独占インタビュー「ラノベの素」 内田弘樹先生『機甲狩竜のファンタジア』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は9月17日にファンタジア文庫より『機甲狩竜(パンツァーヤクト)のファンタジア』が発売となる内田弘樹先生です。アニメ化も行われた『シュバルツェスマーケン』のインタビュー以来、2回目のご登場です。本作に対する意気込みや、オリジナル作品における世界観をはじめとした見どころについてお聞きしました。
【あらすじ】 人類の敵『竜』を討つ『狩竜師』になるため、狩竜師養成学校・アーネンエルベに入学した少年・トウヤ。しかし、彼が目指すのは剣や魔法で戦う”普通の”狩竜師ではなく、旧文明の遺物「戦車」を扱う伝説上の存在『機甲狩竜師』だった。編入先の最下級クラスで仲間を探すトウヤだったが、戦車の力を疑う元エリート女騎士・シェルツェと口論の末に――「決闘をしろということか? 私と、この男の操る戦車で」 女騎士VS戦車――異色の対決が始まろうとしていた。V号戦車パンターを駆る少年少女が戦術を尽くし、絆を紡いで竜に挑む機甲幻想戦記、ここに堂々開幕! |
――今回は2回目の登場となる内田先生です。よろしくお願いします。
お久しぶりです。よろしくお願いします。
――いつもならプロフィールなどをお伺いするのですが、2回目ですので。最近ハマっているものとかお聞きしてもいいですか。
ハマってるもの……特に思いつかないのですが、『艦これ』はノベライズの仕事が一段落した後もずっとやっていますね(笑)。司令部レベルは120です。
――120ってレベル上限ですよね。レベルすごく高いですよね(笑)。
いいいいい一般的じゃないですかかかかっ(震)。ただ、最近仕事で忙しく、子育ても本格化しているので、あまりできていません。課金についても、嫁さんの視線が厳しいので控えめです(笑)。
――今は可能な限りひっそりとプレイされてるご様子で(笑)。そういえば最近映画を観に行ったとお聞きしました。
最近公開された話題の怪獣映画を観に行きました。子供の頃から怪獣映画が大好きだったので。それに、今回の作品では自衛隊の10式戦車が大活躍で、とてもよかったです。むしろ『機甲狩竜のファンタジア』を書く前に観ていたら間違いなく影響されていたので、書いた後に観てよかったです。方向性も違いましたし。
――内田先生はゲームのノベライズをいろいろとやられてきていますが、オリジナルはいつ以来になりますかね。
オリジナル作品は約5年ぶりですね。子供の頃から戦車やファンタジーが大好きだったので、それを組み合わせたら面白いだろうな、というのが発想の原点です。史実の第二次世界大戦で活躍した戦車が特に好きなので、あくまで史実の戦車がファンタジーの世界にあったらどうなるか、という話にもなっています。それゆえの苦労もありましたが(笑)。
――その苦労話も含めて『機甲狩竜のファンタジア』についてお聞かせください。5年ぶりのオリジナル作品ということで、執筆にあたっていかがでしたか。
オリジナルのライトノベル、ということに気負いを感じて、最初はああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返して、頭を悩ませました。執筆途中で何人かの友人に目を通してもらったのですが、作品の方向性が定まっていない、お前の色じゃない、と叱責されたり(笑)。それを何回か繰り返しているうちに、ようやく「これだ!」という方向性を見つけて、がっちり舵が切れました。それからは楽しく書けましたね。
――オリジナルの執筆過程で気付きや、得られたものはありましたか。
ノベライズにおんぶに抱っこだった自分を認識できました。ノベライズは世界観や設定など、既にあるものをベースに出来ますが、オリジナルには当然ですがそれが全くありません。だから「これで行こう!」という覚悟をもたないといけないんだな、と。企画段階の資料集めについても、形から入るべく、欧州の街並みや中世の暮らしや文化を解説した本を集めたりもしました。
――ノベライズとオリジナルで生まれる苦労も違うということですね。
もちろんノベライズはノベライズで悩みどころはありますし、一方で、大変やりがいのあるお仕事なので、また何か挑戦したいという気持ちはあります。ノベライズは集団作業になりますから、多人数で知恵を出し合う楽しみがあります。今回の執筆でも、ノベライズのお仕事で受けた影響が大いに役立ちました。
――影響とは具体的にはどんな点ですか。
自分を変えようとしてもなかなか変えるのは難しいということですね。だからこそ、物語創作では集団作業が有効になる。でも、個人作業になることが多いオリジナルのライトノベルでそれは通用しない。ならばどうすればいいのか? まず、自分の力が及ぶ範囲のことはしっかりとこなして、自分の力が及ばない範囲については周りの人間に声をあげて助けを求める。作品の中にもしっかりと込めたテーマになっていると思います。
――戦車を操縦する5人のチームに注目ですね。戦車も存在する本作の世界はどのような世界観なのでしょうか。
基本的にはエルフやドワーフ、ドラゴンをはじめとするモンスターなどが存在する、いわゆる「剣と魔法」のファンタジー世界です。ただし、魔法が少し特殊で、基本的には「錬骸術」という、倒したモンスターから得られた素材を調合して用いる、錬金術のような魔法が主です。モンスターハンター、こちらの世界でいう「狩竜師」も、「錬骸結晶」という、素材を特殊な技法で結晶化したもので能力を発揮します。「錬骸術」は一般市民の生活にも根付いているので、モンスターハンティングによって文明が成立しているといっても過言ではありません。私たちの現在の文明社会は電気や蒸気機関、原子力でエネルギー供給が行われ、それで様々な産業が成り立っているのですが、この世界はそれらが全てモンスターハンティングと「錬骸術」によってまかなわれているわけです。中世では疫病の蔓延や食料保存の難しさが文明の発展や人口の拡大を阻害しましたが、これらの問題は「錬骸術」で解決されつつある、という世界観です。
――現代とは違った形で文明が発達している世界なんですね。それと気になる点として、作中の伝承には実在の人物の名前が登場しますよね。
この世界では高度な技術を持った古代文明がいくつも滅んだといわれています。また、古代文明の更に前の神話の世界では黙示戦争(アポカリプス)と呼ばれる戦争が起こり、その戦争で戦車が活躍したらしいという伝承が残っています。この戦争についての資料に、どこかで聞いたことがあるような名前がなぜか出てくる。そういった世界を遡ったお話も今後触れていけたらいいなと思います。主人公たちの乗るV号戦車パンターも古代文明の遺産ではないかと作中では推測されていますね。
――なるほど。だからこそだと思いますが、作中での戦車の認識が面白いですよね。トウヤの出身の村では農耕機の代役を果たしています(笑)。
そうですね(笑)。「剣と魔法」のファンタジーの世界で戦車が戦闘以外でどれだけ役立つか、という話は、執筆の途中で気付いた点が多かったです。自動車や蒸気機関車が存在しない世界だと、戦車は何百という「馬力」があるから物資が運び放題です。ダンジョン探索にしても、もし戦車が入れるくらいの広さがあれば、ダンジョン探索に有用なアイテムをたくさん乗せて移動できるので、すごく楽だと思います。もちろん、農作業にも大活躍でしょう。これに気づいたあたりから、「この作品は自分にしか書けないものになる」という、前向きな予感が生まれました。
――いざ持ち出す、となってトウヤも村人と揉めていました(笑)。
そりゃ揉めるわ、と思いました(笑)。史実の中世ヨーロッパの場合、数ヘクタールの森を開墾して畑にするだけでも、ひたすら人力で木を切り倒して、根っこを引き抜いていかないといけない。その苦労を考えると、戦車は本当に便利です(笑)。
――ほかにファンタジー世界と戦車の融合ということで、気を遣って執筆した点はありますか。
作品の前提として、戦車を運用可能なインフラがある程度が整っていないと辛いな、とは思いました。戦車はローマ街道のような舗装された道路がないと、移動そのものが困難です。中世ヨーロッパ風の世界観だと、舗装されていない道路の場合、秋は降雪で、春は雪解けでどろどろになってしまいますし、橋にしても、戦車の重量に耐えられるものでないと。なので、そこそこに文明が発達している世界にしようと考えました。手段として何でもアリの魔法があるけど、モンスターの素材を原料としている以上、制限があるでしょうし。なので、魔法がありつつ戦車も役立つ世界にしました。
――戦車が活躍するための下地が世界観を含めて細かなところで仕込まれているわけですね。
戦車を登場させる以上、戦車を活躍させたいと思いました。なので、戦車じゃないとできないことをいっぱいやろうと(笑)。戦車でないと戦うことができない敵だったり、戦車を扱う人間ならではの日常だったり。もちろん、キャラクターたちに戦車で頑張ってもらうための世界でもあります。
――戦車に目がいきがちな本作ですが、魅力的なキャラクターもたくさん登場します。内田先生のお気に入りのキャラクターを教えてください。
V号戦車パンターが大好きです!
――それ戦車ですよね(笑)。
いやあ、砲身に銃剣を取り付けるアイデアで、キャラ付が決定的になったなと!(笑)。一目でファンタジー作品ってわかりますからね。パンターは史実の方も大好きです。
――パンターへの愛、ありがとうございます。あらためてキャラクターもお願いします(笑)。
メインのキャラクターはパンターに乗り込む5人なのですが……好きなのは全員ですね。各キャラクターはそれぞれ欠点も持っていて、それを克服しようとしている。その頑張りを見届けてもらえれば、と思います。ただ、その中でも敢えて選ぶとしたら……シェルツェとフィーネでしょうか。特にシェルツェはいろいろと思い入れがあります。どのキャラクターも執筆中は自由に動いてくれるので助かっています。みんな、たいへん魅力的なビジュアルも付けていただいて、イラストの比村さんには本当感謝です。
※この5人がV号戦車パンターに乗り込む!(シェルツェは右から2番目、フィーネは右端)
――本作は主人公であるトウヤが、戦車を取り仕切る車長というポジションではないのも気になりました。
そのあたりはいろいろ考えましたが、主人公がヒロインたちの指揮官としてカッコよく振る舞うより、主人公が自分より指揮官に適した性格のヒロインを、自分たちの指揮官として育て上げていく、という流れの方が、作品のテーマにあっているかなと思い、現在のポジションとしました。パンターは5人の乗組員が一致団結して動かすものなので、主人公だけが有能でも、あまり意味はありませんしね。
――ありがとうございます。戦車でもキャラクターでも内田先生のお気に入りのイラストがあれば教えてください。
カバーイラストと見開きの口絵ですね。この2枚だけでも世界観が一発でわかります。さすが比村さん。おっぱいが大きいのも良いですね!(笑)。
――『機甲狩竜のファンタジア』はどんな読者に読んでもらいたいですか。
戦車好き、ファンタジー好き、頑張る女の子たちが好きな人達にはぜひ読んで欲しいと思います。主人公のトウヤも頑張るのですが、女の子たちも頑張ります。5人が力をあわせてV号機戦車パンターを動かします。ファンタジー世界を戦車で旅してみたい、という読者にも合うかもしれません。ファンタジーの中でもひとつの要素に特化した作品だと思うので。
――PVも公開されています。こちらも必見ですね。
ナレーションは人気声優の上坂すみれさんが担当しています! 上坂さんの凜々しい声が作品に更なる華を添えていると思います。必見ですよ!
――前回もお聞きしましたが、あらためて作家としての今後の目標を教えてください。
まずは2巻をきっちり出したいですね。そして将来的にはアニメ化とかできると素敵ですね。この作品、動くと映えると思いますので!(笑)。……と、そんな夢の前に、本作に登場するヒロインの全員を成長させてあげたいと思いますし、全員の行く末を見守りたいです。もちろん、この世界の行く末も。
――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。
自分の作品を読んで頂いている方には、「いつもの内田弘樹です」、と。オリジナルではありますが、過去作を読んでもらっている方にも楽しんでもらえるように書かせてもらいました。また、そのうえで新しいことにも挑戦しているので、手に取っていただけたら幸いです。初めて自分の作品に触れる方へは、「表紙でピンときたら、その期待を裏切らない作品です」、となると思います。比村さんの素晴らしいイラストにもご期待ください。ここは自信を持って言えます。戦車とドラゴンが戦ったらどうなるのか、力をこめて書きましたので、ぜひぜひお手に取ってくださいませ!
――本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
<了>
約5年ぶりとなるオリジナル作品を手掛けられた内田弘樹先生にお答えいただきました。5人の力を合わせてパンターVを操縦する狩竜師の少年少女の物語『機甲狩竜のファンタジア』は必読です!
©内田弘樹/KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫刊 イラスト:比村奇石
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