独占インタビュー「ラノベの素」 森月真冬先生『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年9月25日にダッシュエックス文庫より『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』が発売される森月真冬先生です。第7回集英社ライトノベル新人賞にて「金賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。宇宙での泥沼の戦争の最中、敵国の少女と二人きりで宇宙を漂流することになってしまう物語を描く本作。その一方、あらすじを鵜呑みにはできない物語の仕掛けも隠されており、ネタバレにならないギリギリの範囲で作品の内容やキャラクターなど、様々にお聞きしました。

【あらすじ】

時は、地球人が宇宙に進出して854年…彼らは銀河で最も繁栄した種族となっている。そんな中、辺境国のツキムラクモと神聖アルビオーノ王国は資源星を巡って泥沼の戦争を続けていた。ツキムラクモ軍の少尉・狛犬アカネは、神聖アルビオーノ王国の兵士・リリスとの戦闘中に受けた攻撃で遭難。リリスもまた機体が半壊し、互いに通信も移動も不可能な状況となる。そこで二人は生き延びるため休戦し、元の宙域に戻る道を探すのだった。幸いにも食料や資材は十分にあるため、二人の機体を組み合わせれば、時間はかかるが生還は可能なはずなのだが…? 帰還までおよそ四十日あまり。アカネはリリスと協力し合って、共に生きて帰れるのか!?

――第7回集英社ライトノベル新人賞「金賞」受賞おめでとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

森月真冬と言います。東京生まれの東京育ちで、このたび第7回集英社ライトノベル新人賞にて「金賞」を受賞させていただきました。好きなものはミステリー小説にアニメ、漫画、格ゲーが好きです。苦手なものはすぐバテたり日焼けしたりしてしまう夏で、基本クーラーのある部屋に引きこもってますね。漫画はとにかく大好きで、とよ田みのる先生の『金剛寺さんは面倒臭い』や九井諒子先生の『ダンジョン飯』も面白く読んでいます。『ダンジョン飯』については、僕は食べることが大好きなので、どんな味なんだろうって想像しながら読んじゃいます。昔からゾンビの肉とかも食べてみたいと思っていました(笑)。

――漫画は面白い視点から楽しまれていますね(笑)。ご自身が小説を書きはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。

執筆歴は6~7年くらいなんですが、小説を書きはじめるまでは小説家を目指そうとは1ミリも考えていませんでした。僕はしばらく無職だった期間がありまして、その時にネットサーフィンで、無職からラノベ作家になったというエピソードを目にする機会があったんですね。それを見て書いてみようと(笑)。当然ですが書きはじめた頃は箸にも棒にもかからない状況で、いただいた選評も作風がラノベっぽくないという指摘も多く、ラノベってなんだろうと考えさせられました。そこで昔読んでいた『ロードス島戦記』や『フォーチュン・クエスト』、『ゼロの使い魔』などを思い出しながら書くようになり、少しずつでしたが前へ進めるようになった感じです。

――なるほど。ライトノベルも読まれていたわけですね。

それでもやっぱり、メインはミステリー小説ばかりでした(笑)。小学校の自由研究で、図書館の棚からどのくらい本を読めるのかという研究をしたんですけど、そこで赤川次郎先生の『三毛猫ホームズ』に出会い、その後島田荘司先生の『暗闇坂の人喰いの木』を読んで一層ハマるようになりました。むしろハマりすぎてしまって、小学校の「将来なりたいもの」を書く時に、【猟奇殺人事件のようなミステリー展開に一度でいいから巻き込まれたい】というようなことを書いて、先生に怒られたこともあります(笑)。ライトノベルについては『ロードス島戦記』のアニメを見ていて、毎話いいところで終わってしまうんですよね。なので、どうしても続きが見たくて小説も読むようになりました。原稿の応募についても最初は電撃大賞くらいしか知らなくて、書きはじめて3年くらい経ってからいろんなレーベルがあり、それぞれ新人賞を開催していることを知ったくらいだったので(笑)。

――森月先生は集英社ライトノベル新人賞へ応募、そして受賞をされたわけですが、本新人賞についてはどういった経緯で知られたのでしょうか。

先ほども触れましたが、僕はミステリー小説が本当に大好きなんです。そんなある時、ミステリー小説好きの知り合いに何か毛色の違うミステリー小説はないかと聞いたところ、山形石雄先生の『六花の勇者』を勧められました。勧められるままに読んだらとにかく面白くて、少し調べてみると本小説賞の存在と、最終選考委員を山形石雄先生が務められていることを知って、自分の作品を読んでもらいたいと思ったんです。結果として集英社ライトノベル新人賞でも初の「金賞」をいただくことができ、我ながらドラマチックな展開になったと思いましたよね(笑)。

――それではあらためて、受賞作『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』がどんな物語なのか教えてください。

この物語はある想いを胸に秘めた少年兵・アカネが、敵国の女兵士・リリスと機動兵器の戦いで相打ちになってしまい、宇宙空間で取っ組み合うところから漂流が始まります。互いに生き残るため休戦し、帰還の道を模索することになるんですが、リリスには重大な秘密があり、アカネの運命を大きく変えることになります。いがみ合う男女の漂流という物語がベースで、題材としてはベタだとは思うのですが……本作の見どころはそれだけではないというか、そこではないというか、とにかく少しでも踏み込んでお話をしてしまうとネタバレになってしまいそうで怖いです(笑)。

※宇宙を漂流することになる敵同士の二人の物語……のはずなのだが。

――なんとも歯がゆいですけど、ネタバレにならないよういきましょう(笑)。視点を変えて着想についてもお聞きしたいのですが、本作は森月先生のミステリー小説好きも影響しているのではないかと感じたのですがいかがですか。

そのあたりはあまり関係なかったり……(笑)。この作品はプロットを考えず、作品としての結末と、アカネとリリスのキャラクターを決めてから書きはじめた物語でもあるんです。結末までの道筋はまったく考えていなかったんです。なので、伏線についても気付いたら伏線として機能していたという部分も少なくないんですよ。

――それはそれで驚きです。終盤への展開はプロセスをしっかりと組み立てていたのだろうと思っていました。

僕自身のミステリー小説好きが無意識にいい方向へと働いたのかもしれませんね(笑)。物語のベースは過去の新人賞で落選してしまった応募作でもあって、当時の選評がキャラクターへの愛が欠けている、というものだったんです。なので、愛を描くような作品にしたいとも思い、物語としての舵を大きく切りなおして執筆をしました。終盤までは筆も乗っていたんですが、終盤に差し掛かるにあたり、どうやって決めた結末へと向かわせたらいいんだろうと本当に悩んで、3日間泣きながら必死にひねり出した感じです(笑)。この物語はある意味、執筆した僕自身でさえも、そもそも想定していなかった展開を迎えます。なので、読者の予想を良い方向に裏切ることができるんじゃないかなと思っていますし、書籍のあらすじだけに囚われないで読んでいただけたらと思いますね。

――では続いて、本作の主人公とヒロインについて教えてください。

宇宙を漂流することになる主人公の狛犬アカネは、中性的でまつ毛が長かったりと、外見的には頼りない、或いはナヨッとしているように見えたり感じたりするかもしれません。ですが、性格は見た目とは違い意外と気概もあって、外面と内面とでギャップのあるキャラクターだと思います。聖人君子ではないですが、気遣いもできる「いいヤツ」って言葉が当てはまるキャラクターですね。

※主人公のアカネは見た目とは裏腹に男らしく頼りになる面も

リリスはアカネと宇宙を漂流することになる敵国・アルビオーノ王国の兵士です。育った環境がやや特殊なこともあり、わがままや小生意気な面も少なくはありません。ただ、アカネとの40日間の漂流を経ていくうちに素の性格も相まってどんどん柔らかくなっていく姿も見どころだと思います。彼女に隠された秘密が、アカネの運命を大きく変えていくことになりますが、結果として彼女自身の運命も大きく変えていくことになりますね。

※ヒロインのリリスには何やら隠された秘密があって……。

――お気に入りのキャラクターやシーン、ビジュアルがあれば教えてください。

お気に入りはプロローグで描かれているアカネのイラストと、エピローグで描かれているもう1枚ですね。プロローグについては、エピローグまで辿り着いたらもう一度読んでもらいたいシーンでもあります。また、本作のイラストは成海クリスティアーノート先生に担当をしていただいたのですが、僕自身が想像していたキャラクターイメージを超えるイラストを描いていただけたと思っています。ジャケットのリリスも、あまりにも綺麗でビビリましたよね(笑)。色使いはもちろん、世界観や国旗など細かいところにも配慮をいただきました。成海クリスティアーノート先生のイラストから想像が膨らんだ部分も多かったので、非常に感謝しています。

※プロローグで描かれるアカネの姿が意味するものとは……。

※腰のあたりに描かれる各国の国旗模様もこだわりのひとつ。

――あらためて著者として本作の見どころ、注目してほしい点を教えてください。

漂流生活における二人の関係性の変化、敵同士の二人がどのように変わっていくのか、そういった点にまずは注目してもらいたいです。また作中に登場する小道具についてもこだわりながら書いていたところでもあって、現代の世界から変化していないもの、或いは大きく変化しているもの、それぞれ描写していたりもするんです。

※少しずつ変化していく二人の関係も見どころ。

――食事の際の箸はそのまま存在しているとか、そういった点ですか?

そうですね。例に挙げていただいた箸は紀元前からほとんど形を変えずに残っていて、未来の世界でも変わらないだろうなって思ったんです。一方で大きく変化しているだろうと考えて描写したのが服ですね。この作品では洗濯という概念がなくて、アパレルプリンターと呼ばれる機器を使い、着終えたら素材に分解、着る時になったら指定のデザインに再構築するというシステムになっています。服は科学が発展したら、その在り方を大きく変えるんじゃないかなと思っていて、そういった想像の部分についても楽しみながら読んでもらえたらと思います。

――今後の野望や目標があれば教えてください。

とりあえずは第2巻を刊行することですね。本作の世界観は膨らませる余地がたくさんあるので、まだまだ物語の続きを描いていきたいです。あとは物語を書くことそのものが楽しいので、このまま作家としてお仕事を続けていけたらいいなと思っています。特に夏は暑いので自宅でできる仕事は本当にありがたいですし(笑)。もうひとつ目標としては、他にはないような読み味を出せるのが森月真冬だぞ、という僕自身へのファンを増やしていけたらいいなと思っています。この作品の終盤の展開もそうですし、他にはないような読み味を提供していけるような作家になっていきたいですね。

――最後に本作へ興味を持った方、これから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

本作はあらすじを読むと、SF作品だと思われる方がほとんどだと思います。ですがSFは要素のひとつに過ぎません。この作品は読みやすさを重視しています。SFがベースではありますが、コメディ要素も強いですし、決して堅い物語ではありません。なので、お気軽に手に取っていただけたらと思います。発売にあわせる形で「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて導入部分のコミカライズの掲載も予定していますので、そちらもあわせて読んでいただけたら嬉しいです。そして何度も触れていますが、公開されているあらすじにも、そして冒頭のプロローグにも騙されないでぜひ手に取ってもらいたいです。見どころはあらすじに書かれているところだけではありません。あらすじに騙されず、物語の終盤で「こんな作品だったんだ」と楽しんでいただけたらと思います。よろしくお願いします!

■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」

インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。

第11回GA文庫大賞「大賞」受賞作家・佐藤真登先生

 ⇒ 第7回集英社ライトノベル新人賞「金賞」受賞作家・森月真冬先生

【質問】

割とくだらないことかもしれないんですが、執筆環境において作業中はどうしても座り作業で、身体にもいろいろガタがくると思います。また周囲には娯楽的な誘惑も多く、集中力が乱されがちなことも少なくありません。どちらも作業の集中力に直結する部分で、そういった身体の健康法やストレスの解消法、誘惑との戦い方、肉体的にも精神的にも執筆環境をどのように整え、維持しているのかを教えてください。

【回答】

求められている答えになるかはわかりませんが、肉体的かつ精神的なリフレッシュ方法としては、1時間近くお風呂に浸かり、あがり際にビールを一杯飲んで僕は解決しています。肉体的にも精神的にも一気にリフレッシュできます。誘惑の部分については解決方法を見いだせておらず、もはや負けることを前提にしているかもしれないです。とはいえ、締切だけはどうにもならない存在なので、散々誘惑に負けた後、追いこまれながら、泣きながら執筆するしかなく、ただひたすらに書くしかないのかなと……。

――本日はありがとうございました。

<了>

敵同士の男女が帰れるかもわからない広大な宇宙を漂流することになる物語を綴った森月真冬先生にお話をうかがいました。限られた空間の中、たった二人で宇宙を彷徨うこととなり、少しずつ心の変化も見せ始めていくことになる二人。それがまさか、あのような結末になるなんて……という後半の展開が意表を突きすぎる本作。宇宙を漂流するだけじゃない、新たな英雄が誕生することになる『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』は必読です!

©森月真冬/集英社 イラスト:成海クリスティアーノート

[関連サイト]

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