【レビュー】『婦好戦記―最強の女将軍と最弱の巫女軍師―』古代中国史における女傑と占卜の一大戦記ファンタジー【PR】

古代中国史における女傑と占卜の物語――。

多くの読者に馴染み深い三国志の時代より遥か昔、古代中国・殷代に「婦好」という名の女傑が存在した。戦う王妃として、女性だけの軍を率いた稀代の女将軍。戦記ファンタジーやバトルアクション作品を嗜む読者には、「強い女性キャラクター」というキーワードだけで、その魅力の一端を感じ取ってもらえるはずだ。歴史上に実在した「婦好」、そしてそんな彼女の下に誘われ、共に戦場を歩むことになる一人の少女・サクの物語を描いた作品が、この『婦好戦記―最強の女将軍と最弱の巫女軍師―』である。武器や戦術もまだまだ途上の戦場を描く戦記ものとしても、「婦好」に羨望するサクの成長の物語としても見どころは非常に多い。

物語は王室のとある禁忌を犯した少女・サクが、死罪の代わりにその罪を償うべく婦好軍へと送りだされるところから始まる。商王の王妃が率いる女性のみの軍隊「婦好軍」に合流したサクだったが、戦場とは縁のない生活を送ってきたがゆえにその前途は多難に満ちている。婦好を慕う女性たちが集まる軍は、さながら戦場の後宮であり、奇しくも婦好に気に入られることになったサクはやっかみの対象になってしまう。しかしそんな彼女たちは婦好へ揺るぎのない忠誠を示し、戦場を駆け抜け、敵軍に呪いをかけながら散っていく。犠牲を是とする戦場の在り方、無抵抗に死んでいく巫女の姿。意味ある犠牲がもたらす戦場を見つめながら、サクは理想と現実とのギャップに悩み続けていくことになる。

そんなサクではあるが、彼女の持つ胆力と知恵、そして発想は本作の大きな見どころでもある。考えて考えて考え抜いて、参謀として、軍師としての頭角を少しずつ現していく姿は、比類なき将であり一騎当千の力を持つ婦好も目を瞠るほど。サクの持つ占卜の力、そして真っ直ぐで折れない心と、成長する姿は、婦好のみならず周囲の女衆をも次第に惹きつけていくことになり、女衆との間に生まれる信頼や友情も大きなポイントだ。本作に寄せられている感想には、

彼女の青さは婦好を救い。また、婦好との相違を生む。サクは、婦好軍にいる兵士たちと関わり、人間として成長し、自分の望む世界について悩んでいく。理想と現実のギャップに悩み、辛辣な言葉を浴びせられ、苦悩する姿はまさに年頃の少女そのものだ。青春時代、理想と現実のギャップに苦しんだ読者であるならば、サクの苦悩に共感する部分は多いのではないだろうか?(出典:はちさまの書評より)

といったものもあり、指摘の通り彼女の青臭さには共感できる部分も非常に多い。だからこそ成長するサクの姿に読者は魅せられていくことになるわけだ。そしてこの作品をファンタジーの一言で片づけられない物語に仕上げているのは、著者の緻密かつ精緻な筆力も大きい。大学時代に中国史を専攻してきたことで研鑽された知識の下地があるからこそ描ける、“本物”がここにはあり、読者を魅了する。

何故、私たちは婦好戦記に惚れ込むのか。それは設定ではない。緻密に研究された筆者の知識研鑽。描写の精緻。これに尽きます。皆さんは、小説を読み、空の高さ。星の煌めき。篝火の音。美味しい料理。土煙の臭さ。人肌の暖かさ。布が切り裂かれ、血が吹き出す様を。匂いを。音を感じたことがありますか? 私は、この作品で五感を全て感じました。 筆者の筆さばきはたおやかです。けれども、その描写力は、的確で洗練されている。そのせいか、私たちはその場にいるように思えて仕方がない。だから、五感を感じるのではないでしょうか? 五感を刺激する筆者の描写力はただただ頭が下がるばかり。美麗なイラストは、筆者の筆力もあいまり、物語にグイグイと引き寄せていきます。(出典:はちさまの書評より)

上記の感想からも読み取れるように、世界観へと吸い込まれるこの物語は、我々を古代中国の世界へと誘ってくれるものであり、史実が少しずつ前進する様を、婦好やサクと共に見届けることができる物語でもあると言えるだろう。

そして史実に肉付けされた物語は、戦記としての面白さだけでなく、王と神とが対話する手段として用いられた「文字」の神秘性を一層際立たせている点にも触れずにはいられない。文中にたびたび登場する甲骨文字は、決して私たちにとって馴染み深いものではない。ただ、その文字に込められた意味を知ることで、私たちは大きな気付きと、文字を形作った人々の真意を知ることができる。なぜなら、本作における「文字」とサクの存在は切っても切り離すことができないからだ。「戦」と「文字」という2つの巨大なテーマがもたらす、女傑と占卜の古代中国戦記ファンタジーをぜひ読んでみてもらいたい。

©佳穂一二三/宙出版 イラスト:マキムラシュンスケ

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