【GW特別企画】師走トオル×三河ごーすと×みかみてれん「ライトノベル作家のサバイバル鼎談」

【テーマ2】

魅力的なパッケージ作りは足し算ではなく掛け算

――では続いてのテーマに移りたいと思います。三河先生がお寄せいただいたテーマは「魅力的なパッケージ」とのことで、お話をうかがえればと思います。

三河:まず最近よく見かけるのが、読者さんに対して売上が足りないので助けてくださいっていう声。僕も打ち切りをたくさんされてきた人間なので、その気持ちはすごくわかる。ただ、その一方でそれは読者にとってあまり関係ないことだよなっていう冷静な思いもあるんです。初動が命と言われると中身で勝負できないという気持ちもわかるんですけど、初動を出すために工夫できることはたくさんあるな、と。たとえばパッケージ。これまでのラノベの歴史を振り返ると、売れた作品でパッケージの悪かった作品はひとつもないと思うんです。流行もあるので、過去のものを今見たらそう感じないこともあるかもしれませんけど、その時代その時代で間違いなく魅力的なパッケージだったはずなんですよ。

師走:話を分かりやすくするために聞いておきたいんですが、パッケージングの定義ってなんでしょうか。

三河:定義は表紙のイラストとタイトルとデザイン、そしてそこから伝わる作品コンセプトです。ダメで売れたものって過去にはないと思うんです。なので、パッケージをとことん突き詰めて「魅力的なパッケージ」にする。そのパッケージを見たら買わずにいられないという状況を作っていく必要があるというのが僕の意見ですね。

みかみ:魅力的なパッケージって難しいですよね。

三河:そう。難しいのが「魅力的なパッケージって何?」って話だと思うんですよ。少なくとも世の中に出ている商品のパッケージって、「このパッケージは魅力があって勝負ができる」と思って出ていると僕は思うんです。微妙なパッケージだと思われたまま世の中に出ている、なんてことはあってほしくない。

みかみ:そうですね。パッケージ作りに関わっているうちの、誰か一人でも魅力的だと思って世の中に出ていると信じたいですね……。

三河:現実はわからないけど本当にそう思いたい。それでパッケージの話に入る前にライトノベルの批判文脈でちょくちょく登場するイラストが良ければ売れる、売れた、という意見。ここにも少しだけ触れておきたいです。

――イラストが良ければ売れる、確かにそういった声を耳にする機会は度々ありますよね。そしてそういった話が行き過ぎてしまうと、イラストレーターガチャであるとか、より失礼なお話にも突っ込んでいってしまうわけですが。

三河:そうですね。そういう失礼な話も結構あるんですけど、じゃあ同じイラストレーターを起用すれば絶対売れるのかというと、これは過去のデータを分析すれば一目瞭然で「有り得ない」に帰結します。売上は本当にまちまちなんですよ。とても素敵なイラストなのに売上に結びつかないこともよくあります。一方で、売れたものをみていくとやっぱり魅力的なんですよね。じゃあこの魅力ってなんなんだって話になると途端に難しくなる。でも僕はその点を諦めないで、徹底的に突き詰めようとしてるんです。

――作家側からしてみると、イラストレーターであったり、デザインであったり、どの程度踏み込んでいいのか、どこまで踏み込めるものなのか、把握をしていない方が非常に多い気もします。三河先生は突き詰めていく上で編集者の方とかなり踏み込んだお話をしているとも聞いています。

三河:そうですね。これも師走さんのお話にもあった通り、編集者さんとの信頼関係次第です。僕は編集者さんとお会いしてお話をする時は必ず、「パッケージにこだわりをもっているので、意見を言いたいです」とお伝えしていますし、逆にパッケージングを握りたいのであれば先に言ってくださいともお伝えしています。なので、「OKです」と言われた場合に限り、かなり踏み込んだ意見を言わせていただいているんです。もちろん自分にパッケージを握らせてくださいと編集者さんから言われた際にはお任せしますというお話になります。これはもう大前提なので、三河が言っていたからって、いろんな編集部で問題を起こさないようお願いします(笑)。

みかみ:個人的に聞きたいんですけど、企画書を出す時にはイラストレーターさんの候補は決まっているんですか?

三河:企画書段階ではぼんやり考える程度で、本格的に考えるのは原稿があがる直前とかですね。

師走:イラストレーターさんを探そうっていうタイミングですよね。

三河:そうですね。原稿のあがりが見えてきて、探そうっていうタイミングですね。ついでに言うと企画書段階でイラストレーターさんの候補を挙げないのにも理由はあるんですよ。

師走:原稿を執筆していてイメージやテイストが変わる可能性があるから?

三河:それもゼロではないですけど、一番はタイミングですね。僕はイラストレーターさんを探す際には、ラノベ業界であまり描いていない方、又は「そのイラストに最適な企画にまだ当たっていないのではと感じた方」を選ぶ傾向が強いんです。その中でかつ、ファンも多いと最高ですね。そんな方いるのかって思われるかもしれないけど。

師走:時々お見受けしますよね。

みかみ:すごいわかります。

三河:これはライトノベルという商品のライバルが、同じラノベだけではないことにも起因しています。ソーシャルゲームやWEB小説といったいろんなライバルが存在している中で、なぜライトノベルを買うのか。どうすればライトノベルを買いたくなるのか。ライトノベルは他のコンテンツに比べてどこで勝っているのか。こういった理由を常に探していて、ひとつわかっているのが手軽さで勝負してもソーシャルゲームやWEB小説には勝てないだろうということ。だから手軽さを特化させようとは思っていません。その中で戦うにあたり、WEB小説とラノベの一番の違いはイラストの有無。WEB小説にはない強みだからこそ、イラストで手を抜く理由がどこにもないんです。企画とイラストの掛け算で作品のレアリティを高め、WEB小説でもソシャゲでも提供できないものを作ることでしか買いたくなるものは産み出せないだろう、と。極論、ここでプラスの価値を見出せなければWEB小説には勝てないとさえ思っています。だからこそ、徹底的にパッケージを詰める、これを僕自身決めごとにしているわけです。

みかみ:すごく勉強になります……。

三河:特に今はイラストレーターさんのレベルがとても高くて、女の子がみんな可愛いんですよ。過去にはそういった要素が売上のアドバンテージになっていた時もなくはなかったと思います。ただ、今は売場に並んでいる女の子がみんな可愛いから特に難しい。そうなると、ただ可愛いだけじゃ足りなくて+αが必要になってくると思うんですね。僕はライトノベルの物語とイラストは足し算ではなく掛け算をするものだと考えているんです。これは特定の何かを指してのものではないことを前提として言わせてほしいんですけど、仮に今現在、いいイラストレーターさんに描いてもらっているのになぜか売れないと思っている編集者さんや作家さんがいるのであれば、それは掛け算ではなく足し算になっている可能性があると思います。

師走:企画にイラストレーターさんをあてがうだけでは足し算、なぜそのイラストレーターさんなのか、その意味を持たせることで掛け算という感じでしょうか。

三河:大まかに言えばそういうことですね。僕が個人的に掛け算だと思っている作品の例を挙げるとダッシュエックス文庫の『モンスター娘のお医者さん』、そしてファンタジア文庫の『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』なんかはすごくわかりやすいと思っています。掛け算のパッケージは本当に魅力的なんですよね。

みかみ:さっきから三河さんのお話、全部頷くところしかなくて完全に傍観者になってる(笑)。ツッコむところが全然ないですね!

三河:自分ばかり喋り通しですいません(笑)。

みかみ:めっちゃ面白いなって聞いてます。こういったイラストやデザイン的な部分って、編集者さんの仕事だと考えている作家さんもいるでしょうし、意見を言いたいと考えている作家さんもいると思うんですよね。一方で意見を言うにしても自分のセンスを秤にかけなくちゃいけないじゃないですか。

三河:もちろん大前提としてイラストレーターさんとのやり取りや書影デザインは編集者さんが最終決定を握るということは踏まえておく必要があります。僕も直接イラストレーターさんとやり取りをしているわけではなくて、編集さんに意見を伝える形でやっています。ここで、プロである編集者さんと対等に意見を交わすために必要なのは最低限の情報収集だと思うんです。商業の場って戦場だと思っていて、戦争は情報がないと勝てないじゃないですか。世界で情報がなぜ高く売買されているのか、それは勝つためなんですよね。僕は毎月主要ラノベレーベルの発売ラインナップは全部チェックしていて、表紙の段階や試し読み公開の段階など、複数のポイントで売上の予想もしています。それを続けて傾向を分析することで、自分の感覚が正しいかどうかチューニングをしてるんです。予想外に売れた作品が出てきたら、そのタイミングでラッキーと思って徹底的に調べてます。

みかみ:すごいですね……。

師走:三河さん前職なんでしたっけ。

三河:前職はマーケティングリサーチです。

師走:その時の経験が活かされてる(笑)。

三河:今、何が存在していて何が存在していないのか。そしてゲームや漫画をはじめとした近隣業界、Twitterで流れてくる画像やVTuber、そういったお客さんが何を面白いと思って、何を可愛いと思っているのか、徹底的に拾うようにしてます。その上で、今のお客さんが求めていそうなことと、そのイラストレーターさんが持っているパワーと、僕が書ける企画をうまく掛け合わせた着地点を常に探っています。意見出しについても無根拠にやるわけではなく、徹底的に調べているからこそ自信を持って編集さんにお話ができるという感じです。意見をするのであれば編集者さんにとっても意味のあるものにしたいし、僕はそう心がけてます。もちろんそこまでやっても、最終的に売れるかどうかは運なんですけど(笑)。

みかみ:ただの感想になっちゃうんですけど、三河さんのすごいところは本当に努力されているところだと思うんですよね。やることをやって、勝ち筋を立てて、実際に勝ってる。それを見るとすごく心強いです。もちろん本当にいいパッケージを作っても、売れないことだってやっぱりあるわけで。それでもちゃんとやっていれば報われる時がくるし、実際に報われている人がいる。それってなんだか救いのある話だなあって思います。

――注釈のように合いの手を入れるのですが、師走先生の事例と同様に、共通しているのは編集者さんとの信頼関係を築いてのアクションなんだなってことですね。そこをすっ飛ばしてしまうと問題しか起こらないはずなので。

三河:僕は定期的にネット上で話題になる編集者不要論は好きじゃないんですよね。全国に流通できる出版社の強みは意味のあるものだと思うし、編集さんの意見が中身の面白さの掛け算にもなる。だからこそ編集者さんと出版社さんとはビジネスパートナーとして互いに尊重していきたいと思ってます。もちろん電子書籍がさらに普及していくことで、出版社を介さずとも商業出版のようなことができるようになると思いますけど、それはまた別のお話ということで。

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