独占インタビュー「ラノベの素」 羽根川牧人先生『死にゲー転生ブラッドペイン』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2019年9月30日にファミ通文庫より『死にゲー転生ブラッドペイン』が発売される羽根川牧人先生です。ちょっとしたミスが死につながる「死にゲー」の世界へと召喚された主人公が、感情と合理性の間で揺れ動きながら世界の攻略を目指すファンタジーシリーズ。作品の裏側や内容についてはもちろん、「死にゲー」の舞台装置が放つ魅力や物語の見どころについてお聞きしました。

【あらすじ】

大人気”死にゲー”をプレイ中に意識を失った黒江海斗は、自キャラ《血錆のカイト》として目覚める。自分を召喚した焔の巫女フラムは戦闘を強要してきたり「撫でてください!」と懐いてきたりと、可愛くもあるがやたらとウザい。ゲームの展開通りなら、序盤の負けイベントで彼女は死ぬ――だがフラムの健気な覚悟を知ったカイトは、最強プレイヤーとして誰も見たことのないエンディングを目指す! リアルで成し遂げる前人未踏の縛りプレイ攻略譚!!

――それでは自己紹介からお願いします。

羽根川牧人です。島根県出身で、現在は東京在住です。小説家としてのデビュー歴を振り返るとやや複雑な経歴を辿っていたりします(笑)。短編と長編の双方でデビューのきっかけがありまして、Pixivで開催されていた短編作品の公募で「優秀賞」をいただき、2011年にファミ通文庫から発売された『ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール』に掲載されたのが最初でした。その後、長編では第25回ファンタジア大賞にて「金賞」をいただき、『心空管レトロアクタ』を刊行してデビューしています。好きなものはゲーム、あとは怪談や音楽でしょうか。ゲームは今回の新作に大きな影響を与えている「死にゲー」と呼ばれる作品が好きですし、怪談はYouTubeで色々と探して聴いています。音楽もギターをやっていて、以前はバンドを組んでいたりもしたんですが、小説の執筆に費やす時間が多くなったので、ライブなんかもできなくなってしまいましたね(笑)。

――ある意味で2回の受賞歴を経て作家となられているわけですが、小説を書きはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。

小説家になりたいと考えはじめたのは小学生の頃でしたね。ただ、当時から書きはじめていたのかというとそういうわけでもなく、いわゆる「いつか書く」の状態がずっと続いていたんです。それでも小説家になりたいと漠然と考えた大きなきっかけは、幼馴染みの存在が大きかったんですよ。

――おっと、いきなりラノベ主人公のような展開に(笑)。

そう思うでしょう?(笑)。でもそんな期待にお応えできなくて残念ですが、幼馴染みは男です(笑)。小学生の頃からその幼馴染みは絵もうまくて文章も書けて、本当に何でもできる友達だったんです。オタク趣味に浸かるようになったのもその幼馴染みの影響でもあるんですが、常に一緒だったことで、自分も何か作りたいという、対抗意識のようなものが生まれていました。ひょっとしたらそれはコンプレックスだったのかもしれません。クリエイティブな面で、常に何歩も先を行く幼馴染みをずっと見続けていて、焦燥感を抱き続けていたんですよね。

――小学生の頃から幼馴染みへの対抗意識を抱きつつ、具体的に小説を書きはじめるようになったのはいつ頃だったのでしょうか。

本格的に書きはじめたのは社会人になってからでした。社会人3年目くらいの頃に、自分が本当になりたかったものを1度でいいから目指してみるべきではと思いました。とにかく1本長編を書いて、新人賞に応募することを目標に書きはじめたんです。そして初めて完成させた長編を応募したところ、3次選考まで通過して、これは意外と順調に夢を叶えられるんじゃないかと思ってしまったんですよね……。

――すごく遠い目をされていますが、順風満帆というわけではなかったみたいですね(笑)。

その後はとにかく路頭に迷いました。1年目は3次通過、2年目は2次通過、3年目は1次さえも通らないという(笑)。あらためて作家になるって難しいことだなと感じました。幸いにもその後、ご縁がありデビューするに至れたことは本当に幸運だったと思います。

――羽根川先生はファミ通文庫やファンタジア文庫、富士見L文庫などで活動されていますが、作風もかなり多岐に渡る印象があります。

作品ごとに作風が違う、という点はたまに指摘されますね(笑)。もともとは『ロードス島戦記』からラノベを読むようになって、TRPGも遊ぶようになり、『グイン・サーガ』をはじめファンタジーが好きだというのはありました。その後『ブギーポップ』や『ブラックロッド』などでも衝撃を受けました。それでも小説を書くところまではいかず、「いつか書く」という状態のまま、でも作家を夢見て自分の幅を広げようという意識だけは働かせていたんですよね(笑)。そこでSFやミステリーなどの名作を一通り読んだり、乱読していた時期も長く、自分の可能性や強みを発見したり、見つめ直したり、考えることだけは続けていました。その期間にスチームパンク好きであることを自分で認識したりもして。今回の作品にも大いに影響を与える形になりましたよね。

――それでは新シリーズ『死にゲー転生ブラッドペイン』がどんな物語なのか教えてください。

端的に言うと、死にゲー世界に転生した最強プレイヤーが世界の攻略・クリアを目指す物語です。転生した主人公はヒロインで焔の巫女でもあるフラムと出会うことになります。ただゲームでの焔の巫女は、早々に死んでしまうことが決まっている存在でもあって、いわゆるゲーム中における「負けイベント」の上にいるキャラクターでもあります。主人公が転生した世界でもフラムが死なないと主人公のレベルアップは叶わず、つまるところフラムが死ななければ到底攻略できるような世界ではないことが大きな特徴でもあります。それでも主人公はフラムが死なないよう、世界の攻略を目指していくことになります。

※断罪者として死にゲーの世界の攻略を目指すのだが……。

――先ほども少しお話に出てきましたが、ご自身の「死にゲー」好き、そしてスチームパンク的な世界観に着想が基づいている作品でもあるんですよね。

そうですね(笑)。きっかけとしてはファミ通文庫の担当編集さんからゲームネタで何か書けないかというお話をいただいて、二つ返事で「死にゲー」をテーマにした企画がやりたいとお伝えしました。私が考える「死にゲー」の魅力は、理不尽に抗うということがあると思っています。決して「死にゲー」好きはドMだというわけではなく、壁を乗り越えることが好きな人達であり、成長を実感したい人達でもあると主張をしておきたい(笑)。「死にゲー」をプレイしたことがある方はよくご存知だと思うんですが、初めてプレイすると本当にクリアできるのかって感じると思うんです。ボスは当然強いし、下手をしたらボスまで辿り着くことさえ難しい。その状況に対して、自分の中で創意工夫を繰り返して、クリアへの道筋を少しずつ切り拓いていく。そういう快感が「死にゲー」の魅力なのかなって思うんですよ。人生にも似ているなって思います。

――急に「人生」という深いお話に(笑)。

深い話……になるかどうかはわかりませんけど、それこそ学校や職場、日常の中で理不尽なことって起きるじゃないですか。そういった理不尽に対して、何度失敗してもいいと思うんですけど、どう受け入れるのか、どう対処していくのか、どう解決していくのか考えることは多いと思うんです。そうして理不尽を乗り越えた先にある達成感は、すごく「死にゲー」に近いものがあると思うんですよ。しんどい先にある達成感って言えばいいんですかね。今作ではそういう達成感もうまく演出できたらという思いで書いています。主人公がフラムを生かしたままクリアまで辿り着くのは、超大変な縛りプレイでもある。それを創意工夫でもって乗り越えていく物語を、読者のみなさんにも一緒に乗り越えようという気持ちで読んでもらえたらと思うんですよね。

――あらためてそんな本作の中で世界の攻略を目指すキャラクター達について教えてください。

主人公のカイトは「ブラッドペイン」というゲームで知らない者がいない程のトッププレイヤーであり、断罪者としてゲームのような異世界に召喚されることになります。ゲームが上手い人ってこういう人だよね、というイメージを詰め込んだキャラクターでもありますね。基本的には冷静沈着で、すべて合理的に考え、論理立てて動く人間。非常にクールなキャラクターという印象を受ける読者も多いんじゃないかと思います。ただ、カイトは現実でとてつもない理不尽に打ちのめされた背景を持っています。だからこそ、フラムに対しても理不尽に対しても、妥協点を冷静に見出してしまう。そんな彼がこの世界を通して妥協できなくなっていく姿は、理性とは異なる感情的な部分にも連なっていて、本作においても大きな見どころだと思っています。

※血錆のカイト(キャラクターデザインより)

フラムは焔の巫女という称号を持ち、聖導会という組織に所属しているシスターのような存在です。この世界には巫女という存在が12人存在しており、いずれも断罪者を召喚する存在として描かれています。主人公がプレイしていたゲームでは12人の巫女から1人を選択してゲームを開始する。その巫女が死ぬことによってレベルアップ、巫女が持っている称号に連なる奇跡(魔法)が使えるようになったりするんです。物語ではすでにフラム以外の11人は死んでいるところから始まり、フラム自身も断罪者の召喚が自らの死に直結することになることを覚悟しているんですが、他人に自分の弱い姿を見せないようにしている。生意気で能天気に見えるかもしれませんが、そこには彼女の強さも見え隠れしており、重い運命を背負っていることの裏返しでもあるんです。

※焔の巫女・フラム(キャラクターデザインより)

もう一人、カイトと同じ断罪者として召喚されているミヅキについても少しだけ触れさせてください。彼女は主人公の対比のような存在として登場します。外見的、性格的には格好いい女の子ではあるんですが、少々恥ずかしい言動を取ってしまう残念な一面も持っています。ゲーマーではありますが、この作品では最も読者の視点に近い存在でもあるので、ぜひとも注目してもらいたいですね。

※カイトと同じく断罪者として召喚されたミヅキ

――主人公のカイトは合理的に物事を考えるキャラクターで、フラムの命についても決して固執しているわけではないという一面も描かれていますよね。

そうですね。本作では「トロッコ問題」という思考実験を何度か取り上げているシーンがあります。ある人を助けるために他の人を犠牲にすることは許されるのか、といったものです。先ほども触れましたが主人公は合理的に物事を考えていて、世界を攻略して救うことを考えると、レベルアップした方が確実性を高めて達成することができるわけです。でも、そのためにはフラムが死ななければなりません。フラムを救おうとは頑張るものの、結果として死んでしまったとしても、召喚された世界を救うという大目的のためには、そうなっても仕方ないと思っている節が最初にはあります。何かを犠牲にしないと得られないものがあるのなら、その理不尽を受け入れる。合理的な妥協と言えばいいでしょうか。でもそこには、自分の頑張りによって打破できるものもあるのではと思っていて、合理的な人間が非合理的な感情で動くという姿にも面白さがあると思っています。それが人間味に繋がっていくと思いますし、自分自身もしっかりと描きたいと思っていた点でもあります。

※カイトはフラムの命をどのようにとらえ、断罪者として戦うのか

――断罪者はミヅキをはじめ、カイト以外にも登場しますよね。既に巫女を失っている断罪者たちが合理性と人間性の間で揺れ動く姿も見どころですよね。

カイトを除いた11人の断罪者は、全員がカイトのようにゲームのような世界に対して、すべてを受け入れられたわけではありません。毎回自分たちが死ぬことを含めて苦労をしていますし、カイト以上に巫女という存在に依存している断罪者もいます。死にながらクリアを目指す上での支えでもあり、守りきれなかったことへの後悔を抱くキャラクターもいます。ゲーマーでありながらもゲームに求めるものはそれぞれ異なりますし、合理性という言葉ひとつで納得できるわけではない。プレイヤーひとりひとりの背景も見どころとして見ていただきたいですね。

――お気に入りのシーンやイラストがあれば教えてください。

本作のイラストは桑島黎音先生に担当していただいています。桑島先生のイラストを私自身も拝見させていただいて印象的だったのが、赤と黒の色使い。黒を基調としながら血しぶきが飛ぶような世界を描きたかった今作のカラーと一緒なんです。実際に描いていただいたイラストはとにかく格好いいし、フラムやミヅキも可愛く描いていただいています。そんなイラストを含めてぜひ見ていただきたいのはラストのシーンですね。「死にゲー」でプレイヤーがボスを倒したときに、よく「アドレナリンが出る」って言うんですけど、ラストシーンではその感覚を読者にも味わってほしくて描いたシーンがあり、その先には見開きのイラストも待ち構えています。ぜひ読み進めてその感覚を味わっていただけたらと思います。

※世界観にハマりこむ見応えのあるイラストも満載!

――著者として本作はどんな方が読むとより面白いと感じてもらえると思いますか。

やはり私自身「死にゲー」が好きなので、「死にゲー」好きの人には楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。世界観にしても『Bloodborne』をインスパイア・リスペクトした作品で、小ネタなんかも仕込んでいます。そういったものを探しながら読んでいただけると、本編とは少し違った楽しみ方もできるんじゃないかなと。「死にゲー」をプレイしたことがない方には、興味はあるけどアクションが苦手で敬遠している方も多いと思っていて、そういった方にもぜひ読んでほしいです。ゲームのプレイ能力に関係なく「死にゲー」の魅力がこの作品を通して伝わるといいなと思っています。

――今後の目標や野望があれば教えてください。

自分は『Bloodborne』の次作を期待しているんですけど、なかなか出なくて……(笑)。もし『Bloodborne』の次作や、それに連なるような作品が出るようなことがあれば、本作で登場させた装備をゲームにコラボで出してもらえるくらいに、この作品に育っていってもらえたらと思っています。あとは11人存在する断罪者も全員登場させたいですね!

――それでは最後にご自身のファンや本作に興味を持った方、読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

自分はストーリーをしっかりと書きたいと思っていて、特に伏線を張って回収するところに喜びを見出している人間でもあります。桑島黎音先生のイラストによって作品として、物語としての魅力もすごく高めていただけていますし、全力投球で執筆していますのでぜひ多くの方に読んでいただければと思います。それと「死にゲー」好きの方にはこの作品を全肯定してもらう必要もないと思っていて、「死にゲー」には幅広い解釈や遊び方があっていいと思うんです。自分の解釈する「死にゲー」は違うという意見があればぜひぶつけていただいて、そういう話でも盛り上げられたらいいなと思います!

――本日はありがとうございました。

<了>

「死にゲー」の世界へと召喚された主人公が、巫女に振り回されながら世界の攻略を目指すファンタジーを綴る羽根川牧人先生にお話をうかがいました。合理性と人間性の狭間で揺れ動く断罪者たちの葛藤にも見どころが多い本作。ゲームのような世界と現実の世界、二つの世界を股に掛けて描かれる『死にゲー転生ブラッドペイン』は必読です!

©羽根川牧人/KADOKAWA ファミ通文庫刊 イラスト:桑島黎音

[関連サイト]

『死にゲー転生ブラッドペイン』特集サイト

ファミ通文庫公式サイト

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