独占インタビュー「ラノベの素」 上川景先生『撃ち抜かれた戦場は、そこで消えていろ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年1月19日にファンタジア文庫より『撃ち抜かれた戦場は、そこで消えていろ』が発売となる上川景先生です。第31回ファンタジア大賞にて「大賞」を同作で受賞し、満を持してファンタジア文庫よりデビューされます。人間の存在も、功績も、成果も、結果も、痕跡も、干渉も、そのすべてを消し去る悪魔の弾丸を手にした少年兵と、繰り返す戦争に暗躍する亡霊(ゴースト)の物語を描いた本作。主人公と共に一発の弾丸で変遷する世界を追いかける作品の内容や見どころについてお聞きしました。
【あらすじ】 機甲車が這い、弾丸魔法が降る、東国と西国の百年に及ぶ戦争。追い詰められた東の少年兵レイン・ランツは、見慣れぬ弾丸を放ち、敵将校を殺害する。――刹那、世界が一変した。戦場は通い慣れた士官学校へ切り替わり、死んだはずの級友の姿も。戸惑うレインに、弾丸を作ったという少女エアは告げる。「撃った相手を最初からいなかった世界へ再編成する“悪魔の弾丸”。このまま使いたい?」 終わりなき戦場を前に、レインの決断は――「終わらせる。変えてやる。この弾丸で、全てを」 世界の理を撃ち抜く、少年と少女の戦いが始まる――。第31回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞のミリタリックファンタジー! |
――それでは自己紹介からお願いします。
上川景と申します。出身は南の方で、昨年大学の医学部を卒業しました。作家の卵でありつつ医者の卵でもある感じです。好きなものは総合格闘技を見ることや、友人たちとB級映画を見て馬鹿笑いすることですかね。レンタルショップの誰も足を運ばなさそうな一角に足を向けるのが趣味です(笑)。ゲームが家にない家庭で育ったんですが、高校二年生くらいの時に遅れて中二病に罹患しまして、ゲーム、アニメ、ラノベに触れるようになりました。
――ゲームのない家庭で育ったとのことですが、高校二年生の時に遅れて中二病を発症したきっかけはなんだったのでしょうか。
高校二年生まではサブカル系にほとんど触れてこなかったんですよね。ただ、このタイミングで漫画やアニメになっている『咲-Saki-』に出会いまして。そこからアニメ、ラノベに積極的に触れていくことになります。ラノベにどっぷりハマったのは高橋弥七郎先生の『灼眼のシャナ』でしたね。それまでも友人からいくつか借りて読んではいたんですけど、しっくりこなくて自分で探して出会いました。今思うと学校があまり好きではなかったので、非日常の物語に憧れていたところもあったのかなと(笑)。
――ゲーム・アニメ・ラノベと触れて、いざ自分で作品を書いてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
もともと貴志祐介先生や東野圭吾先生といった一般文芸作品は読んでいて、執筆活動と呼ぶほどではない物書きは細々とやっていたんです。一般文芸に向けて作品を書いてみようと思ったこともあったんですが、自分の知識の底の浅さにぶつかってしまって。そんな折に『WHITE ALBUM2』というゲームをプレイしたことで、「こっちだ」と方向性がぐるりと変化しました(笑)。この作品との出会いがなければ本格的な執筆活動はなかったかもしれません。それほどまでに衝撃を受けて、触発もされました。
――お話をうかがっているとゲームのシナリオライターを目指しそうなものですが、そこで小説家を目指したのには何か理由があったのでしょうか。
単純に小説という媒体が一番好きだったのが大きいです。一番好きな作品は『WHITE ALBUM2』ですが、普段は本しか読まない人間なので。あと、大学の医学部に進学した時点で医者になることに迷いはありませんでしたが、並行して続けていた執筆活動でもプロになりたいという想いも捨てきれなかったので、兼業しやすい点でも小説家は魅力的でした。医学部に進むと9割方は医者になります。ただ、僕が大学に在籍していた際、同じクラスから突然「YouTuberになる」と言って大学を休学された方がいまして。医療系というわけではなく、完全にゲーム実況系なんですけどYouTuberが誕生していたんですよね(笑)。その後、彼の年収も凄まじいことになっていて、もう戻ってこないんじゃないかという話もしたりしました。他にも会社を経営していたり、オリンピックのコーチをしていた方など、他分野で活躍するクラスメイトも結構いましたので、その方たちに勇気をもらって、自分も諦めずに小説家を目指し続けていた感じです。
――それではあらためて第31回ファンタジア大賞「大賞」を受賞した感想をお聞かせください。
昔から憧れのレーベルでしたので、とても嬉しかったです。ただ、最初に連絡をいただいた時は国家試験の真っ只中という精神的にデスマーチな時で……嬉しかった感情だけは覚えているんですが、正直、何を考えていたかとかはあんまり記憶にないんですよね(笑)。あらためて「大賞」を受賞させていただいたということで、頑張ろうという思いと、プレッシャーは凄まじいです。あと『WHITE ALBUM2』を通して大きな触発をいただいた丸戸史明先生がいらっしゃるレーベルで受賞させていただいたということは運命的なものも感じますし、やってやるという気持ちは強いです。
――受賞作『撃ち抜かれた戦場は、そこで消えていろ』はどんな物語なのか教えてください。
この物語は人間の存在を抹消する悪魔の弾丸を、何の変哲もない普通の少年兵が手にして始まる物語になります。世界観としては機甲と魔術が共存しているファンタジー世界で、100年に亘って東西間で戦争が続いています。そんな終わらぬ戦争の中で、悪魔の弾丸を手にした主人公が戦局を大きく変化させていくことになります。悪魔の弾丸は撃たれた人間の存在はもちろん、その人物が為した功績や成果、そこから生まれた結果、その人物の痕跡や干渉もすべてを消し去り、パラレルワールドのような世界へとズレていくことになります。まさに作品タイトルの通りで、弾丸が使用された戦場は、なかったことになるというわけです。
※一発の弾丸で世界は次々と変遷を繰り返していく
――本作はループやタイムリープに近しいものはありつつ、世界が変遷し続けている設定は面白くもあり残酷だなと感じます。
先ほども少し触れましたが、悪魔の弾丸は時間を巻き戻すわけではなく、消えた人間が存在しなかった世界へ切り替わるようなイメージなんです。この物語を考えていた当初は、単純に人が消えるだけだったんですが、人が消えれば足跡も功績も消えるわけです。そうなると、ある戦場で功績を遺した人物が消えることによって、“今”の戦局は確実にブレるわけで、どう転ぶかわからない。そこから世界そのものも一緒に変化するという設定を盛り込んでいきました。
――物語の鍵になる存在を抹消する悪魔の弾丸の着想はなんだったのでしょうか。
これは弾丸の効果というより名称のきっかけになるのですが、抗菌薬に関する大学の講義で配られたプリントに、抗生物質のペニシリンについて書かれていたんですね。人体に害を及ぼさず、菌だけを滅するペニシリンは「魔法の弾丸」とも呼ばれていたというお話があって、この言葉がずっと頭の中に残っていたんです。そこからギミックを色々と考える中で、作中で悪魔の弾丸、銀の弾丸、魔法の弾丸と呼ばれるひとつのアイテムが誕生しました。
――物語の核と言える要素が名称先行だったというのは驚きです。悪魔の弾丸の存在が物語の柱になり、様々に変遷する世界を描くきっかけになったわけですね。
そうですね。物語としては構造というか、システムがかなりややこしいことになっているとは思います。人が消えて世界が変わるということは、これまでやってきたことが全部消えるということでもある。なので、読者のみなさんが迷子にならないように主人公と一緒にこの物語で何が起こっているのかを見てもらえるような構造にしています。読者と一緒に主人公も悪魔の弾丸の効果を理解していくというプロセスを踏みました。この作品はプロットをほとんど書かないまま主人公と同じ目線で執筆していたので、一緒に世界の謎を解いていくような感じで楽しかったですね。
※悪魔の弾丸によって変遷する世界を主人公と共に追いかける!
――物語はあんなにも複雑な行程を歩んでいるのにプロットはないんですか!?
ありません(笑)。この物語で動く世界の変遷は、言葉は悪いかもしれないのですが、いきあたりばったりな面も多いんです。もちろん脳内に大きな流れはあるんですけど、細かなチェックポイントのようなものは設けてないんですよ。どうしてもそこを通らなくちゃいけないという窮屈さのようなものは回避したかったんです。それと言い訳がましくなるかもしれませんが、ファンタジア大賞の締切の約1ヶ月前から書きはじめた作品でもあるので、推敲しきる時間もなかったという(笑)。
――なるほど(笑)。でもこれ、担当編集さんからしたらプロット欲しいですよね。
本当にそうだと思います。ごめんなさい(笑)。
――では続いて登場キャラクターについて教えてください。
本作の主人公レイン・ランツは緊急時でなければ戦場には出ないはずの学生兵です。戦況の悪化に伴い前線に出なくてはならなくなり、そこで悪魔の弾丸を手に入れることになります。いち学生兵ではどうすることもできなかったはずのことを、悪魔の弾丸の力によって実行し始めることになります。本人としては戦争の完全終結を目的としています。悪魔の弾丸や世界を見る視点は読者のみなさんと一緒の視点であるということ、そして手に入れた力を使うなら使うで割り切った主人公にしようと思いました。
※悪魔の弾丸を手にすることになる少年兵・レイン
エア・アーランド・ノアは、本作のヒロイン的ポジションではあるのですが、もう一人の主人公と言っていいかもしれません。100年前の最初の戦争で自身に非があるわけでもないのに殺され、亡霊(ゴースト)として甦った少女です。この世界には亡霊という、100年以上前から節目の戦争で暗躍している存在がおり、彼女もその一人です。悪魔の弾丸を生み出し、これまでも戦争の渦中で何人かに悪魔の弾丸を渡してきた存在です。いずれもロクな結果にならず、諦めの境地にあった彼女ですが、これまで悪魔の弾丸を渡してきた人間とレインが少し違うことに気付き、彼女の中で停滞し続けていた何かが波打ち始めていくことになります。作中ではレインが認識する世界を一緒に認識できる存在でもあります。
※レインの前に現れる亡霊(ゴースト)のエア
――戦争の中に存在意義を見出している亡霊と、戦争の完全終結を目的とする主人公のタッグも面白い組み合わせだと思います。
本来であれば二人は相反する存在です。二人の関係性、そして悪魔の弾丸によって手に入るものと絶対に手に入らないもの。ぜひ主人公と一緒に変遷する世界を解き明かしていってもらいたいです。
※戦場に生きる亡霊と戦争の完全終結を目指す少年兵はどのような世界を選択するのか
――書籍化にあたりイラスト化も行われました。率直な感想をお聞かせください。
キャラクターのビジュアルは執筆時からずっとふわふわしていました。なんて言えばいいんですかね、ずっとモザイクや靄がかかっていたような感じです。TEDDY先生が起こされたキャラクターデザインやイラストを見せていただいて、ようやくしっくりきた感じです(笑)。客観的に、「ああ、こういうキャラクターだったんだな」と。エクセリアのデザインはメカニックデザインとして鷲尾直広先生に担当していただきました。こちらもかなりぼんやりと考えていた面が多くて、本当に苦労をおかけしたと思います。イラストを見て感嘆しました(笑)。
※レインたちが乗る機甲車「エクセリア」
――あらためて作品の見どころや、こんな読者になら更に楽しんでもらえるという点があれば教えてください。
戦争ものが好きな方、ループやタイムリープといったSF要素が好きな方、ミリタリー系が好きな方には特に面白く読んでいただけるんじゃないかと思います。世界を変える力が手の中にあるという全能感、それを踏まえた上でレインやエアがどんな選択をしていくのか注目していただきたいですし、主人公と一緒に世界の変遷を追いかけていただきたいです。
――今後の目標や野望について教えてください。
理想は自分が考えているこの物語を、ひとつの作品としてきちんと結末まで描き切ることでしょうか。最後まで読んでよかったと思える結末を用意しているので、走り切っていきたいです。また「大賞」受賞作として世の中に出るわけなので、目標は大きく100万部を目指して頑張ります(笑)。
――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。
第31回ファンタジア大賞「大賞」を受賞させていただいた賞名の通り、ファンタジー世界が舞台の作品です。これまでの「大賞」受賞作にも恥じない作品として仕上げたつもりですので、まずは構えずに読んでいただきたいです。設定や構造が複雑とは言いましたが、恐らくみなさんが考えられている以上にとっつきやすい作品だと思っています。読んでいただければ、この物語はこの先どうなっていくんだろうと思っていただけると思うので、気軽に手に取っていただきたいです。よろしくお願いします。
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第14回MF文庫Jライトノベル新人賞「最優秀賞」受賞作家・林星悟先生
⇒ 第31回ファンタジア大賞「大賞」受賞作家・上川景先生
【質問】
創作者として参考にしたくてお聞きしたいのですが、キャラクターの名前はどのようにして決められているのでしょうか。自分は悩み続けて決めることもあれば、ちょっとしたノリで決めちゃうこともあります。横文字にするのか和名にするのか、考えて決めているポイントがあれば教えてください。
【回答】
すごく難しい質問なんですけど(笑)。前提として明確なルールはないです。その上で僕個人としては、主人公の名前は基本的に尖らないようにしていることと、ヒロインについては他の作品と可能な限り被らないようにとは考えています。主人公については読者の耳に馴染みやすいように、敢えて凡庸にすることが多い気がします。また、特殊な名前を考える時は言葉と言葉を組み合わせることが多いです。二分節にしたり、エッジを効かせたいキャラクターは趣向をこらすようにしています。
――ありがとうございました。
<了>
悪魔の弾丸を手にした少年兵が世界を再編成する物語を綴る上川景先生にお話をうかがいました。悪魔の弾丸によって手に入るもの、そして手に入らないもの。過酷な戦場の中で、孤独に世界を変遷させ続ける少年兵が本当に願うものとは。変遷する世界を解き明かしていく『撃ち抜かれた戦場は、そこで消えていろ』は必読です!
©上川景/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:TEDDY メカニックデザイン:鷲尾直広
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