独占インタビュー「ラノベの素」 雨宮和希先生『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年6月1日にHJ文庫より『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』第2巻が発売された雨宮和希先生です。HJ小説大賞2020前期にて受賞後、HJ小説大賞2020「年間最優秀賞」に輝いたタイムリープによる青春やり直しストーリー。虹色の青春を目指して奮闘する主人公、そして恋と友情の狭間に揺れ動く少年少女たちの心の機微も魅力の本作。物語、そして作品の着想についてなど様々にお聞きしました。

 

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム2

 

 

【あらすじ】

タイムリープによる「やり直し」の機会を得た結果、幼馴染みの美織の協力のもと、虹色の青春を目指し奮闘する灰原夏希。次なる目標=恋人を作るべく夏希は片思い相手の陽花里を誘い、美織&怜太と4人でWデートを決行するなど、1周目では出来なかった青春を謳歌! まさに計画は順調かと思いきや……「……あの、さ。七夕まつり、あたしと一緒に行かない?」 詩からの一途なアプローチに、陽花里への想いや友達グループの関係性など、夏希の心は恋と友情の間で大きく揺さぶられ――!?

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

はじめまして、雨宮和希と申します。出身は群馬県で、群馬で小中高大と進学し、現在は神奈川県で兼業作家をやっております。趣味は読書、FPS、ゲーム配信視聴、eスポーツ観戦です。読書は主にライトノベルで、昔からの好きな作品で言うと私の原点でもある『とある魔術の禁書目録』や『ダンジョンに出会いを求めるのはまちがっているだろうか』、最近では『楽園ノイズ』や『天才王子の赤字国家再生術』など、挙げ始めたらキリがないですね……。ネット小説を読み漁るのも大好きで、「小説家になろう」を初めて訪れた時は宝の山に見えました(笑)。ゲーム配信は主にFPS系の配信者を見ていますが、割といろんな配信者を見ています。小説執筆以外にハマっていることとしては、FPSでしょうか。大学時代にはPUBGでチームを組んで、スクリムに出場していた時期もありました。最近はAPEXでマスターに到達して満足し、VALORANTのゴールド帯で奮闘中です。

 

 

――ありがとうございます。あらためてHJ小説大賞2020「年間最優秀賞」の受賞おめでとうございます。書籍第1巻の刊行後に受賞の発表が行われたわけですが、率直な感想をお聞かせください。

 

ありがとうございます。とても嬉しく、光栄に思っております。年間最優秀賞につきましては、自分は第1巻がすでに発売していたので、まさか受賞するとは思っていませんでした。てっきり未発売作品の中に最優秀賞があるんだろうなぁと思っていました(笑)。なので、担当編集さんからお話を聞いた時は非常に驚きましたし、急に300万円が降って湧いた感覚というか……金額にするとなんか生々しいですね……。

 

 

――雨宮先生はWEBで小説作品の投稿と発表も行われているわけですが、敢えて「未発表部門」に応募しようと考えたきっかけはなんだったのでしょうか。

 

まず新人賞に応募した経緯についてお話をさせていただくと、本気でラノベの新人賞受賞を目指して応募を始めたのは、一昨年の4月くらいだったと思います。新人賞用に三本の原稿を執筆し、そのうち二本で賞をいただきました。おっしゃる通り、その前から「小説家になろう」でネット小説を書いており、異世界ファンタジーで三作ほど書籍化もさせていただきましたが、「小説家になろう」で書籍化を狙うにはちょっと難しい作風の本を出したいと考え、新人賞に応募することを決めたんです。

 

 

――なるほど。作品を発表する場所での需要と供給を頭に入れながらの挑戦だったわけですね。

 

そうですね。それ以前も何度か新人賞に応募したことはありましたが、「小説家になろう」に投稿していた作品を改稿しての応募だったりと、新人賞を目指してゼロから小説を書いたことはありませんでした。結果として新人賞に応募した三つの作品のうち、ファンタジー風のラブコメを描いた『英雄と魔女の転生ラブコメ』が講談社ラノベ文庫さんで受賞が決まり、その後『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』がHJ文庫さんで受賞することができました。特に『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』は、大学時代の暇な時期にふと思いつき、「これはいける!」という謎の勢いでコメダ珈琲に通い詰めて、約10日で書き上げた作品でもありました。そうして完成原稿に仕上がったタイミングが、ちょうどHJ文庫さんの小説賞の締切間近ということで、応募させていただいた感じです。

 

 

――本作は「年間最優秀賞」受賞前の第1巻発売直後から大きな反響がありました。ご自身としてはどのように受け止めていましたか。

 

好評が多いように感じて、純粋に嬉しかったです。Twitterでエゴサするのが趣味なので、感想がモチベとなります。第2巻も感想待ってるぞ!

 

 

――それではあらためて『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』がどんな物語なのか教えてください。

 

本作は高校デビューに失敗し、灰色の青春時代を過ごした主人公が、高校入学前にタイムリープし、青春をやりなおす物語です。テーマについては、普段はいろいろ考えながら作品を書きますが、この作品は本当に勢いで書いた節が強いので……いざ聞かれるとよくわからないですね(笑)。ともあれ、端的なコンセプトとしては「青春のやりなおし」です。ちょっと長くすると「陰キャだった俺が青春をやりなおして努力した結果wwwwあまりに無双しすぎて友達失いかけてる件」でしょうか。まあ、夏希はこんなキャラじゃないですけどね(笑)。キーワードは「憧れ」、そして「嫉妬」です。竜也に憧れている夏希。そして、二周目の夏希に憧れる竜也。青春のやりなおしにより、夏希と竜也の立ち位置が入れ替わる。その対比が、面白いところかと思います。

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム

※高校入学前にタイプリープした主人公は虹色の青春を目指す!

 

 

――夏希と竜也の立ち位置の入れ替わりは、あらためて言われて「確かに」と感じました。

 

この2人の構図を描いたからこそ、第1巻終盤の解決策が自然で、説得力のあるものになったんじゃないかと思います。ここまで、聞かれた今考えました(笑)。

 

 

――(笑)。

 

もうひとつ本作を書いた理由に、「友達」を書きたかったというのもあります。青春ラブコメのライトノベルを読むのは好きなのですが、ヒロインとのラブコメばかりじゃなく、友達と青春するような場面もあればいいなと思うことが多々ありました。なので自分で書くことにしたわけです。好きな女の子とデートするのも楽しいけど、友達と馬鹿騒ぎするのも同じぐらい楽しいですからね。そういう楽しさを、この作品で表現できればいいと思いました。また、個人的に恋愛関係の展開はじっくりやりたい気持ちがあって、そうなると必然的にまずは友情がメインになる、という理由もあります。

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム

※恋愛だけではない友情も見どころ本作

 

 

――本作の着想については第1巻のあとがきでも多少触れられていましたが、詳細におうかがいしてもよろしいでしょうか。

 

はい。第1巻のあとがきでも触れた通り、私は自分が送った青春にそれなりに満足していて、でもそれは周りの人間関係や環境に恵まれたおかげだったと思っています。だからこそ、少しでも環境が違えば、私は自身が送る青春に後悔を持っていたんじゃないかと思い、この作品の着想を得ました。影響を受けた作品も『弱キャラ友崎くん』や『千歳くんはラムネ瓶のなか』などもちろんたくさんあって、本作が生まれています。「青春」の要素が強めの物語が特に好きだったことで、最初は高校デビューの話を書こうと考えていましたが、前述の着想を得て、タイムリープで失敗した高校デビューをやり直す、という形に変更しました。

 

 

――なるほど。ご自身は青春時代に満足されているというお話でしたが、送ってみたかった学生時代の理想の青春を考えるとすると、どんな青春を思い描かれますか。

 

なかなか難しい質問ですね。自分が送った青春に不満があるわけじゃないですが、いざ理想を問われると、具体的なイメージが湧いてこない……。ただ、何事に対しても、もっと真剣に取り組んでいたら、何かが変わっていたのかもしれないと思うことはありますね。とはいえ、仮に私が高校時代にタイムリープしたとしても、何事にも本気で取り組むようになるのかというと、そんなことはないと思います。おそらく、私の「理想」は常に低いレベルで安定していて、今の生活になんとなく満足していれば、それでいいんじゃないかと考え、なにもしないと思うんです。あんまり自分にも他人にも期待をしていないので、なんとなく刹那的にそこそこ楽しければそれでいいんじゃないかと思ってしまいますね。あんまり「理想」というものがないのかもしれません。一方で、夏希は青春に理想を持っています。夏希はキラキラした青春を送る竜也たちに憧れ、虹色の青春を目指しているので、つまり一週目で竜也や星宮たちが送っていた青春が夏希の理想であり、つまりは世間一般が想像する充実した青春というやつです。でもまだ夏希の理想はふわふわしたイメージなので、本作のストーリーの中で、そのあたりを自分で突き詰めていくことになるでしょう。

 

 

――もうひとつ本作の設定から見解をお聞きできればと思うのですが、タイムリープものの作品における、人生リスタートの利点と不利点はどのように考えられていますか。利点には知識であったり準備などがわかりやすい要素としてはあるのかなと思いますが。

 

利点は知識……と私も考えましたが、実際に過去の記憶が「知識」と呼べるほどあるのか、と言われるとそんなことはない気もしますね。本作の夏希も実際、経験したはずなのに覚えてないことはそこそこありますし、私も高校を卒業して6年ほど経ちましたが、もう印象的な場面場面しか思い出せません。夏希は大学が理系で、真面目に講義や研究に取り組んでいたので、タイムリープしてもその知識が活きましたが……なかなかレアケースな気はします。大学に行かずにゲームしてたら留年した私がタイムリープしても、何なら前より低スペックまである(笑)。

 

 

――確かに記憶力に余程の自信がないと、知識の詳細はもちろん、活かすことにも苦労しそうです。デメリットについてはいかがですか。

 

デメリットとしては立ち回りの難しさがあるんじゃないかなと思います。人間関係において、お互いの関係値への意識が、自分と周りで変わるわけですからね。夏希みたいにそもそも友達が大していないならあんまり気にならないんですけど、たとえば友達が多い主人公がタイムリープすれば、つい一週目の友達に気安く接してしまったりする可能性もあると思います。その場合、関係値を築いていない相手の反応は「なんだこいつ。いきなり距離を詰めてきて怖い」となってもおかしくありません。そのあたりは難しいんじゃないかなと思います。あと普通に、二回も高校の授業を受けたくないですよね? 私は受けたくないです。

 

 

――ありがとうございます。それでは続いて、理想の青春の中にいるキャラクターについても教えてください。

 

主人公の灰原夏希は、実際わりとハイスペックなのに空気を読めずに嫌われた悲しい男です。二周目の今は調子に乗りがちな性格だからこそ、慎重に慎重にと意識しすぎているところがあるキャラクターです。

 

灰原夏希

※高校入学前にタイムリープして憧れの青春を目指す主人公

 

星宮陽花里は担当編集さんもお気に入りヒロインですね。わりと名前気に入ってます。良い名前ですよね。

 

星宮陽花里

※主人公にとって憧れで好意を寄せるヒロイン

 

本宮美織は、星宮と「宮」が被っていることに、なぜか発売するまで気づきませんでした。当初の構想には存在しなかったのに、自然と生えてきたキャラクターでもあります。主人公がひとりで戦うには情けないキャラクター過ぎたので、必然的に生まれました。つまり、もっとも物語に必要なキャラクターと言っても過言ではありません(?)。

 

本宮美織

※主人公の幼馴染でヒロインの一人

 

佐倉詩は元気で明るくて可愛い女の子です。そういう子ほど、それだけじゃない部分を見せられた時のギャップが可愛いですよね。第2巻のメインヒロインです。

 

佐倉詩

※第2巻のメインヒロインとして動きが気になるところ

 

 

――そして本作のイラストは吟先生が担当されています。あらためてお気に入りのイラストなどについても教えてください。

 

吟先生、いつもありがとうございます。吟先生は最高だぜ! 個人的には第2巻の口絵の美織が好きですし、第1巻表紙の星宮も最高ですよね。この作品の雰囲気に非常に合った表紙だと思います。これから青春が始まるぜ!みたいな感じに満ち溢れていると思いますし、星宮がかわいいです。それと第1巻の夏希がカラオケしてるシーンの挿絵がめちゃくちゃに良いですよね。それぞれのキャラの個性がよく表れていると思います。竜也の間抜けな顔と、怜太ののんびりした顔が最高に好きです。

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム

 

灰原くんの強くて青春ニューゲーム

※雨宮先生が特にお気に入りだというイラスト

 

 

――そして第2巻がついに発売となりました。あらためて第2巻の見どころ、そしてより鮮明に描かれていくことになる「理想の友人関係と恋愛感情は共存できるのか」という命題に対する夏希の動向など、注目ポイントを教えてください。

 

まず、第1巻では主体的に動いていた夏希ですが、これからは思い悩み、受動的になることもあると思います。ですが、個人的にはやはり、主人公が主体的に動く話が好きです。たとえば自分が何もしなくてもいい場面で、あるいは何もしない方が無難な場面で、夏希は何を決断して、どう動くのか。そういう点に着目していただければと思います。また第2巻のメインヒロインは佐倉詩です。詩が可愛いので期待してください。そして見どころはやはり仲が良くなるにつれ、複雑化する人間関係でしょうか。第1巻に比べて美織の印象も少し変わるんじゃないかなと思っています。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

ウオオオオ!俺は本業を辞めるぞォォォ!(意訳:売れたい)。真面目な話をすると、物語を創る仕事だけして暮らしていけるようになりたいです。就活の時に、いろいろと自分について考えさせられましたが、やっぱり物語を創ることが一番好きです。何が言いたいかと言うと、つまりお金が無限に欲しいわけです。なので、ぜひ『灰原くん』を購入し、友達にも薦めてあげてください。なんか最低なことを言っている気がしますが、なにとぞよろしくお願いします。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

 

冗談はさておき、貴方がたの応援が私の力です。比喩ではなく、貴方がたの応援があるからこそ私は物語の続きを書くことができました。本当に、ありがとうございます。面白い物語が溢れているこの世界で、私が書いた物語を見つけだして、応援までしてくださっている。これほど嬉しいことはありません。引き続き応援よろしくお願いします。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

タイムリープから始まる、虹色の青春を追いかける少年少女の物語を綴る雨宮和希先生にお話をうかがいました。主人公は望んだ青春模様に近づきながらも、かつては見えていなかったものとも対峙していくことにもなる本作。恋に友情にと目まぐるしく動き出す『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』は必読です!

 

<取材・構成:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©雨宮和希/ホビージャパン イラスト:

kiji

[関連サイト]

『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』HJ小説大賞2020年間最優秀賞記念特設ページ

『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』特設ページ

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灰原くんの強くて青春ニューゲーム 2 (HJ文庫)
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灰原くんの強くて青春ニューゲーム 1 (HJ文庫)

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