独占インタビュー「ラノベの素」 古宮九時先生『Unnamed Memory アンネームドメモリー』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年5月17日に電撃の新文芸より『Unnamed Memory アンネームドメモリー』第2巻が発売される古宮九時先生です。ファンタジーものとしてだけでなく恋愛ものとしても大きな魅力が詰め込まれている本作。WEBでの発表から約10年を経ての書籍化、そして歴史に恋にと「時間」をキーワードとした物語の魅力、各キャラクターに込められている思いなど、最新2巻の見どころとあわせてお聞きしました。

【あらすじ】

「その時は――魔女〈ティナーシャ〉を殺すさ」 契約のもと、一年という限られた時間を共に過ごすオスカーとティナーシャ。だが突如二人の前に、ティナーシャのかつての婚約者・ラナクが姿を現す。古き魔法大国の血を継ぐ彼は、新たに国を興すと大陸全土への侵攻を企てて……。その時、オスカーとティナーシャの選んだ道とは――大陸の完全支配をもくろむ巨大魔法と王剣の剣士の、熾烈なる戦争の火蓋が切られる。

――それでは自己紹介からお願いします。

古宮九時と申します。出身と在住は静岡県で、第20回電撃小説大賞の最終選考に残り、拾い上げでデビューしました。好きなものはラーメンで、苦手なものはパクチーです。実は嫌いなものや苦手なものがあんまりなくて、食の好みくらいしか思いつかずにすみません。あとはFGOにすごくハマっていまして、よくガチャ(の爆死)を公開しています。地方に住んでいるため、対面でのインタビューはこれまで受けたことがなかったのですが、こんな感じのスタートで大丈夫でしょうか(笑)。

――大丈夫です、ご安心ください(笑)。古宮先生はものすごい漫画読みだともお聞きしました。

そうですね。昔は小説の方を多く読んでいたんですけど、時間の都合がつけづらくなるにつれて、短時間で消化できる漫画を読むようになりました。だいたい1冊を読みきるのが10分くらいで、電子書籍を導入してからは歯止めが一切効かなくなりました。おかげで毎月の購入金額もかなりのものになっています……。最近読んで面白かった作品は、既に完結しているものなのですが、リチャード・ウー(長崎尚志)先生が原作をされている『クロコーチ』、そしてこちらは今も続いている作品なのですが、アイドルがひたすらにお酒を飲む『アイドランク』などを楽しく読んでいます。本当にたくさんの漫画を追いかけているのですが、完結している作品は一気に最後の盛り上がりまで読むことができる楽しみもあって、新旧問わずに買い続けています。

――毎月かなりの金額を割かれていて驚くばかりなのですが、これも創作の力になっているわけですね!

そうですね。そのはずです!(笑)。

――古宮先生はWEBで執筆活動をされていたわけですが、ご自身で創作活動をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。

創作は小学校の頃からやっていて、卒業文集にもファンタジー作家になりたいって書いてあります。なので夢は叶ったのかな(笑)。それから高校、大学と一般文芸に投稿してたりしたんですが、研究が忙しくなったので執筆活動は中断し、そのまま社会人になりました。その後時間の自由がきく趣味として、あらためて筆を執るようになったんです。本作も発表は2008年ですが、実際に執筆していたのは2006年頃。ローカルに保存していた期間が1年くらいありましたね。

――誰かに読んでもらおうというわけではなく、書くという行為を趣味にされていたということなのでしょうか。

当初はそうでした。というよりは、自分で読むために書いていた感じです。活字中毒だった時期に、出先で読む小説を持ち運ぶのも重くて、それなら自分で書いたものをブログに溜めておいて、それを出先で読めばいいじゃないかという発想が始まりでした。完全に自給自足的な感じですね(笑)。私自身、小説も漫画もひとつのものを何回も読み返すタイプの人間なので、先の展開がわかっていても楽しめますし、だからこその楽しみ方もあると思ってます。もともとは自分が読むために書いた作品なので、さくさく物語が進んで数多くの事件が楽しめるようにしました。

――なるほど。WEBでの自給自足から執筆活動をリスタートした古宮先生が、電撃大賞に応募するなど、あらためて小説家を目指そうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか。

これには明確なきっかけがありまして、第15回電撃小説大賞にて「大賞」を受賞なさった川原礫先生の存在がありました。個人サイトの中でも川原先生の「WordGear」は有名サイトでして、当時私はサイトを開設して1年くらいの新参だったと思います。発表を見て「さすが川原先生、すごい!」と思ったのが9割、残り1割は「こういう道もあるのか」と思いました。その記憶が残っていて、就職活動で忙しくなった時に「毎日更新できなくなるのは読者さんに申し訳ないな。あ、でも小説家になれば仕事で小説が書けるから一石二鳥だ」と思ったんです(笑)。

――当時のWEB小説書きとして、川原礫先生の受賞は衝撃的だったんですね。

本当に衝撃的でした。私が新参サイトだったせいもあるんですけど、WEBの一次創作は今よりもずっと少ない人数の作者さんと読者さんで交流していたんです。どちらかというと小説は二次創作の方が人口が多いくらいだったと思います。そんな時に川原先生がぽんと受賞をなさって、WEB小説の一次創作と、新人賞や商業小説は地続きなんだよって示してくださったんです。もちろん川原先生だからこそだと思いつつ、私もがんばれば届くかもしれない、と。WEBからの書籍化もほとんどなかった時代だったので、色んなことを考えさせられました。

――それではあらためて『Unnamed Memory』がどんな作品なのか教えてください。

本作は恋愛ファンタジーという体をとっている作品です。魔女に呪いをかけられ子供を作れなくなってしまった王太子が主人公で、彼が呪いを解くために別の魔女を訪ねるところから始まります。この「魔女」というのが大陸に5人しかいない生きた災厄のような存在で、作中の時間軸は彼女たちを恐れて「魔女の時代」と呼ばれているほどです。中でもヒロインである「青き月の魔女」は最強と謳われており、大陸最難関ダンジョンである塔の頂上に棲んでいます。彼女は「塔の踏破者にはひとつ願い事を叶える」と約束しているんですが、そこを冒頭で主人公があっさり踏破してきてしまうんですね。ただ彼女の力をもってしても別の魔女の呪いは簡単には解けず、代わりに彼女自身は強すぎて呪いの影響を受けない。そこで主人公から求婚されることになるんです。しかしながら彼女も結婚は嫌なのでがんばって複雑な呪いを解析し始める。結果として「妻になってくれ」「嫌です」という漫才のような問答を繰り返しながら、二人であらゆる事件を乗り越えていく物語になっています。

※塔を踏破して「青き月の魔女」と邂逅するオスカー

――本作は主人公とヒロインの軽快な掛け合いも大きな魅力になっていますよね。

この作品は物語全体で見ると深刻で重いお話ではあるんですけど、主人公たちが動じず楽しそうにしているので、世界観や話の割に軽快な読み味になっているかと思います。お気付きの方も多いとは思いますが、主人公とヒロイン、特に主人公のメンタルはめちゃくちゃ頑強なので、安心して読んでいただけるんじゃないかなと(笑)。ふられてもふられても微塵も堪えないですからね……。

――本作の初出は2008年になるわけですが、あらためてこの作品を執筆しようと考えた際に、どんな物語として描こうと思っていたのでしょうか。

第1巻のあらすじやパッケージからは少し想像しづらいかもしれませんが、この作品は人間の尊厳と選択の物語でもあるんです。イメージ的には長いRPGをプレイしているような感覚に近いでしょうか。時間と選択を重ねた結果、何が待ち受けていて、それにどう立ち向かうのか。そこまで積み重ねてきたものによって運命が大きく変わっていくような物語が描きたかったんです。私はミステリーとファンタジーの畑で育ってきまして、ミステリーなら新本格、ラノベは『魔術士オーフェン』に憧れていた世代でもあります。なのでミステリーならではのどんでん返し的な展開や、ファンタジーならではの世界観と密接に関係した驚愕の展開、この2つを掛け合わせて衝撃的な体験を作れたらと思いました。またファンタジーとして時間の広がりを感じさせる話にしたいという意図もあり、今作はそれを反映したタイトルになっています。この話は歴史の転換点を描いた話でこの時代においては大事件の連続ですが、それでも何千年後にまで残る話ではありません。広い世界のごく一部、そこで起こったいっときの物語。この時代を知る人達にとっては黄金時代ですが、大きな歴史全体から見た時には名前さえもつかないような物語なんです。

――なるほど。それでは歴史には刻まれずとも、この物語の中で鮮烈に生きる登場人物について教えてください。

主人公であるオスカーは、大国ファルサスの次期王位継承者です。5歳の頃に沈黙の魔女によって呪いを受け、そこから15年間、血のにじむような努力をしてきました。一方で、呪いの苦労や積み重ねてきた努力家としての面を表にはあまり出そうとせず、周囲にいらぬ心配をかけないよう鷹揚に構えて振る舞っています。その割にしょっちゅう無茶を起こして周囲に心配をかけているんですけど(笑)。とにかくメンタルが強くて、振られても堪えない、陰謀にあっても動じない、つまり大抵のことが平気なんです。読者さんにとっては読んでいてとても安心なキャラだと思います。作中最強の剣士なのもあって、読者さんにはバスターゴリラとか呼ばれてるんですけど、呼び始めたの誰ですか!(笑)。

※メンタルの強さに定評のあるオスカー

ティナーシャは本作のヒロインで、400年以上を生き最強と謳われる青き月の魔女です。滅多に踏破者のいない高い塔で世捨て人みたいな暮らしをしてるんですが、そこをオスカーがあっという間に登ってきてしまうという(笑)。彼女は彼女で事情があって魔女になった人物で、密かな目的も持っています。また魔女という己の在り方に自嘲的なところがあって、人との間に一線を引いているので、引きこもり歴が長くなりました。ただそのぶん人に慣れてないので、踏み込んでこられると戸惑ったりしてしまうポンコツな面も垣間見えます。「押しに弱い」と言われることもありますが、これオスカーの押しが強すぎるんじゃないでしょうか。

※最強の魔女・ティナーシャ

ルクレツィアは大陸にいる5人の魔女のうちの一人で、ティナーシャにとっては姉のような存在でもあります。魔女の中でも最古の魔女であり、本来なら畏怖されるような存在なんですが、人間の在り方を好んでおり、作中でもオスカーの手助けをしたり、面倒見の良さを覗かせたりもしています。彼女はティナーシャが魔女になった原因や過去を知っていて、一時期は一緒に暮らしていたこともあります。ティナーシャが最低限の人付き合いができるのも、ルクレツィアに拾われたおかげです。

※最古の魔女・ルクレツィア

ラザルはオスカーの従者であり幼馴染みでもあり、読者からの人気がかなり高いキャラクターでもあります。頭が飛び抜けて良いわけではないし、歴戦の勇士のごとく戦えるわけでもないのですが、オスカーが愚痴を吐ける唯一の相手と言っていいかもしれません。オスカーに対しては己の立場を顧みて危ないことは自重してほしいと常々思っているのですが、言わずもがな胃痛に悩まされる日々を送っています。オスカーのために命を張る覚悟は持っており、従者として、そして良き友人としてオスカーの傍にいます。苦労人が多い本作ですが、その中でも突出した苦労人であることは間違いないですね(笑)。

――恋愛とファンタジーの両面から描かれる本作ですが、恋愛とファンタジーのそれぞれの見どころはどんなところでしょうか。

そうですね。ファンタジーとしては歴史の縦と横の広がりだと思います。ティナーシャ自身が400年以上生きていますし、彼女の直前の契約は70年前でオスカーの曽祖父が相手です。なので数十年、数百年を経て過去の決着がつくこともたびたびありますし、この時代の一件がきっかけで未来が大きく動いたりもします。また大国の王族が主人公なので、一国だけに収まらない国や人々の関係が歯車のように動いて噛み合っていく、そういう場面に立ち会える点がファンタジーとしての魅力だと思っています。

※ファンタジーと恋愛の両面に見どころは多い

恋愛面については、個人的にすごく時間をかけた恋愛を描きたかったんですよね(笑)。それこそ牛歩のごとく、恋愛に興味のない鈍感ヒロインに正面から向き合い、本当に少しずつその心を変化させていく。積み重なっていく時間の尊さを感じていただきたいです。オスカーもティナーシャもそれぞれ強いので、事件はとんとん拍子で解決することも多いんですけど、解決できない問題のひとつが恋愛面には残り続けていくわけです。なので、1つ事件が解決しても終わりではなく、少しずつ揺れ動く二人の感情の動きも一緒に追いかけていただけたらと。この二人は付き合ってもないのに息が合うので割と早くから夫婦みたいな距離感なんですが、そこから先が全然進まない。ジリジリした歩みを楽しんでいただけたらと思います。

――初出から10年を経て書籍化のために改稿したり、イラストが描かれたりもしています。感想をお聞かせください。

本作は公開から10年が経っているということもあって、キャラクターと世界観が半ば以上読者さんの中で固定されてると思うんですよね。なので改稿でも物語を変更したり削るのではなく、WEBでは描かれなかった場面を加えていくことに注力しています。やはりWEBから追いかけてくださっている読者の方に加筆を楽しんでいただきたいですし、ささやかな感情の積み重ねで進んでいく物語なので、時系列を前後させたり省略したりもできないな、と。そんなわけで編集部に少しだけ我がままを言わせていただきながら、より良いものになるよう執筆しました。おかげさまで第1巻の反響も好意的な感想が多く、書籍化を機会に手に取っていただいた方からも温かい応援の言葉をいただいています。

※chibi先生によって幻想的な世界も描かれる

イラストについてはchibi先生には感謝しかありません。この作品は少女小説のようなテイストもあるのですが、主人公もヒロインも戦闘で血みどろになるような話なのでイラストには重みが欲しかったんです。あとはファンタジーの幻想的な雰囲気を描いていただきたい、そういった思いを見事に調和させてくださったのがchibi先生でした。世界観の奥行きも描いていただけていて、ティナーシャも可愛い! 満足以上のものに仕上げていただいています。少しだけ第2巻のイラストについて触れると、この巻ではティナーシャの衣装が登場ごとに変化しているのですが、全て素晴らしく描いていただいているので、ぜひ注目してご覧いただきたいです。

――ご自身の中で印象深いイラストはありましたか。

やはり第1巻の表紙イラストは印象深いです。あとはティナーシャとオスカーが剣を交えているシーンも迫力があって大好きです。魔女でありながら剣を使う彼女の姿は、第2巻の表紙に繋がっていくところでもあり、とても印象に残っていますね。

※ティナーシャとオスカーの剣戟シーン

――それでは発売される第2巻の内容や見どころについて教えてください。

第1巻がいわゆるキャラクターと世界に馴染んでもらうための1冊だとすれば、第2巻は歴史の転換点に立ち会っていただくお話になります。前巻は城の周辺の物語が多く描かれていたかと思いますが、今巻では城から離れ、大陸全土に関わる場面も多いです。またティナーシャが引きずっていた目的や過去が明らかになり、二人の関係性もほんの少しは前進している……かもしれません。2巻ラストの書き下ろし箇所ではWEBからの既存の読者さんも知らない設定が明かされますが、これは書籍版のお楽しみということで。あと大事なことなんですが、イラストで描かれる大迫力のイカにもぜひご注目ください(笑)。

※大迫力のイカが登場!

――今後の目標や野望があれば教えてください。

今後の展望は、既に半分くらいは叶っているのですが、誰かの人生に触れるお話でありたいと思っています。年月が経っても「あんな物語があったね」と読み返してもらえるような物語であれば嬉しいな、と。あとはアニメの主題歌とか「その物語のために作られた曲」がすごく好きなので、いつか楽曲が添えられるような物語になってくれたらいいなと思っています。なかなか曲だけが制作される状況は稀ですけど、オファーをお待ちしております(笑)。

――それでは最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。

発表から10年経っての書籍化は読者さんの力があってのことです。本当にありがとうございます。10年前から追いかけてくださってきている方も、書籍化を機に読んで応援してくださっている方もいらっしゃって、絶えず新しい読者さんが付いてきてくださることに支えられております。今はとにかく発刊が多いですし、文庫2冊相当の文量とはいえ1冊の価格としては決してお安くないので、様々な作品の中からお手にとっていただけたことが幸運です。どうぞこのお話が皆さまのお気に召すよう願っております。そして、少し気が早いですが第3巻についても2019年秋頃の発売を予定しております。ここまでがWEB版でのAct.1になりまして、その先も含めて期待に応えていきたいと思っておりますので、引き続き応援よろしくお願いします!

――本日はありがとうございました。

<了>

呪われた王子と最強の魔女が織り成す、名もなき歴史と記憶の恋愛ファンタジーを描く古宮九時先生にお話をうかがいました。世界の過酷さや残酷さに一切負けない強力なメンタルを有する二人の掛け合いも楽しい本作。二人がどんな未来に向かって歩いていくことになるのか目が離せそうにありません。『Unnamed Memory アンネームドメモリー』第2巻も必読です!

©古宮九時/KADOKAWA 電撃の新文芸刊 イラスト:chibi

[関連サイト]

『Unnamed Memory II 玉座に無き女王』作品ページ

電撃の新文芸公式サイト