独占インタビュー「ラノベの素」 八目迷先生『夏へのトンネル、さよならの出口』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年7月18日にガガガ文庫より『夏へのトンネル、さよならの出口』が発売された八目迷先生です。第13回小学館ライトノベル大賞にて「ガガガ賞+審査員特別賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。「本当に欲しいもの」を手にするために、時空を超える摩訶不思議なトンネルに挑む少年少女の物語を描く本作。駆けた先に待っているものはなんなのか。本作の内容や作品の着想、キャラクターについてもお聞きしました。
【あらすじ】 「ウラシマトンネルって、知ってる? そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうの――」。そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。――このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかもしれない。放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが……。かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
はじめまして。『夏へのトンネル、さよならの出口』で、第13回小学館ライトノベル大賞の「ガガガ賞+審査員特別賞」をいただきデビューとなりました、八目迷(はちもくめい)と申します。好きなものは読書と廃墟です。関西の片田舎で育ち、今もそこで生活しています。住んでいる場所は港町なんですけど、学生時代に通っていた高校には離島出身のクラスメイトがたくさんいたんですよ。その人たちは毎日、船で通学してくるんですが、船が運航できない日は学校を休んでいて、それが少し羨ましかったのをよく覚えています(笑)。
――あらためて第13回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞+審査員特別賞」受賞の感想をお聞かせください。
喜びと同じくらい安堵感が大きかったですね。「やっと形のある実績を残すことができた……」とホッとしました。作家志望の頃は、自分の作品が面白いのかどうか自信がなくて、Webに投稿したり他人に読んでもらう勇気もなかったので、常に不安な気持ちを抱えながら小説を書いていました。よくそんな状態で四年近くも創作を続けられたな、と我ながら少し感心します(笑)。
――受賞を経て、そういった不安は完全に払しょくされましたか。
いえ、むしろ強くなってるかもしれないです(笑)。とはいえ、この不安な気持ちは今後も恐らく消えないものだろうと思いますし、この不安な気持ちがあるからこそ、いい文章を書けると思っていますので、これからも不安と上手に付き合って創作を続けたいですね。ただまぁ、受賞連絡が来て、しばらくしてから異例のW受賞だと知らされたときは、「あれ? これはかなりすごいのでは?」とか思っちゃいましたね(笑)。
――ありがとうございます。それでは受賞作『夏へのトンネル、さよならの出口』はどんな物語なのか教えてください。
夏、青春、SFの三要素にちょっぴりノスタルジックな雰囲気を加えた、ボーイ・ミーツ・ガールです。また本作は「前進」をテーマにした作品でもあって、焦燥や不安を抱えながら、どれだけ希望を持って人は前に進めるか、ということを時間の流れが狂う未知の空間……ウラシマトンネルを舞台に使って表現したかったんですよね。ウラシマトンネルを通じて接近する主人公とヒロイン、そして二人を取り巻く人間ドラマも見どころの一つだと思っています。
※ひと夏の青春はウラシマトンネルから始まってゆく
――八目先生は海外のコミュニティサイト「SCP財団」もかなりお好きだとうかがっています。本作の着想などはそういったコンテンツからの影響も大きかったりするのでしょうか。
そうですね。「SCP財団」は科学では説明できない異常な性質を持った人、物、場所などを、それぞれ実際に存在するかのように報告書形式でまとめた共同創作サイトでして、一時期むさぼるように読みふけっていました。そういった読書経験からワンアイデアを活かした作品が好きで、作風にもその影響が表れているんじゃないかな、と思います。今作の要となる「ウラシマトンネル」に関しても、ある映画のワンシーンから着想を得ています。
――具体的にはどんな作品から着想を得たのでしょうか。
『インターステラー』という作品に登場する『ミラー博士の星』です。細かい説明は省きますが、作中に登場するその星は非常に重力が強く、時間の流れがとてつもなく遅いんです。一時間滞在するだけで地球では七年も過ぎちゃうんですね。だから主人公たちは、急いでその星での任務を終わらせようとするのですが……というエピソードなんです。星に着陸してからの隊員たちの焦燥感、そして任務を終了したあとに膨大な時間を浪費してしまったことを知る、その取り返しのつかなさに、たいへん強く心を打たれまして。いつかこういったギミックを使った物語を小説で書きたいな、と思いました。そうして『夏へのトンネル、さよならの出口』の執筆に取り掛かった次第です。
――なるほど。まさにその作品に大きな影響を受けたわけですね。
着想は『インターステラー』ですが、その映画を観る前から時間にギミックのある話を書いてみたいと思うことはありました。というのも私自身が好きな作品に、時間をテーマにした物語が多いんです。『時をかける少女』や『ほしのこえ』、『七回死んだ男』。ほかにも時間が停止した世界を舞台にした漫画『刻刻』であったり。今挙げた作品は今でもしょっちゅう読み返しています。
――あらためてこの作品は「奇跡の物語」という印象もとても強く受けました。時間という大きなギミックを用いるにあたり、どんな点に注意をしながら執筆されたのでしょうか。
そうですね……。「奇跡」という概念を作中で起こす場合は、私自身何かしらの「代償」が必要だと考えています。そうでなければ、それはただのご都合主義になってしまうと考えていますので。本作における代償は「時間」そのものです。これは本作に係わらず現実でも言えることですが、時間はあらゆるアクションを起こすにあたって絶対的に必要な対価だと思っています。価値あるものを得るためにはそれ相応の時間をかけなければならず、そういったメッセージも作中に込めたつもりです。
※「時間」を代償に「本当に欲しいもの」を目指していく
――ギミックとは逆に、執筆する上で苦労したことはありましたか。
本作では走るシーンが多いんです。ウラシマトンネルの性質上、何かとキャラに迅速な行動を強いる場面が多くて。ただ走らせるだけだと味気なくなってしまうので、平行してキャラの内面を描写するのですが、何を書けばいいのか分からなくなって、よく困りました。だから今まで読んだ本から走っているシーンを参考にしたり、実際に走ってみてどんなことを考えているのか自分なりに模索しましたね。あと、担当編集さんと一度電話で「これくらい走ったら普通は息切れしない? 八目くんちょっと走ってみてよ」といったような話を振られ、家の前を全力疾走したりしました。なので、走るシーンを書くのはいろんな意味でしんどかったです(笑)。
――それでは著者も駆けながら、そして文字通り「奇跡」の中を駆け抜けていくことになるキャラクター達についても教えてください。
主人公の塔野カオルは、日々を流されるままに過ごす冷めた性格の高校生で、たいていのことはどうでもいいと思いながら生きています。たとえ自分が割を食うことがあっても反発せず、平然としています。ただそれは、彼の複雑な生い立ちに原因がありまして……。塔野カオルというキャラクターは、僕自身の多くを代わりに背負ってもらうつもりで書きました。本作では彼に対し心労を強いる展開が多くなってしまったので、少し申し訳なさを感じます。
※決めたことには歩みを止めない少年
ヒロインの花城あんずは、クールな容姿に情熱と憧れを宿した少女です。文武両道で頭の回転も速いですが、歯に衣着せぬ物言いと高潔な態度からよく周りと衝突します。自分の意志を貫くためなら拳を振るうことを厭わない、芯の強さも兼ね備えています。……が、彼女のことは秀でた能力を持っているだけで、あくまで十代の一般的な少女として書きました。人並みに好きなものや苦手なものがあって、新たな発見があれば喜び、理不尽な出来事に対しては怒り、秘密がバレたときには、全力で恥ずかしがる……つまり、普通の女の子なわけです。喜怒哀楽を特に意識して書いたキャラクターなので、物語が進むにつれ大きくなる感情の振れ幅に注目していただきたいですね。
※高潔さと普通が入り混じる女の子
川崎小春は、クラスに一人はいるような女王様ポジションの女の子です。プライドが高く、良くも悪くも素直な性格をしています。だからこそ調子に乗りやすく、傷つきやすい一面もあります。ある意味、本作で最も大きな成長を遂げるキャラクターかもしれません。個人的に書いていて一番楽しかったですね。くっか先生の川崎のイラストが想像以上に可愛くてびっくりしたことも強く印象に残っています。
※あんずとの出会いで彼女も変化していく
――主人公のカオルは「自分の芯を持たないことを芯にしている」キャラクターであり、一方であんずはすごく芯のあるキャラクターとして序盤は描かれていると思います。それが「本当に欲しいもの」を挟んだ時、主人公の芯の強さを感じるという、不思議なキャラクターの魅力も非常に印象的でした。
カオルとあんずは対照的な存在として書いています。序盤はカオルの芯のなさ、あんずの精神的な強さが目立ちますが、物語が進むにつれて本質的なところが浮かび上がり、終盤で二人の立ち位置が逆転する仕組みになっています。それが最も顕著に表れるのが第五章の始めです。カオル、あんず、川崎の三人は、それぞれ物語の最初と最後ではっきりと成長が分かるよう描写しています。いずれのキャラも、変化していく過程にこそ魅力があると思っているので、そういった点にも注目しながら読んでいただきたいですね。
――お気に入りのシーンやイラストがあれば教えてください。
イラストはすべて本当に素晴らしいのですが、あえてひとつに絞るなら、メインキャラが五人ベンチに座っている口絵ですね。座り方からベンチに置かれた小道具にまでキャラの個性が表れていて、初めて見たときはそのセンスに脱帽しました。お気に入りのシーンは、第三章でカオルとあんずが川崎の家を訪問していろんな話をするところです。ちょっとネタバレになっちゃうので詳しく話せませんが、担当さんからもそこを特に褒めていただきまして。僕自身、応募する前から気に入っているシーンだったので、嬉しかったです。
※お気に入りの一枚だという口絵
――著者としてこの作品はどんな方が読むとより面白いと感じることができると思いますか。
青春SF、特に時間系SFがお好きな方、もしくは少年少女の努力する姿に惹かれる方には、楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。ただ、できる限り誰が読んでも面白いと感じてもらえるものを目指しましたので、普段ライトノベルを読む人も読まない人も、小説自体ほとんど読まない方も、ぜひ手にとってほしいですね。
――これからの目標や野望があれば教えてください。
映画化を目指したいですね。本作を含め、今後発表していくであろう自分の小説で、です。もちろんコミカライズやテレビアニメ化もすさまじく魅力的なんですが、それでも何より、90分や120分の長さに全力を注ぐような映像化に、憧れを感じます。いつか映画館の大スクリーンで、自作小説が原作の映画を観てみたいですね。そのためにはまず自分の小説を多くの人に届けて認知される必要があるので、いろいろ試しながら上を目指していきたいです。あと、死ぬまでに宇宙に行きたいですね。わりとマジです。最悪、死んでから宇宙でもいいかなと思ってます。
――それでは最後に発売への意気込み、本作へ興味を持った方へ一言お願いします。
本作『夏へのトンネル、さよならの出口』は、今の自分が出せる最高到達点だと思っています。それくらい全力で書きました。一般的なライトノベルの潮流からは少し外れた作品になりますが、きっと面白いです。それでは、真夏の片田舎で起こる郷愁と疾走の物語を、どうぞよろしくお願いします。
――本日はありがとうございました。
<了>
「本当に欲しいもの」を目指して少年少女が駆け抜けるSF青春物語を描く八目迷先生にお話をうかがいました。序盤から終盤にかけて描かれるキャラクター達の成長はもちろん、それぞれが下す「決断」にも大きな想いが乗せられている本作。大きな感動が文字通り疾走することになる『夏へのトンネル、さよならの出口』は必読です!
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