【特集】『ロードス島戦記 誓約の宝冠』発売記念「水野良×暁なつめ対談:ファンタジーの種族変遷を語る! エルフを奴隷にしたい人は多い!?」

2019年8月1日に12年ぶりとなる『ロードス島戦記』の最新シリーズ『ロードス島戦記 誓約の宝冠』が発売となる。1988年に誕生した『ロードス島戦記』は、日本ファンタジーの始祖にしてライトノベル黎明期の大ヒット作品として知られ、30年を経た今もなお多くのファンに愛され続けている。そしてこのたび、シリーズ30周年と新作の発売を記念して、共にスニーカー文庫を盛り立て続けている水野良先生暁なつめ先生の対談が実現した。『ロードス島戦記』の100年後を描く新作『ロードス島戦記 誓約の宝冠』についてはもちろん、両名が有する「エルフとはどんな存在なのか?」や「姫騎士のくっころ文化はいつ生まれたのか?」などの、ライトノベルを取り巻く「ファンタジー感」についても熱く語っていただいた。

・水野良(インタビュー内では「」)

『ロードス島戦記』にて作家デビュー。同作はシリーズ累計1,000万部を突破する日本ファンタジーの金字塔として多くのファンに愛されている。このたびシリーズ30周年を迎えると共に、12年ぶりの新作『ロードス島戦記 誓約の宝冠』が2019年8月1日に発売される。

・暁なつめ(インタビュー内では「」)

『この素晴らしい世界に祝福を!』にて作家デビュー。シリーズ累計850万部の大ヒットシリーズとなり、2度のテレビアニメ化に加え、2019年8月30日には劇場版の公開も予定されている。最新16巻も2019年8月1日に発売される。

――本日はよろしくお願いします。

:よろしくお願いします。

――『ロードス島戦記』の30周年おめでとうございます。公になっている情報も多いかと思いますが、まずは水野良先生に自己紹介をお願いできればと思います。(暁なつめ先生の自己紹介は過去のインタビュー記事にて

:水野良です。1963年生まれで、つい先日56歳になりました。そろそろ還暦も近づいて、人生の第四コーナーに突入したかなという印象です。読者のみなさんの応援もあり、『ロードス島戦記』は30周年を迎えることができました。大変感謝しております。私自身30年間ラノベ作家をやってきたことになるわけですけど、『ロードス島戦記』はラノベではないとの意見も多く、曖昧なポジションで作家人生を送ってきた気もします(笑)。

――水野先生はゲーム好きを公言されていますが、それは今も変わらずでしょうか。

:そうですね。子供の頃からアナログもデジタルも問わず、ずっと遊び続けてきました。小学生の頃からゲームセンターに入り浸ってましたね。ちょうどインベーダーゲームが登場した頃でもあって、お金もないのにゲームセンターに通って、プレイしているおっちゃんが時々代わってくれるのを密かに待ってたりしました。そういうダメな小中学生だった記憶があります(笑)。お正月にはもらったお年玉で、「人生ゲーム」などを買っていましたね。ゲームは昔から今まで、僕にとってはずっと変わらないエンターテイメントだったかなと思います。

――あらためて本日は対談という形になるのですが、両名ともスニーカー文庫を代表する作家としても知られているかと思います。それぞれの印象についてお聞かせください。

:暁さんのことは、売れているし人気もあるしどんな物語を書かれているかは知ってました。今回の対談にあわせて、アニメを2期分見直してきたんですけど、魅力のあるキャラクターがテンポよく楽しい物語を展開しているなと。あらためて感じたのは、やっぱり暁さんはTRPG畑の人だなということですよね。小ネタであったり細かな魔法であったり、使えるものは何でも使いながら、組み合わせて事件を解決していく手法はTRPGっぽい。このスタイルが現在でもたくさんの読者さんに支持されているのは、素直に嬉しいと思いますね。

:水野先生の印象……いや、もう純粋に、普通に憧れの人みたいな感じなんで、印象もなにもって話なんですけど(笑)。それどころか、なんで自分はここで対談してるんだろうって(笑)。過去の自分に言っても絶対信じないと思いますよね。そんな状態なので……どう答えたらいいか(笑)。

:暁さんが初めて読んだ小説が、ありがたいことに『ロードス島戦記』だったんですよね?

:そうですね。もともと文字を読むのが大好きだったんで。国語の教科書とか、新学期になると授業が始まる前に全部読んでました。漫画も買ってもらってはいたんですけど、文字の多い本が欲しいということで本屋さんに連れて行ってもらったんです。ゲームも好きで、冒険小説のような表紙が『ロードス島戦記』の2巻だったんです。表紙に惹かれて親に買ってもらいました。

:2巻っていうのがミソですね(笑)。

※暁なつめ先生と『ロードス島戦記』の出会いは第2巻

:1巻が置いてなかったんですよ(笑)。そのまま2巻から読んで『ロードス島戦記』にハマった感じです。それからずっと2巻ばっかり読んでたんですけど、親が「1巻から買い揃えてあげるから2巻ばっかり読むのやめなさい」って(笑)。

:ともすると1巻から読んでいたら、『ロードス島戦記』にハマっていなかった可能性もあるわけですよね。1巻は文章的に拙さが目立っていた気がするし、2巻からで良かったのかもしれない。歴史が変わっていたかもしれませんね(笑)。

:――(笑)。そこからライトノベルというか、ファンタジー小説を知って、読書の幅が一気に広がっていった感じです。漫画よりも文庫本をとにかく読むようになりましたよね。『ロードス島戦記』と出会ったのは小学校3年生くらいの時だと思います。

:小学校3年だと随分早いという気がしますけど、国語の教科書を授業前に全部読んじゃう人って、余程の活字好きですよね。僕も暁さんと一緒でした。小学校の時は4月の段階で教科書は国語にかぎらずほとんど読んじゃってましたね。活字が好きな人は、目の前に活字があったらとりあえず読むじゃないですか(笑)。

:そうですね(笑)。

:ちなみに『ロードス島戦記』で印象的なキャラクターっていましたか?

:ウッドチャックとオルソンが好きでしたね。

※左:ウッドチャック/右:オルソン

:どちらも渋いところにいきますね(笑)。

:自分は卑屈っていうわけじゃないんですけど、ダメダメなキャラクターが活躍するお話が好きなんですよね。完璧超人よりも、力が欲しくて弱さを覗かせてしまったりだとか、人間くさいキャラクターがいいです。

:オルソンは一部の読者に根強い人気があって、時々Twitterにオルソンってつぶやくと、反応される方々が何人もいらっしゃる。作家としても良いキャラクターを書けたんだなって思います。

――あらためて『ロードス島戦記』という作品は水野先生にとってはどんなシリーズですか。

:そうですね……デビューする前から考えていた世界だったので、やはり愛着はすごくあります。私は基本的には物語を完結させる方向で執筆活動をしています。時々、完結させることができず、読者さんからお叱りをいただくこともありますが。『ロードス島戦記』については、第一部を7巻で描き切りました。その後の『ロードス島伝説』や『新ロードス島戦記』は、続編を書きたかったというよりは、別の物語が書きたくて書いた作品なんです。今回の新シリーズも続きが書きたかったからというわけではなく、新しく書きたい物語があったから執筆しました。常に自分の書きたいものを乗せられるロードスという世界の懐の広さや深さをあらためて感じているところです。ロードスで一番印象的なのは、高校生の頃からアイデアを温めていた『ロードス島伝説』を作品として世に出せたことです。イラストを担当していただいた山田章博さんに、大学生の頃お会いする機会があって、将来こんな作品を書きたいんですという話を延々としたことがありまして。中二病全開ですよね。その山田章博さんにイラストを担当していただいたわけですから、本当に嬉しかったですね。

※シリーズで一番印象的だったという『ロードス島伝説』

■『ロードス島戦記 誓約の宝冠』は伝説の英雄VS現世の英雄

――いよいよ12年ぶりとなる『ロードス島戦記』の新作が発売されます。物語は1,000年の平和が約束されたはずの100年後から始まるわけですが、なぜ前作より100年後の物語を描こうと思ったのでしょうか。

:まず前提として1,000年の平和って、ある意味永遠の平和の言い換えです。そして100年。100年の平和は現実の人類史を顧みてもほとんどありません。日本の歴史でもせいぜい江戸時代くらい。物語では1,000年には及ばずに100年で戦争が起こるのですが、これは人間が抱えている業であり、それ自体がある意味この物語の一番のテーマというか核心になっていく……はずです。とはいえ、ファンタジーの良さは現実世界と違うところで、現実世界を純化できるのがファンタジーの魅力だと思っています。現実世界では100年間戦争がなかったら十分かもしれない。でもファンタジーとしては1,000年続けてみたいじゃないですか。その1,000年という数字に説得力をもたせるためには100年という区切りが必要じゃないかなと思ったんです。戦争はいきなり起こるものではなく、平和な時代から連続して戦争という状態になっている。平和と戦争という状態は決して分断されていないと思うんです。連続性のある状態の違いでしかない。それを自分が描くファンタジーという舞台を借りて、僕自身が思ったり感じていることを書いてみたいなと。ただ、あくまで描きたいのはキャラクターであって、そのキャラクターの想いで物語は成立してゆくと思っています。キャラクターの想いを丁寧に書いていくことで、読者のみなさんが何かを感じてくれたり、見つけ出してくれたらいいなって思います。

――新作ではロードス島にある6つの国のうち、「マーモ王国」の視点から物語は描かれることになるのでしょうか。

:構想時からこの作品はマーモの王子と王女の物語にしたいと思っていました。はじめは第四王子・ライルを中心とした物語になる予定だったんですけど、第二王子・ザイードがすごく面白いキャラクターになっていき、ライルとザイードの2つの視点を主に描いた物語となっています。どちらが主人公かわからないくらいに、活躍も苦労もさせています。ここは当初の構想から大きく変化した点ですね。

※マーモ王国の王子と王女を中心に物語は描かれていく

――「フレイム王国」が1,000年の平和へ火種を投じ、既に亡くなっているパーンに与えられていた「ロードスの騎士」という称号が再び叫ばれるようにもなっていきます。

:1巻時点である程度のテーマ性は提示しています。正式な名称はないですけど、この戦争は「宝冠戦争」ってことになるのかな? 新しい大戦は「ロードスの騎士」の伝説を巡る戦いになるであろうと考えています。伝説の英雄「ロードスの騎士」と、現世の英雄「フレイム王」の戦いですね。アイデア自体は10年前にはあったんですけど、なかなか書く機会がありませんでした。しかしながら30周年というこの機会にやろうということで、筆を執りました。

※フレイム王・ディアス

※伝説として語り継がれている「ロードスの騎士」パーン

――『ロードス島戦記』のいちファンとして、暁なつめ先生は新シリーズにどんな期待を寄せられていますか。

:水野良先生の本を読んでいると、ベルドの魂砕き(ソウルクラッシュ)のようにパーンの剣にも銘や由来が無いのかなと気になった部分などが、リウイなどの別シリーズの作中で描かれていることも多くて、読み込んでいるといろいろ見えてくるんですよね。自分としては『ロードス島戦記 誓約の宝冠』に、旧キャラクター本人でなくても、名前や足跡が出てきたら嬉しいなとは思いますね。

:新シリーズを書くにあたっては、そのあたりの加減がとても難しかったです。ハイエルフのディードリットは寿命がないし、エルフも基本的に1,000年は生きる。ドワーフも200~300年生きると記憶しています。そういう長寿のキャラクターは当然、今作にも登場しますし、また過去のキャラクターやエピソードを語ることもあります。一方で、あまり過去を引っ張り過ぎてしまうと新規の読者さんにはわかりづらくなるだろうし、既存の読者さんにも面倒だと思われてしまうかもしれない。今作はみなさんが思っているよりも新規キャラクターが多い物語です。そして僕が書きたいことも新しいキャラクター達に託しています。過去作を読んでいる人はもちろん、過去作を読んでいなくても楽しんでもらえるよう、僕が今できることをすべて詰め込みました。続編でも新作のような気持ちで読んでいただけたらと思いますね。

※永遠の乙女・ディードリットとの出会いがもたらすものとは

――『ロードス島戦記 誓約の宝冠』、注目してもらいたい点があれば教えてください。

:これはどの作品でもテーマにしてるんですけど、キャラクターの生き様と死に様ですね。せっかく生まれてきたんだから、何かしたいし、認められたいと思う。承認欲求ですよね。僕自身、小説で認めていただいたから小説家を続けてきましたが、そうでなかったら自分がもっと認めてもらえる場所を探したと思うんです。僕の作品のキャラクターたちも、自分の役割とか生きる意味をつねに探している。僕のキャラクターはいつも死ぬことが前提で考えられていて、それを回避したキャラクターだけが生き残っている節があります(笑)。それは今回も一緒です。それぞれのキャラクターたちがどう生きてゆくか、あるいは死んでゆくかを丁寧に描いていきたいなと思ってます。

■ファンタジーを掘り下げる!? エルフを奴隷にしたがる人は多い?

――お二人のファンタジー感についても話をお伺いできればと思います。『ロードス島戦記 誓約の宝冠』発売にあたり、「エルフ」に関する店舗特典も用意されていると聞いています。今やファンタジーに欠かせない存在「エルフ」。それらをはじめとした種族についてはそれぞれどう見ているのでしょうか。

※ファンタジーに登場するエルフとは……?

:いきなり結論っぽくなってしまいますが、日本の作品に登場する「エルフ」を分析してみると、高貴な亜神という要素がまず1つ。次にいたずら好きな妖精という要素が1つ。そしてエロい亜人っていうこの3つの要素で構成されていると思うんですけど、どう思います?

:どうなんすかね。自分はイエスマンなんで、そうだと言われるとそうですねとしか言えないんですけど(笑)。

:――(笑)。僕としては今の主流の「エルフ」の構成比率が気になっています。ロードスでは先ほどの構成要素3つが「3:6:1」くらいなのかなと思っていて。もちろんキャラクターごとに違うので一概には言えませんが、ロードスではいたずら好きな妖精の要素が多いです。「ハイエルフ」のディードリットも最初の頃は好奇心旺盛でいたずら好きでしたし。ただ成長してからは高貴な要素が多めになり、「ハーフエルフ」はいたずら好きな妖精の要素が多め。「ダークエルフ」になるとエロい亜人の要素が多めになるのかなという気がしています。

※ロードスではハイエルフとして登場するディードリット

:自分の場合の「エルフ」っていうと、『指輪物語』や『ロードス島戦記』のイメージで固まっちゃってるんですよね。

:高貴なイメージですね。そのイメージは『指輪物語』に直結していますよね。上級神がいて下級神がいて、その下にいる高貴な種族だと定義されている。北欧神話にいるアルフヘイムにいるアルフ(エルフ)が源流らしいですが。

:ただ最近の「エルフ」はかなり人間に近い存在として描かれることが増えている気はしますよね。

:亜神や妖精の要素が薄くなって、亜人ですよね。ロードスだと「ハーフエルフ」が人間に近いわけですが。そこで、ハーフエルフの最近のキーワードを拾っていくと「ハーフエルフはエロい」みたいなところに行き着いてしまって。えっ、そうなの?って(笑)。

:ハーフエルフは蔑まれる対象にもよくなっていたりするので、そのあたりも関係している気はします。

:そうなんですか? ハーフエルフの代表格で言えば『指輪物語』の「エルロンド」ですが、彼はとても高潔で高貴な存在として描かれていましたよね。記憶は定かではありませんが、迫害されるハーフエルフってあんまりいない気がします。ロードスのリーフがある意味代表格なのかもしれません。彼女、不幸だから。

:昔の本格的なファンタジーでは、迫害されているハーフエルフはあんまりいない気がしますね。ただ最近の「小説家になろう」をはじめとした作品の中には、ハーフエルフが迫害の対象にされていたり、奴隷になっていたりっていうのは少なくない気がしますね。

:エルフを奴隷にしたがる人は多いみたいですね(笑)。

:あれですよね。みんなギャップが好きだと思うんですよ。エルフとかシスターとかナースとか。神聖な雰囲気を纏う存在を身近に置けることそのものが嬉しいというか。そういったギャップの影響もありそうですよね。

:なるほどねえ。

:そういう意味でもお姫様や姫騎士もそういった対象になりやすいのかなと思いますよね。特に姫騎士って言ったらエロい目にあわせるのが我々としても仕事ですし(笑)。

:姫騎士は人気ありますよね。「このすば」だとダクネスもそれに近いかな。というか、姫騎士が「くっころ」って叫ぶように定型されたのっていつからなんですか?(笑)。

※「このすば」のダクネスも嬉々として口走る「くっころ!」

:自分が書くどころか相当昔からじゃないですかね。もう伝統ですよね。

:どこから来た流れかはご存知ですか?

:そこは詳しくわからないんですけど、例えるなら“エルフは弓が上手いよね”みたいな先入観に類するものだと思うんですよ。10年や20年の歴史じゃない気はします。

:でもTwitterとかで「くっころ」とか「オーク×姫騎士」をよく見かけるようになったのってここ数年な気がするんですよね。同人界隈ではひとつの様式美として存在していたのかな?

:姫騎士もエルフも高嶺の花ってイメージがありますからね。エルフになんとなくエロさを求めてしまうのと、姫騎士を「くっころ」してしまうのも一緒だと思うんですよ。

:「くっころ」もそうなんですけど、そもそもオークはいつから姫騎士を襲うようになったんでしょうね。いつの間にかそうなっていた気がする(笑)。

:オークへの風評被害は酷いですよね(笑)。

:指輪物語に出てくるオークに謝ってほしいですよね(笑)。彼らめっちゃモラル高いから。エルフと同じくらい種族的にも強いはずだし、本当にどうしてこうなった!

:どこかに誰か戦犯がいるはずなんですよね(笑)。

:扉を開いた戦犯はいるかもしれないけど、今の状況を受け入れている我々も同罪ですよね(笑)。姫騎士は酷い目に遭うものとか、オークは姫騎士を襲うものって潜在的に思っていたから一般化していった。伝説って生き残らないと伝説にならないわけで、逆に伝説になっているということは、みんなが支持したってことです。ギリシャ神話も北欧神話もあれを美しいと思った人達がたくさんいたから現代まで語り継がれているわけで(笑)。でも……オーク……同人誌で多かったのかなあ。

:最近は一周回って姫騎士を襲わないオークにギャップを感じていい、という風潮もありますからね。

:オークは歴史的にも難しいですよね。

:オークは難しいですね。豚の獣人だったりもするし、勇敢で強い逞しい種族だったりもするわけで。

:『指輪物語』のイメージが『D&D』で大きく変えられたのかもしれませんね。また話は少し変わりますが、女性ドワーフをロリにした人は誰だって思うんですよ。天才の発想か!って。ロリ属性を与える、そんな手があったのかって感心しているんですけど(笑)。

※女性ドワーフをロリにした奇才はどこに……

:寿命も長いですしずっとロリですね。

:いわゆる合法ロリってやつですよ。妖精は幼く見えても大人ですからね。考えた人は本当に天才だと思います。女性ドワーフをロリにした何者かがいて、そこに続いた我々がいる。『ソード・ワールド』も乗っかったくらいですし(笑)。我々は本当に伝説を作り続けている気がします。

:「このすば」も王道を皮肉っているネタが多いので、もとになった物語や設定がなければ、そもそも成り立たない作品ですからね。

:エルフ=エロいっていう見方は、神話に登場するヴァルキリーやニンフにも該当する高貴な亜神に昔から抱かれていていたものなのかもしれません。神話でもとにかく綺麗だと書かれているわけですし。異種婚姻譚だったかな? 人間の妻になることも少なくない。そういう意味では昔からエロの対象だったのかもしれません。人間の持っている欲望そのものが物語になって、その物語が人々に受け継がれてきた。エルフがエロいっていうのは必然である、そんな結論に達してしまいました(笑)。

:エルフの中でもダークエルフが肉感的っていうのは、『ロードス島戦記』のピロテースで定義されたのかなって思うんですけど、そこはどうなんですかね。

※『ロードス島戦記』に登場したダークエルフ・ピロテース

:あれはアニメのスタッフがオリジナルで作ったキャラクターで、その後に本編でも登場させました。もともと見た目をエロくっていう設定で作られたキャラクターだったそうです。僕自身はダークエルフに対してエロいってイメージはあまりなかったのですが(笑)。アニメのピロテースだって別段エロいことしているわけではないし(笑)。やっぱりデザインの力がとても大きかったように思いますね。

:そうですね。エルフよりも肉感的なイメージですし、肉食系なイメージもありますよね。

:肉食ですよね(笑)。ロードスのダークエルフは植物の育む力ではなく奪う力の象徴なので、寄生や腐敗、食虫のイメージです。

:「このすば」にエルフはほとんど出てきてないですけど、設定だけはめっちゃ考えてあるんですよね。今後世の中に出ることはないでしょうけど。

:せっかくなのでこの機会に「このすば」のエルフやダークエルフについて教えてください(笑)。

■『この素晴らしい世界に祝福を!』の亜人種はお約束を逆手に取っている

:わかりました。「このすば」だとエルフはもっと人間に近い種族の扱いなんです。森エルフと平原エルフ。平原エルフが狩猟民族のような扱いで、日焼けしていて肌は褐色なんですね。それを日本から転生してきた日本人が、勝手にダークエルフって呼んで名前をつけたんですよ。

:それひどい(笑)。一応長寿設定ではあるんです?

:人間よりは長寿ですね。平原エルフは大型の草食動物を狩っているので弓より槍が得意。肉食なんで発育もいいです。森エルフは草食系で、森のキノコや果物とか食べてる。木の上から獣に矢をいかけたりするので、さらしを巻いてることが多いです。弓の弦が胸に当たると痛いらしいですし。

:すごい痛いらしいですね。

:とりあえずそれはそれとして、さらしを巻くことでどんどん体格的に軽量化していったんですよ。肉感的な平原エルフとスレンダーな森エルフ。体型からしてこの2種族は仲が悪いんですよね。

:設定がきちんとあるんですね。ドワーフは?

:ドワーフはいますけど、エルフもドワーフも全部人間の町に入っちゃってるんですよね。外は魔王軍の存在もあって危ないので。エルフなんかは長寿を活かしてだいたい商人になるんですよ。本当に気の遠くなるような先を見据えた商売とかするんですね。あと本当にどうでもいい設定ですけど、日本人と仲が良い。

:エルフが?

:そうです。日本人はエルフに勝手な憧れを抱いていることが多くて、結果としてフレンドリーに接してくるんですよ。黒目黒髪の人間は、エルフを見ると感動する。そしてだいたい「弓が上手いんでしょう」とか、「草食なんでしょう」とかイメージを押し付けてくる。森エルフは日本人の前で肉を食べるとびっくりされるので、目の前では食べないようにしているんですよ。

:でもあの世界は野菜だって動くんだから、動物も植物も一緒じゃんって思わなくもないんですが(笑)。

:まあそうですね(笑)。あの世界の野菜は反撃してきますからね。みたいな感じで作中に出てこない設定は結構あるんですよ。

:エルフの強さはどうなってるの? ディードリットは主体的に動いてないキャラクターだからわかりづらいかもしれないけど、本気を出したらとんでもない強さを発揮するキャラクターの一人だったりするわけで。

:エルフには超強いやつらがゴロゴロしてますよ。やっぱ寿命が長いので。「このすば」の世界は一応レベルが関係してるんですけど、カンストまではいかずとも、高レベルのエルフは多いですね。

:紅魔族はどういう扱いなの? モデルがいたりする?

:いや、モデルはないですけど、一応あれは改造人間ですね。日本人があの世界で改造人間を作ったっていう、だから独特な名前が多かったりします。

:日本人が作った……だから平仮名なんだ。

:そうですね。そしてだいたいあだ名みたいっていう。

:強さと頭の良さが的確に繋がっていないのが紅魔族っていう印象もあるんですよね。めぐみんはインテリをいったいどこに使ってるんだろうとは常々思ってる(笑)。作戦参謀にはまず向かないキャラクターですよね。

:めぐみんは四六時中、脳みその9割方爆裂魔法のことしか考えてないですからね。残りの1割で日常生活を送ってるんですよ。でも知能はちゃんと高くて、スピンオフで書いているんですけど、アクシズ教徒のあの悪辣な勧誘方法を考えたのはめぐみんですからね。一応知能の高さは活かされてるんですよ。

:あかん方向で発揮されてますね。作品を見て、いろいろ設定を考えているんだろうなとは思っていましたが、やっぱりですね。当たり前のことと言えば当たり前のことなのかもしれないけど(笑)。

:8割くらいは使わない設定なんですけど、たまに生きる設定があるので、それは嬉しいですね。

:設定はしておいて損はありませんから。あとオークは存在してるのですか?

:オークは雌しかいないですね。雄は絶滅していて、雌が他の種族のいいとこ取りをしようと他種族の雄を狩ってまわるという。そういうハイブリッドな種族です。

※「このすば」のオーク雄は絶滅しました

:お約束の通りにやるのと、その裏を突くのと、取捨選択がうまくなされている感じがします。「このすば」のオークは姫騎士は襲わず、男狩りをすると?(笑)

:そうですね。設定についてはだいたいひねくれてしまうんですけど、ここは外さないというところはなるべく守るようにしてます。

:オークの雌は綺麗なの?

:いえ、オークです(笑)。

:それはつらい(笑)。

:いろんな血が混じってるんで、ネコ耳がついてたりもするんですけど、姿はオークですね。

:総括すると我々のようなファンタジーを書いている人間は、原初からある妄想を受け継いで書き続けているということですよね。

:そうですね。伝統芸能を引き継いでいるみたいな感じっぽいですよね。

:人間の良い欲望もダメな欲望も含めてですね(笑)。設定が魔改造されながら変遷していくことも、それを許容していくことも、我々は業を背負い続けていくしかない!

■「このすば」新刊も同時発売 劇場版も8月30日に公開

――暁なつめ先生も『この素晴らしい世界に祝福を!』最新16巻が発売となります。最新刊はどんなストーリーになるのでしょうか。

:前巻の最後では魔王を倒すと駄々をこねて、一人魔王を倒しに飛び出したけど、置手紙の追伸には「探してください」ってアクアが残したところまでですね。

:探してください!? それ面白いですね(笑)。

:そして最新刊では主人公のカズマがとうとう凄い力に覚醒する……かもしれませんよ(笑)。

:暁さんの物語をみていると、設定の活かし方が本当にうまいなっていうのをすごく感じます。それぞれのキャラクターが持っている特性をフルに使って、しっかりとお約束に導いてるんですよね。

:あれですね、TRPGをやっているとゲームマスター泣かせのプレイヤーっているじゃないですか。

:僕のことですね、すいません(笑)。

:――(笑)。自分もそういうのが大好きなんですよ。特にカズマは穴を突くキャラ設定なんで、影響は受けてると思います。最新刊も楽しみにしてもらえたらと思います。

――8月30日に劇場版『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』も公開となります。

:劇場版は原作小説の5巻にあたりますね。アニメ第2期の続きのような感じで観ることができると思うので、こちらも楽しみにしてもらえたらと思います。

――『ロードス島戦記』はニコ生の特番が7月31日に放送されます。どんな感じのお話をされるんですか。

:『ロードス島戦記TRPG』のセッションをやりながら、新シリーズを紹介できたらいいなと思ってます。TRPG好きの方にはぜひ見て欲しいなと思いますね。僕は喋るのが好きなので、おかしなことを言いださないようにだけ、気を付けます(笑)。

――最後に、それぞれファンの方に向けてメッセージをお願いします。

:より多くの読者に気に入ってもらえる作品になっていたらいいなと思います。完結したシリーズの続編を書くのって難しいんですよ。ロードスの場合は各シリーズで物語が完結しているので、続編を書いたら違和感を抱く読者もいるかもしれない。手放しに期待してくださいとはなかなか言いづらい部分もあるんです。読んでいただいて、やっぱりロードス面白いなと思ってもらえたら嬉しいですね。

:『この素晴らしい世界に祝福を!』本編は終わりも見えてきました。遠くない未来に迎える一区切りまでお付き合いいただければと思います。映画に関しては期待してください。スタッフさんがすごい頑張ってくれたので。そして「エルフ」を綴った水野先生と自分の店舗特典にもぜひ注目してもらいたいです。プレミアつくと思うので!(暁なつめ先生の見解です)。

<了>

2019年8月1日に同時発売される『ロードス島戦記 誓約の宝冠』、『この素晴らしい世界に祝福を!』第16巻のいずれかを購入された方に、著者両名による「エルフ」をテーマにした『ロードス島戦記』×『この素晴らしい世界に祝福を!』のコラボSS小冊子もプレゼントされる。数量限定の貴重なコラボ冊子もしっかりとゲットしてもらいたい。(配付店舗などの詳細はこちら

©水野良/KADOKAWA スニーカー文庫刊 イラスト:左

©暁なつめ/KADOKAWA スニーカー文庫刊 イラスト:三嶋くろね

©暁なつめ・三嶋くろね/KADOKAWA/映画このすば製作委員会

[関連サイト]

『ロードス島戦記』シリーズ特設サイト

『この素晴らしい世界に祝福を!』原作特設サイト

スニーカー文庫公式サイト

ランキング

ラノベユーザーレビュー

お知らせ