独占インタビュー「ラノベの素」 三河ごーすと先生『友達の妹が俺にだけウザい』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年4月15日頃にGA文庫より『友達の妹が俺にだけウザい』が発売される三河ごーすと先生です。友達の妹という絶妙な距離感の女の子が、主人公にだけウザ可愛く迫ってくるラブコメシリーズが新始動となります。作品の裏側や内容についてはもちろん、「ウザかわいい」ヒロインに秘められた魅力、本作の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

馴れ合い無用、彼女不要、友達は真に価値ある1人だけ。青春の一切を「非効率」と切って捨てる俺・大星明照の部屋に入り浸るやつがいる。妹でも友達でもない。ウザさ極まる面倒な後輩。親友の妹、小日向彩羽。

「セーンパイ、デートしよーーっ! ……とか言われると思いましたー?」

血管にエナジードリンクが流れてそうなコイツは、ベッドを占拠したり、寸止め色仕掛けをしてきたりと、やたらと俺にウザ絡みしてきやがる。なのに、どいつもこいつも羨ましそうに見てくるのはどういうワケだ? と思ったら彩羽のやつ、外では明るく清楚な優等生として大人気らしい。おいおい……だったら、どうしてお前は俺にだけウザいんだよ。

――それでは自己紹介からお願いします。

三河ごーすとと申します。第18回電撃小説大賞で「銀賞」を受賞してデビューした後、現在はMF文庫Jから刊行している『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ?』を代表作として活動しています。大学の経営学部を卒業した後にマーケティングリサーチの会社に就職したのですが、その後は文筆業としてライトノベルをはじめ、漫画原作、ゲームのシナリオやディレクションなどにも携わっています。

――三河先生はゲームのシナリオ会社も手がけられていらっしゃるんですよね。

そうですね。ライトノベル作家が所属する創作集団でもあって、いろいろと言えないことも多いんですが、様々な創作物を通してラノベの文化を広げていけたらいいなと思っています。

――好きなものや苦手なものがあれば教えてください。

好きなものは無表情&無口キャラクターです。これは昔からで『Kanon』という恋愛アドベンチャーゲームがあるんですけど、そのサブキャラクターに天野美汐というキャラがいて、大好きなんですよ(笑)。僕自身の創作の原点にはこのキャラクターの攻略ルートが存在しなかったこともあって、これをきっかけに二次創作を書くようにもなりました。苦手なものは英語をはじめとした外国語で、クソザコイングリッシュです(笑)。もし英語さえできていれば、実際になれていたかどうかは別として、ハリウッドの脚本家を目指していたと思うんです。ただ、中高生の頃から本当に英語が頭の中に入ってこなくて……。

――駅前留学とかで英語の勉強を続けようとは思わなかったんですか。

そうはならなかったんですよね(笑)。もともと僕自身が苦手な事をするくらいなら得意な事を伸ばした方がいいという考え方で、苦手としているものを避けがちなんです。ただこれは悪いことばかりでもなくて、避けたものを別の形で補完する方法はたくさんあると思っているんです。得意な事を突き詰めて成功すれば、翻訳者を雇ってなんとかできるんじゃないか、とか。自分自身の英語を覚えるコストがあまりにも高すぎるので、ひとつの方法にこだわらなくてもいいのかなと思っています。

――なるほど(笑)。ハリウッドの脚本家というお話もありましたが、ライトノベルを執筆しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

ライトノベルを書くに至るまではいくつかステップがありました。先ほどの二次創作もそのひとつだったんですが、いち読者としては小さい頃から海外のファンタジー小説やミステリー小説、あとは赤川次郎先生の作品もすごく好きで読んでいました。ライトノベルでは三上延先生の『ダークバイオレッツ』『シャドウテイカー』などのホラーアクション作品が好きでしたね。本以外にも映画が好きで、学生時代にレンタルショップでアルバイトをしていたんですけど、映画を借りまくっていました。ハリウッド映画を中心に棚の端から端まで借りてひたすら映画を見ていたんですよ。その中で特に創作意欲に突き刺さったのが『バタフライ・エフェクト』や『リベリオン』、ディズニー映画の『カーズ』やマーベル作品の数々です。もちろんそれだけではないんですが、誰かの心を震わせるものが書きたいという思いがふつふつと沸きあがってきて、ハリウッド映画の脚本家になりたいと思ったわけです。その後は先ほどお話をした通り、英語の壁にぶつかって諦めようとなったわけです(笑)。

――すごくあっさりと諦められたようでとても意外に聴こえます(笑)。

それが高校3年くらいの時だったと思います。そしてじゃあどうしよう、と色々と考えた結果、ハリウッド映画に日本のコンテンツで何が近いかって考えたんです。それが当時の自分の中ではライトノベルとアニメでした。エンタメの構造としてもキャラクターが魅力的であることや意外な展開にも懐が深いこと、アクションや格好いいシーンがあって、たまにちょっとサービスシーンもある。キャラクターのドラマがストーリーに噛み合って、オチまで持って行ける。『灼眼のシャナ』や『とある魔術の禁書目録』をはじめとした人気作品もそういった構造を綺麗に保っていて、ライトノベルにハリウッドの文脈に近いものを感じたわけです。そうして挑戦を始めて、4、5年経った頃に晴れて作家としてデビューするに至りました。

――そうして作家業を歩まれてきて、若い世代を中心に『Fランク』が人気を獲得しましたよね。その後も『理想の娘』も追随していると思います。そうしてご自身としてもまた新たなシリーズを、これまでとは異なるレーベルからスタートさせました。率直にどんな思いがあったのか教えてください。

今回の企画を始めるにあたっては挑戦という意味合いが大きかったです。この企画を動かし始める前のヒロインの流行や風潮には、従順なヒロインが求められているという、そんな流れを個人的に感じていたところがありました。僕は業界に多様性のある面白さが溢れて欲しいと思っていて、挑戦の風潮はもっともっとあっていいと思うんです。ただ、それを難しくしているのはライトノベルが魅力的な女の子キャラクターを輩出する媒体として最前線にいないのではないか、そんな危機感からきていると個人的には思っています。『灼眼のシャナ』や『涼宮ハルヒの憂鬱』とか、ヒロインの名前で売っていた頃は最前線にいたと思うんです。ただ、決して今はそうだとは言い切れない。ソーシャルゲームではお気に入りのヒロインやキャラクターをいくらでも育成できるし、バーチャルとリアルのギャップが魅力的で独特のキャラクター性を生み出しているVTuberも登場しています。これらに文章という創作で勝とうと思うと並大抵ではないし、めちゃくちゃ考えないといけないぞ、と強く思うようになりました。

――なるほど。となると、本作にはどういった挑戦を主に意識されたのでしょうか。

これは僕自身の考えですが、従順だけのキャラクターではキャラクターコンテンツの最前線に戻ることは無理だと感じていて、今作のテーマでもある「ウザかわ」という、主人公にとってのストレスにも踏み込むような可愛いキャラクターで挑戦しようと考えたわけです。もちろんただストレスになるだけでは意味がなく、主人公の思い通りにはならないが従順ヒロインと同じくらい、あるいはそれ以上に「男の子の理想」となれるキャラクター像が必要なわけですが。そしてキャラクターの魅力を最大限に推しだすためにもラブコメで挑戦しようと。「ウザかわ」系の作品は漫画でも登場してきていますし、人気VTuberの中には視聴者を煽るようなキャラクターもいるじゃないですか。ライトノベルでも挑戦の価値は十分にあるだろうと感じました。GA文庫さんから出版することになったのは、いろいろなところとお話をさせていただいた中で、ウザかわに関して一番波長が合致したのが、GA文庫の担当編集さんだったということですね(笑)。

――それでは新シリーズ『友達の妹が俺にだけウザい』はどんな作品なのか教えてください。

物語には超効率厨の主人公に対してウザ絡みしてくる友達の妹というテーマがあります。主人公はそんな彼女を鬱陶しく思いながらもなんだかんだで充実した生活を送っているわけです。その一方で仲間たちと夢を叶えるため、大企業への就職特急券を手に入れるべく、従姉妹のニセ彼氏になることを請け負い、周囲との関係性が少しずつ変化していくことになります。この物語は「ウザかわいい」ヒロインはもちろん、「仲間」の姿を描きたい作品でもありました。少し尖り過ぎているがゆえに、周囲の人間や社会とうまく馴染めていない仲間同士でつるむ姿というか、夢を追いかける、そんな物語でもあります。

※頼んでないのに寄ってくるウザかわJK

――作品のスタートはやはり「ウザかわヒロイン」から動き出したのでしょうか。

実はこの作品はタイトルが先行して生まれたんですよ(笑)。担当さんと色々なお話をしている時に出てきたもので、タイトルにパワーがある、これは面白いものになりそうだと。そこから肉づけをしていった感じです。

――タイトル先行の作品だったんですね(笑)。こうしてタイトルを見ると「友達の妹」というキーワードも特徴的だと思うのですが、このワードはどういった経緯で生まれてきたのでしょうか。

なぜただの妹ではなく、友達の妹だったのか、ということですよね(笑)。僕の主観ですが妹モノの作品はたくさんあるのに、後輩モノの作品がまだまだ少ないと思っているんですね。先輩と言って慕ってくれる後輩キャラクター、いいと思うんですが、思っている程に浸透していないと感じるんですよ。妹や姉、幼馴染みや委員長といった属性と比べると、ひとつ浸透度が落ちるというか。

――言わんとしていることはなんとなくわかります(笑)

でもただの後輩だと距離感として少し遠いと思うんです。そこから考えて、後輩でありながら主人公と絶妙な距離感で描けると思ったのが「友達の妹」だったんです。加えて家族である「妹」とは異なる、異性としてのちょっとした生々しさも欲しいと思っていました。この距離感が好きな方、決して少なくないと思うんですよ(笑)。頭の中でも、友達の妹って想像しやすいと思うんですよね。

――距離感というお話は大変興味深いですね(笑)。そんな本作には「友達の妹」をはじめ、二人のメインヒロインが登場します。それぞれどんなキャラクターなのか教えてください。

まず一人目は表紙でも描かれている小日向彩羽。ウザくて可愛い友達の妹です。彩羽はウザいモードと優等生モードの二つの顔を持っていて、学校や他所では優等生モード、そして主人公の前でだけ遠慮のないウザいモードを発揮します。ウザい姿も優等生な姿も両方が彼女の本質で、主人公の前でだけウザいのは心を開いている証拠でもあるんです。心を開いているからこそ、どちらの顔も見せられる。計算してわざとウザくしているわけではないんです。彼女は本当にいろんな面を持っているキャラクターで、第2巻以降も様々な姿をお見せすることができるんじゃないかと思っています。

※友達の妹の小日向彩羽・キャラクターデザイン

もう一人のヒロインは月ノ森真白ですね。一言で表すなら陰キャです。主人公の従姉妹でもあって、主人公が叔父に就職の便宜を図ってもらうにあたり出された条件が、彼女のニセ彼氏役を務めることでした。主人公に対してはひたすら毒舌塩対応のキャラクターではあるんですが、主人公以外には常にビクビクおどおどしてしまい、まともにコミュニケーションが取れません。地頭はいいんですが、他人との接し方が本当に下手くそで、カップルを見たら爆発しろと心の中で囁いているようなキャラクターでもあります。本当にこじれた性格をしていて、陰キャである自分が周囲に惨めだと思われないために頑張ってオシャレをしていたりもするんですよね。彼女の毒舌塩対応は主人公に心を開いている証拠でもあるので、暖かく見守ってほしいです(笑)。

※従姉妹の月ノ森真白・キャラクターデザイン

――そんなウザ絡みをしてくる二人のヒロインに板挟みとなる主人公はどんなキャラクターなのでしょうか。

主人公の大星明照は頭がおかしいんじゃないかってくらい徹底した効率厨です(笑)。なんでそんな効率重視なのかは本編を読んでいただければと思います。その一方で効率重視と言いながらも、仲間や身内になった人間には甘い面を覗かせることも少なくありません。ウザ絡みされてもなんだかんだ充実した生活を送っているのはそういう面もあるからです。主人公も決して人付き合いが上手いわけではなく、限られた友達しか作らないことを理屈で押し通す、理屈ぼっちみたいなキャラクターでもありますね。

※徹底した効率厨であるという主人公の大星明照・キャラクターデザイン

――あらためて本作のテーマでもある「ウザかわいい」について、三河先生はどんな点が魅力だと考えられているのでしょうか。

「ウザかわいさ」の魅力はこちらがアクションを起こさなくても向こうから勝手に絡んできてくれるところですかね。従属性が強いわけではなくて、きちんと自分の意思を持ってグイグイ来る感じが絶妙だと思っています。人間味を持ちつつ、男の自尊心をくすぐってくる感じがなんとも。あとはウザくあたれるって、究極に心を開いている証拠だと思うんですよ。心を開いていない相手にウザくしたら嫌われるかもしれないわけで、そうそうウザく当たれないと思うんです。自分に対してだけウザくあたってくれることの尊さ。それが魅力です(笑)。

――「ウザかわ」の魅力が詰まった本作のイラストはトマリ先生が担当しています。イラストを見た印象はいかがでしたか。

すべてのイラストが神懸かっています。彩羽がベッドに横たわるイラストを見た時は、自分自身文章で「でっか」って表現をしていたんですけど、まったく同じ感想を抱きましたよね(笑)。後は明照が彩羽をおぶっている一枚も印象的ですし、作家人生でいつか作品に盛り込んでやろうと思っていた麻雀シーンにもイラストが入って感慨深いです。カラーイラストでは彩羽と真白の二人に挟まれる明照の口絵も、ヒロイン二人の特徴がしっかりと描かれていて本当に素晴らしいです。

※文章を超えるインパクトがあったという1枚

※二人のウザかわヒロインに注目!

――ご自身で本作を振り返ってみて、どんな方が読むとこの作品をより楽しんでもらえると思いますか。

主人公が格好良くて女の子が可愛い、そんな王道ラブコメが好きな方にはぜひ読んでいただきたいです。そしてウザかわヒロインが好きな方。ウザかわシーンを楽しんでいただきながら、ちょっと起伏のあるドラマも楽しんでもらって、二粒楽しいみたいに感じていただけたら嬉しいです。あとは僕の作風や書き味が好きな方や青春モノが好きな方にも面白く読んでいただけるのではないでしょうか。『Fランク』のヒロインズの魅力性に近いキャラクターも登場するので、『Fランク』好きにもしっかりと楽しんでいただけると思います。また、この作品の特徴として各章の終わりには主人公と彩羽の兄でもある乙馬との会話シーンや独白シーンが描かれています。それぞれの章の物語にツッコミを入れながら物語のメタ的な感想を述べていく、そんな構造をお約束にしていこうと思っているので、こちらもぜひ楽しんでいただければと思います。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

目標はこの作品をヒットさせることですね(笑)。特定のやり方、特定のルートじゃなくても売れる作品を作れるし、型に縛られる必要はないということがもっと浸透してくれたら嬉しいと思っています。あとは個人でLINE@というサービスを使ってアカウントを運営しています。これをもっと充実させたいなと思っているんですよね。何か作った際にコアなファンの方へ直接情報を届けたり、密なファンサービスを充実させることができればと思っています。

――それでは最後にご自身のファンや本作に興味を持った方、読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

まずは僕の作品を追いかけていただいている読者の方に感謝の言葉を届けたいです。TwitterやLINEで応援していただいたり、ファンアートも描いていただいたり、たくさんの熱心な読者に支えてもらっています。特に中高生といった若い方に応援していただくことも多くて、限られたお小遣いを工面して手に取っていただいていることには感謝ばかりです。1冊1冊、がっかりさせないよう期待に応えられるように書いていくことが義務だと思って頑張っているので、引き続き応援していただけたらと思います。そして本作を読もう、買おうと思ってくださっている皆様。タイトルやパッケージ、あるいはトマリ先生の神イラストで「面白そう」と感じたらぜひ手に取ってみてください。可愛いキャラクターたちの掛け合いや、意外と熱いドラマ性であったり、様々な角度から楽しんでいただけると思っています。そして楽しかった、面白かったと感じたら、ぜひめっちゃクチコミしてください、よろしくお願いします!(笑)。

――本日はありがとうございました。

<了>

自分にだけウザ絡みをしてくる友達の妹、毒舌塩対応で接してくる従姉妹、そんな二人のヒロインを中心にして新たなシリーズをラブコメで描く三河ごーすと先生にお話をうかがいました。「ウザかわ」だけでなく意外なドラマ性にも注目してもらいたいという本作。絶妙な距離感で描かれるラブコメはどんな展開を迎えていくことになるのか、『友達の妹が俺にだけウザい』は必読です!

©三河ごーすと/ SB Creative Corp. イラスト:トマリ

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