【GW特別企画】師走トオル×三河ごーすと×みかみてれん「ライトノベル作家のサバイバル鼎談」

【テーマ1】

ファンコミュニティの活用、そして続刊へ

――それではまず、今回の企画の発端にもなった師走先生の事例からお話として触れていきたいと思います。今回『ファイフステル・サーガ』を打ち切りより回避に繋げられた要因には、「pixivFANBOX」というクリエイターを継続的に支援するファンコミュニティの活用があったんですよね。

師走:そうです。これはファンの方がクリエイターを直接支援できるサービスで、クリエイター側は支援のお礼に様々なプランを提供することもできるんですね。私はそこで、ファンサービスの一環として『ファイフステル・サーガ』の未公開シーンを読めるプランを設定しました。具体的に言うと「主人公とヒロインの初夜シーン」で、ストーリー上どうしても本の中に盛り込みたかったエピソードだったんですが、文字通りの大人の事情を勘案してお蔵入りになったんです。余談ですが「pixivFANBOX」は未成年者の閲覧を禁止にできるシステムの設定もできるので、そういう意味では非常に公開しやすかったですね。結果として想定以上の支援をいただくことができました。どのようなお考えでご支援頂けたのかは人それぞれだとは思いますが、私からすれば『ファイフステル・サーガ』のシリーズから発生する収入が増加したことは間違いなく、自分の中で設定していた損益分岐点を突破することができたわけです。その事実を踏まえて編集部と協議を行い、続刊の判断ができました。

三河みかみ:具体的な数字がめっちゃ聞きたい(笑)。

師走:さすがにそこは(笑)。要するに申し上げたいのは、今は本を書く側も読む側もいろんな事ができるということです。作者側はFANBOXのようなサービスで気軽にファン向けのコンテンツを設定することができる時代になりました。読む側の方からすれば、「面白かった」と一言ツイートしてもらうだけでも作家側にとっては非常にありがたい支援ですが、今はそれだけではなくFANBOXでのご支援といった方法もあるわけです。もちろんこちらは金銭が絡む話なので是非にとは言えませんが、よりファン向けのコンテンツを楽しめる場合もありますし、その結果としてシリーズの続刊が決まることもあるわけです。

三河:純粋な疑問なんですけど、どうやって編集部に許可をもらってるんですか? いや、普通に許可をもらっているだけだとは思うんですけど、筋の通し方をどうしているのかなって。

みかみ:それわたしもすごく気になります。知りたいです。

師走:正直なところ特に難しいことはしてなくて、担当編集さんに「こういうことをしたい」と説明して同意いただいただけなんですよね……。

三河:出版契約書には作品の関連コンテンツに言及しているものも多いと思いますし、出版社さんがあっさりとOKしてくれるんだって驚きを感じる人も少なくないと思うんですよね。

師走:もちろんコンテンツや編集部によって対応は違うと思いますし、私の場合は「テキストのみのファンサービス」だったという要因もあったとは思います。これがグッズ販売とかイラストが入ってるとなったら難しかった可能性はありますね。ただ個人的な感触ですが、今はプロであろうと作家が自分の作品を気軽にネットで公開できる時代であり、その辺りの事情を理解してくださっている編集部は少なくないという印象です。

三河:確かにコンテンツによって違う気はしますね。何もしなければ打ち切られてしまうとか、そういう時は許可が下りやすいのかもしれない。

みかみ:新人作家さんって業界のタブーも全然わからなくて、どこまで動いていいのか探ることさえできない人もすごく多いと思うんですよ。編集部との信頼関係をきちんと構築できれば、いろんな面白いことができる可能性は十分にあるということですよね。

三河:信頼関係を築くのは本当に大切ですよね。イチかゼロかっていう両極端な人が少なくないのも実情で、編集部にひたすら従順な作家さんもいれば、自由に権力を振るっていいんだと思い込んで、編集部に失礼なことをする人もいます。自分のやりたいことや考えていることのコンセンサスをきちんと取って、作家と編集部とでうまく連携することが大切ですね。

みかみ:信頼関係は一朝一夕で築けるものでもないので、一方的な先走りだけは気を付けた方がいいですよね。何かアクションをしたいのであれば、無理を押し通すのではなくて、しっかりと話し合いができれば一番だなって思います。

師走:私も担当さんに色々提案しますが、5回に1回ぐらいは怒られます(笑)。そういったことには気を付けながらもやれることは模索していきたいですよね。

――「pixivFANBOX」の活用にあたっては、どれくらいの方が見てくれるのかだとか、そういった想定はされていたんですか。

師走:完全に見切り発車でしたね(笑)。「ラノオンアワード」で三冠を頂いたり、「このライトノベルがすごい!2019」で文庫部門・新作の10位代にランクインしたりと、それなりに高い評価を頂けていることがいい方向に働くのでは、という目論見はありましたが。あとはFANBOXで公開したのが濡れ場エピソードだったので、そういった意味での需要があるかもしれないとは思っていました(笑)。

みかみ:それでも支えてくれて、実際に作品の存続に影響を及ぼしたわけですから、ファンの存在はとても大きいですよね。わたしもファンの数はとても気にしていて。作家としてデビューした際に担当していただいた編集者さんに、作家買いをしてくださるファンの方が5,000人いればこの業界では食べていけるって教えられたんですよ。そこからずっとファンを増やすことを意識しています。そういう意味でも三河さんのLINE@の展開はすごく虚を突かれたというか、めちゃくちゃ凄いなと思ったんですよね。

三河:「三河ごーすと公式LINE@」のことですね。 なんというか冷静に考えた結果、LINEが一番届けやすいのかなって。登録してくれる方って超コアユーザーだと思うんですよ。その超コアユーザーにはせめて、発売日は見逃さないでほしいという気持ちで始めたんですよね。

みかみ:ラノベの情報って発売日も含めて能動的に探すしかなくて、それを受動的にしているLINE@はファンをがっちり掴むための良いツールだなと本当に思います。口コミなんかで広めてくれる方も、やっぱり熱心な方が圧倒的に多いですしね。

三河:そうなんですよね。ファンの視覚化は今後とても重要になるんじゃないかと思ってます。

みかみ:それと師走さんのFANBOXプランにある小説添削やお仕事紹介プラン。ぶっちゃけ、これには怖さしか感じないんですけど大丈夫なんですか(笑)。

師走:正直私も怖さはあります(笑)。

――具体的にどんなことをされているんですか。

師走:あくまでファンサービスの一環としてですが、ご支援くださったファンの方の書いた小説を添削したり、場合によっては担当さんを紹介するプランです。個人的な経験ですが、自分で書いた小説って公開するのが怖いんですよ。新人賞に応募するにせよ、その前に少しでもクオリティを上げたいって必死に修正するんですが、自分一人でやれることは限界があると感じてました。なので、そのお手伝いができないかなと思いまして。

三河:小説の添削ってどれぐらいの申込があったんですか。

師走:ちょうどプランを公開したときが某新人賞の締切に近かったこともあってか、二桁に迫る申込はありましたね。

みかみ:わたしはお仕事紹介プランの方が気になりますね……。

師走:以前から個人的に、可能性を提示できる機会を常設できないかって思ってたんですよね。作品の批評って本当に難しくて、「A新人賞に応募してダメだった作家さんの作品が、B新人賞に応募して大成する」ことって珍しくないじゃないですか。なので、新人賞やWEB投稿以外の評価を受けられる方法があってもいいんじゃないかと思ったんです。それに新人賞からではなくWEBからも編集者が作家を見つけてくる時代に、作家側からの推薦というのもあってもいいのかなって。特にFANBOXで支援をいただいている方ということは、少なくとも私や私の作品を好意的に見てくれている方だと思います。そういった方を対象にしているからこそ、できるサービスだと考えています。もちろんデビューを約束できるものではありませんが。

みかみ:作品が面白いことは前提だと思うんですけど、紹介となると人格込みじゃないですか。最終的に紹介した責任って、結果として師走さんに降りかかってくることになりますよね。その辺りはどうですか?

師走:そこはケツを持つ覚悟でやってます(笑)。ただ、繰り返しになってしまいますがこれはファンサービスであって、たとえば見ず知らずの人に小説の添削をしてもらうことに抵抗感を感じる人は少なくないと思うんです。ただ、今回の例で言うと「私の作品を好意的に見てくれている方」という前提の信頼関係があることで、うまく取り回せる可能性は十分にあると思ったんです。

みかみ:なるほど。自分のためにお金を費やしてくれるファンだからこそということですか。

師走:懸念はいくらでもあるとは思います。ですが「とりあえず怒られない範囲でやってみる」という一環で、問題が起きない限り続けていけたらなとは思ってます。実際、話を通してる担当さんが数人いるんですが、まだ怒られてはいないので(笑)。

みかみ:そういう考え方もあるんですね。勉強になります。

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