独占インタビュー「ラノベの素」 零余子先生『夏目漱石ファンタジア』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年2月20日にファンタジア文庫より『夏目漱石ファンタジア』が発売された零余子先生です。第36回ファンタジア大賞にて「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。何者かに暗殺されてしまった夏目漱石が、森鷗外と野口英世の手によって樋口一葉の体で蘇り、帝都に渦巻く謎や陰謀と対峙することになる本作。夏目漱石を主人公に据えることに対するこだわりや、本作における夏目漱石像など様々にお話をお聞きしました。

 

 

夏目漱石ファンタジア

 

 

【あらすじ】

西暦一九〇六年。夏目漱石、作家の自由を脅かす政府に反逆。西暦一九一〇年。夏目漱石、暗殺。西暦一九一一年。夏目漱石、樋口一葉の身体にて蘇生。「――彼女の肉体に、俺の脳を移植したのか」森鴎外による禁忌の医術を受け夏目漱石は樋口一葉の身体で蘇った。それは帝都に渦巻く闇との戦いの再開を意味していた。誰が自分を殺したのか。どうして鴎外は漱石を蘇らせたのか。そして作家をつけ狙う殺人鬼『ブレインイーター』の正体とは。様々な謎が見え隠れする中、漱石の協力者の筈だった野口英世が独自の思惑で動き出し――文豪バトルファンタジー開幕。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

第36回ファンタジア大賞で「大賞」を受賞しました、零余子といいます。創作を始めてから約四半世紀と遠回りをしましたが、ようやくデビューすることができました。好きなことは散歩で、天気がいい時は3時間から4時間くらいかけて仕事先まで歩くこともあります。ほかには大河ドラマも好きで『葵 徳川三代』や『鎌倉殿の13人』は特に印象に残っています。

 

 

――読書遍歴についてはいかがでしょうか。やはり、本作の題材になっている夏目漱石をはじめとした純文学もずっと読まれてこられたのでしょうか。

 

実のところ、私が純文学を読むようになったのは4年程前からなんです。きっかけはあまり覚えていないのですが、書店で偶然手に取ったみたいな些細なものだったと思います。それ以前はライトノベルを中心に読んでいました。『東京レイヴンズ』や『ロードス島戦記』、『とある魔術の禁書目録』や『住めば都のコスモス荘』など読むジャンルは幅広かったです。

 

 

――ライトノベルもかなり読まれていたんですね。零余子先生はライトノベルと純文学、それぞれどのような楽しみ方をされているのでしょうか。

 

私の場合、ライトノベルはストーリーの面白さやイラストを純粋に楽しむものだと捉えています。それに対して、純文学は文字列の美しさを楽しむもの、あるいは何らかの学びを得るものという視点で読むことが多いです。

 

 

――ありがとうございます。執筆歴が約25年とおっしゃられていました。あらためて小説を執筆しようと思ったきっかけについても教えていただけますでしょうか。

 

自宅に「書院」というワープロがありまして、小説を書き始める前はそれで日記を書いていました。最初は日々の出来事をありのまま書いていたのですが、「もっと面白くしたい」と考えるようになり、少しずつ脚色するようになっていったんです。それが創作活動を始めた原点でした。書いた文章は自分で読み返すくらいで、誰かに見せるということもなかったんですけどね(笑)。

 

 

――自分で書いた物を楽しむ形で創作活動を始められた零余子先生が、公募に作品を応募しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

最初に応募したのは絵本の原案ストーリーの公募でした。たまたま公民館で目に入った公募のポスターをみて、応募してみようと考えたのがきっかけだったと思います。その後、ライトノベルで多彩な表現をしたいと考え、ライトノベルの公募に絞るようになりました。ここ4年くらいは、夏目漱石を主人公とした作品を応募していたわけですが、今回遂に受賞することができました。

 

 

――それではあらためてになりますが、第36回ファンタジア大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは連絡を受けた際の率直な感想をお聞かせください。

 

ありがとうございます。受賞の連絡は担当編集さんから電話でいただきました。「大賞です。おめでとうございます」とお言葉をいただいて嬉しかったのをよく覚えています。橘公司先生が選考会で推してくださったことを聞き、喜んでいたところ「ここからが相談なのですが……」と切り出され、「ペンネームを変えてください」と言われました(笑)。

 

 

――ペンネーム変更のお話が最初に飛び出していたんですね(笑)。また、第36回ファンタジア大賞[後期]選考結果の発表時には、変更前のペンネームについてはもちろん、作品の内容についてもSNSで話題になっていました。零余子先生はこの盛り上がりをどのようにご覧になられていましたか。

 

私はSNSをやっていないので、本作の話題がSNSで拡散されていることは担当編集さんに教えてもらって知りました。読者さんだけでなく、作家さんにも反応していただいて、本当にありがたかったです。拡散源となる投稿をしてくださった作家さんには、KADOKAWAの謝恩会でお会いする機会があったので、その際にお礼を伝えることができてよかったです。

 

 

――ありがとうございます。それでは受賞前から大きな話題を呼んでいた『夏目漱石ファンタジア』がどんな物語なのか教えてください。

 

『夏目漱石ファンタジア』はジャンル分けをするなら伝奇ファンタジーです。一般的に知られている歴史の大まかな流れは変えず、その裏側を私なりに解釈した物語となっています。夏目漱石や野口英世など、文豪や歴史上の人物の魅力を再解釈、あるいは拡大解釈し、「明治」という不思議な時代で暴れまわってもらおうと考えました。

 

夏目漱石ファンタジア

※文豪や偉人たちが、明治・大正の時代で暴れまわる――!!

 

 

――本作の着想についても教えてください。

 

先ほど触れた通り4年近く夏目漱石を題材にした作品を書いていたのですが、高次選考まで進んでも受賞に届かないという結果が続いていました。それでも私は、「いいところまで進めているのだから、夏目漱石という題材選びは間違っていないはず。受賞できないのは突破力が足りていないからだ」と考え、本作を書く上で二つのアイデアを軸にしました。一つは、夏目漱石を女性にすることです。当時の私は女性主人公だと公募でコンスタントに結果を残せていたので、夏目漱石を女性にすれば勝算があると考えました。もう一つは「シン・夏目漱石」という言葉です。この言葉はドラマ『夏目漱石の妻』で『シン・ゴジラ』に出演されていた俳優さんが、漱石役を演じていた姿を視聴していた中で思いつきました。

 

夏目漱石ファンタジア

※夏目漱石が樋口一葉の体に!?

 

 

―夏目漱石をテーマにした作品を書き続けてこられたということで、他の応募作も大変気になります(笑)。参考までに『夏目漱石ファンタジア』以外にはどんな作品を執筆されていたのでしょうか。

 

そうですね。たとえばヴァンパイアハンターとして活躍する夏目漱石の影武者と、本物の夏目漱石の謎を追う『影武者夏目漱石』や、イギリスに留学していた夏目漱石がコナン・ドイルと共に殺人事件に挑む『夏目キルゼムオール漱石』、あとは『夏目神社の巫女』という学園ラブコメなんかも書いていました(笑)。

 

 

――夏目漱石を主軸にして様々なジャンルに挑戦されていたんですね(笑)。零余子先生が、それだけ夏目漱石にこだわり続けた理由についても教えてください。

 

一番は夏目漱石の魅力的なキャラクター性だと思います。夏目漱石は誰もが知っている文豪ですし、彼を主人公にすれば読者の方にも面白さを共感してもらえるのかなと思ったんです。夏目漱石を登場させられれば何でも面白く書けるんじゃないかなと考えています(笑)。

 

 

――夏目漱石のキャラクター性に無限の可能性を感じられているんですね(笑)。夏目漱石という実在の人物を主人公にする上で、史実と創作の整合性を取るのが大変そうだと感じたのですが、零余子先生はどのようにバランスを取りながら物語を成り立たせたのでしょうか。

 

私はキャラクターの骨子を作ってから、彼らにストーリーの上を走ってもらう感覚で物語を書いています。そのように書いていると「この史実要素はこじつけられるな」みたいな小ネタが大量に湧いてくるんですよね。これらの小ネタを上手く組み込めるようにストーリーの前後を調整する形でバランスを取っていました。後は、実在の人物を題材にしているので、歴史上の大きなイベントにキャラクターが絡む展開も必然的に生まれるんですよ。なので、そこまで苦労せずに書くことができているというのが実情でもあります。

 

 

――なるほど。おっしゃる通り、史実と創作がリンクする小ネタはたくさんありましたし、それが本作の大きな魅力になっているのかなとも感じます。芥川龍之介の登場シーンなんかは非常に印象的でした(笑)。

 

本当にどうしてああなっちゃったんでしょうね(笑)。芥川龍之介を登場させるからには、彼の文学作品にちなんだネタを仕込みたいとは思っていたんです。登場シーンは、彼の作品『芋粥』と彼の実家が牛乳屋であることが頭の中で綺麗に繋がって浮かんだネタでした。このネタは選考会でもウケたらしいので、盛り込んで正解でしたね(笑)。ほかにもいろんな小ネタを仕込んでいるので、読者の方にはそういった要素も楽しんでいただければと思います。

 

 

――それでは続いて、波乱に満ちた明治の世を生きる本作のキャラクターについても教えてください。

 

本作の夏目漱石は暗殺された後、樋口一葉の体で蘇り「樋口夏子」として生きていきます。夏子となった漱石は、元婚約者の体で蘇ったことに複雑な思いを抱えつつ、別人となった今の自分に何ができるのかを模索していくことになります。暗殺される前は軍事組織「木曜会」を立ち上げ、作家たちを率いて政府に対抗するなど、強力なカリスマ性を持っていました。夏子となった今も「木曜会」を作ったことは後悔していないのですが、一方で「木曜会」を立ち上げたことへの責任は感じています。従来の夏目漱石の要素を踏まえつつ、ライトノベルの主人公として強い軸を持ったキャラクターになるよう意識しました。

 

夏目漱石

※元婚約者の体で生きてくことになった文豪・夏目漱石

 

野口英世は闇医者で、自分にできることや為すべきことに冷静に対処できるリアリストなキャラクターです。彼も父親が戦争で心を壊し、母親とは断絶し、故郷とはずっと距離を置いたままと、夏目漱石に劣らぬ複雑なバックグラウンドを持っています。そんな環境で、ひたすら「寒さ」に耐え続ける生活をしていたので、性格が曲がってしまったのですが、心に熱いものを抱えていたりもします。

 

野口英世

※現実主義者として描かれる闇医者・野口英世

 

禰子は、応募作の時点ではいなかったのですが、選考会で先生方からいただいたアドバイスをもとに誕生しました。ツッコミ役として明治と現代の価値観の橋渡しをしてもらおうと考えていたのですが、私の手を離れてボケ倒すようになってしまって(笑)。それもまた一興なのかなと思っています。

 

禰子

※ボケにツッコミに大忙しの漱石の護衛・禰子

 

 

――ライトノベルの主人公として強い軸を持たせたという言葉通り、夏目漱石は非常にインパクトのあるキャラクターになっていたと思います。

 

ありがとうございます。本作における夏目漱石のキャラクター造形は、大和田秀樹先生の漫画『坊っちゃん』に大きな影響を受けています。『坊っちゃん』には、主人公の敵役として赤シャツというキャラクターが登場するのですが、大和田先生の漫画では、その赤シャツがシャア・アズナブルの顔で描かれているんです(笑)。漱石は「赤シャツは自分自身を描いたキャラクターである」という旨の言葉を残しています。そう考えると、「夏目漱石=シャア・アズナブル」という事になり、私にはそれがものすごくしっくり来たんです。父性を求められながらも、複雑な環境のせいで愛を求めることしか出来なかった点や、意外と人間臭くて弱気なところ、死後も影響を与え続けるカリスマ性などは共通しているのかなと思っています。1910年のハレー彗星の接近と同時期に活躍し、瞬く間に人の心を掴んでいった夏目漱石もきっと「赤い彗星」のような人物なのだろうという解釈のもと、執筆しました(笑)。

 

夏目漱石ファンタジア

※強烈なカリスマ性を持ちながら、時折弱さを見せる点も本作の夏目漱石の魅力

 

 

――ここでシャア・アズナブルの名前を聞くことになろうとは(笑)。夏目漱石の内面的な解釈も非常に面白いわけですが、ひとつ気になる点として、執筆時はどんなイメージで登場人物たちを書かれていたのかも気になったのですが、いかがでしょうか。

 

私の頭の中では史実通りの姿で動いていました(笑)。夏目漱石や野口英世などは、お札に描かれている顔そのままでしたね。その後、担当編集さんと話し合いながらライトノベルのキャラクターとしての姿を固めていったのですが、イラストを担当していただいている森倉円先生には、私のイメージを超えるものを描いていただいて、非常に嬉しかったです。

 

 

――ちょうどお名前も出ましたのでイラストについてもお聞かせください。本作の書籍化に際して森倉円先生がイラストを担当されました。キャラクターデザインやイラストを見た際の感想、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

初めて見た際の感想は上手く言い表せないのですが、とにかく嬉しかったことは覚えています。キャラクターデザインに関しては、野口英世の着ている白衣や、漱石の髪飾りなど、担当編集さんと考えていた小ネタを丁寧に実現していただいて素晴らしかったです。お気に入りのイラストについては、どのイラストも素晴らしくて選べないのですが、一番はカバーイラストかなと思います。このイラストを見た瞬間「報われた」という思いが募ってくるような、強いインパクトがありました。

 

夏目漱石ファンタジア

※零余子先生が特に気に入っているというイラスト

 

 

――著者として、本作はどのような方がより楽しめるか、あるいはどのような方に読んでほしいか教えてください。

 

誰でも知っている文豪や偉人が意外な活躍をする点が本作の肝だと思っているので、夏目漱石の作品を読んだことが無い方やあまり詳しくない方にも読んでほしいです。「夏目漱石」という名前を知っていれば楽しめると思います。また、本作は成蹊大学の大橋崇行先生に監修やコラムを担当していただいています。コラムでは作中の用語を、史実と本作の設定の両方で解説していただいているので、本編と合わせて読むことでより世界観を楽しむことができるかと思います。逆に夏目漱石に詳しい方には、これまでとは違う夏目漱石として楽しんでいただけると嬉しいですね。幅広い方に手に取っていただけるとありがたいです。

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

作品を通して、夏目漱石をはじめとした様々な文豪や偉人の面白いエピソードを多くの方に知っていただけたらなと考えています。

 

 

――本記事の読者に向けて、一言コメントをお願いします。

 

私は第36回ファンタジア大賞組の先鋒を務めることになるのですが、同期の先生方は皆さんおもしろい方でしたし、書かれている作品も間違いなく面白いと思います。『夏目漱石ファンタジア』はもちろん、これから発売される他の受賞作もぜひ読んでみてください。

 

 

――ありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

樋口一葉の体で蘇った夏目漱石が、葛藤を抱えながら帝都の闇と戦うことになる伝奇ファンタジーを綴った零余子先生にお話を伺いました。強烈な個性を持ったキャラクターたちの活躍はもちろん、史実と絶妙に絡んだ小ネタも魅力の本作。読者に新たな夏目漱石像を見せてくれること間違いなしの『夏目漱石ファンタジア』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>

 

©零余子/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:森倉円

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『夏目漱石ファンタジア』特設サイト

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夏目漱石ファンタジア (ファンタジア文庫)

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