独占インタビュー「ラノベの素」 渋谷瑞也先生『つるぎのかなた』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年2月9日に電撃文庫より『つるぎのかなた』が発売された渋谷瑞也先生です。第25回電撃小説大賞にて《金賞》を同作で受賞し、満を持してデビューされます。剣道を知らなくてもいい、読み終えた後に剣道がわからなくても構わない。ただこの物語を面白いと感じてもらえればそれでいい。剣道という舞台から降りた“元最強”と、孤独に頂点で君臨し続ける“現最強”が激突する時、少年少女たちの心情にどんな変化が訪れることになるのか、物語の内容や見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

「好きじゃないんだ、剣道。……俺を斬れる奴、もういないから」 かつて“最強”と呼ばれながら、その座を降りた少年がいた――。“御剣”の神童・悠。もう二度と剣は握らないと決めた彼はしかし、再び剣の道に舞い戻る。悠を変えたのは、初めて肩を並べる仲間たち、彼に惹かれる美しき『剣姫』吹雪、そして――孤高の頂でただひたすらに悠を追い続けていた、高校剣道界最強の男・快晴。二人が剣を交えた先で至るのは、約束の向こう、つるぎのかなた。「いくぞ悠。お前を斬るのは、この僕だ!」 剣に全てを捧げ、覇を競う高校生たちの青春剣道物語、堂々開幕!

――それでは自己紹介からお願いします。

渋谷瑞也と申します。出身は大阪で、大学進学を機に上京しまして、そのまま東京で就職しました。趣味はドラム演奏と銭湯通い。それと最近はリアル脱出ゲームをよく遊びにいきます。この手のゲームは5人や10人といった座組みで遊ぶケースが多いので、友達やその友達の友達と遊びに行くことが自然と増えて、友人関係が一気に広がった気がします。苦手なものとしては偏食というわけではないんですが、生トマトは食べられないけどトマトソースは好きみたいなよくわからない食事の好みがあります(笑)。だいぶ前に母親から食べ物の好き嫌いが多いと、人間の好き嫌いも多くなると言われたことがあって、今思うと「確かに、なるほど」と思うこともありますね。人や物事の好き嫌いははっきりしている方だと思うので(笑)。

――これまでに漫画やラノベ、アニメといったサブカルチャーにも多く触れてこられたのでしょうか。

そうですね。小さい頃からゲーム、本、漫画には触れてきました。アニメを見始めたのが高校生の頃で、アニメ好きの友人に引き込まれました(笑)。当時は『けいおん!』や『化物語』が話題になっていた時期で、いろんな分野に一通り触れていたと思います。こちらは食べ物と違って好き嫌いなくいろんなものに触れてきました。

――ありがとうございます。あらためて、第25回電撃小説大賞《金賞》受賞おめでとうございます。率直な感想をお聞かせください。

受賞の前段にあたる最終選考の際にも連絡をいただくんですが、そちらの方が気持ち的にざわざわしていたように思います。直接電話を受け取れなくて着信履歴に見知らぬ番号が残っていたんですが、一瞬「やべえ、電気代払い忘れたか!?」って思ったんですよね(笑)。その後折り返しをして、繋がったのが編集部でした。最初に聞いたのは賞金について税金がかかるかどうかでしたね。これははっきりと覚えています(笑)。特に慌てたりはしなかったと思うんですけど、さすがにその日の寝つきは悪かったです。興奮していたんだと思うんですが、明日仕事だし眠れないと本気で困るって、冷静に眠れない状況を嘆いていました。

――冷静さと興奮が入り混じる感じでそわそわされていたんですね(笑)。受賞連絡の時はいかがでしたか。

最後の発表でそわそわするのも嫌だったので、タイミングを合わせてわざと仕事が過密になるようなスケジュールを組んでいたんです。もう本当に忙しすぎて、携帯に電話が入っていたのを確認した時も「このクソ忙しい時に誰だよ!」って(笑)。そこで、そういえば今日が発表日だったと思い出してかけ直しました。そしたら電撃文庫編集部の伝統らしいんですけど、担当編集の方が溜めながら「大変言いにくいんですが……《金賞》です」って。そのフリいるの?って思いつつ、嬉しいという感じはなくて、最初に聞き返したのが「《大賞》はどなたですか?」でした。そしたら今年は《金賞》が一番上だと言われて、「ええええええぇぇぇぇ!!!」って。

――そこが一番の驚きだったんですね(笑)

そうですね。職場の休憩所で電話をしていたんですけど、一番声が出ていたと思います。自分が《金賞》である以上は《大賞》がいるのだと思い込んでいたので。自分がいただいた賞より上にいった作品のことが気になって仕方なかったんですよね(笑)。

――なるほど(笑)。第25回では《金賞》が上位の賞となったわけですが、本作は剣道を題材にしたカテゴリとしては珍しいタイプの作品だと思います。あらためて受賞作『つるぎのかなた』がどんな物語なのか教えてください。

本作の主人公は剣道を辞めた少年、水上悠です。非常に強く敵なしの剣道の腕を持っていながら、剣道を好きではないと口にして、普通の生活を送ろうとしているんです。そして、本作には剣道がものすごく強い主人公級の乾兄妹も登場します。兄の快晴は18歳以下では最強と言われるほど強いんですが、そのことが全然嬉しそうではなくむしろ悲しんでいるかのような節さえある少年です。妹の吹雪も剣道は強く、兄の背を追いかけているものの、気持ちとしては何ひとつ満たされない日々を送っている少女です。剣道から去った少年と、思うものがありながらも剣道を続けている兄妹。そしてもう一人、悠を剣道の道に再び引っ張り込むことになる剣道初心者で後輩でもある深瀬史織。彼女の行動や考えによって、悠は剣道部へ所属することになり、乾兄妹の妹である吹雪との出会いを経て、彼を取り巻く環境が一気に変化していきます。剣道を辞めなかった人達の想い、強かったのに悠が剣道を辞めた理由、それぞれ雁字搦めでもがき苦しんでいる少年少女の交流と気持ちを描いた作品ですね。

※剣道を続けてきた少年と、剣道から一度去った少年がぶつかり合う!

――この作品では心理的な描写も多く描かれていて、特に印象深かったのが男性陣よりも女性陣の精神的な芯の強さでした。

そうですね。この作品の特徴でもあるんですけど、剣道の強さと人間としての強さはイコールになっていません。ある程度年齢を重ねてしまうと、1年や2年の年齢差は大した重みではなくなると思うんですけど、高校生の1年や2年という時間はとても重たいと思うんです。そんな中、悠は一人で袋小路に迷い込んでしまっているのですが、一年後輩の史織から見たらそこまで行き詰まるような話には見えていないんです。だから彼女は悠の事情をよそに、彼を剣道の道へ戻そうとするんです。これは時間の重みを重要と考えるからこそ、その重さを飛び越えてくる存在の重要性にも繋がると思っています。相手の心を読めるわけではないからこそ、キャラクターたちの立ち居振る舞いはかなり意識して描いている点でもありますね。

※精神的な強さが目立つ女性キャラクターたち

――少年少女の青春の一ページを切り取って描かれる本作ですが、剣道を題材にした理由はなんだったのでしょうか。

剣道を題材として選んだのはスポーツものをやりたくて選んだというわけではないんです。剣道はスポーツではなく、武道。これは武道の物語ですし、言うならばバトルものの亜流であるとも思っています。この作品は執筆を始めて5作目か6作目くらいだったと思うんですが、それまではタイムリープものであったり、難しい題材を扱っていました。そういった作品での応募を繰り返す中で、第23回の電撃小説大賞で3次選考まで残ることができ、自分の面白いと考えていることが大きくズレていないという確信を得ることができました。そこで考えたことが、奇をてらう設定は一度やめて、基本に立ち返ってシンプルに作品を書いてみようということでした。自分の面白さのベクトルがズレていなければきっと評価をしてもらえるに違いないと考えたわけです。剣道を選んだのは自分自身が中学・高校と剣道をやっていて取材をしなくても書ける題材だったことと、世の中に自分が納得のできる剣道ものがなかったということが大きかったです。

――そうだったんですね。作中では剣道のキツさに言及するシーンも少なくなかったように感じました。

これは剣道をやっている人で、明るくみんなで剣道やろうぜって人はなかなかいないと思っているところからきています。作中でも言及している通り、剣道はとにかくしんどい(笑)。それでも続けている人達は、修行と理解して続けている人達がほとんどだと思います。

――スポーツではなく武道というお話もあった通り、修行なんですね(笑)

なので、明るくてスポーツができる、陽の者たちはみんな球技に行くわけで(笑)。だから意外とオタクの人も多いんです。電撃大賞の授賞式でご挨拶をさせていただいた方にも昔剣道をやっていたという人が多くて、正直どんだけいるんだよって思いましたよね(笑)。

――そういったしんどさもある中で、剣道の面白さはどんなところにあると思いますか。

嘘みたいなお話に聞こえるかもしれませんが、剣道には漫画のような世界が実際にあったりするんです。たとえばとてもじゃないけど肩があがりそうにないお爺ちゃんが、弟子に面を付けてもらった途端に滅茶苦茶動きが俊敏になったり、見た目は吹けば倒れてしまいそうなヨボヨボなのに、攻撃に行っても一切当たらなかったり……(笑)。高校生や大学生、そして社会人と、剣道はそれぞれ質も違っていて、若い人達はとにかくハイスピード。大人はせめぎ合いや瞬発力が秀でていたりするわけです。戦い方を変化させながら一生続けられるものでもあるので、そこが剣道の面白いところだと思っています。僕自身は直接出会ったことはありませんが、作中の悠や快晴のような、他人から見たら化物のような人達もいるのかもしれません(笑)。

――現実にもいるかもしれない化物。最強と呼ばれる主人公を含め、登場する主要キャラクターについて教えてください。

水上悠はこの作品の主人公で、優しい少年です。見た目とは裏腹に自分の中に激しい衝動をもっているのですが、それを良くないものとして抑え込み、剣道から身を引いています。己の力との向き合い方であったり、救われたいと願いながらも一人では乗り越えられない問題に直面しながら袋小路に彷徨いこんでしまっています。小さな頃の家庭環境も少し特殊で、幼い頃に祖父に預けられた中で出会ったものが剣道でした。ただ、彼には才能があり過ぎた。剣道を通じて繋がりを作ろうとしていたのに、その斬れ味があまりにも鋭すぎて、すべてがおかしな方向に転がっていってしまいます。この物語は彼に足りなかったものを与えるための物語でもあります。

※水上悠(キャラクターデザインより)

乾快晴は凄まじく純粋で、すごく「いいやつ」でもあります。「いいやつ」ではあるんですが、自分のために頑張るという意識が希薄で、自分のためではなく人のために頑張ることができる少年なんです。ただ、幸か不幸かその純粋さが剣道に向けられたことで、彼は強くなり、孤高の存在として見られるようになっていきます。妹の吹雪に対してだけ見せる表情や感情も特徴的で、内と外での在り方も快晴の面白さだと思っています。

※乾快晴(キャラクターデザインより)

乾吹雪は改稿時にとても苦労した女の子でもあります(笑)。幼さの残る素直な感じがあり、性格は真っ直ぐです。本作の登場人物は頭の中で様々なことを考えてしまうキャラクターが多い中で、唯一と言っていいほど考える前に飛び込んでいけるキャラクターだと思います。快晴にとってはわがままな妹なのかもしれませんが、悠といる時はすごく乙女な雰囲気を醸し出すキャラクターでもありますね。関係する相手とで、多面的な姿を見せてくれるのが特徴だと思います。

※乾吹雪(キャラクターデザインより)

深瀬史織は唯一の剣道初心者として登場します。改稿前はヒロインの予定がなかった女の子なんですが、この物語にはなくてはならない存在に進化しました。悠と似ているところがあるからこそ、立場の違いが悠にとっては痛いところをついてくる女の子にもなっています。剣道は弱いながらも心が強く、頑張る姿も見どころです。ヒロインでもあって、準主人公と言っても差し支えないと思います。

※深瀬史織(キャラクターデザインより)

――本作はこの4人を主軸に描かれていますが、登場する人物が多いことも特徴ですよね。

仰る通り、この作品には多様なキャラクターが登場しています。なので、どんな読者も一人くらいはこのキャラクターが好きだなって思える登場人物がいるはずです。ぜひ気に入ったキャラクターの視点で物語を楽しんでいただけたらと思います。

――書籍化にあたり、各キャラクターのイラストも描かれました。イラストは伊藤宗一先生が担当されていますが、ビジュアル化の感想を教えてください。

今回のイラスト化にあたっては、伊藤宗一先生からも様々なご意見をいただきながら、キャラクターデザインを行っていただきました。キャラクターの見た目をはじめとした差別化もそのひとつですし、イラストを担当するという姿勢以上に、絵で物語を描くという姿勢で本作に関わっていただいたことはとても感謝しています。特に快晴のビジュアルについては多くの提案をいただき、非常に絵映えする姿になりました。格好良さはもちろんですし、悠とは違うタイプの強さを絵で表現していただいています。まだまだ自分は若輩ですが、伊藤先生にも負けないように執筆をしなくてはいけないと、身の引き締まる思いでもありました。

※伊藤宗一先生の手で素晴らしいビジュアルになったという乾快晴

――いよいよ発売となった本作のタイトルでもあり、モノローグでも綴られ、章タイトルにもなっている『つるぎのかなた』。この言葉に込めた意味を教えてください。

最初はただの語感でした。ただ、モノローグで使っている時には、相手あってこその意味として使用しています。相手がいるから何かができることの尊さ、相手がいるから見えてくるもの、そんな言葉の代わりとして使っているような気がします。

――では著者として本作の見どころ、注目してもらいたい点を教えてください。

この作品に登場するキャラクターに悪役はいません。そして皆が物語の中で成長して、救われていくところがこの物語のいいところだと思っています。剣道には引き分けもありますが、『つるぎのかなた』は基本的に引き分けを書きたくない物語なので、剣道の戦いや恋愛でもすべて、勝っても負けてもそれ以上のものを得ることができ、悔しいだけでは終わらない物語に仕上げています。そして本作を読む上では剣道のことを知らなくても構いません。この作品は剣道の面白さを伝えるためではなく、物語として面白いことが重要だと思っていますし、自分自身もその点にとても気を遣って執筆しました。なので、雰囲気だけ感じてもらえればそれで構いません。剣道に興味のない方が手に取っても楽しんでもらえる作品になっていると思います。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

自分自身が目指す物語の在り方は、わからない人が見ても面白い、わかっている人が見たらもっと面白い、です。そんな物語をこれからもどんどん作っていきたいです。その上で、自分が面白いと思ったものを変わらずに信じ続けていくことでしょうか。ファンの大小で物づくりの精神的な部分を変化させたくないですし、一番厳しい観客として育ててきた自分を信じていきたいと思っています。作家になって嬉しかったことのひとつでもありますが、そういった熱量に対して、同じ熱量で挑んできてくれる担当編集さんはもちろん、私に携わっていただくすべての方々に、この人の本や作品に関わっていきたいと心から思ってもらえるよう日々研鑽を続けていきたいです。そして何十年も作家を続けていけたらと思っています。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

剣道ものということで、ラベルとしては変則的というか、ちょっと変わったものが出てきたなという思いもあるかと思います。ただ、キャッチーな王道の要素を踏襲していると思いますし、剣道をわからなくても面白く読んでもらえるとも思います。読み終えた後も剣道をわからなくたって構いません。真っ直ぐなエンタメですので、まずは手に取っていただけたら嬉しいです。プロとして読者のお金と時間を頂くに値するものになっていると信じていますので、何卒よろしくお願いします。また、コミカライズも決まっておりますので、こちらもお楽しみに!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第5回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作家・大城功太先生

 ⇒ 第25回電撃小説大賞「金賞」受賞作家・渋谷瑞也先生

【質問】

私は今作を衝動的に執筆したという背景があります。執筆動機として衝動から、というのも珍しくないのかもしれませんが、こんな作品を書いてみたいと思った時に、参考資料であったり取材であったり、どの程度行われるのか気になっています。いざ執筆するとなった題材に対して、テーマや世界観を描くにあたり、どの程度取材や資料を漁ったのか教えてください。

【回答】

今回の受賞作に限って言えば、自分自身の経験が多くを占めています。ただ、例えば別の題材で作品を書くとしたら、実際にやれることはやってみるが信条です。場所であれば足を運びたいと思いますし、題材を生業にしている人がいれば直接お話を聞いてみたい。特に実際に携わって情熱を持たれている方の言葉は、想像よりも圧倒的な説得力があると思うんですよね。なので、可能な限り調べたり、話を聞いたりはしたいと思います。ただ、取材という名目で何十冊も本を読むかというとそれは違う気がしていて、たぶんやらないと思います(笑)。

――ありがとうございました。

<了>

剣道を嫌い、剣道から去った“元最強”と、孤高の剣道“現最強”の邂逅。互いに袋小路に迷い込みながらも思わぬ出会いや他者との交流で変化していく少年少女の剣道青春ストーリーを綴った渋谷瑞也先生にお話をうかがいました。最終的に欲しいものは理屈を引っこ抜いた“最強”であるということ。『つるぎのかなた』は必読です!

©渋谷瑞也/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:伊藤宗一

[関連サイト]

『つるぎのかなた』特設ページ

第25回電撃小説大賞 受賞作特集サイト

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