独占インタビュー「ラノベの素」 つちせ八十八先生『スコップ無双』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年4月25日にMF文庫Jより『スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д ゜ ;;;).:∴ドゴォォ』第2巻が発売されたつちせ八十八先生です。『ざるそば(かわいい)』で衝撃的なデビューを果たした同氏が贈る、スコップという幻想をもとに描いた王道ファンタジー作品。スコップはもちろん、ありとあらゆる幻想を集約して誕生した作品の裏側やその内容、そして発売された第2巻の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

砂漠のドラゴンをスコップ波動砲で撃墜したアラン達は水の巫女改めすこ巫女・ユリアの温泉スコップ(えろい)を満喫しつつ、オーブ探索の旅を続けていた。次に訪れた氷の国では古代の賢者・リーズフェルトの記憶を鉱夫禁忌教典で掘り起こし、敵を鉱夫隕石招来で一撃粉砕。オーブも楽勝入手。とてつもないスコップ無双で旅は順調そのものだがリティシア姫はふと不安を覚える。オーブが集まれば旅は終わり、鉱夫様ともお別れ。それでもお傍にいたい姫は、なぜか世界征服の決意を固めてしまう。「私は人を超えます――すこぷりんせすですこっぷ!」 震えよ人類、これが究極のヒロインだ。超英雄ファンタジー、衝撃の第二弾!

――それでは自己紹介からお願いしますこっぷ。

つちせ八十八です。第11回MF文庫Jライトノベル新人賞「優秀賞」を『ざるそば(かわいい)』で受賞してデビューしました。出身は野球のオリックス・ブルーウェーブというチームが本拠地にしていたグリーンスタジアム神戸の近くで、イチローが活躍していた頃によく球場へ足を運んでました。

――つちせ先生はザッPという名義でニコニコ動画でもご活躍されていますよね。

そうですね。ニコニコ動画で「P@ranoia M@ster」と題して「パラノイア」というTRPGのリプレイ動画を公開しています。未だにこっちの名義の方が自分のことを知ってくれている方は多いのかもしれません。

――ご自身の創作活動の場はニコニコ動画が中心だったのですか。

ニコニコ動画へ投稿を始める前は二次創作を書いていましたし、ニコニコ動画へ投稿をはじめた後も、やる夫スレなんかで書いていました。そんな中で動画の反響も大きく、視聴者からの応援の声もあって、挑戦してみようと思ったのが作家を明確に目指したきっかけでした。長らく二次創作ばかりを手掛けていたので、一次創作としてのプロになれるとは思ってなかったんですけど、動画時代から登場させていた女の子が個性的で可愛いという声と、ギャグが面白いという声を多くいただいていたので、強みになるとすればこの二つだと考えていました。受賞前の投稿作品もラブコメで、個性的なヒロインが登場して主人公を振り回していました。

――ざるそばや本作のリティシアを見ていると非常に頷けるポリシーですね。オリジナルを書くにあたっては参考にしたり影響を受けたりした作品はありましたか。

大学時代に『指輪物語』を読んで、こんな物語を書きたいと思ったけど3秒くらいで挫折しました。漫画はかなり読んでいて『パタリロ!』や『すごいよ!!マサルさん』、『まんが道』などは面白く読んでいました。演出の原点はこのあたりの作品に影響を受けているかもしれません。ただ、ライトノベルを書く上では特定の何かに憧れていたわけではなく、単純に面白いものが書けそうだと思ったから書きはじめた感じです。好きな漫画や小説はいっぱいありますけど、それらを目指そうと思ったわけではなかったです。

――好きなものや苦手なものがあれば教えてください。

戦略シュミレーションゲームやTRPG、あとは『風来のシレン』や『トルネコの大冒険』のようなローグライクゲームが好きです。海外の『Diablo』とか『Nethack』とか『Angband』とかも。苦手なものは……アニメを見るのが苦手です。理解の速度とテンポが合わなくて、全体的に遅く感じることが多いです。そういう意味では視聴の仕方が下手なのかもしれません。ただ、情報密度がとにかく濃い映像作品はすごく好きで、最近だと映画の『スパイダーマン スパイダーバース』や、アニメでは『けものフレンズ』の第1期は面白く視聴できていました。

――ありがとうございます。それではあらためて『スコップ無双』はどんな作品なのか教えてください。

この作品はスコップで無双する王道ファンタジーです。前提として、スコップはファンタジーです。中世ヨーロッパ系のファンタジーではなく、もっと広義のファンタジー。スコップは第二次世界大戦以前から幻想の対象のひとつであって、刺せるし殴れるし割れない最強の武器と言われています。ある意味では剣よりもずっとファンタジーの詰まったアイテムです。そしてこの物語はオーブを集めてプリンセスの国を取り戻す旅が描かれます。基本構造は『指輪物語』と一緒で、神秘を求めて旅をする幻想譚なんです。そしてすべてのオーブはアランが掘り出したものであり、スコップによって掘り出されています。このオーブを集めれば国を取り戻すことができる、そんなオーブを掘り出したのはアランでありスコップである。ここにもスコップは最強であるという幻想を組み合わせているわけです。つまりスコップは幻想の証であって、だからこの物語は王道ファンタジーだと言い切れると思うんです。わかりますでしょうか。

※この物語は王道ファンタジーである

――わかりま……せんけど何かは感じました。続いてスコップという幻想の中に生きるそれぞれのキャラクターについて教えてください。

主人公のアランは鉱夫です。ひとつのことをひたすら突き詰めるキャラクターで、精神性や外見的なイメージは宮本武蔵をイメージしていました。自分ひとりで孤独に何かを求め続け、その結果として常人には理解不能な地点に到達してしまった。アランについてはもともとおかしい主人公を書きたかったというのもあったんですよね。『ざるそば(かわいい)』の時も『クソゲー・オンライン(仮)』の時も主人公は普通だったので、次の主人公は最初から常人ではないような、そんな主人公を書こうと。今までの作品でヒロインが持っていた特異性を主人公に持たせたくて誕生したのがアランです。登場人物の中では、彼が一番人間から外れています。

※地上最強の鉱夫・アラン

リティシアはプリンセス・オブ・プリンセスです。彼女はピーチ姫であってローラ姫であってゼルダ姫でもある、ゲーム世代が抱くプリンセスの象徴であり幻想でもあります。いつもドレスっぽい衣装やティアラを身につけているし、プリンセスっぽくないところがひとつもありません。これは憂姫はぐれ先生の力も非常に大きかったです。まさに完璧なプリンセスと言っても過言ではありません。そしてリティシアはスコップの凄さを見せるための象徴でもあります。登場時はあんなにもお姫様なのに、一瞬でスコップに突き抜けたキャラクターになる。あんなにも王道の真ん中にいたはずのお姫様が、一瞬で染まってしまう。それがスコップの恐ろしさでもあるわけです。

※すこぷりんせすこと、リティシア

そしてこの物語は主人公、お姫様、騎士の3人がメインパーティーであり、カチュアも重要なキャラクターの一人です。読者の視点に一番寄り添ってくれているキャラクターでリティシアが突き抜け続けている中で、物語との融和を図る役割を見事に果たしてくれていると思います。彼女はコンプレックスの塊であり、人間的な弱さを一番抱えているキャラクターでもあります。中途半端なところが非常に多く、ゆえに染まろうと思っても染まりきれない。その結果、読者に一番近いキャラクターとして存在しています。

※カチュアの存在はこの物語に欠かせない大切なピースのひとつ

――先ほども少し触れましたが、リティシアもご多分に漏れず強烈なヒロインですよね。

第1巻のあとがきでも触れたのですが、ヒロインの魅力はカリスマにあると思っていて、カリスマと言えば宗教の教祖だと思うんです。動画の頃からなのですが、私の書くメインヒロインってだいたい宗教を作っていて読者が信者になるんですよね。ざるそばもある意味そうでしたし、リティシアは神聖スコップ教団なるものを作ろうとしているわけで。そもそもライトノベルにおけるヒロインとは「かわいい女の子」という幻想の象徴だと思うんです。王族でお姫様でもあるリティシアが、完璧な貴人ではなくついついスコップに溺れてしまうポンコツ具合を発揮するのもヒロインの魅力を高めていると思っています。

※すこぷりんせすのカリスマ性も魅力

――また、カチュアの存在は読者としてもすごく貴重だと思う一方で、いつスコップに飲み込まれてしまうのかとハラハラしてしまいます。

カチュアがスコップのことを意識しているうちは大丈夫です。ただ、この意識のラインの上げ下げは、読者を意図的に揺さぶってもいます。カチュアに共感してもらえれば、カチュアの反応が読者の反応になっていき、カチュアがスコップを意識しなくなればなるほど、読者もスコップに疑問を抱かなくなっていくと思っているので。

※読者の多くはスコップに抗うカチュアを応援している……はず!?

――読者を侵食していく物語でもあるのですね(笑)

そうですね。まず読者の常識があって、遠く離れたところにスコップという非常識があって、そこへと近づけるために読者の常識の幅を広げていくことで、気付いたら自分もスコップになっていた、いう状況を作っていきたいです。そうすることで独自の面白さが生まれると信じていますし、そこに向かって挑戦しています。行き過ぎると新規の読者が読みづらくなってしまう気もしますけど、第1巻から読んでもらえれば大丈夫でしょう。たぶん。

――本作についてこれまで執筆してきたシリーズとはご自身としてどんな違いを意識されたのでしょうか。

さっきも言った通り、ヒロインの特異性を今度は主人公に持たせたかったというのがひとつです。そしてもうひとつがファンタジーであること。『ざるそば(かわいい)』も『クソゲー・オンライン(仮)』もベースは現実なんですよ。現実をベースにすると、壊しにいくものって現実の常識だとか壁だとか、そういったものをテーマにすることが多いと思うんですけど、こっちはファンタジーであって幻想なんですね。求められるものはファンタジーの引き出しであって、私自身現実の引き出しがあんまり多くないので、より得意に書けるんじゃないか、そして自分自身も気持ち良く書くことができるんじゃないかって期待しているところは大きいです。

――アランのスコップは様々な技であったり、言葉への介入といった用途の幅広さも特徴だと思います。幻想の産物ゆえに為しえている事柄も非常に多いですよね。

前提として、スコップは幻想の中の幻想で、つまりすべての幻想に繋がっています。ゆえに、波動砲でもメテオでも時止めでもいかなる幻想でも放てます。ではなぜ放てるのかという点、ここを私の足りない頭でファンタジーの引き出しから捻出してきています。私の役割はあくまで、スコップが幻想を介して成しえることへの理由作りであって、ここが一番苦労している点でもあります。また言葉への介入については、言葉も幻想であって、「掘る」や「埋める」という言葉はそれだけでスコップと結びついている。言葉を媒介にして様々なものと結びついていて、「墓穴を掘る」だとか「他人との溝を埋める」だとか、この語感で結びつき通じるものがあると思うんです。今はスコップから始まってますけど、やがてこれは「すこ」になり、「すー」だけになって、いずれ言葉を使うことそのものがスコップへと繋がる世界になるはずです。そこまでは勢いがまだ足りませんけど。すみません、意味は通じてますでしょうか。

※スコップはすべての幻想に繋がっている……!

――通じて……はいませんが何かは感じています。作中でもリティシアが「すこ」や「●●すこっぷ」といった言葉をよく使うと思うのですが、読者としてはこのスコップ言語とどう向き合うとより楽しく読めると思いますか。

頭を空っぽにしてとはよく言いますけど、向き合わなくても考えなくても、まして受け止めていただく必要はないなと思ってます(笑)。受け取ってほしいものはあくまで雰囲気であり、幻想であり、本当の意味ではありません。もちろん本当の意味を私は考えて書いてますけど、それを受け取ってほしいわけじゃない。「すこ」や「すこっぷ」、そんな言葉が自然とくっ付いてきてしまうという事実だけを受け取ってほしいです。

――理解をする以上に楽しんでもらいたいということですね。

本当に無理に理解する必要はありません。構造的に分析すれば理解できるとは思いますが、これはあくまでエンターテイメントであって、楽しむものなんです。理解や分析をしてもらうものではないんです。しいていうならばその奥に何か意味があるらしい、そんな幻想を楽しんでほしいです。

――リティシアについて憂姫はぐれ先生の力も大きい、というお話もされていたかと思います。『ざるそば(かわいい)』以来の再タッグということもあり、印象深いイラストがあれば教えてください。

一番好きなのは第1巻の表紙で描かれたリティシアですね。完全なバランスのとれたプリンセスそのものです。イラストを見た時は完璧すぎると感じました。カチュアやアリスも非常にうまく描いていただいていますし、アランについてもキャラクターを噛み砕いて描いていただけたので、私は感謝することしかできないです。

※憂姫はぐれ先生の力によってすこぷりんせすは完成に至ったという

――新CMも公開されました。発売された第2巻の内容や見どころについて教えてください。

第1巻では物理的なスコップ描写が多かったんですけど、第2巻では精神的な、概念的なスコップ描写が増えているので、さらに幅を広げて楽しんでいただけるんじゃないかなと思っています。第2巻は物語を広げるためのお話でもあるので、スコップでどのように影響を及ぼしていくのかを感じていただけるんじゃないかなと思います。スコップはまだ世界に大きな影響を与えておらず、狭い世界での物語が続いています。今後そこが大きく変化していくことになると思いますので、楽しみにしていただけたらと思います。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

いつも1億部売りたいとかは言ってます。本当は全人類に売りたいんですけど、1億部なら実際に売っている漫画家さんはいらっしゃるし、そのくらい売れれば世界が変わったと言えないこともないだろうって思うんですよ。自分としての目的は、宇宙の法則は簡単に変わってしまうということを証明したいんですね。1+1が2じゃなくてスコップになるような。リティシアがあっという間に突き抜けてしまったように、常識なんてものは脆く変遷してしまうこと、それを現実世界で証明したいと。なおやりたいのは「変わる」という証明であって、別に世界が具体的にどう変わるかはどうでもいいいいと思っています。野望があるとすればこれかなと。

――世界を変える、大きな野望も楽しみです。それでは最後にファンの皆さんの一言お願いします。

あまり言うことはなくて、楽しんでくださいということですかね。読者に向けてはそれだけを目的に書いているので、正直ほかには何もいらないです。新しい楽しさを提供できるはずなので、ぜひ読んでみてください。あとは、これは創作している方向けの話なのですが、WEB小説でも動画でも、読者や視聴者に褒められたらその人はプロの創作者になれると思うんです。二次創作を長く手掛けてきた身として、キャラクターや世界観を独自に書けないなんてことはないと実感しています。なので、臆さず挑戦してほしいし、面白いものを継続して作るにはプロが一番だとも思っています。みんな面白いものを作って、自分もそれを読んだり見たりしたい。いろんな面白さが市場に出てくることに期待していて、そうなると私も嬉しいです。

――本日はありがとうございました。

<了>

スコップという幻想から連なる超王道ファンタジーを描くつちせ八十八先生にお話をうかがいました。第2巻ではリティシアが人類辞める宣言をしたり、アランのために世界征服を画策したりと、すこっぷりんせすの動向にも目が離せない展開が続きます。アランとスコップの先に待ち受けているものは何なのか、『スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д ゜ ;;;).:∴ドゴォォ』第2巻も必読です!

©つちせ八十八/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:憂姫はぐれ

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