【特集】『ありおと』&『わたなれ』刊行記念インタビュー みかみてれん先生「ガールズラブコメは女の子たちのハッピーエンドを描く物語!」
■意識すべきは細かなディテール、そして納得感
――百合ジャンルを執筆する上では、男性と女性の読み手のそれぞれの視点を意識されていたりはするのでしょうか。
正直なところ、あまり意識はしていません。個人的な感覚ではあるのですが、昨今の男性と女性の好みは以前ほど隔絶しておらず、かなり均等化してきているイメージもあるんですよね。流行るものが男女で一緒だったり、同じ作品や流行りの中で、好きなところをそれぞれ抜粋している感じがしませんか。なので、男女それぞれで楽しみ方がまったく異なるとは思ってはいません。
――確かにおっしゃる通りかもしれません。映画ひとつ例に挙げても、ものすごい男女比の偏りは減っている気がします。
そのうえで、作品の楽しみ方に触れるのであれば、女の子同士のファンタジーな恋愛を楽しんでもらいたいです。かわいい女の子がかわいい女の子とかわいいことをする。これは男女の視点からも一緒だと思っていて、かわいい女の子たちの掛け合いを楽しんでほしい。かわいい女の子は男女ともに好きだと思うんですよね。
――読み手の視点に対して、気を付けていることや意識していることはありますか。
特に意識している点はディテールですね。ライトノベルは男性読者が多いので男性寄りの書き方をしている点は否めないんですが、同性から見ても不自然じゃない女性像を気をつけています。「TikTok」は若者文化を意識するためによくチェックしていますし、あとはティーン向けのトレンド情報発信アプリも見ていて、その中には現役のモデルさんが回答する読者の相談コーナーのようなものもあるんです。高校生の女の子から寄せられた相談には「気になる男の子に体育祭でどうアタックしたらいいか」といった恋愛相談から、「体育祭での可愛いハチマキの巻き方」といった日常の相談まであり、非常に勉強になっています。今の女の子は、好きな人の興味を惹くために、こんなにいろんなことに気をつけてるんだなあ、と感心しちゃいますよね。
――細かなディテールへの配慮はもちろん、今の若者の考え方や行動原理を非常に意識されているんですね。
百合の作品は現代ラブコメや異能バトルといった作品とは少々違っていると思っていて、作品の数自体が多くないことも踏まえ、いわゆるテンプレートがまだほとんどないジャンルだと思っているんです。今売れている青春ラブコメも同じように現代の生活に準じた若者たちが抱く悩みなどを細かく、とても気を遣って描いていて、ガールズラブコメも描く上では似たところがあると感じています。女の子たちの世界を表現する際に、細かなディテールを加えることによって、女の子たちの生活の解像度を上げていく。女の子が女の子に恋愛するという、ともすれば不自然に感じるような展開への説得力を高めたいという思いが強くありますね。
※女の子の世界を表現する描写にも注目してもらいたい(イラストは『ありおと』)
――女の子が女の子に抱く恋心の在り方は、読者としても納得感があってこそ、という気がします。
そうなんです。なんで女の子が女の子に恋をするのか。百合を読み慣れている方はすっ飛ばしてもいいロジックなのかもしれませんが、読み慣れていない方にとっては納得するだけの背景を知ってもらう必要があると思っています。それは女の子が女の子を好きになるためのパーツだけ、ではダメなんです。時代に影響されない「恋愛」という普遍的なテーマを語る上でも、女の子たちの流行りや好きなものやトレンド、そういった一人の人間を描くにあたって、読者にきちんと納得してもらうための要素はとても大切だと思っています。『ありおと』の主人公鞠佳が、相手と夜の新宿にいった際に敗北感を覚えるシーンがあるんですよね。鞠佳は普段のスクールメイクはバッチリで、いつもどおりの姿で向かったところ、相手は映える夜メイクをしていてイケてる女子として一歩上を行かれてしまう。そこでは「ぐぬぬ」となりつつも、なんだかんだ相手を認めてしまったりして。こういった、自分が努力をしていることを相手も努力をしていると知ったときの複雑な心境などは、ディテールから生み出されるものだと考えています。
■ガールズラブコメの魅力をライトノベルという媒体で届けたい
――「ガールズラブコメ」のガワについては先ほどお聞きしたわけですが、あらためてその魅力とはなんでしょうか。
これ、実は難しくて4時間くらい散歩をしながら考えていたんですけど、結局答えが出なかったんですよね……。提供者側から面白さを押し付けるものではないといいますか、実際に読んでその面白さを感じ取ってくださいという表現が一番しっくりくるのではないかという。なので、わたしとしてはみなさんが読んで楽しい百合を書いて提供することこそが、魅力を伝える一端になるんじゃないかなと思っています。
――主人公とヒロインのシチュエーションについて、こだわりや好みがあれば教えてください。
わたしが書く場合も読む場合も、男女から好かれる人気者の女の子が、女の子を愛しているシチュエーションは大好きですね。格好良さや人気者であることに対する憧れのようなものがあるのかもしれません。読む側としては陽キャ×陽キャの物語も好きです。これは『マリみて』の影響かもしれませんね(笑)。高嶺の花である存在がキャッキャしている姿を眺めることが本当に好きなんです。人類のDNAに刻まれているんだと思います。
――あらためてライトノベルで百合ジャンルを書く意義ってどんなところにあると考えていますか。
端的に言えば、ライトノベル的なエンターテイメントのお話が百合には少ないため、でしょうか。情感や世界観、雰囲気を楽しむ作品が多い印象で、ライトノベルのように1冊、1本で楽しむタイプの物語は決して多くはないとわたしは感じています。「ガールズラブコメ」と敢えて呼ぶ理由は、まさにそこなんです。わかりやすく女の子と女の子の恋愛を描き、ハッピーエンドで終わりますというエンターテイメントに特化していきたい。どうしても百合ではメリーバッドエンドや、すれ違ったまま終わってしまう作品、女の子同士の切なさを描いた名作はたくさんあるんですけど、最初から最後までハッピーで終わる、或いはハッピーで終わりそうな物語っていうのは、最近少しずつ増えてきたぐらいなんですね。
――そうだったんですね。百合ジャンルに造詣が深くないと、そういったジャンル的な嗜好や実情を知る機会もなかなかないので、驚きました。
百合は悲恋と共に歩んできたジャンルでもあると思っているので、どちらが主流派かというのは難しい問題なんですが。女子高の物語でも、卒業すると将校との結婚が待っていたり、恋が悲しみに敗れてしまう……なんていう歴史があったりなかったりして。だからこそガールズラブコメでは、悲恋やバッドエンドとは異なるハッピーエンドを読者の方に見せていきたいんです。それこそライトノベルに限ったお話ではなく、創作業界全体で、いわゆるノンストレスな物語は広がっている傾向ですし、百合でもそういった物語があってもいいはずなんですよ。なによりもわたしが読みたかった!
■百合イラストで重要なのは「美しさ」である
――『ありおと』と『わたなれ』。そんな2作品のイラストを担当するイラストレーターは、いずれも百合漫画で活躍されている作家さんですよね。
そうですね。それぞれのイラストレーターさんへの賛辞は言い足りないほどあるので、すべてに触れられないのが残念です(笑)。まず『ありおと』については、同人誌からの雪子先生の続投で担当さんと意見は一致していました。『わたなれ』の竹嶋えく先生もわたしの方から担当さんにご提案をさせていただき、こちらもご理解をいただくことができました。
――どちらもみかみてれん先生からのご提案だったわけですね。お二人のそれぞれの魅力はどんなところだと感じていますか。
雪子先生のイラストは、とにかく色気がすさまじいんですよ。等身が低いキャラクターでも視線や目の潤いをはじめ、すごく魅力的に描かれるんです。特に女の子の指がいいんですよ! 手で感情を表現することができる方でもあって、指先のしなやかさや動きが素敵です。髪の美しさも非常に極まってますよね。同人誌から続投していただいていて、わたしの文章も雪子先生の色気に引っ張られているので、非常に頼りにさせていただいております。
※キャラクターの瞳から指先まで魅力的なキャラクターを描く雪子先生
竹嶋えく先生はキャラクターの表情がとにかくかわいいんです。『君に好きっていわせたい』という短編集を手掛けられているんですが、漫画的な表現もイラストとしての表現も非常にレベルが高いです。コミカルでかわいいイラストも描けるし、一枚絵として美しいイラストも描ける。どうしても百合に親和性の高い方を探そうとすると漫画家さんをついつい選んでしまうんですが、その理由は一目瞭然かと思います。
※コミカルな表現から真に迫る表情まで幅広いイラストを手掛ける竹嶋えく先生
――百合との親和性というお話もありましたが、特にどんなところが大切だと考えていますか。
お二人にも共通して言えることなのですが、メインヒロインを美しく描いていただけていることだと思います。百合作品は特に、同性から見て憧れてしまうヒロイン、という条件が必要なので、異性から見た性的な魅力の他にも、息を呑んでしまうような美しさが必須だと感じています。雪子先生も竹嶋えく先生も最高のお仕事をしていただいたと思っています。
――百合以外のジャンルでは、「かわいさ」という点もかなり重要視されていると思います。美しいとかわいいの違いはどんなところになるのでしょうか。
わかりやすいところで言えば、表情です。親しみやすい表情の女の子は「かわいい」になります。一方で手の届かないガラスケースに入っているような女の子は「美しい」となりますね。ただ、かわいさや美しさはどちらも生き様やキャラクターにもかかっていますので、どんな女の子もかわいさや美しさを両方兼ね備えています。美しいキャラがときたま見せるかわいさや、かわいいキャラクターがちらりと見せる横顔の美しさ……。代わる代わる見せられるギャップも楽しんでいただけることが、百合の持つ大きなポテンシャルだと思っています。
――両作品からそれぞれ印象的なイラストがあれば教えてください。
『ありおと』は口絵の漫画ですね。口絵でカラーイラストとして漫画を描いていただいていて、雪子先生の綺麗な色使いやキャラの魅力を存分に引き出す表情と、非常に素晴らしいです。特に、作品の世界観を完全にご理解いただけて、それを漫画に落とし込んでくださる再構成力がずば抜けていて、作品の魅力が伝わる珠玉の4ページだと思います。
※口絵コミックの他のページはぜひ文庫で確認してもらいたい
『わたなれ』はカーストトップの5人を本当に美少女に描いていただいていて、グループの華やかさをしっかりと表現してくださいました。5人が一堂に会する口絵があるんですけど、非常に魅力的に描いていただいて、作品全体の説得力を底上げしてくださっているんです。これができるのが、やはりプロ中のプロの仕事だな、と感服いたしました。
※グループ5人の掛け合いも大きな魅力となっている
――「ガールズラブコメで世界を制す」でも構いません。今後の目標や野望をお聞かせください。
明確な野望は2つあります。ひとつは、自分の大好きな百合漫画がノベライズする際、その執筆者の第一候補として名前が挙がるような作家になりたいですね……。ここ数年で人気のある百合作品のノベライズを他の作家さんが担当された際に、それを見ていることしかできず、非常に悔しい思いをしていたので(笑)。もうひとつは百合の作品で、続刊の刊行点数が多い、百合の代表作と言われるような作品を手掛けていきたいです。そもそもライトノベルでは百合自体が少ないのですが、巻数が二桁に到達している作品はほとんどありません。ファンタジーやラブコメといった他のジャンルと比べれば一目瞭然です。このシリーズを追いかけていれば百合のことをずっと楽しめる、そんな作品を手掛けられたらと思います。
――あわせて百合を書きたい作家さんにエールなどがあればぜひ。
そうですね、あると言えば無限にある、無いと言えば特にはないんですが……ええと、ひとつ言えるのは、自分が本当に書きたいジャンルであれば、企画書よりも先に原稿を書いてどんな形でも発表したほうがいいですよ、と。特に今までライトノベルであまり扱っていなかった類のニッチなジャンルは、担当さんがそのジャンルに明るくない限り「え、なにが刺さるの?」と思われてしまいますから。担当さんが面白さを説明できない以上、企画会議に勝ち抜くこともできませんし。なので、どこかの場で発表することで、そのジャンルを得意とする編集者さんの目に止まることができるというマッチング効果も期待できるものだと思います。
――ニッチなジャンルにおいて、造詣の深い編集者さんとの出会いの場を作る、ということも重要なんですね。
思った以上にガチめなアドバイスになってしまいましたね! もちろんわたしも同人で書き続けた結果、こうして商業の場で百合ものを書かせてもらえることに繋がっています。情熱のままに書き続ければ、もちろん本人のそのジャンルに対する理解もどんどんと深まって、上達していきますので、いいことしかありません。「あの人の百合はいいよね」って言ってもらえますし、なによりも書けば書くほど本人が幸せになれます。楽しい! あとはずっと言っていますが、屋久ユウキ先生にはいつかぜったい百合作品を書いてほしいなって思ってます。スーパー女子高生にリア充へのなり方を教わる百合とかどうですか? そうですね、タイトルは……弱キャラ友崎ちゃん、とか……。表紙はフライ先生以外考えられませんね……。
――それでは最後にファンの方、ガールズラブコメを読んでみようと考えているみなさんに一言お願いします。
まず同人誌から支えてくださった方々には感謝の念が尽きません。受け入れてくださったみなさんのおかげで、わたしは百合を書き続けることができて、商業へと繋がる原動力になりました。みなさまのおかげで今のみかみてれんがあります、ということをお伝えしたいです。そしてガールズラブコメに初挑戦してみようと思っている読者のみなさま。ひょっとしたら、ほとんど読んだことがないジャンルの作品かもしれません。でもそれはライトノベルに少なかっただけで、漫画やゲーム、アニメではずっと描かれ続けてきたテーマ、ジャンルでもあるので、きっと楽しんで読んでもらえると思うんです。その上で「面白い」「もっとこういった物語を読みたい」と思っていただければ、業界でも百合ラノベが増えていくと思います。まずはわたしの1冊を読んで、楽しんでいただければ幸いです。
――本日はありがとうございました。
<了>
2020年2月15日頃、そして2月21日に「ガールズラブコメ」が一挙発売となるみかみてれん先生にお話をうかがいました。百合に対する目から鱗なお話も多く、あらためてこのジャンルに興味が湧いた方も多いのではないでしょうか。そして「ガールズラブコメ」と称した、ハッピーエンドを描く百合の物語にも大きな魅力と期待が寄せられます。『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』はGA文庫より、『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』はダッシュエックス文庫より2020年2月同時発売。どちらの作品も必読です!
©みかみてれん/ SB Creative Corp. イラスト:雪子
©TEREN MIKAMI 2020/集英社 イラスト:竹嶋えく
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