友人の広尾修司だった。それを知った四季たちは、二人の仲を取り持つために奔走し始め……けれど、そのとき彼らは、まだ気づいていなかった。その出来事が四季たちの不確かな関係を、秋玻と春珂を大きく、変えることに。――僕と彼女と彼女が紡ぐ、不思議な三角関係恋物語。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
岬鷺宮です。第19回電撃小説大賞《電撃文庫MAGAZINE賞》を『失恋探偵ももせ』で受賞してデビューしました。好きなものは小説と音楽で、以前はバンドもやっていました。今は自宅で音楽を聴くか、小説を読むか、書くかしています。ここ最近はアメリカの現代文学にもハマっていて、特にポール・オースターの作品をよく読んでいます。……って、すごくかっこつけた回答になりましたけど、ちゃんとアニメや漫画も好きですよ! 最近のお気に入りキャラは「ゆるキャン△」の斉藤さんです!
――謎の弁解ありがとうございます(笑)。アニメや漫画もお好きだということなので、ご自身のバイブルのような作品があれば教えてください。
電撃文庫では、デビュー時に推薦文もいただいた竹宮ゆゆこ先生の『とらドラ!』など、たくさん好きな作品があるんですが……漫画で言うと、僕の人生を変えたと言っても過言ではないのが高橋しん先生の『最終兵器彼女』ですね。本当に衝撃的で、ラストは苦しい結末ではあるんですけど、何ヶ月も余韻を引きずるほどに感動しました。それで、どうすればこのヒロインを幸せにできるんだろうって考えたんですよね。その疑問の答えが出ないまま大人になり、当時長く続けていたバンド活動を続けられなくなってしまい、創作を表現する場を失ってしまったんです。それでも何か創作をやりたいという思いと、先ほど言っていたような『最終兵器彼女』のヒロインを何とかできないだろうかという思いもあり……、ずっといち読者として好きだった小説を書いてみようと思うようになりました。
――なるほど。『最終兵器彼女』がある意味で小説を執筆するきっかけにもなったわけですね。
もちろん全部ではないんですけど、創作をすることで、自分が感動した作品とキャラクターに対して何らかの答えが出るんじゃないかとは考えました。どこかで、今でもあのヒロインに届くために小説を書いているという面はあります。……えーと、なんだか、だいぶわけのわからない話をしているような気がするんですけど大丈夫ですか?(笑)。
――大丈夫です(笑)。ちなみに探し求めている答えというのは見つかりましたか。
全然出てないです。本当にここまで頑張っているのに出てこなくて、困ってるくらいです。デビュー作の『失恋探偵ももせ』からずっと、込めているものはいろいろとあるんですけど、一向に近づいた感じはしていないですね(笑)。自分の作品で誰かの人生を大きく変えることができたら、何か見えてくるのかもしれませんね。
――ありがとうございます。それではあらためて『三角の距離は限りないゼロ』はどんな物語なのか教えてください。
主人公は矢野くんという、明るいキャラクターを演じてしまう一人の男子です。もともと本や小説が好きな落ち着いた少年なんですけど、人前ではテンションをあげて、楽しい会話ができるようにと必死に別の自分を演じています。でも本人はそんな自分を嫌だなと感じている、というのがお話の始まりになります。そんな矢野くんの前に二重人格の少女が現れ、彼はその人格のうちの一人である秋坡に一目惚れをして、もう一人の春珂とは友達になるんです。二重人格の副人格である春珂は、自分の存在を周囲にバレないよう隠したいと願っていまして、矢野くんはそのお手伝いをすることで、二人の三角関係、というちょっと不思議な関係がはじまっていくという恋愛小説です。
※秋坡と春珂と出会い、矢野四季の日常は大きく変化していくことに――。
――第1巻の発売後、読者の反応はいかがでしたか。
自分は基本的にエゴサーチはやらないタイプなんですが、今作に関しては担当編集の方からも「こんな感想が書かれてますよ」って、ブログやツイートを教えてもらうことがとても多かったです。ラノオンアワードでも「総合部門」「感動した部門」「新作総合部門」の3つの部門で評価をいただいたり、物語の細部まで把握した熱量の高い感想をいただいたりと、多くの方に評価をいただけて嬉しく感じました。これまでも読者さんからの応援はありましたが、今まで以上に読者の応援というものを強く感じることができました。
――ご自身の想定以上の反響があったわけですね。
そうですね。特に今回の作品は、昨年に刊行した『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』と近いスタンスで書いていたこともあって、本当に似たような作品になってしまうと、読者のみなさんに同じネタの焼き直しみたいな印象を与えてしまうかも……と危惧はしていました。とはいえ、結局は自分の好きに書かせてもらったので、どんな評価をいただくかは本当に想像がつきませんでした。もちろん常に最高の物語を届けられるよう全力を尽くしてはいて、そういう意味でも『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』を超えていく反応があったのは驚きつつも、ありがたかったです。
※2017年発売『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』
――本作は世界観としても『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』と共有している部分があるわけですが、企画の際には意識されていたのでしょうか。
いえ、実のところ最初は短編のオムニバス的なネタを考えていて、二重人格の少女はそのネタのうちのひとつだったんです。ただその後、自分を偽る矢野くんの存在が思い浮かんだ時に、「これはひとつの物語にできる」と感じて、彼らをメインとした小説を考えていきました。『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』をまったく意識していなかったというと嘘になってしまうんですけど、だからといってわざと変化球にはしたくなかったですし、もちろんただ以前書いた作品と近いものを書きました、ともしたくなかったんですよね。
――違いとしては具体的にどんな点にこだわって執筆されたのでしょうか。
一番はキャラクターの感性と自意識かなと。特に本作は秋坡と春珂という「一人の中に二人いる」女の子を丁寧に描くことで、男の子側の感性表現だけに特化しないようにしています。男の恋愛感情って、自分でもダサくて格好悪くて目も当てられないようなものの集合体だと思っているんですけど、実は女の子側もそういった感性はきっと持っていて、自分たちに向けてくるかもしれないんだぞと。そこでは当然戸惑いだってあるわけで、好いたり好かれたりするのはただ楽しいだけじゃないだろうなと思うんです。男の子側にもいろんな欲求があるように、女の子側にもいろんな欲求があると。僕自身、本作を執筆するにあたっては秋坡に感情移入しながら書いていた部分もあるので、そういった点を描き切りたいという思いはありましたね。
――そうだったんですね。第1巻を読んでいて矢野くんだけを主人公とするにはどうにも違和感があったので、お話を聞いて納得しました。
これは僕自身が小説を読むときなんかに、男キャラクターよりも女キャラクターに共感して読むことが多いのが影響しているのかなと思います。特に本作は秋坡と春珂の二人が、誰と出会ってどのように自分を認めていけるのかという物語でもあります。なので、僕は秋坡が主人公と思ってもらっても構わないという気持ちで書いていますし、矢野くんには主人公でありながらもヒロインとしてのポジションも空いているよ、くらいのイメージで描いているので、それもひとつ正しい感じ方だったんじゃないかなと(笑)。
――ありがとうございます。では本作に登場するキャラクターについても教えてください。
主人公の矢野くんは読書が好きな落ち着いた男の子です。先ほども説明しちゃいましたが、人前では明るくて楽しくてノリのいい男の子というキャラクターを作ってしまうのですが、そんな自分に対してすごく自己嫌悪を抱いています。いつもみんなに対して嘘をついているような気持ちでいる少年なのですが、秋坡と春珂と出会うことでその考え方が少しずつ変化していくことになります。
※矢野くんと秋坡との出会い。
秋坡と春珂はそれぞれ、ひとつの身体に同居している(?)二人の女の子です。秋坡は文学やジャズが好きという少々渋い趣味を持っている真面目な女の子です。周囲からは超然としているように見られていますが、それは本人のなんとか自信を持たなくてはという思いがそう見せているだけなんです。本当は気持ちに余裕がなく、自分に自信がなくて……根は副人格である春珂を生み出さなければ心の均衡を保てないという弱く脆い面も抱えています。一方で、春珂はぬいぐるみや少女漫画が好きな女の子で、女の子らしさという点については彼女に比重が傾いているかもしれません。それだけに気弱な風にも見える女の子ですが、実はメンタル的には秋坡よりも強い部分もあったりします。
※彼女の中にはもう一人の女の子・春珂がいて――。
――今回のヒロインは二重人格の秋坡と春珂として一人の女の子を描いているかと思います。過去作でも本の中の女子と現実の女子という形で、一人の女の子を描かれていました。一人の女子を異なる視点で描くスタイルに何らかのこだわりがあるように感じるのですがその点はいかがでしょうか。
核心を突かれてしまいました(笑)。仰る通りで『三角の距離は限りないゼロ』では、秋坡と春珂という2つの人格視点で一人の少女を描いていて、『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』では本の中のトキコと現実の時子という2つの視点で一人の少女を描いたのと、確かに似ていると思います。考えてみると、2つの視点から女の子を描くスタイルは、自分が現実の女子に対して、現実と想像の2つの視点から感じることがあったからだと思います。学生時代、周囲には可愛かったり、才能があったり、頭が良かったり、凄い女子が本当に多くいて、すべての女子は男子とは違う存在であるという偶像崇拝に近い考えを持っていた時期があったんです。崇拝していたがゆえに僕らとは違う別の何かなんじゃないかって。でもその一方で、そんな凄い女子たちにも悩みがあるという至極単純で当たり前のことがわかったとき、僕にはすごく衝撃があったんです。見える範囲で理解できることと、見えない範囲で理解できていなかったこと。どうしても他人のことを見える範囲だけで理解したくなってしまうんですけど、それではダメなんだということを描きたくて、そういった構造になりがちなのかもしれません。
――また、先ほど世界観の共有というお話もさせていただいたかと思うのですが、岬先生の過去作品のキャラクターも登場していますよね。
そうなんですが、何か特別な理由があったわけではありません(笑)。商業的な理由もあると思うんですけど、多くの作家さんは過去に描いたキャラクターってほとんど登場させないじゃないですか。知らないと読者さんがついていけなくなるんじゃないかということもあるのかもしれませんが……僕で言うと、これまで書いたキャラクターと似たようなキャラクターを別名で登場させるくらいなら、もう本人でいいじゃんって思っちゃうんですよ(笑)。知らないと楽しめないというわけでないなら、良いのかなと。まぁ、そんなふうに特別な理由はないとは言ったものの例外もあって、デビュー作『失恋探偵ももせ』のヒロイン・ももせに関してはキャラクターとして好きすぎる部分もあるので、たとえ作風に合っていなくても無理やり連れてくるレベルだったりもします……。
※教師として登場するかつての失恋探偵、千代田百瀬。
――なるほど(笑)。知っていればニヤリとできるし、知らなくても楽しめるのであれば理に適っているのかもしれません。
ただ、表紙を眺めていただけるとわかると思うんですが、僕がすごく「ボブカットの女の子」が好きでして(笑)。過去作のキャラクターが出てくると、登場人物にボブカットの女の子ばかり増えてしまい、担当編集さんと喧嘩になることもありました(笑)。「イラストに差をつけづらくてイラストレーターさんが困るだろう!」って。そして僕もそれを否定できない……。でもボブカットの女の子が好きすぎてどうしようもないですし、Hiten先生であればきっとなんとかしてくれるに違いないって思って、押し通してしまいました(笑)。
――本作は『読者(ぼく)と主人公(かのじょ)と二人のこれから』と同じくHiten先生とのタッグになりました。イラストに差がつけづらいという点も含めて、心配はありませんでしたか。
Hiten先生とはこれといったすり合わせをしたりしていないのですが、作品をすごく丁寧に読み取って、汲んでいただけていて、正直感謝しかありません。担当編集さんとも新企画にあたってはイラストレーターさんについてどうしようかというお話もしました。ただ、この作品の雰囲気を描き切ることができるのはHiten先生しかいないだろうという結論に至りました。高校生の恋愛を書く上で、それにまつわる色んな事柄をぼかさずに描いていただけるイラストレーターさんであることや、最終的にキラキラとした世界を描いてもらえるイラストレーターさんであると思ったということが決め手ですね。ボブカットの女の子が多くて苦労をおかけしているとは思いますが、Hiten先生には本当に感謝しています。
――そんなHiten先生の秀麗なイラストも満載の本作ですが、お気に入りのイラストやシーンについて教えてください。
イラストについては第1巻のゴンドラ内のシーンを描いた口絵が本当に凄いんです……!「キスしようか」っていう言葉を口に出した時に、ギリギリ普通の表情とも取れかねない顔で描かれているんです。このイラストを見た瞬間、思わず「Hiten先生わかってる!」って思いました(笑)。もっと照れている表情だとか、可愛さ重視で描かれるのかも……と思っていただけに、僕の想像通りのイラストが出てきて、本当に驚きました。
※絶妙な表情でありのままを描くHiten先生に岬先生も大絶賛!
シーンについては第1巻のラストでしょうか。秋坡と春珂のどちらかわからない状態でキスをされ、「矢野くん――好きだよ」と告げられるシーン。これは個人的にも思い入れがあります。ですが、これは表の回答で、もうひとつ裏の回答もあります。それは観覧車のゴンドラで、春珂から秋坡に入れ替わった瞬間。秋坡が「何かあった」と気付くシーンですね。これは男の子側からではなかなかわからないことだけど、現実問題として起こっているはずのことをある意味リアルに描けたのかなと思います……詳しくは、ご想像にお任せします。
――そして第2巻もいよいよ発売されました。私個人としては、本当の物語はここから始まるんだと強く感じる物語でした。内容や見どころについて教えてください。
第2巻は矢野くんと秋坡が付き合いはじめるという展開から始まります。二人の恋愛事情が一歩踏み出される中、彼らは須藤から修司に告白をされたと相談を受けることになります。矢野くんも秋坡も修司を好ましい友人と考えていて、二人をくっつけようと奔走します。その過程で細野という男子、そして柊という女子も登場し、須藤と修司の関係性が動きながら、メイン三人の関係性も大きく揺れる、という物語になっておりますので、ぜひ読んでみてください。二人の恋愛が、めちゃくちゃ動いていますので!
※修司から告白を受けたことを明かす須藤。
――第2巻では第1巻以上にタイトルの「三角」が指し示す意味が大きくなりますよね。
そうですね。恋愛濃度はかつてのシリーズを含めて最も高いかもしれません。メインキャラクターだけの狭い世界ではなく、周囲でもいろんな恋愛が起きていて、その影響を少なからずお互いに受け合っていく姿にも注目していただきたいです。
※恋をしているみんなの姿に、空を見上げながら春珂は何を思うのか。
――今後の目標や野望があれば教えてください。
誰かの人生をすべて変えてしまうような、一生の1冊になる本を書いていきたいということでしょうか。僕自身が1つの作品に大きく人生を変えられたので、そんな作品を僕自身も手掛けられたらうれしいなと思います。そうすれば、冒頭で話したヒロインにももうちょっと近づける気がしますし……。なんて言って、仮に自分の作品で誰かの人生を大きく変えることができて、そのタイミングであらためてインタビューを受けたとしても、やっぱりダメでした、近づけている気がしません、ってなるのかもしれないですけど(笑)。
――ぜひその時がきたら再びお話をお聞かせください(笑)。それでは最後にファンの方へ向けて一言お願いします。
まず、第1巻を読んでくださった方、本当にありがとうございます。皆さんの応援の声が作者にとっての、そして作品にとっての力になるということを実感している最中です。物語はまだ始まったばかりで、起きた問題も何も解決していません。でもこの物語が行き着く先は考えてあって、そこに辿り着くまで必ずみなさんを楽しませることができるよう頑張っていきますので、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです。
また、本屋などで今後買ってくださるかもしれないみなさん。インタビューでわけのわからないことを言っている人が書いたわけのわからない物語かも、なんて感じられてしまったかもしれませんが……実際の作品は、二重人格の女の子と悩める男の子のストレートな恋愛小説になっています。イラストもとても綺麗に仕上げていただいていて自信作ですので、まずは手に取っていただけると嬉しいなと思います。それから、予告としては第3巻が2019年春頃に刊行を予定しているので楽しみにしていただけたら嬉しいです! あ、それから、最後に。第1巻のオビに書かれたフレーズは、実は本編に出てきていないのですが、実はとても気に入っていまして、どこかに使えないかな……とずっと考えています。なのでぜひ、この台詞を今後に向けて覚えておいていただけたらと思います!
――本日はありがとうございました。
<了>
二重人格の少女とキャラクターを演じる男子の三角形な恋愛模様を描く岬鷺宮先生にお話をうかがいました。第2巻ではいろんな恋模様が動き、描かれる中で矢野、秋坡、春珂の関係性も周囲に引っ張られるかのように動き出すことになります。本当の物語がここから始まることになる『三角の距離は限りないゼロ』第2巻も必読です!(第1巻の試し読みはこちら/第2巻の試し読みはこちら)
©岬鷺宮/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:Hiten
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