【特集】『ありおと』&『わたなれ』刊行記念インタビュー みかみてれん先生「ガールズラブコメは女の子たちのハッピーエンドを描く物語!」

2020年2月15日頃にGA文庫より『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』、2月21日にダッシュエックス文庫より『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』が発売されるみかみてれん先生をお招きしてお話をお聞きしました。百合ジャンルの作品を手掛ける自身が百合にハマったきっかけ、ガールズラブコメと呼称する作品が目指しているもの、そして時代は百合に向けて動き出しているという業界との向き合い方まで様々に語っていただきました。百合ジャンルはあまり読んだことがない……という読者にこそ必見のお話を盛りだくさんでお届けします。

――それでは自己紹介からお願いします。

みかみてれんです。出身は百合漫画で言うと『はなにあらし』や『フラグタイム』でも舞台となった宮城県仙台市です。作家としては2014年にデビューさせていただき、ファンタジーや漫画原作など様々なジャンルを執筆しています。そういった作家活動と並行しながら同人誌で百合ジャンルの作品も書くようになっていきました。昔からずっと百合ものの作品を読んだり書いたりすることが好きで、十何年と百合を封印する期間もあったりしたんですが、現在は思う存分書けるだけ書いているという感じですね。

――最初から百合ネタ全開ですね(笑)。みかみてれん先生は2014年に作家デビューをされているわけですが、小説の執筆そのものは百合を封印していた時期も含めるとかなり長そうですね。

そうですね。わたし自身、いわゆるワナビの時代が非常に長かった人間です(笑)。それこそデビューするまで10年近くずっと小説賞にも応募を続けていました。ライトノベル自体は図書館にある作品をきっかけにハマりまして、コバルト文庫の作品がたくさん置いてある図書館だったので、今野雪緒先生の『マリア様がみてる』とは必然の出会いだったと思っています(笑)。手当たり次第にイラストの付いていた小説を読み漁る中で、『マリみて』は巻数を重ねるごとに熱中していった作品ですね。ただ、当時は百合ものと認識しながら読んでいたというよりかは、児童文学にある女の子が主人公の物語に近い印象を受けていました。とはいえ、百合にハマったきっかけは間違いなく『マリみて』が大きく影響していますね。特に聖さまの卒業に祐巳さんが……以下略。

――自身で百合ジャンルの作品を書いてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

これはもうはっきりしていて、ライトノベルという書籍ジャンルにおいて百合の作品が非常に少なかったからです。小説の執筆は二次創作からスタートしているんですけど、その頃から執筆に対する欲求は変わっていないんだと思います。読みたいものがない、だから自分で書こう。もし仮に【ライトノベルというジャンルにおいて百合ものが有名なレーベルから毎月数冊刊行されます】みたいな状況が続いていたとしたら、過去の自分は率先して百合ものを書こうとは思わなかったと思います。ファンタジーやラブコメはたくさんの作品があって、自分自身も満たされていましたし、でも百合の成分は満たされることなく燻っていたわけです。自分の求める百合が欲しかったんですよ(笑)。

――そうして動き出したのが、同人における「みかみてれん文庫」だったわけですね。

そうですね。同人活動は作家としてデビューしていた頃からやっていましたが、最初の方は自分の書いた異世界ファンタジーの二次創作(一次創作?)だったんですよね。「よし、百合をやろう!」と決めて百合を書いたというよりは、百合で面白そうなネタを思いついたからやってみよう、という感じだったんです。でも一冊書いてみると、「ああやっぱり百合書くのとんでもなく楽しいな……」と、新世界の扉が開いてしまって……。どっちみち同人誌は自分のやりたいことを思う存分やる場だと割り切っていたので、だったら満足するまで百合をさんざん書き続けようと思いました。時を同じくして、同人界隈をはじめ、百合ものの盛り上がりがちょっと見え始めていた頃だったのも、いい機会だったと思います。こうして「みかみてれん文庫」が本格的に動き出したわけですね。

――あらためて、GA文庫とダッシュエックス文庫の両レーベルからガールズラブコメを2冊同月に刊行されるわけですが、百合を商業で執筆・刊行しようと考えた理由やその経緯について教えてください。

以前に参加させていただいた鼎談の直後あたりで、ダッシュエックス文庫の企画が動き出しました。実はそれ以前から百合ものの作品を書きませんかというお話は何社からかいただいていたんです。ただ、現在の市場状況などを鑑みながら、「果たして商業で百合を出すタイミングは今なのか……!?」と機会を窺いながら、なかなか実現には至っていませんでした。仮にわたしが単発で刊行したところで、それはわたし自身が楽しいだけであって、業界に何の影響も与えられないだろうという考えはずっとあったんですよね。その点、百合SFのフェアは、とても巧みにムーヴメントを起こしていたので、非常に感心していました。やっぱりあれだよね、と。

――当初はかなり後ろ向きだったんですね。それでも前向きになれた理由はなんだったのでしょうか。

ダッシュエックス文庫からのオファーとほぼ同時に、同人誌として販売していた『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』の商業化のオファーをいただいたことがきっかけでした。1冊の単発刊行では何も変えられないかもしれないけど、一ヶ月で2冊を刊行して、さらにフェアなどを通して打ち出すことができれば、ライトノベル業界にも百合の波を少しは起こすことができるのでは、と思ったんです。

――『ありおと』については、商業化のオファーが他社からもあったとうかがっています。

そうですね。やはりタイミングがひとつ大きかったことと、GA文庫さんの営業担当の方がもともとわたしの同人誌を読んで気に入ってくださっていたこともあり、非常にプッシュしていただけて、『ありおと』を売るための絵を描いてくださったんですね。説得材料としてもかなり確度が高く、わたしも実現性が高そうだと感じましたし、これなら商業で百合が売れるかもしれないと心を動かされてしまいました(笑)。また、GA文庫さんにはもともとKindleで個人販売されていた『魔女の旅々』を商業化されていて、そういった面でもノウハウがあるだろうと思ったこともきっかけのひとつでしたね。

――なるほど。具体的な売るためのビジョンを共有してもらったという点も大きかったわけですね。

はい。あとはダッシュエックス文庫とGA文庫でレーベルも違うんですが、2つの話が進んでいくうちに、わたしの方からそれぞれのレーベルへ、同月に刊行したいという提案をさせていただきました。先にも触れましたけど、商業でやる以上は何らかの波を作りたいと考えていましたし、その道筋はできるだけ整えたかったというのもあります。わたしがうまくいけば百合ラノベ自体が増えるかもしれないわけで。その欲望と重責に、眠れない夜もたくさんありましたね……(笑)。

■百合に広がる膨大なジャンル、そしてガールズラブコメが目指すもの

――ありがとうございます。ここで少し「百合」や「ガールズラブコメ」についてお聞きしたいです。私も含めて実は結構わかっていない方や知らない方も多いのかなと考えていて、そもそも百合ってどんな作品群なのかぜひ教えていただきたいです。

わかりました。ちょっと読者側の視点から触れていきますね。実は百合って「女の子同士の感情や関係性の物語」というざっくりとした括りだけがあって、非常に膨大なジャンルが広がっているんです。たとえ話になるんですが、「お茶を買ってきて」と頼んだ時に、自分が思い描いていたお茶と、買ってこられたお茶が違う場合ってありますよね。麦茶が飲みたかったのに紅茶を買ってこられた、みたいな(笑)。世の中にはいろんなお茶が存在していて、何を買ってきてほしいのかはピンポイントで伝えることができるんですけど、その一方で百合は、一言で「百合」と言っても求める百合と勧められる百合に大きなズレが生まれることは珍しくなくて、それだけたくさんの種類が派閥のように分かれているんですよ。

※実は細かく膨大なジャンルに分かれているという百合(イラストは『ありおと』)

――安直かもしれませんが、女の子同士の恋愛模様やラブコメをなんとなくイメージしがちですが、そうではないと?

その通りです。百合の中には社会人同士の百合模様を描く社会人百合や、学生同士の百合を描く学生百合、ほかにもおねロリや殺伐百合をはじめとした、非常に多くのシチュエーションが存在しているんです。実はこのシチュエーションって、定義自体はされているんですけど、どんな読後感を得られるのかについてはあまり触れられていないのが実情です。お姉さんと小さい女の子の百合を描くおねロリでも、お姉さんが小さい女の子を落とすお話なのか、小さい女の子がお姉さんを魅了するお話なのかすら、曖昧に見えてしまうことも少なくありません。そこで「ガールズラブコメ」っていうキーワードが登場するわけです(笑)。百合の中でも「これがガールズラブコメです」と指し示した上で、得られる読後感を示すジャンルとして、みなさんにわかりやすく提示できたらいいんじゃないかなと考えました。

――読後感を示すという点は非常にわかりやすいですね。「ガールズラブコメ」ではどういった読後感を目指した作品を指すのでしょうか。

百合なので、物語としては女の子と女の子の恋愛やラブコメです。そして読んだ後に笑えて、楽しい気分になれて、ちょっと感動もできる、そんな物語を提示していきたいと考えています。そこには青春があってキャラクターの成長もあります。ラノベのジャンルにおける明るい現代ラブコメを、女の子同士で描いた作品、というと伝わりやすいのかな(笑)。

――非常にイメージはしやすくなりました(笑)。だからこそお聞きしたいんですが、男の子と女の子では描けない物語でもあるということなんですよね。

そうですね(笑)。わたし個人のお話になるんですけど、わたしが執筆する男女の物語はどうしても英雄譚になりがちなんですよ。男の子が女の子を助けるお話であったり、ヒロインの女の子が主人公の男の子をサポートしたり。ここには、ジャンプを初めとした様々な少年漫画から学んだ「男の子はヒーローであるべし」というわたしの主人公哲学が関わってくるので、なかなか根の深いお話だったりしまして……。とかく、キャラクターの性別によって役割の縛られた物語構成になってしまうんですよね。だからこそ、女の子と女の子で描かれる物語では、性別によって縛られることなく、女の子ができることをフルスペックで活かすことができる。それがわたしの執筆する百合作品の特徴だと思っていますし、百合作品のいいところなんじゃないかなって考えています。

――私は百合ものの作品を積極的に読むタイプではないんですが、今回の2作品を経て、一人のヒロインのかわいさというよりも、二人以上のヒロインによる集合的かわいさや、尊さのようなものをすごく感じました。

それもひとつの楽しみ方だと思います。男女の物語と違って、アプローチするほうもリアクションするほうも女の子だと、女の子の感情は単純に二倍描かれることになりますからね。ふたりの感情を緻密に描くことによって、それらは二乗にも三乗にもなって魅力を増してくれる。登場人物が全員かわいいという、一行余すところなくかわいいガールズラブコメの世界観を楽しんでもらえたら嬉しいですね。

※かわいさが二乗にも三乗にもなる魅力!(イラストは『わたなれ』)

■迫られる側の価値観が揺さぶられる面白さを味わってほしい

――では刊行される2作品、それぞれどんな作品なのか教えてください。

まずGA文庫さんから発売される『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』ですが、作品タイトルでほとんど説明を済ませている気がしないでもありません(笑)。加えて言うなら、意地っ張りな女の子が好意をガンガン押し出してくる女の子にほだされ、恋人同士になってしまう物語です。身体の関係から始まる二人なんですけど、じょじょに「もしかしてこいつ、あたしのことが好きなんじゃないか」っていう気持ちがどんどん伝わってきて、主人公の榊原鞠佳がほだされていく過程が一番の見どころかなと思います。すごく意地っ張りで「彼女はあたしのことなんてなんとも思っていない」と言い続けてはいるんですが、裏を返すと「彼女は自分のことをなんとも思っていないんだ」と自身に言い聞かせているわけでもあるんです。少しずつ膨らむ「もしかしたら」という期待がどんどん止められなくなってしまう気持ちの変化が作品としてのポイントですね。

【あらすじ】

「女同士なんてありえない!……はずなのに!!」 モテ系JKの榊原鞠佳は、ある日、クラスのクールな美少女・不破絢に、突然百万円を突きつけられた。「榊原さん。一日一万円で百日間、あなたを買うわ。女同士が本当にありえないかどうか、試してあげる」「――は? はあっ!?」 その日から始まる、放課後の○○タイム。頭を優しく撫でたり手を握ったりするところから始まる絢の行動は、日に日にエスカレート!! 果たして鞠佳は、百日目まで絢に「ありえない」と言い張ることができるのか――(できない)。屈服確定!? 敗北必至!? 鞠佳の百日を巡るガールズラブコメディ!!

――本作はもともと同人誌で刊行されていた作品ですが、どのように改稿されているのでしょうか。

改稿については担当さんとも詳細に検討した結果、大幅な改稿は行わない方向としました。同人誌で評価していただいた点は、わたし自身どうしても動かしたくない物語の骨子でもあり、これは仕方がないでしょうと。そのぶん、百合のラブコメをあまり読んだことがない方にもわかりやすく伝えられるように、心情描写などは丁寧に描かせていただいていますし、巻末にもたっぷりと書き下ろしを収録しています。書き下ろしの内容は担当さんからご提案をいただき、不破絢の視点で物語を書き加え、二人の関係性をつまびらかにした物語になっています。同人誌版で読んでいただいている方にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。

――そしてダッシュエックス文庫から刊行される『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』は完全書き下ろしの作品になるんですよね。

そうですね。平凡な庶民の主人公・甘織れな子が、学園のスーパーアイドル・王塚真唯に言い寄られて始まるラブコメです。れな子は二人の関係性を友達同士でありたいと考え続けています。一方で真唯は恋人同士になればこんなにいいことがあるのだとれな子に対し行動でもってプレゼンをし続けるんです。友達と恋人はどちらがいいんだと煩悶し続けるれな子の姿が本作の見どころになっています。ヒロインに翻弄され続けるれな子の足掻く様子を楽しんでいただけたら嬉しいですね。れな子はずっと友達がおらず、友達と楽しく過ごす学園生活に夢をみている女の子でもあります。一方で真唯は山ほど友達がいるのですが、だからこそあまり友達という存在を重視しておらず、最高の運命の恋人が欲しいとれな子にアプローチを続けます。お互いがないものねだりをする中、れな子の価値観が揺るがされていく過程をコメディチックに描いているので、楽しんでもらえるポイントになっていると思います。

【あらすじ】

ぼっちな中学時代を捨て、高校デビューしたわたし・甘織れな子。でも、根が陰キャだから憧れの陽キャ生活に馴染めず、窒息寸前! そんなとき、我が校のスーパースター・王塚真唯とひょんなことからお互いの悩みを共有してヒミツの友達に。真唯がいれば毎日がんばれそう──と思ったはずが!「君に、恋をしてしまったんだ」「待って! 友達どこいった?」 恋人なんて不安定な関係、ムリ! わたしは最高の友達を作って高校生活を楽しみたいの! でも真唯も恋心を諦めきれないようで──。「恋人と親友のどちらが私たちにふさわしいか、勝負で決めよう」 こうして、ふたりの在り方を懸けたノンストップ・ラブコメディが幕を開けたのだった!

――この2作品にはどちらも迫られる側の価値観が揺さぶられ、変化していくという共通点がありますよね。

おっしゃる通りで、これはわたしが商業でガールズラブコメを書く際に心がけたことでもあります。最初から女の子を好きな女の子を主人公に添えるよりも、女の子に対して特段の感情を有していないストレートな女の子を主人公にしたほうが、より多くの読者にとって物語に入りやすいのではないかなと。アプローチに対して気持ちが変化していく主人公の姿は、百合に限らないラブコメの構造でもあると思いますので。その一方で、顔のいい女にノンケの女の子が落とされていく過程は最高だよね、という想いも込められています。

※主人公は女の子に特別な感情を持たないストレートな女の子たち(イラストは『わたなれ』)

――ちなみになのですが、百合の初心者はどちらのガールズラブコメから読んだ方がいい、といったアドバイスのようなものはありますでしょうか。

シチュエーションの違いこそありますけど、『ありおと』も『わたなれ』も手に取る間口は広いと考えていますし、そのように書きました。正直なお話、物語の好みによって分かれるのかなと(笑)。その指標として、この2つの物語にはある三つの軸が参考になるかもしれません。ひとつはラブコメの軸。これは『わたなれ』がコメディ寄りで『ありおと』がラブ寄りです。次にヒロインの気持ちの重さの軸。ヒロインが主人公に対して、どういう気持ちを抱いてアプローチをしているのかという点です。これは『わたなれ』の王塚真唯が軽く、『ありおと』の不破絢の方が重いです。そして最後に描かれる世界の広さの軸があります。二人だけの世界を描く場合は狭く、より百合っぽいムードが強くなります。『ありおと』はそういう意味では狭い世界で描かれている物語になります。一方の『わたなれ』は5人グループの女の子のお話を描いているので、描かれる世界は広めであり、百合の要素も僅かばかり薄くなっている、といった感じです。

※どちらの作品も間口は広い(イラストは上:『ありおと』/下:『わたなれ』)

――なるほど。となると女の子がワイワイやっている作品が好みなら『わたなれ』、二人のラブストーリーを読みたいなら『ありおと』といった感じでしょうか。

好みの指標にはなるのかなと思います。2つの物語を三軸で表しましたけど、物語としてはラブコメの系統が異なるだけなんですよね。二人のラブストーリーを徹底的に追いかける『ありおと』、5人のグループの中で二人の恋愛模様を描く『わたなれ』。百合の初心者・上級者を問わず、好みのラブコメを手に取っていただけたらと思います。

意識すべきは細かなディテールと納得感

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