独占インタビュー「ラノベの素」 宇野朴人先生『七つの魔剣が支配する』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年5月10日に電撃文庫より『七つの魔剣が支配する』第3巻が発売された宇野朴人先生です。ラノベ好き書店員大賞2019【文庫部門】にて第1位に輝き、名門キンバリー魔法学校を舞台に魔法使いたちの深淵と青春を鮮烈に描く本作。発売後から大きな反響を呼び続けている本作の誕生秘話はもちろん、物語や各キャラクターに込められた魅力、そして厳戒態勢が敷かれることになった最新3巻の見どころなど、完結した同氏のシリーズ『天鏡のアルデラミン』にも触れながらお聞きしました。
【あらすじ】 オフィーリアが魔に呑まれ、ピートがその使い魔に攫われた。キンバリーの地下迷宮に消えた生徒数の多さに、学園内は厳戒態勢が敷かれる。学生統括のゴッドフレイをはじめ、上級生らが奪還に向かうも救出活動は難航していた。迷宮の深みに潜む魔女を相手に、自分たちに何が出来るのか? 苦悩するオリバーらに、ある人物が取引を持ちかける。それは彼らにとっての光明か、それとも破滅への誘惑か。目指す場所は地下迷宮の更にその奥。想像を超えた環境と罠、恐るべき合成獣たちが行く手を阻む。果たして彼らはサルヴァドーリの工房にたどり付き、友人を取り返すことができるのか──。 |
――ラノベ好き書店員大賞2019【文庫部門】第1位獲得おめでとうございます。本日はよろしくお願いします。
ラノベ好き書店員大賞2019にて1位をいただけたこと、本当にありがたい限りです。こちらこそよろしくお願いいたします。
――それでは自己紹介からお願いいたします。
北海道出身の作家、宇野朴人です。第16回電撃小説大賞にて四次選考まで残った『神と奴隷の誕生構文』でデビューしました。好きなものだと、なんかこう変な食べ物が好きでして。昆虫を調理したのとか、毒を抜いたらギリギリ食べられるキノコだとか……うまくてもまずくても、そういうディープな食べ物ですね。その手のメニューを出してくれる珍しい店にはたまに足を運びます。苦手なものは知らない人がたくさんいる飲み会でしょうか。デビューしてから10年くらい経つんですけど、こればっかりは一向に治る気配がない。困ったもんです。
――宇野先生はゲームもお好きだと伺いました。
そうですね。幸いにも関東に出てきてから作家友達もできまして、一緒に遊ぶことも多いです。ゲームで最近ハマっているのはフロムソフトウェアから発売された『SEKIRO』ですね。映像の美麗さも際立つ作品なんですけど、ゲームプレイの臨場感やダイレクトに伝わってくる世界観、作品そのものにどっぷりと浸かれるタイプの作品が好きなんです。これは自身で執筆する作品にも大きく影響しているところだと思ってます。
――宇野先生が執筆活動を始められたのはいつ頃からだったのでしょうか。
自分は中学生くらいの時にライトノベルを一番読んでいて、そこで書こうと思ったのが最初だったと思います。高校生のはじめくらいまでは多少書いてはいたんですけど、そこから大学生になるまで執筆活動はしていませんでした。執筆していなかった期間も漫画だけは読み続けていて、そこで物語のセンスは養っていたと思うんですが、結局もう一度筆を執ったのは大学生の時ですね。ありがたいことに初投稿作品に目をかけてもらうことができ、幸運にもデビューまではトントン拍子だったと思います。
――ご自身の中で創作活動の原点となった作品、または印象に残っている作品があれば教えてください。
たくさんあり過ぎて困るんですけど、とりあえず最近の作品だと『ダンジョン飯』や『メイドインアビス』、あとは『ゴールデンカムイ』ですね。昔から続いている作品では『ベルセルク』なんかも。独自世界の傾向が強いものに感動を覚えることが多くて、先ほどの『SEKIRO』同様に空気感が強く伝わってくる作品は好きですし、参考になる部分が多いと思っています。いま挙げたような作品は、本当にいくらリスペクトしても足りません。
――前作『天鏡のアルデラミン』が第14巻まで続く長期シリーズとなり、完結まで描き切りました。その後、新シリーズをスタートするにあたって、どんなことを考えられていたのか教えてください。
『天鏡のアルデラミン』が戦記モノで、主人公たちが学校を卒業して軍隊に入り、第2巻からは本格的な戦争が始まってという感じでした。物語としては戦場が舞台だったこともあって、人間関係の描写には条件的に限られるところも多かったんですね。その反動というか、特定の「場所」を舞台にしつつ、広がりがあって掘り下げられる人間関係を描きたいという思いが強かったです。「場所」を学園にしたのは、先輩がいて同輩がいて後輩がいて、教師がいる。縦にも横にも広がりのある人間関係がそこにはあって、学年が上がるごとに下から新しいキャラクターがどんどん出てくるじゃないですか。そして、これまで登場していたキャラクターたちと思わぬ関わりを持ちながら、どんどん変化し続けていく。そういう構造や流れが、自分が書きたいと思っていたものにぴったりだったんですよ。
――なるほど。物語の考え方や頭の切り替えは前作からすんなりとできましたか。
現実問題、かかっている執筆期間をみると決して順調とは言えないんですけども(笑)。それはさておいて、「今までとは別のモノを書かなくちゃいけない」というようなプレッシャーはそんなにありませんでした。『天鏡のアルデラミン』を執筆する中で、人間ドラマや世界観の構築、読者に与える臨場感、そういったパンチ力が自分自身の強みであることを自覚できたことも大きかったですね。その強みを活かしつつ、魔法学校という世界観で書いています。こう言ってはあれですが、現実の知識を踏まえる必要性やリアリティなど執筆の上での縛りは、戦記モノの方が多かったりするんですよね。そういう意味でも、今回は魔法というものがあって自由度も高く外連味も効かせやすい。もちろん、構築した世界をより掘り下げることも楽しくできています。この世界に生きる人々が持つ価値観に、現実に生きる我々と大きな違いがあること。そして一見して狂気に踏み込んでいるような価値感も、この世界では相応の必然性があるということ。そういう点が伝わって欲しいなと思いながら楽しく書いています。
――それではあらためて、『七つの魔剣が支配する』はどんな作品なのか教えてください。
卒業するまでに2割くらいの生徒が死んでしまったり、地下の迷宮に潜ったら怖い先輩に襲われてしまったり、そんなキンバリー魔法学校という地獄めいた学校が物語の舞台になっています(笑)。なぜそんな過酷な環境なのかというと、キンバリーを含む魔法界全体が、そういった仕組みの中から優れた魔法使いを輩出して、世界を回しているからなんです。本作の主人公であるオリバーは魔法界の常識や習わしを理解しているものの、全面的に賛同できるかといえば全くそうではない人間です。この作品では価値観の対立がひとつ大きなテーマになっていて、残酷な世界を舞台にオリバーや、まったく文化の違う東方出身のナナオ、心根が優しく動物好きなカティなど、様々な思想と価値観を持ったキャラクターたちが現実と向き合っていく物語でもあります。
※キンバリーで少年少女を待ち受けるものとは……。
――本作は魔法の世界でありながらも、タイトルにもあるように「剣」も大きな役割を果たしているんですよね。
その通りでして、「剣」も本作においては大切なテーマになっています。この世界の魔法は呪文を唱えて発現させるベーシックなものなんですけど、呪文の短縮などには原理的な限界があるんです。世界の歴史を紐解いていくと、時の大魔道士でさえ呪文で仕留める前に、普通人の剣士によって斬られ命を落としていたりする。だから魔法使いもそれに対する備えが必要だということで、造りだされたのが魔法剣なんです。その一方で、東方からやってきたナナオは魔法剣を知らないけれど、剣の腕前は最初から抜きん出ています。魔法はズブの素人でありながら強烈な存在感を放つことになる。すでに戦い方や勝ち筋が確立している魔法使いの世界へ、まったく異質な背景を持つサムライ少女が殴りこんでいく痛快さ。そこも魅力になっていると思っています。
※東方からやってきたサムライ少女の強烈な存在感も見どころ
――キャラクターについては後ほども触れるのですが、ナナオとオリバーの戦い方も非常に対称的ですよね。
そうですね。ナナオは突出した才能による痛快さや爽快さを生み出す戦い方であるのに対して、オリバーは言うなればいぶし銀のような戦い方なんですね。作中でも揶揄されているようにオリバーは突出した才能を持つわけではなく器用貧乏です。魔法の応用や多彩な剣術で丁寧に勝ち筋を構築していくんですね。それでも突出したキャラクターと共に戦えるのはなぜなのか。本質的にこの物語の半分は復讐譚でもあって、オリバーは魔法界でもトップの位置にいる圧倒的格上に戦いを挑まなくてはなりません。突出した才能もなく年若いオリバーが、その絶望的な溝をどうやって埋めていくのか、ここは読者にも期待していただきたい部分です。
――剣や戦い方の話題となれば、触れないわけにはいかないのが「魔剣」についてです。しかしながら「魔剣」は第1巻の後半で描かれたのみ……。今後のネタバレにならない範囲で教えていただけることはありますか。
語りたいところではある……むしろベラベラと語りたい(笑)。今の段階で言える範囲にはなってしまいますが、魔剣が七つ存在することは第1巻で示しました。その上で、オリバーが魔剣を使う瞬間は、相対する敵を「必ず殺さなくてはいけない」瞬間だと言うことも暗示しています。オリバーの魔剣は元々高名な魔法使いであった母のものです。よって、魔剣を使った瞬間にオリバーの生い立ちや目的が衆目に晒されることになります。切り札であり、容易くは抜けない伝家の宝刀、それが魔剣です。ただ、それをもってしても、オリバーの目的がつつがなく完遂できるほどキンバリーという場所は甘くない……ということだけ言っておこうと思います(笑)。
※この世界には「魔剣」と呼ばれる術理が存在する
――魔剣の今後にも注目ですね。また本作では学園モノらしく、魔法の学問としての位置づけも丁寧に描かれていて大変面白く感じます。
それは自分もすごく意識して書いている部分ですね。この世界は魔法使いが存在する世界ですから、必然的に魔法を前提とした文明が存在しています。現在はキンバリー魔法学校の中での出来事しか描かれていませんが、この世界の普通人がどんな生活を送っているのかなどは、今後書いていくことになると思います。我々とは異なるルールと異なる力、そして異なる技術体系がある世界で、どんな日常が営まれているのか、ここをうまく書ければ書けるほど面白くなると思っているので。『ハリーポッター』もまさにそれだと思うんです。まったく違う環境で魔法使いたちがまったく違う生活をしている。あんな魅力を本作でも演出していきたいですね。そして『七つの魔剣が支配する』の世界は、残酷な世界という側面を持っており、ダークファンタジーとしての差別化も図っていきたいと思っています。
※魔法学校の生徒らしく、生徒は空を飛ぶために箒術を学ぶ
――過酷なキンバリーという学舎の中で描かれる学園生活。緊張感がありながらも学生的な賑わいを見せている点も大きな特徴ですよね。
殺伐とした魔法学校での生活は負の面にばかり視点が偏りがちなのですが、それ以上に彼らは概ね十代の少年であり青年であり、また少女であるんです。年相応の側面は誰しもが持っていて、魔法使いとしてのシビアな面だけでなく、学生らしい青春の1ページもしっかりと描かなければと思っています。迷宮に象徴されるキンバリーの暗い側面と、明るくほのぼの……とまでは行かなくても、年相応の悩みも喜びもある学生生活という明るい側面の対比。例を挙げるのであれば『ゼロの使い魔』などが近いのかもしれません。学校自体は賑やかで楽しいけど、戦争が始まるとシビアな雰囲気に包まれていく。この対比やギャップは意識をしていますし、作品作りの上で影響を受けているのかもしれませんね。
――それではキンバリー魔法学校に入学した主人公たち一年生について教えてください。
主人公のオリバー=ホーンは、『天鏡のアルデラミン』の主人公だったイクタとの対比で考えると、人格的にとらえやすいかもしれません。両主人公に共通するのは、意識的か無意識的かは別にして、「人たらし」であるということ。オリバーは交流を持った人間に対して誠実に向き合おうとする性格の持ち主で、基本的には彼を嫌いになるような人はあんまりいないと思います。また、これもイクタと共通して言えることなんですが、一度仲間になった身内には過保護とも言えるくらいに大切にする傾向があります。もっともイクタは割と自覚的に行動していましたが、オリバーの場合は彼ほど自覚的ではないことも特徴なんです。そして、そんな彼のキンバリーでの振る舞いが、彼が果たすべき目的を踏まえた時に理に適っているかというと……(苦笑)。けど、それを理解しながらも目の前の仲間をないがしろにできない性格。それが彼の不器用なところであり、弱みであり、同時に掛け替えのない魅力なのだと思います。
※オリバー=ホーン
ナナオ=ヒビヤは本作のヒロインなのですが、言うなれば王道の主人公のポジションとも言えるキャラクターです。まったく異なる文化と思想の国からやってきて、剣1本で己の運命を切り拓いていく。その過程で周囲の魔法使いにも影響を及ぼしていきます。この世界が殺伐としているからこそ、その残酷さに膝を屈することなく背筋を伸ばして生きていく姿は眩しく輝いて見えると思うんです。でも、剣を握って生きる者であるという本質はオリバーと一緒。そこが誰よりも何よりもオリバーと強く結びついているんですよね。第1巻で互いに初めて剣を交えた時の、「――ここに、ござった」という彼女の台詞があります。あの瞬間に、二人はどうしようもなく剣を握る者としての縁を結んでしまうんです。
※ナナオ=ヒビヤ
カティ=アールトは本作のテーマでもある思想の対立、その最前線にいる少女です。彼女の価値観は一番読者寄りだと思います。軽々しく人を傷つけてはいけない、目の前に動物がいれば優しくしたい。しかし、それはこの世界では極めて少数派の考え方で、周囲には彼女がおかしなことを言っているように見えてしまう皮肉があの世界にはあります。なので、思想的な面でのカティの人生は最初から超ハードモードなんですよね。これからずっと周囲の無理解や敵意・反発と戦い続けていかなくてはいけない。それに対してカティは魔法使いとしてまだまだ未熟。そんな彼女が現実にどうやって立ち向かっているかと言ったら、今のところド根性ひとつなんですよ(笑)。第1巻では捕らわれのお姫様的なポジションでしたが、彼女の本質はそうじゃなくて、むしろ長いものに巻かれず現実と戦い続けられる芯の強さを持ったキャラクターです。これから成長していく上で、伸びしろが一番大きなキャラクターと言えるかもしれませんね。
※カティ=アールト
ピート=レストンは、現時点ではそれこそ攫われたお姫様のポジションですね(笑)。彼の存在は、今作における主要キャラクターの中で一番挑戦的な試みかもしれません。彼は両極往来性(リバーシ)という特異体質で、日によって男女の性別が反転してしまいます。一方で、この世界は独特な性規範となっていて、厳しさもありながら緩さもある。同性好きでも後ろめたさを感じる必要がない世界観であり、彼の存在はそのテーマの一端を担っています。ピートは普通人出身で、性規範はもともと我々に近いものを持っているんですが、そんな彼が、突然に性別が反転する体質に目覚めてしまう。それで戸惑いと不安でどうしようもないところを、オリバーという身近な頼れる存在が優しく助けてくれる。まぁ、心が揺れますよね。ナナオやカティは剣での結び付きや思想における立ち向かうべき課題がありますから、わかりやすい「恋」がしにくい立場なんですけど、そういう意味ではピートのフットワークが一番軽かったりする。誰かを好きになったり、気にかけたり、一番読者をドキドキさせてくれる存在になるんじゃないかなと期待してます(笑)。
※ピート=レストン
ガイ=グリーンウッドはムードメイカーとしてのポジションを確立していますね。今後の掘り下げについては期待していただくとして、メンバーの中では安心して楽しく過ごせるタイプです。魔法使いは何かしら重いものを背負っているのが普通なので、付き合うには大概覚悟が必要です。でもガイに関して言えば、そういったものを感じずに向き合って話ができる稀有なキャラクターなんですね。“剣花団”のメンバーで、ある意味では彼が一番オリバーを癒している(笑)。あと、割と大事なことなんですが、この物語における「食」を受け持つキャラクターでもあります。第2巻で迷宮美食部に興味を持っていたりしたので、その辺りにも期待して欲しいですね。
※ガイ=グリーンウッド
ミシェーラ=マクファーレンは、その生い立ちから魔法使いとしての倫理観にいちばん馴染みのある人物ですが、それを異なる思想を持つ相手への攻撃に使うことはなく、違う考えは違う考えとして尊重できる精神年齢の高いキャラクターです。彼女はこのパーティーになくてはならないキャラクターで、彼女の存在によってオリバーの心労もぐっと減っていることでしょう(笑)。シェラに関しては精神性や立場、物語の開始時点から人格が完成されているという点で、『天鏡のアルデラミン』におけるヤトリと近いところがあるんです。でも彼女だってやっぱり15歳なわけで、オリバーやナナオと付き合っていくうちに心を揺さぶられることもあります。常に一歩引いて保護者のような立場で見ているものの、時おり揺らぐ心も彼女の魅力だと思っています。ただ、先ほども言ったように彼女は魔法界の文化にどっぷり肩まで浸かっている立場なので、背負う事情の重さは六人の中でも一、二を争います。そうした面もいずれ掘り下げられていくことになると思います。
※ミシェーラ=マクファーレン
――オリバーの紹介でも少し触れていただいたのですが、新たなシリーズを執筆する上で、今作の主人公オリバーと、前作の主人公イクタ。2人の主人公で描いている共通点や相違点があれば教えてください。
本質的に似通ったところは多いと思います。例えば、わかりやすいところだとどちらもマザコンだという点は共通してますよね(笑)。あとは仲間に対するものすごい過保護さや執着もそうです。違う点もたくさんあって、一番大きな違いは、性的な要素が関わった時の認識や振る舞いでしょうか。ここはオリバーとイクタは真逆と言っていいと思います。これは今後、このシリーズにおいても重要なファクターになってくるところでもあって、オリバーは性的な部分にすごく厳しい線引きをしているんです。わかりやすいのは第1巻で描かれたご褒美のキスのお話。本作の世界観では、頬にキスなんて一般的には挨拶の範疇なんですよ。だから普通にしても何も問題はないのに、彼はどうしても躊躇ってしまう。そのあたりにオリバーが持ついろんな過去が関わっているんです。逆にイクタは過去にあった出来事が、ある種の性的な奔放さに繋がっていたりする。なので、この面に関しては本当に対称的な二人ですね。
※『天鏡のアルデラミン』よりヤトリとイクタ
――オリバーもイクタも他者を素直に認められるという共通点があるんじゃないかなと思っています。ゆえにどちらも「人たらし」なのかもしれませんが。
そうですね。イクタにもありましたけど、自分に敵意を向けてくる相手に対するおおらかさや寛容さは共通して持っています。イクタに関して言えば、なんだかんだ終盤になればなるほど仲良くなったサリハ兄様とか。オリバーなら第1巻で対立し、紅王鳥(ガルダ)との戦いを通して歩み寄ったアンドリューズですね。そういう「器の大きさ」はふたりに共通する魅力だと思います。
――続いてイラストについてもお聞きしたいと思います。印象に残っているイラストはありますか。
まず、ミユキルリア先生のイラストは全ての巻で素晴らしいと強くお伝えした上で、最も印象に残っているイラストはやはり第1巻のカバーイラストです。あの構図は、主人公とヒロインが斬り結ぶ姿というかなり挑戦的なカバーだったと思うんですが、私の方から強く希望しました。あまり見かけないタイプのカバー構図だったので、ミユキルリア先生もまとめるまで苦労があるだろうなと思っていたんですが、びっくりするくらい少ないテイク数で見事なイラストに仕上げていただきました。それだけ誠実に向き合っていただけたということだと思いますし、それがとにかく嬉しくて、ミユキルリア先生とこのシリーズを長くやっていきたいと心から感じた瞬間でもありました。
※強く印象に残っているという第1巻のカバー
また、この作品では制服のデザインにもこだわっていただいています。キンバリーは名門校なので、制服のデザインも歴史を感じさせる比較的落ち着いたデザインにしていただきました。第3巻の表紙ではオフィーリアがものすごく着崩した、というか改造した制服を着用しているんですけど、それでもちゃんと制服のニュアンスが残ってるんですよね。そういった描き方ができるのもミユキルリア先生の凄いところだと思ってます。総じて、絵柄の透明感と迫力を兼ね備えた、素晴らしいイラストレーターさんだなと!
※制服のデザインにも趣向が凝らされている
――そして5月25日より「少年エース」にてコミカライズの連載もスタートします。第1話のネームは既に見られたりしているんですか。
はい、第1話のネームは拝見しています。ものすごく実力のある先生に担当していただけて感謝しかありません。担当していただくえすのサカエ先生の『未来日記』は私も読んでいたんですけど、とにかく迫力があって漫画的な演出の切れ味が鋭い。今回担当していただくにあたっても、ものすごく丁寧に原作を受け止めていただいた上で、実力をいかんなく発揮して漫画にしてくださっています。なので、真っ先に見てほしいところがあるとすれば、えすのサカエ先生の漫画家としての実力です。私の原作を、漫画として非常に高いレベルに昇華していただいています。よりダイナミックかつ迫力のある『七つの魔剣が支配する』の漫画版を、多くの人にぜひ読んでもらいたいですね。
※コミカライズ版告知イラスト
――第3巻も発売となりましたが、あらためて最新刊の内容や見どころについて教えてください。
第2巻までの戦闘は魔法剣が中心だったと思うんですが、今回はオフィーリアが繰り出してくるキメラとの戦闘が多くなり、これまでとは違った「魔法使いとしての」戦闘をみなさんにお見せできると思います。そして第3巻はオフィーリアの物語でもあります。彼女はこれまで、オリバーたち新入生にとって得体のしれない恐ろしい先輩だったと思うんです。第3巻ではその生い立ちにも触れられ、カルロスやゴッドフレイといった先輩たちもそこに関わっていきます。第3巻を読み終えた段階で、この世界の魔法使いとはどういうものなのかが分かる。その意味で、シリーズ全体におけるプロローグが終わる巻と言えるかもしれませんね。
――今後の目標や野望があれば教えてください。
本作は最初から盛りだくさんというか、制限を設けないで書いているシリーズで、これから登場するキャラクターもどんどん増えていきます。オリバー達が2年生になれば新しい1年生が入ってくるし、まだ登場してない先輩も同輩も、紹介されてない教師もたくさんいるし、学校の外にも広大な世界が広がっています。どれだけ尺があれば足りるんだってシリーズなんですけど、それをどんどん書いていきたいというのが野心ですかね(笑)。そして作家なら誰もが抱くとは思いますが、『天鏡のアルデラミン』に続いてのアニメ化はやはり目標です。前作以上に映像化には向いた作品だと思っていますし、なんとしても叶えたいです(笑)。
――それでは最後にファンの方に向けて一言お願いします。
この作品は、ラノベ好き書店員大賞2019に投票いただいた書店員さんの多くもそうだと思うのですが、前作『天鏡のアルデラミン』から続けて読んでくださっている方が多いという印象を受けています。その応援の強さと頼もしさを常々感じていて、心の底から「ありがとうございます」とお伝えしたいです。読者を引き継いでいけるというのは本当にありがたいことなので。その上で『天鏡のアルデラミン』を読んでいただいていた方には、前作を読んで私に抱く印象や期待もあると思います。そこに対して裏切ることはまずないと、この場を借りて宣言しておきます(笑)。そして『七つの魔剣が支配する』から入っていただいた読者の方は、それぞれの経歴や読書体験があると思いますが、これまでの作品に感じなかった面白さをこの作品から感じていただけるはずだという自信を持っています。著者としてもあらゆる面白さをてんこ盛りにしたのが本作です。これからも存分に期待していただきたいですし、どんどん天井知らずに盛り上がっていくと思っていただいて構いません。オリバー達の1年生編はこの第3巻で終わり、第4巻からは2年生編がスタートします。後輩として戦々恐々とキンバリー魔法学校にやってくる新一年生たち。これまでは先輩に頼り、翻弄されるばかりだったオリバー達が、今度は新入生に頼られ、恐れられるようなポジションになります。一年前の自分たちを振り返りながら新入生と接していくオリバーたちはもちろん、箒乗りとしてのナナオの活躍にもぜひ期待していただきたいです。箒乗りというスポーツの全容、そしてナナオの活躍やライバルの出現。迷宮ばかりに目がいきがちですが、こちらにも期待していただければと思います。
――本日はありがとうございました。
<了>
キンバリー魔法学校という魔窟の中で生き、研鑽する魔法使いたちの光と影を描く宇野朴人先生にお話をうかがいました。第3巻ではこの世界における「魔法使い」とは何か、その在り方や運命に迫る物語が描かれています。攫われたピートの運命、そしてオリバー達は何を選択して、何をその目に焼き付けることになるのか。『七つの魔剣が支配する』第3巻も必読です!
©宇野朴人/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:ミユキルリア
©宇野朴人/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:竜徹 キャラクター原案:さんば挿
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