【GW特別企画】師走トオル×三河ごーすと×みかみてれん「ライトノベル作家のサバイバル鼎談」

【テーマ3】

作家の個人活動、ニッチジャンルから拓ける展望

――それではまた次のテーマに移りたいと思います。みかみ先生には作家の個人活動、ひいてはニッチジャンルに向けたお話をおうかがいできればと思います。

みかみ:いやー、今日は楽しかったです! 勉強になりました!

三河:いやいや、締めに入らないでください(笑)。

みかみ:――(笑)。まず、三河さんのお話の流れから、わたしは個人で活動こそしていますけど、編集者は必要だと思っているクチなので(笑)。商業と同人にはそれぞれ違った良さがあって、どちらも大切にしています。そこを踏まえてお話しようかなと。おふたりの話を完全にぶった切って、わたしの好きを語るだけの場になってしまいそうなのが、申し訳ありませんが!

――みかみ先生は個人で製本を行って、その結果AmazonKindleライトノベルランキングで1位を獲得するに至った経緯があるわけですが、あらためて個人活動のきっかけを教えてください。

みかみ:まずわたしはネット小説からあがってきた人間で、そもそも論として「面白そう」と思ったことをやるのが前提だったんです。そこに市場的価値があるかどうかは二の次で、自分の考える「面白そう」をとにかくみんなに見てもらいたい! という欲求が当時のすべてだったんですよね。「小説家になろう」で活動をしながら、コミックマーケットに参加したのが5年前くらいのことです。参加した理由というのも、自分の作品を読んでくださる場はすでになろうさんであったわけですので、だったら紙の本でやる意味のあるものを作ろう、ということで、最初に作った同人誌はゲームブックでした。このとき、初めて自分の手で自分の本を作る喜びに魅入られてしまったのが、同人にハマるきっかけでした。同人誌の楽しいところって、作品を作るというよりハンドメイドのモノ作りをしている気分になれるところだと思うんですよね。それに、圧倒的な読者さんとの距離の近さも、ある意味ではネット小説と近しい面があって、そこも受け入れやすかったです。なにか面白い本を作ると、それに対してダイレクトに反応を返してくださるわけです。面白がってついつい、次はこんな本を作るよ、次はこんな本を作ってみるよ! って、無限に印刷費を払っていましたね……。同人が楽しすぎて……。

――好きこそものの上手なれ、という言葉がしっくりとくるような始まりですね(笑)

みかみ:その後は紹介していただいたとおり、AmazonKindleで1位も獲得させていただきました。五年間で12冊のオフセット本を作って、そのうちの7作目からAmazonKindleさんに置かせてもらいまして。その頃からはもう完全に百合小説レーベル『みかみてれん文庫』としてやらせていただいていたんですけど、ありがたいことに少しずつ百合好きの方に認知していただいて、徐々にランキングが上がっていたんです。三河さんも多くの打ち切りを経験してきたとおっしゃってましたけど、わたしもどんなものならもっともっと多くの人に読んでいただけるのかなと考えていく過程で徐々にランキングがあがっていって、10作目にして一位をいただくことになりました。

三河:試行錯誤の賜物ってわけですね。

師走:同人誌を作っていた最初の頃はやっぱり売れ残ったりもしたんですか。

みかみ:「小説家になろう」には逆お気に入りユーザーという機能があって、作品だけでなく作家自身をお気に入り登録できるシステムがあるんです。幸いにもわたしという作家を気に入っていただけていた読者の方も多く、そこから逆算して刷り部数は決めてました。なので、そこまで多くは外さないだろう、と。確か最初からちょい黒字……いや、とんとん……ちょい赤……? くらいだったと思います。もともと賑やかな行事が好きというのと、昔からコミックマーケットなどの同人即売会に憧れていたこともありまして、イベントに参加することがそもそも苦ではなかったことがプラスに働きましたね。どっちかというと最近になってから多く刷った方が一冊あたりの単価が安くなるという裏技に気づいたので、おうちが段ボールで溢れかえってます(笑)。

――電子書籍化もしている『みかみてれん文庫』の代表ジャンルは言わずもがな「百合」ですよね。なぜ投稿サイトや商業ではなく、個人活動で百合ジャンルを執筆しようと思ったのでしょうか。

みかみ:それまでの同人活動では、主に「小説家になろう」でわたしが連載していた作品の、番外編や二次創作……二次? まあ二次創作をメインに活動していたんですよ。それはものすごく楽しくて、贅沢な遊びだったんですけど、それだとあくまでもみかみてれんを知っている方しか買いに来てくださらないので、何度か参加してそろそろイベントの雰囲気もつかめてきたことだし、よっしゃそれならと、完全オリジナルの本を作ろうと思ったんです。百合の本を書いたのは……百合が好きだったから、ですかね……。ああ、あとはやっていくうちにネット小説と同人の大きな違いが肌感覚でつかめたから、というのもあります。当時、活動の場としていた「小説家になろう」で目立つには、日刊ランキングを制するためのメソッドが必要というか、界隈でそういったものが流行りだした時期でもあったんです。

三河:その話は僕も聞いたことがありますね。

みかみ:もちろんそれが悪いわけではなくて、真剣にランキングにチャレンジしている方は正直めちゃくちゃ尊敬しています。ただ、わたしの見ていた同人小説界の景色は真逆で、十人百人といった単位の方に「えっ、すごく好き!」って思ってもらうフィールドだったんですよ。そういう場なら、わたしの好きな百合もある程度手にとってもらえるんじゃないかと思って書いたのが、『観葉植物になって百合カップルのイチャラブ生活を見守るお話』でした。AmazonKindleで販売を始めたのは……なんでだっけ……。

師走:そこが一番聞きたいところですよ(笑)。

三河:時期的には「Kindle Unlimited」の上陸あたりじゃないですか。

師走:電子書籍が流行りだした時期かな。

みかみ:流行りだした時期だったとは思います。あとは私が天啓に導かれたのか……。

一同:――(笑)。

みかみ:そうだ、思い出しました。観葉植物百合の紙の本が売り切れて、再版するにもお金がかかるから電子にしたんでした。完全に金銭的な事情でしたね(笑)。けど、なんだかんだ電子書籍で販売してみると、また違った方面からの反響があったんですよ。プラットフォームとしてのKindleがなんかすっごく面白くて……。今はラノベレーベルも増えてきてますし、いい意味で個人と出版社の垣根も薄くなっていく中、続く飼い猫百合や死神百合などを出していくと今度はレーベル買いをしてくださる方々も増えてきたんです。Amazonの順位も順調に上がっていったりして、手応えを感じることができたのも大きかったです。これなら、商業で売られているような王道の百合を書いても受け入れてもらえるんじゃないかって。そこで挑戦と冒険をしたのが『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』でした。やるからには徹底的に自分自身が読みたい本を作ろうと思って、私が大ファンの『ふたりべや』の雪子先生にお願いしてジャケットを作っていただいて、デザイナーさんともお話をして作りました。いわば同人でやってきたことの集大成のような作品です。それがこれまでより爆発的に売れて、私の作りたいものとみんなが読みたいものが一致しているんだなっていう感触の中、電子書籍でも1位をいただいたという経緯でした。

師走三河:素晴らしい!

三河:やっぱり、自分が読みたいものを書くっていうのはすごく大事だと思いますね。

みかみ:そうですよね。百合ラノベってあってもパッケージで「これが百合でーす!」っていう作品はほとんどないんですよね。そういう企画は通りづらいんでしょうね……。

師走:ライトノベルでは女性主人公が売れないみたいな通説もありますからね。

三河:そういう迷信は本当に辞めてほしい(笑)。

師走:同感です。もちろん商業的な根拠あっての通説ですが、そこを打ち破って大ヒットした例はたくさんありますし、通説に縛られるということには大変抵抗がありますよね。

三河:みかみさんには商業の舞台でぜひ百合に挑戦してもらいたいんですよね。

みかみ:うーん。とはいえ、わたしはまだまだ同人活動が楽しいというのもあって、商業という舞台で百合に挑戦する気持ちがあんまりないんですよね……。

三河:それは逆になぜですか。

みかみ:同人と商業はそもそもが違うものだから、ですかね。同人はわたしの考えたことをそのまま全部実行できるんですよ。もちろんイラストレーターさんのご都合などはありますが、商業ではそれ以上に間にたくさんの人が介入するわけじゃないですか。その過程でいい方に変質することもあれば、悪い方に変質することもあると思うんです。わたしはそこに関して、三河さんのように多くの知見を得ているわけじゃないので、商業作品として百合ラノベを出したときにどうなるのかまったく予測ができなくて……。このまま同人活動を続ければ少なくとも今の読者さんたちは確実に喜んでくださるという手応えがあるわけですから。ただ、商業にももちろん興味はありますので、そういう意味では機をうかがっているところではあります。

三河:何かいける、という確信を得るまで待ちたいってことですか。

みかみ:そうですね。三河さんが言われていたように、パッケージング的な掛け算は当然やるとして、何かもうひとつ、歴史的というか話題的な掛け算のピースが欲しいと思ってます。今考えた適当なものですけど、百合もののドラマが放送されるだとか、同性婚が日本で奨励されますだとか、元号が百合になるだとか……。

三河:それでも個人の宣伝力でAmazonKindleランキングの1位を獲得できたのであれば、企業の宣伝力を上乗せすることでさらに広い層へと届けることも、上を狙うこともできる気がするんですよね。みかみさんは話題を待ちたいって言われてますけど、いっそみかみさん自身が話題のもとになってもいいと思うんですよ。

師走:それは私も思いました。書くべき人が書いて市場に挑戦するという点において、百合はみかみさんだと思っているので(笑)。

みかみ:いけますかね!? 百合ラノベ。

三河:ちゃんと届けるべき人達に届けるための宣伝戦略ができれば、最高の百合を商業の舞台に引き上げることができるんじゃないかな。もちろん、今の『みかみてれん文庫』を大切にしていくという戦略もあると思うので、強要とかはできないですけど(笑)。

みかみ:もうただのお悩み相談室みたいになってます(笑)。

三河:どこの業界でも数字的な天井はあると思うんですけど、その数字が本当にお客さんになるべき人達を包括した数字ではないと思うし、あらゆる流通を駆使しての数字なのかどうかもわからない。だからこそ挑戦の価値はあると思うんですよね。

師走:いや~、最初から作家同士の話の掛け合いにはならなさそうだとは思っていただけに、初めてその形になった気がしてよかったです。

一同:――(笑)。

――同人の話題で盛り上がりつつ、個人出版のお話を聞いていると黎明期の「小説家になろう」を彷彿とさせる気はします。自分の好きをとにかく詰め込んで突き詰めて、そうした結果の先に商業の道が拓けていくという。

三河:そういう意味でも未来は決して暗くないと思います。

みかみ:自分が好きなものがあって、でもそれが受け入れられる場がないという人も結構いると思うんです。そういう方が本当に好きなものを好きなように書いて、自分が本当に読みたいものを書いていけば、同好の士に見つけてもらうことはできると思うんですよね。同人はだからこそ楽しいですし面白いです。

三河:みんな、もっと自分の好きなものや趣味を出すべきだと思う。

みかみ:個人的なイメージですけど、漫画家さんは結構やってらっしゃる方はいると思うんですよね。

三河:本当に新しいものって、そういうところからしか生まれないと思ってるんですよ。世の中にないからやろう、本当に好きだからやろう、もっとそういう風潮になってくれたらなとはいつも思ってます。

みかみ:わたしが「小説家になろう」で百合を書かずに同人誌で書いたのも、連載媒体の傾向に最適化したり、迎合してしまう自信があったからでもあるんです(笑)。自分が本当に書こうと思っていたものから、少しずつ遠ざかってしまう気がしてしまったので。

三河:すごいわかるそれ。

――「小説家になろう」をはじめとした小説投稿サイトは自由でありつつも、強い色や型が生まれてきていて、投稿者も知らずのうちにその色や型にあわせに行ってしまうことも珍しくない環境でもあるんでしょうね。何をやりたいかによって、どこで活動した方がいいのか、どう活動すべきなのか、これもまたいろんな選択肢がありそうですね。

三河:商業では誰もやらないようなリビドー全開のものを、文章としてたとえ上手くなくても書き綴られていたことそのものに強烈なパワーが宿っていたのが、WEBのアマチュア作品の強みだったと思うんですよね。それが大きな火を灯したのは間違いないわけで。

みかみ:いろんな方法が生まれてきている中でも、これから電子書籍で自費出版していく人は増えていくんじゃないですかね。

5ページ目:書き手もライトノベルを楽しみたい