独占インタビュー「ラノベの素」 井中だちま先生『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年4月20日にファンタジア文庫より『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』第8巻が発売される井中だちま先生です。第29回ファンタジア大賞「大賞」受賞作にして、憧れだったゲーム世界への転送に、息子を溺愛するお母さんも同伴して始まる冒険コメディを描く本作。お母さんラノベはどこへと向かうのか、そして2019年7月から開始となるTVアニメ放送について、いよいよ発売となる第8巻の見どころとあわせてお聞きしました。
【あらすじ】 リベーレ四天王を操る黒幕ハハーデスの計画によってゲーム世界を未曽有の危機が襲う。世界を救うのはもちろん勇者真人ではなく……「大好きなあなたをぎゅーっと抱きしめちゃう」アイドルになった真々子!? |
――それでは自己紹介からお願いします。
第29回ファンタジア大賞で「大賞」をいただきデビューしました井中だちまです。出身は静岡県で高校卒業と同時に上京して、ギターを製作する専門学校に入学しました。その後にはオーストラリアに3ヶ月ほど語学留学、そしてニュージーランドに9ヶ月くらいバックパッカーとして渡り歩いていました。もう10年くらい前の出来事ですけど(笑)。
――積極的に海外へと渡られていたんですね。
正直どこまで言ったものかという思いはあるんですけど、今風に言うと「異世界の扉を探しに行ってきます」みたいなノリというか、ニュアンスというか(笑)。日本にはない異世界の入り口が世界のどこかにあるんじゃないかと。とりあえずリュックを背負って、トレッキングルートを一人で回ったり、都市部にある図書館で本を読んで勉強をしたり、ガチガチの冒険というイメージではありませんでしたけど。結局、異世界の扉は見つかりませんでした(笑)。
――思わぬ理由が飛び出して驚きました(笑)。異世界への扉を探しに行ったというお話でしたが、そういった影響を及ぼしたであろうエンタメコンテンツにも多く触れられてきたのでしょうか。
そうですね。一番は家庭用ゲーム機でファンタジーRPGをよく遊んでいました。その影響でファンタジーは好きでしたし、一時メタル系の音楽にハマっていた時期もありましたけど、やっぱり戻ってきちゃいましたよね。そして気付けば作家にまでなっているわけですから不思議なものです(笑)。
――実際に小説を書きはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。
きっかけはバックパッカーとして旅をしていた時に勉強として様々な本を読んだこと。そして、現地でバックパッカーの集まりのようなものがあって、そこで「この旅を終えたら何をする?」という話になったんですね。それで「じゃあ自分は作家をやるよ」って。周りからも「いいじゃんやれやれ」みたいなノリで送りだされて帰ってきて、それじゃあ挑戦をしますかと小説を書きはじめました。スタート地点はそこですね。そこからコツコツ50作品以上の一次選考落選を乗り越えて今に至ります。
――好きなものや苦手なものについて教えてください。
好きなものは晩酌の時間ですね。毎晩一人で飲むスタイルです。苦手なものは人付き合いですかね。バックパッカー時代のような、二度会うことはない一見さんならそこまで苦ではありません。なぜならその場でしか会わないので何を言ってもいいわけで。ただ、付き合いが発生すると途端に苦手になりますね。付き合いという関係性の維持が大変といいますか。なんというか、外に出たり人付き合いをしたりだとかは、バックパッカー時代に全部やり尽くした感があって、その達成感と満足だけであとはいいかなって思ってます(笑)。
――ありがとうございます。それではあらためて『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』はどんな作品なのか教えてください。
一言で言うと、ゲームの世界でお母さんと一緒に冒険をする物語ですね。この物語はラブコメにあたるのかなとは思うんですけど、真々子と真人は親子なのでラブコメにはなり得なかったりもしていて、ジャンルはお母さんラノベとしか言いようがない(笑)。登場するお母さんもラノベで書く以上は若くて綺麗なお母さんをイメージしようと思ったくらいで、気が付けばチートでやりたい放題できちゃうお母さんと、そんなお母さんの影で活躍できない息子というコメディ作品になっていました(笑)。
※母親の活躍に翻弄される子供たちの姿も楽しい冒険コメディ
――題材としてお母さんを用いようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
賞に応募していた頃は、これといったこだわりなくいろんな作品を書いていました。とにかく毎月1本作品を書くことを続けていたんですが、どうしてもネタが尽きてくるわけです。生活費も最低限しか稼いでいなかったですし、インターネットも引いてなかったので、情報の供給源はテレビくらい。そんな折にたまたまテレビで「ママっ子男子」という言葉が紹介されていたんですね。思春期の男の子なんだけど、反抗期みたいなものがなくてお母さんと仲が良い。でもマザコンというわけでもない、そんなニュアンスだったと思います。それを見て「ヒロインお母さんでもよくない?」と思って書きはじめました。当時の執筆環境も娯楽を得るには自分で物語を書いて楽しむ、というくらい自分を追い込みながら書いていたので、そのまま習慣に沿って書き上げた感じです。ゲーム世界を採用したのも、ネタに困らないだろうと思ったのと、自分も慣れ親しんだものだったので、十分活用できるだろうと。まさか応募の結果受賞するとは思っていませんでしたが(笑)。
――本作はコメディ作品でもあると思うのですが、もともとコメディはお好きだったんですか。
そうですね。今振り返ると投稿時代の作品も多くがコメディだった気がします。個人的にはシリアスよりもコメディの方がとっつきやすいのかなと思っているのと、自分自身の性格的にシリアスを素直に受け入れられないといいますか。自分で真面目なシーンを書いていると恥ずかしく感じることが多くて、どうしても茶化したくなっちゃうんですよ。恐らく真面目な空気というか、自分が真面目なことをやっている姿そのものが嫌なんでしょうね(笑)。茶化さずにはいられません。
――今の言葉から、作中に登場する白瀬さんの存在意義をすごく理解できた気がします。
本当にその通りで、白瀬さんはすごく書きやすいですし一番筆の乗るキャラクターです。物語の案内役であり、彼女もまたお母さんという作品の色を踏襲しているキャラクターです。主人公たちを茶化すのが彼女の仕事のようなものなので、白瀬さんも含めて楽しい作品、茶化す作品を目指して書き続けています。
※ナビゲーターでありながらも茶化さずにはいられない白瀬さん
――ちなみに投稿時代は毎月1本作品を書かれていたとのことで、非常に速筆ですよね。一方で異なる作品を書き続けることと、同じ物語を掘り下げてシリーズを書き続けることには違った難しさがあると思うのですがいかがですか。
これはとてもお世話になっていますとしか言葉がないくらい担当編集さんを頼りにしています。8冊目も発売されるわけですけど、ここまで続く物語は当然書いたこともありませんでした。ぶっちゃけ第2巻を執筆する段階からめちゃくちゃ困りましたよね。そもそも続きをどうやって書けばいいのかと(笑)。加えて、担当編集さんとよくお話していたのが、この作品は過去に例のない新たな地平を歩んでいることを前提にしようということでした。いわゆる王道の流れも自分たちで作っていかなくちゃいけない。お母さんが一緒に冒険する物語は、次に何をやればいいのか、どうしたら面白くなるのか、毎回どうすればいいんだって状況が続いていました(笑)。これは今も担当編集さんと一緒に模索しながら執筆を続けています。
――それではキャラクターにも触れていきたいのですが、本作の「お母さん」たる大好真々子は理想のお母さん像の集大成というイメージなのでしょうか。
いや……一言で「理想のお母さん」と言っても難しいじゃないですか。いいとこ取りという言葉が正しいかどうかわからないですけど、少なくとも嫌われるお母さんにはしないように気を付けてはいます。やっていることは無茶苦茶なところがあるかもしれませんけど(笑)。特別な母親というよりは、母親というものを包括した存在が大好真々子なんだと思います。大変ありがたいことに、第1巻の発売時にはイメージにぴったりだった声優の茅野愛衣さんに声をあてていただいて、キャラクターの台詞ひとつにしても大きなインスピレーションをいただくことができたのは本当にありがたかったです。
※母親というものを包括した存在だという大好真々子
――母親の包括的な存在というのは大変興味深いですね(笑)。さて、そんなお母さんに出番や活躍の機会を断たれまくっている子供たちについても教えてください。
大好真人は大好真々子の息子で、母親の活躍に最も出鼻を挫かれている主人公です。思春期で反抗期であるといいながらも、あんまり反抗しないタイプの男の子でもあって、お母さんと一緒に冒険を続けることができています。中高生の男子は母親にベタベタされ過ぎるのを避けたり、ちょっとした反発の気持ちを持ったりする傾向があると思うのですが、そういった思春期男子が持っている感性を踏襲しています。至極一般的な男子高校生だと思って書いています。
※母親に振り回されている大好真人
ワイズは応募原稿の当初、真人とラブコメを演じる方向性にいたキャラクターでした。残念ながら、今はその面影がほとんどありませんけど(笑)。ワイズはいじられることで活きてくるキャラクターだとも思っていて、自分の中でそう定着してしまって、恋愛という感じは薄れて残念な子になってしまっているかもしれません。真人から見ると一番仲のいい女友達。そんな立ち位置にあるのだと思います。真人と二人で、真々子の活躍シーンにポカーンとする場面もそういった関係性の象徴になっているかもしれませんね。
※イジられればピカイチ(!?)なワイズ
※真人と共に真々子の活躍に置いてけぼりとなるシーンもお馴染み
ポータはマスコットキャラクター的な癒し系の存在です(笑)。真々子は頭抜けている、そして真人とワイズが賑やかし役になっており、自分でもこの物語はどこで落ち着けばいいんだろうと考えた時にポータの存在がありました。著者的な立場からも清涼剤と心の拠り所でもあります。
※マスコット的な存在として定着しているポータ
メディはワイズに対するカウンターパンチ的存在ですね(笑)。一応登場にあたってはコンセプトもあって、正ヒロインだけど正ヒロインではないという矛盾したキャラクターなんですよ。執筆当初はヒロインとしての意志をもってのぞんでいたはずなんですが、気付けば程遠いポジションになってました(笑)。メディとワイズがぶつかるシーンや喧嘩の仕方はまさに女友達という感じで、女の子同士の姦しい様子も描きたかったというのもあります。ワイズとはいいコンビになっていると思いますし、真人が冒険してもヒロインから好かれないという理不尽さを際立たせているヒロインの一人だと思っています(笑)。
※ヒロインとして遠のいているというメディはワイズとのコンビも魅力
――シリーズとしては8冊目に突入するわけですが、ここまでの物語を通して一番成長しているキャラクターは誰だと思いますか。
やっぱり真人だと思います。主人公として、こんなにも過酷な状況でよく頑張ってくれていると(笑)。当初から成長してほしいとは思っていましたし、その一方で成長のチャンスや機会をお母さんに持って行かれてしまう。それでもじょじょに変化はあって、自分自身も少しずつ真人を活躍させてあげたいと思うようになってくるんです。子供たちだって頑張らなくちゃいけないと(笑)。なので、ちょっと真人たちが活躍しているなってシーンがあれば、それは書き手として真人たちへのご褒美だと思って書いています(笑)。
※真人の活躍の日も近い!?
――これまで本作では数々のイラストが飯田ぽち。先生によって描かれてきました。お気に入りや印象深いイラストがあれば教えてください。
第1巻のカバーイラストも印象的なんですが、個人的には去年のファンタジア文庫大感謝祭でお披露目されたアニバーサリーのイラストが気に入っています。ドレス姿の真々子のイラストですね。ヒロインとしてもお酒がOKで、シャンパンを持っている特別感も凄く印象的でした。
※特に印象的だったというアニバーサリーイラストの真々子
――そしてお母さんラノベである本作は2019年7月からいよいよTVアニメの放送が行われます。
大変ありがたいことです。いただけるものはなんでもいただくという姿勢なので、すべてにおいて楽しみしかないです。大好真々子役の茅野愛衣さんは、この作品の当初から声をあてていただいている声優さんなので、読者さんからも安心して見ていただけるアニメになっているんじゃないかなと思います。放送をどうぞお楽しみに。
※今夏いよいよお母さんがテレビアニメになって登場する
――以前あとがきの中で、お母さんラノベとは何かをずっと考えていると書かれていましたが、アニメも控える中で見えてきたものはありますか。
お母さんラノベとは……まだちょっと難しいですね(笑)。お母さんヒロインに対して何を求めるのかということですよね。こういうお母さんがいてくれたらというのもちょっと違うと思うし、真々子と自分の母親を比べてほしいわけでもなく……。とりあえず、お母さんという言葉やイメージに触れてもらうことに何か意味があって、その言葉やイメージに触れてから個々がどうするのか、そこに意味があるのかもしれないし、ないのかもしれません(笑)。今はお母さんという言葉を押し出せただけで十分に価値があると思うことにします。アニメが放送されることでまた違った景色が見えるかもしれませんしね(笑)。
※お母さんラノベがどこへ辿り着くのか読者としても目が離せない
――それでは発売となる最新8巻について、見どころなどを教えてください。
第8巻はポータに関する物語とも言えると思います。新たなひとつの親子関係を考えてもらえたら嬉しいですね。真人、ワイズ、メディたちも頑張っていますし、HAHAKOとアマンテやソレラ達にも注目をいただけたらと思います。そしてワイズやメディの母親も久しぶりに登場します。あらすじでも書かれている通り、アイドル展開があります。真々子を含むお母さん3人のコスチュームにも注目してもらえたらなと思います。口絵には私が作詞したお母さんのシングル曲も書かれていますので!
※第8巻はポータ、そして久しぶりの登場となるワイズとメディの母親にも注目!?
――今後の目標や野望があれば教えてください。
アニメ化はこれから叶いますので、次は目指せ実写化でしょうか(笑)。ハードルが高そうですが、この作品の推しはお母さんという存在なのでワンチャンあると期待しています。配役的にもかつてアイドルで活躍していた方でお母さんになられている方もたくさんいますし、そういった層へアピールもできるのではと。親子のストーリーという点でも幅広い年齢層に興味を持ってもらえると思うので、オファーお待ちしております(笑)。お母さんという存在・キャラクターだからこそ、二次元を飛び越えて面白いことができると思うんですよね。ハリウッドでの実写化でも大歓迎です!
――それでは最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
ただただ、ありがとうございます。期待に沿えるものが書けているかどうか……むしろどんなものが期待されているのかを認識しづらいところではあるのですが、とにかく思ったものを書いてみて、お母さんという存在を大事にしながら、作品を楽しんでもらえたらそれで嬉しいです。第9巻も鋭意制作中ですのでどうぞお楽しみに。そしていち作者として、この作品を叩き台にして、自分ならこんなお母さんキャラクターを書けるだとか、こんな面白い作品を書けるだとか、出てきてくれるのも楽しみにしています。お母さんラノベというジャンルをひとつの作品で盛り上げていくのは難しいので、どんどんお母さんヒロインが増えたら……どうなるのかはわかりませんけど、新たなジャンルになれるのかどうか、その試金石として戦力はいくらあっても困りません。書き手の方にもぜひ挑戦していただいて、お母さんラノベの間口を広げていきましょう。期待して待っています、よろしくお願いします!(笑)。
――本日はありがとうございました。
<了>
母親同伴でゲーム世界の冒険譚を、そして子供たちの苦悩や活躍を描く井中だちま先生にお話をうかがいました。TVアニメの放送を今夏に控え、第8巻ではポータを巡る新たな親子関係にもフォーカスされることになります。アイドルになった真々子、それを迎える真人や子供たちの反応も楽しみな『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』第8巻も必読です!
©井中だちま/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:飯田ぽち。
©2019 井中だちま・飯田ぽち。/株式会社KADOKAWA/お母さんは好きですか?製作委員会
[関連サイト]
TVアニメ『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』公式サイト
『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』原作特集ページ