独占インタビュー「ラノベの素」 林星悟先生『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2018年12月25日にMF文庫Jより『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』が発売となる林星悟先生です。第14回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「最優秀賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。いくつものテーマが組み木のように重なり合い、人形遣いの剣士と人形のヒロインによるバディものとしても強烈な魅力を詰め込んだ本作。一つの視点からだけでは語りきれない本作の魅力や作品の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

人形剣士ブレイスにはある疑いが掛けられている。奴は人形のリネットと共に魔獣を狩る独自の戦闘スタイルで名を馳せている……が、実はリネットが人間なのではないか、という疑いだ。本物の少女を操って戦っているのなら、それは攻撃魔法とされ重大な犯罪行為に値する。奴の悪行の証拠を掴むために私、ガルノー・ギルトフッド一等審問官は三ヶ月の間、監視任務に当たっていた。そんな中、世間を騒がせている「陽炎事件」の首謀者、幻術使いのバーズ捜索に同行することに。ブレイスの活躍もあり、事件は収束したがそれは、更なる陰謀の序章でもあった――。最優秀賞を受賞した、決して絶ち切れることがない、二人の絆の物語。

――それでは自己紹介からお願いします。

林星悟です。星悟と書いてしょうごと読みます。出身は都内某所で、現在は仕事の関係で千葉県在住です。大学では機械系の学部を専攻していましたが、機械が苦手という……。機械オンチもいいところです(笑)。好きなものは漫画やアニメ、ラノベ、ゲームとオタク趣味全般ですね。誰かにやめろと言われてもやめられないくらいどっぷりと浸かっています。

――機械系の学部出身なのに機械が苦手という面白いプロフィールですね(笑)

ハハハ(笑)。学部の選択は就活的打算があったりもしたんですが、高校時代におぼろげでしたけど小説の勉強をしたいと思って、家族に内緒で文芸系の大学も受験したりしました。ただ、見事に落ちちゃったんですよね。なので、得意だった理系方面へ。ものづくりはもともと好きでしたし、その結果として機械系の学部を専攻することにしたんです(笑)。

――なるほど(笑)。好きなものはオタク趣味を手広く嗜まれているようですが、オタク活動のきっかけになった作品はありますか。

これは完全に赤松健先生の『魔法先生ネギま!』の影響ですよね(笑)。少年誌に掲載されている作品なのにアニメは深夜枠での放送。そこから深夜アニメにもどっぷりと浸かるようになりました。それと高校1年生の時がちょうど『涼宮ハルヒ』時代のど真ん中で、周囲の友人たちと漫画にもラノベにも積極的に足を突っ込んでいくようになった感じです。

――青春時代に直撃した作品がいくつもあったんですね(笑)。当時のライトノベルで印象に残っている作品はありますか。

これは今回受賞した作品にも繋がってくるんですが、僕が初めて読んだライトノベルでもある月見草平先生の『魔法鍵師カルナの冒険』です。本屋で漫画のような表紙に惹かれて、漫画じゃなくて小説なのかと、すごくふんわりと興味を持ったのがきっかけでした。それで読んだらとにかく面白くて。中高生の頃はどうしてもお金がないじゃないですか。本1冊買うにもお小遣いを工面する必要があって、漫画は1冊すぐに読み終わっちゃうんですけど、ラノベは何時間か費やすわけです。貧乏学生にとってコスパがよかったんですよね(笑)。そういった面で好んで読むようになりました。その中でもやはり『魔法鍵師カルナの冒険』は特別で、いろんな意味で原点になっています。

――そんな消費者的立場だった林先生がご自身で小説を執筆するようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

実は物語として小説を執筆したのは、このたび賞をいただいた『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』が初めてなんです。中高生の頃から、あらすじや設定、世界観を煮詰めてメモしておく物書き遊びが大好きでずっとやっていたんですけど、小説として執筆することはなかったんですよね。結局は落ちちゃいましたけど、文芸系の大学に行きたいと思ったのも、小説を書く勉強をしないと人に見せるなんてことは夢のまた夢だと思っていたからで、物語としても技量としても自信を持つきっかけが欲しかったんだと思います。なので、文芸系の大学に落ちてしまって小説家という道は半ば諦めていました。ただ、その傍らで設定や世界観を詰める物書き遊びだけでは続けていたわけですが。

――半ば諦めていた小説家への道、作品を新人賞に応募しようと思ったのはなぜでしょうか。

この作品の下地になる世界観や設定を考えていた時期に、第13回MF文庫Jライトノベル新人賞の受賞作が発売されて、凄いなと思いながら読んでいました。MF文庫Jさんの新人賞は10年以上の歴史があって、ふと思い返した時に『魔法鍵師カルナの冒険』も第1回の受賞作だったりもして、何か縁のようなものをふと感じたんですよね。それで1本書いてみようと思いました。

――そして応募した作品が第14回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「最優秀賞」に輝きました。率直な感想を教えてください。

知らない番号から突然電話がかかってきて、怖いなと思いながら電話に出た記憶があります(笑)。「最優秀賞」受賞のお知らせをいただいた時は、「本当にいいのかな」という想いがありました。評価をいただいたことはもちろん嬉しかったんですけど、小説を書くこともそうですし人前に書いた小説を出すことも初めてだった作品がこんなにも大きな評価をいただいてしまっていいのかなと。嬉しさと怖さというか、プレッシャーを凄く感じたのを覚えています(笑)。

――それではあらためて、「最優秀賞」受賞作『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』がどんな物語なのか教えてください。

本作は剣と魔法のファンタジー世界が舞台です。ただ、勇者と魔王の冒険譚というわけではなく、そういった大きな戦いが終わった後の世界の物語です。残された魔法であったり、魔王の残党の魔獣であったり、大きな戦いが生み出した残滓の中で生きる人達にスポットを当てています。そんなこの世界では人を攻撃して傷つける魔法が禁じられていて、攻撃魔法を取り締まる魔導審問会という組織があります。主人公のブレイスには魔法攻撃を使用しているという嫌疑がかけられており、魔導審問官のガルノーの視点から描いた監視記録の物語でもあります。

※ブレイスには攻撃魔法使用の疑いがかけられていて……

――魔法のあるファンタジー世界なのに攻撃魔法が禁止、というのも面白い世界設定ですよね。

この物語の根幹は攻撃魔法が使えない世界、から始まっているんです。攻撃魔法って、どこまでが攻撃魔法なんだろうといろいろ考えながら定義しました。物語にも登場していますが、幻術もとあるゲームを参考にして攻撃魔法扱いにしていたりします。そういった世界に付随したのが、人形遣いの主人公と人形のヒロイン。二人が一緒に戦う戦闘スタイルも某格闘ゲームのキャラクターを参考にしたアイデアで、執筆活動を振り返ると、長らく続けてきたオタク活動が自分の創作のヒントになったりもしていて、オタクでよかったと感謝することも多いですね(笑)。

――本作は監視記録ということで、主人公とヒロインとは別の視点である審問官ガルノーの視点で物語が綴られることも大きな特徴ですよね。

そうですね。詳細については発売される書籍を読んでいただきたいのですが、ブレイスにはずっとある現象が起こっていて、ブレイスの視点で描いてしまうとすべてをさらけ出した状態になってしまう問題がありました。その現象を隠したまま物語を進めるにはどうすればいいかと考え、ブレイスを疑うガルノーの視点で描こうと決めました。これにはガルノーと一緒に、読者にもブレイスの正体を見極めてもらいたいという意図もあり、敢えて第三者の視点から物語を描いています。うまい例えが見つからないのですが、名探偵ホームズを観測するワトソンの関係とでも言えばいいのか。いつも隣にいるからといって、必ずしもワトソンはホームズの頭の中や行動の意味のすべてを正しく理解しているわけではないはずで、得られる情報や観測に基づいてホームズという人物像を確立していると思うんです。その人が考えていることや行動を、横から見て、想像して、考えて、評価させる。ガルノーには読者と一緒に、そんな立ち位置からブレイスを見極めてもらいたいと考えました。

※物語は主人公たちではなくガルノーの視点によって描かれることも特徴

――物語がガルノーの視点で描かれているからこそ、次第に読者もガルノーと一緒に困惑することになるわけですよね(笑)。ちょっと待て、これは一体どういうことなのかと。物語中盤に差し掛かると何度もページを戻って確認したくなりました。

そう感じていただけるなら本望ですよね(笑)。特段にミステリー要素や叙述トリックをこの物語のウリにしているわけではありませんが、いろんな要素を組み合わせて物語のテーマとしているので、作品を見る角度によって、読み手の受け取れる情報やメッセージは違うと思います。この物語において、ブレイスの立ち位置は初期からまったく変わっていないし変わりません。その中で、ガルノーのようにひとつの視点にこだわっていると、どうしても見えないものがたくさん生まれてくるんだ、ということも読み手に伝わったらいいなと考えています。

※物語はあらゆるキャラクターを巻き込んで怒涛の展開を迎えることになる

――この物語を読んだ読者がそれぞれどんなことを感じたのか、感想が楽しみですね。本作は主人公のブレイス、審問官のガルノー、この2人に視線が注がれがちですが、もう一人忘れてはいけないのが人形として登場するリネットです。表情もなく喋らないタイプのヒロインですが、ちょっとした仕草に垣間見える愛嬌が存在感を高めていますよね。

おっしゃる通り、リネットはヒロインであるにも関わらず、表情もなくて喋りません。なので、文章中で可愛い動きやおどけた格好など、ひとつひとつ描写することで存在感を出すようにしています。ちょっとしたポーズであったり、ブレイスの言葉に反応して首を傾げたり。リネットの可愛さの追求には、ゆるキャラグランプリの動画なんかを見て、表情も変わらず喋ることも少ない着ぐるみならではの表現を研究したりして、魅力を持たせることができるよう頑張りました(笑)。

※人形のリネットには表情も言葉もないのだが……

――そんなリネットも含めて、書籍化にあたりニリツ先生の手でビジュアル化されました。ご自身の想像していたキャラクターがイラスト化された感想があればお聞かせください。

まず、ニリツ先生にイラストを担当していただけると決まった時に、「こんな大御所でいいんですか!? ありがとうございます!」という感想を抱きましたよね(笑)。キャラクターデザインについてもニリツ先生の色をしっかりと出していただいて、初めてイラストを見た時は感動してしばらく悶えていました(笑)。

――お気に入りのイラストはありますか。

全員集合のような口絵のイラストはとても印象深いです。あとは物語終盤に描いていただいたリネットの見開き挿絵でしょうか。先も言ったのですが、リネットには表情がなくて、他の挿絵や口絵でも無表情です。でもその見開きの挿絵では違います。主人公のブレイスはリネットのこの姿を見るために頑張ってきたんだなという想いと、僕自身もこの光景を見るために物語を書いたんだなっていう想いで、感無量の1枚です。イラストの力で物語を見せることができるのは、ライトノベルという媒体の強さだと思っていて、僕自身が過去に受けた文章とイラストの融合による感動やインパクトの読書体験を、この作品を通して感じていただけたらなとも思っています。

※印象深いと語った口絵イラスト。見開き挿絵はぜひ文庫で確認を……!

――本作の見どころや注目してもらいたい点があれば教えてください。

この作品はファンタジー好きに楽しんでもらいたいという思いで執筆しました。王道の物語が好きな人には楽しんでいただけるんじゃないかと思います。剣で戦う主人公が好きだとか、人形のヒロインが性癖ドストライクでたまらないとか、キツめのお姉さんキャラクターが好きだとか。そういった方々にもぴったりだと思います。また、物語全体を通してキャラクターの関係性が目まぐるしく変化していく様子を楽しむことができると思うので、ぜひ注目していただきたいです。

『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』PV

――今後の目標や野望があれば教えてください。

一番の目標は、MF文庫Jの先輩方と同じ棚に自著が並ぶということだったので、これは達成されたと思います(笑)。緑色のあの背表紙が、僕の出会った最初のラノベの思い出の背表紙でもあるので、すごく誇らしいです。そしてこの1冊を描いたことで、キャラクター達への愛着も非常に大きなものとなったので、もっとこの物語を続けていきたいという気持ちも大きいですね。第2巻についても2019年の春頃にはお届けできるのではないかと思います。そして野望はでっかく広く!(笑)。アニメ化を含むメディアミックスでしょうか。特にMF文庫Jさんの新人賞受賞作のアニメ化作品は第6回受賞作の『変態王子と笑わない猫。』が最後で、このあたりで歴史をもう一度作るんだという気概を持ちたいと思います。とはいえ、ヒロインがまったくしゃべらないんで、アニメ化向きかと言われるとどうなんだろうとは思いますが、頑張ります!(笑)。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

まず、ファンタジーが好きで好きでたまらない人にオススメしたいです。そして、剣で戦う主人公、人形のヒロイン、ディストピアなファンタジー世界、表紙のイラストが気に入ったという方、興味を持っていただいた方みなさんにオススメしたいです。そして新人賞受賞を目指して作家デビューを目指している方にも読んでいただいて、この作品が審査員の方々にどう面白いと感じられたのか、どこを面白いと捉えられたのか、研究の一環にも役立つのではないかなと思います。ラノベファン、創作者のみなさまに、今年最後の大花火としてぜひ手に取っていただけたらと思います。

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第12回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞」受賞作家・栗ノ原草介先生

 ⇒ 第14回MF文庫Jライトノベル新人賞「最優秀賞」受賞作家・林星悟先生

【質問】

私は10年間、小説を書いているということを誰にも明かさずに続けてきました。小説を書いていること、または書いていたことを家族や友人など、どの程度まで公にしていますか。もし公にしているならどこまで公にしていますか。公にする際、照れたり、恥ずかしくはありませんか。

【回答】

まず、現時点で知っているのは執筆のアイデアの相談などもしていた高校の同級生3人です。あとは大学の軽音サークルに所属していた関係者が僕のTwitterを通して知っているのかなと。会社関係者や親兄弟、親戚一同には、隠れて動いてきたのでまだ何も明かしていません。明かす予定はあるんですけど、機をうかがっているといいますか、ぶっちゃけ本が発売されたタイミングで言い逃してしまったら多分一生言わないと思います(笑)。家族に言うと一気に親戚に知れ渡ると思うので……そこがどうも足踏みの原因になっているといいますか(笑)。特に家族は僕以外まったくオタク趣味がありません。僕は陰の者なんですけど、他は陽の者ばかりで。ラノベの存在を知っているのかどうかのレベルです。どんなリアクションが返ってくるのか未知数すぎて怖いです(笑)。

――ありがとうございました。

<了>

人形遣いの剣士と人形のヒロインのバディ物語を綴る林星悟先生にお話をうかがいました。正義とは何か、笑顔を守ることの大切さ、繋がる人々の想いなど、様々なテーマが描かれる王道ファンタジー作品。審問官ガルノーと共に物語を覗く、少し変わった読書体験も楽しめる『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』は必読です!

©林星悟/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:ニリツ

[関連サイト]

『人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない』特設サイト

MF文庫J公式サイト