独占インタビュー「ラノベの素」 力水先生『超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に ~最弱無能の下剋上~』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年6月30日にモンスター文庫より『超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に ~最弱無能の下剋上~』第2巻が発売された力水先生です。【この世で一番の無能】という、マイナスしかない恩恵(ギフト)を授かってしまった少年の圧倒的最強譚を描く本作。10万年という長き時間を修行に費やしたことによって、世界にとってもイレギュラーとなり果てた主人公についてはもちろん、第2巻から印象ががらりと変化する物語や設定、キャラクターについてなど様々にお聞きしました。
【あらすじ】 パプラで伝説の魔獣トウテツを倒したカイはバルセの街に到着。念願だったバルセで冒険者登録をする。ある日、王女の騎士であるアンナが奴隷商と問題を起こし、大金が必要になった。その結果、カイは神聖武道会に出場することに。しかし、武道会参加中に国を揺るがす大事件が発生! また、カイの幼馴染で王都にいたキース達はバルセへ向かう途中、何者かに襲われレーナが攫われる事態に!? WEB版より、約10万字の大幅加筆修正された爽快無双ファンタジー第2弾! |
――それでは自己紹介からお願いします。
力水(りきすい)と申します。出身は東北地方で、執筆歴は5、6年になると思います。好きなものは物語全般と犬や猫などの動物が好きです。物語は小説も好きですが、少年誌の漫画が特に好きで、ONE先生の『ワンパンマン』が一番好きかもしれません。メジャーどころですと『ハンター×ハンター』や『ワンピース』も好きですね。少年漫画が本当に好きなので、自分自身もどこかのタイミングで少年漫画のような作品を書いてみたいと思ってます。
――なるほど。好みとしては少年漫画のような熱い展開がお好きなんですね。小説ですとどんな作品がお好きなんですか。
小説では『オーバーロード』や『カンピオーネ!』、『とある魔術の禁書目録』が好きで、特に『オーバーロード』にはかなり影響を受けていると思います。こんな面白い作品を自分でも書きたいという気持ちは強くあって、自身の執筆の原動力になっているところもありますね。2年ぶりの新刊となる第15巻も楽しみです(笑)。
――『オーバーロード』第15巻と本作の最新刊が同日発売なので、運命的なものを感じますね(笑)。『オーバーロード』の存在も強く影響しているという、力水先生の小説執筆のきっかけを教えていただけますでしょうか。
10代の頃からライトノベルはかなり読み漁っていました。最初は本をたくさん買っていたんですけど、自分の好きな傾向の作品の購入を続けていると、だんだん買う作品が減ってきてしまうんですよね。何か読みたいのに読みたい作品が売られていないという状況に陥ったわけですが、そこで小説投稿サイトの存在を知ることになったんです。それからしばらくは小説投稿サイトの作品を読むようになり、次第にメジャーなタイトルを読み終えていきました。状況としては読みたいけれど、次の更新を待たなければいけない時間が生まれたんです。そこで「こういう風にしたらストーリーはもっと面白くなるんじゃないか」と考えるようになり、面白そうだから一度自分でも書いてみようと、軽い気持ちで筆を執ったのが始まりでした。そうして書き始めたら、物語を書くという行為そのものにハマり、仕事以外の時間はずっと執筆するようになりました。気付けば自分の作品を読んでくれる読者の方も増えていた感じです。
――ありがとうございます。それでは『超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に』についてどんな物語なのか教えてください。
本作は【この世で一番の無能】という、何の価値もないどころか、むしろマイナスでしかない恩恵(ギフト)を与えられてしまった少年の物語になります。巨大なペナルティを背負いながら逆境に放り込まれ、最難関ダンジョンを努力ひとつで乗り越えていくことになります。最弱と言われていた人間が、人間の身で頂点に達し、仲間とともに活躍していく物語です。
※王都への旅路が主人公・カイの運命を大きく変えていくことになる
――無能から最強へと至る本作の着想についてお聞かせください。
私の場合は書きたい結末ありきで物語を書き始めることが多いのですが、この作品は少し違った経緯から書き始めることになりました。まず、最弱の少年が努力して最強になる姿を描きたかったということがひとつ。ただ、それだけだと私がこれまで書いてきた成長ものの作品と被ってしまうため、「最強」にフォーカスした物語にしようと考えました。それこそ『ワンパンマン』のような作品です。そしてもうひとつが、笑いのきっかけにもなる「勘違い」の要素ですね。これらを組み合わせて、本当の最強を描こうと考えたんです。
――なるほど。いくつかの書きたい要素を組み合わせて、物語の舞台を整えたわけですね。
はい。最初は転生ものの作品にしようかと考えていました。ただ、それでは転生以前と転生以後の人間関係をリセットすることになってしまいます。つまり周囲が主人公を最弱だと知らないわけじゃないですか。それだと個人的に少し面白味に欠けるんじゃないかなと思ったんです。また、努力による最強を描く上で、才能のない人間が限られた時間の中で努力をしても上に立つことはできないだろうとも感じ、長く遠い期間、主人公を閉じ込めることにしました。期間については1000年で足りるだろうか、1万年だとインパクトとして薄いんじゃないか、では10万年にしようとかなり悩みましたよね(笑)。本作は、これまでの人間関係を引き継ぎながらも、最弱が最強となり、元の世界に戻ってきてからが本当の始まりなんです。今でこそWEB版で見えるようになってきた終着点も、当初はまったく考えないまま走り出した作品でした。
――最強の見え方や見せ方にもこだわっていたわけですね。そして最強の見せ方のひとつにも繋がる勘違いの要素は、人間関係のリセットがないからこそ展開できるストーリーでもありますよね。
そうですね。この物語にはいろんな勘違いの要素があるんですけど、主人公であるカイ自身の認識の違いも大きなエッセンスになっていると思います。修行の結果最強に至ったカイですが、ダンジョンクリア時にダンジョン挑戦前の記憶と繋がり、混ざった結果、世界にはもっと強いやつらがたくさんいるものだと思い込んでしまうわけです。傍から見ると少しおバカに見えてしまうかもしれませんが、それも記憶が融合した弊害ですね(笑)。仲間の勘違いについては、特にコメディを意識していて、阿部秀司先生の漫画『エリートヤンキー三郎』のノリを参考にさせていただいたりしています(笑)。ああいったノリが本当に大好きなんですよ。
――そんな本作ですが、第2巻から物語そのものの在り様も大きく変わってくるかと思います。最強や勘違いという要素に加えて、世界そのものが「天と悪のゲームの盤上」であることが明かされます。
おっしゃる通り、これも最初から考えていた要素のひとつでした。主人公であるカイが生きる世界に、天と悪という2つの勢力がちょっかいを出してくることになります。この2つの勢力の動きが、この世界が元来抱えていた人種や国などの様々な問題を、一層ややこしくしていくことになるという負のスパイラルに巻き込まれていくことになります。
※第2巻で浮かび上がる天と悪による世界への干渉とは――
――なるほど。俄然最強を謳う主人公がどちらの勢力に与するかも重要になりますよね。
ところが主人公のカイに関しては、完全な第三勢力にあたるんです。どこかの勢力の味方や仲間になるという感じではないですし、2つの勢力からすれば、自分たちのゲームの盤面に突然現れたイレギュラーにあたるわけです。
――そうなると、第三勢力という立ち位置にいるカイを生み出した、ダンジョンや声の存在も天と悪とは異なる勢力ということになるのでしょうか。
ダンジョンに登場した面々は、基本的には中立にあたります。これは設定のお話になるのですが、ダンジョンそのものが、天と悪の勢力にとってのイレギュラーを押し込める目的で存在していたんです。ゆえに本来はクリアされてしまうことが前提で作られていたわけではないんですが……カイの存在によって覆ってしまうわけです。天と悪の勢力からはもちろん、中立であるダンジョンからしても、カイはイレギュラーでどうしようもない存在に昇り詰めてしまったわけですね。ダンジョンに封じ込めていたものすべてを配下に加えてしまったことも含めてで(笑)。
――ありがとうございます。ではそんなカイを含めた本作に登場するキャラクターについて教えてください。
カイは本作の主人公で最強の存在です。コンセプトでもあるのではっきり言いますが、作中ぶっちぎりで最強です。性格は誰でも助ける正義の人や聖人君子として描いているつもりはなく、自分の価値基準をしっかりと持っていて、その価値基準に反するものにはどこまでも残虐になれる一面を持っています。逆に価値基準に合致さえすれば、そうはなりません。個人的には好き嫌いがかなり分かれるキャラクターなのかなとは思います(笑)。
※強さに憧れた少年は唯一無二の強さを手に入れることに……
ローゼマリーは王族であり、自身の考えを持ち貫く、信念の人というイメージでしょうか。ややポンコツ感が否めなかったり、カイに対して脅迫めいたことをしていたりするため、読者さんからの人気はあまり高くありません(笑)。また、カイはある程度間違ったことも許容してしまう面を持っていますが、ローゼマリーは間違ったことが嫌いなので、カイの持つズレと、それを補うローゼマリーとでバランスをとっているところもありますね。
※強くなる前、そして強くなった後のカイを振り回すヒロインの一人
ファフニールはダンジョンで初めて出会った仲間というか、カイにとっては娘や妹のような存在にあたります。ヒロインとはちょっと違う、ほっこりするようなキャラクターとして書いています。
※本作の癒し担当でありつつ、その力も尋常ではないファフ
ギリメカラはカイを崇拝するキャラクターとして登場しており、コメディの要素を強めに担っているキャラクターでもあります。ギリメカラを好きだという読者の方は結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。とにかく思い込みが激しく、なまじ行動力も有している点が厄介です(笑)。カイの考えを想像するだけでなく、勝手に思い違いをして、周囲を巻き込みながら突き進んでしまうキャラクターの一人です。あとはベルゼバブやアスタロスも意外と人気のあるキャラクターですね。
※作中では苦労人としての一面も覗かせるアスタロス
――ヒロイン(?)であるローゼマリーについてもお聞きしたいのですが、第1巻では勇者召喚の力を持っていたがゆえにその身柄を狙われることになりました。この世界における勇者召喚の役割とはどのようなものなのでしょうか。
まず、前提としてカイのようなイレギュラーが存在していなければ、勇者は最強の一角に数えられます。勇者召喚は世界の構造をひっくり返すひとつの要因になっていたわけですが、カイの登場によってその価値は大きく霞んでしまったとも言えます。それでも勇者の資質を持った者をいろんな世界から呼び出す力は、世界のパワーバランスを揺るがす程の力ではありますね。
――結構重要だった勇者召喚さえも霞んでしまう存在となった主人公・カイですが、ダンジョンで10万年もの間、修行に明け暮れる日々を送ってきました。この10万年という時間の中で、カイは強さ以外にどのような変化をその身に受けることになったのでしょうか。
そうですね。【この世で一番の無能】という恩恵(ギフト)を授かったにもかかわらず、穏やかだった少年が全然そうではなくなってしまいました。口調も変わって性格も激変しています。虫も殺せなかった少年が、長い間殺伐とした世界で生き続けてきたことで、倒そうと思った相手に対して躊躇も容赦もなく倒してしまえる少年になりました。善と悪という二面だけで語るのは難しいのですが、それでも善から悪の方向に傾いた部分は否めません。一方、精神の摩耗という観点からは、剣の修行に埋没し続けたからこそ、感情の摩耗は最小限に抑えることができたと思います。当たり前ですが、10万年も生きていればおかしくなってしまうのは必然だろうなと。感情がなくなるのか、それともおかしな人間になってしまうのか。本作ではどちらかというと後者ですが、ダンジョン攻略の前と後の記憶が結合したことで、カイの人間性は思わぬ形で繋ぎ留められたという面もあるかもしれませんね。
※主人公のカイは様々な変化を経て、現剣帝さえも寄せ付けない最強へと至る
――逆に10万年という目も眩む長い時間を生きたカイの中で、変わらなかったものはあるのでしょうか。
自分が守りたかったものや自身にとって重要だったものに対する「絆」や「想い」は残っていると思います。昔のカイは困っている人がいれば、すぐに手を差し伸べていたでしょう。性格が変わってからは、すぐに手を差し伸べることはなくなってしまったかもしれません。それでも最後には助けに繋がるような言動をとる。先ほども触れましたが、出会った人間に共感することがあれば、カイは何のためらいもなく助けるキャラクターです。弱いものは絶対に助ける、踏みにじられている人間は絶対に助ける、弱者を見捨てる行為に忌避を抱く本心については、私自身もしっかり考えて設定しましたので。
――ありがとうございます。続いてイラストについてもお聞かせください。本作のイラストは瑠奈璃亜先生が担当されています。お気に入りのイラストなど感想を教えていただけますでしょうか。
瑠奈璃亜先生はめちゃくちゃお上手なので、描いていただいているイラストはすべて好きです。特に第1巻の最後のカイのイラストはとにかく格好いいんですよ! 戦闘シーンを描いたイラストは本当に格好良くて、素晴らしいの一言です。また、瑠奈璃亜先生も小説をすごく読み込んでくださっていて、キャラクターの外面的な部分について、「もっとこうした方がいいのではないか」とご提案をいただいたりもしています。書籍版についてはかなり参考にさせていただいているので、私自身も非常に面白くやり取りさせていただいています。本当にありがたいですね。
※力水先生のお気に入りだという一枚
――そして今夏にはコミカライズもスタートするとお聞きしました。漫画版の見どころについても教えてください。
本作がコミック化され、絵として表現されることにまさに夢心地。心が躍ります。漫画版の見どころはやはり、カイのスカッとする無双シーンや、ファフやアスタとのやり取り、討伐図鑑の愉快な仲間たちの活躍などを実際に絵で見て楽しむことができる、それが一番大きいと思います。漫画を担当いただく日月アスカ先生独自の表現によって、良い意味で物語は小説版と違ったものにもなってもいます。まだネームを見た段階ですが、当初のカイの苦悩やダンジョンに閉じ込められた状態での絶望のシーンをとてもうまく表現していただいていて、とにかく読んでいてワクワクする内容になっています。ぜひぜひ、漫画版も楽しみにしていただければ幸いです。
※日月アスカ先生による漫画版も今夏スタート予定!
――発売された第2巻はWEB版より大幅な加筆も行われています。あらためて見どころや注目ポイントについて教えてください。
第2巻の見どころはカイの無双シーンです。また、第1巻ではあまり描かれなかった仲間の活躍であったり、大規模な戦闘シーンはひとつの見どころになっていると思います。ギリメカラたちの反応や行動にも個人的には注目していただきたいと思っていて、エスカレートしていく勘違いを楽しんでいただけたらと思います。大幅な加筆によって、レーナやキースといった主人公の幼馴染も登場していますし、様々な思惑が交錯するシーンやエピソードも多いので、面白く読んでいただけるんじゃないかなと思います。
※第2巻ではカイ本人はもちろん、仲間たちの活躍も見どころとなる
――本作は著者の視点からどんな方が読むと一層面白く感じられると思いますか。
本作に関しては主人公が最強という物語が好きな方は、より面白く読んでいただけるんじゃないかなと思います。またバトルものや『オーバーロード』のようなノリが好きな方にも面白く感じていただけるんじゃないかと思います!
――今後の目標や野望があれば教えてください。
目標はこの作品に限らず、WEBで書いている作品をしっかりと完結させることです。読者さんにとっても重要なことなのかなと。そのあたりが落ち着いたら、まだ発表していない作品もたくさんあるので、順次発表したいなと思っています。野望は1度でいいから、『オーバーロード』のような面白くて、大衆に受け入れられる最高の物語を書いてみたいですね。
――最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。
まず、WEB版を読んでいただいている方には、ありがとうございます、と。私の物語はジェットコースターのような展開が多いので、読むのも大変だと思いますし、更新も決して早いわけではないので、読んでいただけていることには本当に感謝しています。作者としては自分の物語を読んでいただけることが本当に嬉しいですし、読んでいただけるからこそ、こうして書けていると思っています。そして書籍の第1巻や第2巻を検討されている方へは、この物語は安心して読める内容だと思っています。主人公が過度にピンチになり過ぎたり、主人公が不幸になったりするタイプの物語ではありません。もちろん、ハラハラするシーンはでてきますが、それは他のキャラに任せて最後はカイによるスカッとする圧倒シーンが待っているので、安心して読んでもらえるんじゃないかなと。イラストも瑠奈璃亜先生が格好良くて、可愛いイラストをたくさん描いてくださっているので、ぜひ手に取っていただければと思います。
――本日はありがとうございました。
<了>
何の価値もないどころか、マイナスに塗れた恩恵(ギフト)を授かった少年の最強ファンタジーを綴る力水先生にお話をうかがいました。最強へと至った主人公が、かつての弱い自分のことしか知らない世界へと降り立って動き出す本作。圧倒的な最強イレギュラーとして、様々な敵と相対していくことになる『超難関ダンジョンで10万年修行した結果、世界最強に ~最弱無能の下剋上~』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
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