【編集部のオススメ】何をしたんだ、清川くん 「ある日、――僕は人気者と入れ替わってしまった」

ラノオン編集部が読んでオススメしたいと思ったライトノベルを紹介する【編集部のオススメ】

今回はノベライドルより刊行されている文野はじめ(PD:佐藤喬)が執筆する『何をしたんだ、清川くん』をご紹介します。

※多少のネタバレが含まれますのでご注意ください。

何をしたんだ、清川くん

ある日、僕は人気者の清川くんになっていた。

浮かれる僕はやがて、大きな物語に巻き込まれていく。

ある日、いきなり他人になってしまった主人公を描く一風変わった本作。日常で、学園で、ラブコメかと思いきや、SF(すこしふしぎな、の意で)らしさ、そして心の在り方に迫る物語。著者はアイドルで作家のキャラクター文野はじめちゃんが執筆! キャラクターが著者としてライトノベルに切り込む面白い試みの中で刊行されている作品です。学校一のイケメンである清川くんと入れ替わってしまった流。大きな戸惑いに曝されながらも、本来の自分とは違って、周囲には自然と人が集まり、学校のアイドルにだって囲まれる。誰からも必要とされる存在となったことに浮かれる流だったが、やがてほんの少しずつ完璧であるはずの清川くんが何か大きな秘密を抱えていることに気付き始めます。清川くんでありながら、清川くんではない。このズレが少しずつ清川くんの抱えていた問題を明らかにしていきます。これは僕が僕のために掴む、僕の未来のための物語となっています。

いつもと何かが決定的に違う。

つまり、僕が清川くんになってしまったということだ。

ある朝目覚めると、見覚えのない天井を見上げていた。御手洗流は、目覚めたら他人になっていて、それは学校一イケメンである清川くんだった。これは夢なのか、いいや夢なんかじゃない。高校生にしながら余生のような人生に片足を突っ込んでいた流の日常は、一変する。

素晴らしき清川くんの人生……!

しかし使われていないバスの回数券が、物語を加速させる。

ルックスも勉強もスポーツも交友関係も、何もかもが流とは違う。憧れが現実になり、清川くんとして生活してみてその素晴らしさを知った流。そして、そんな清川くんの傍に”カノジョ”という存在があることを知る。それは決して他人が踏み込んではいけない領域。誰にでもある辛いこと、苦しいこと、悲しいこと。そして管理人さんがつぶやいた「”カノジョ”は最後のピース」という言葉。流は、清川くんが何をしたのか、知るために動き始める。

彼女たちと接することで痛む心。

それでも僕は元に戻ることを決意する!

流は清川くんとして、ハーレムの女の子たちから情報を引き出そうとするもうまくいかない。それどころか、幼馴染である未来が清川くんと付き合っている可能性を考えてしまい、一人心を痛めていた。それでも少しずつ清川くんの置かれている状況、そして清川くんの弱さが見えてくる。未来の気持ちを知ってしまった流は、元に戻らなくてはならないと決意を新たにするのだった。

「悪いけど僕は、ちょっとだけ清川くんとして動くよ」

物語の中で起こったエラーはかくして、ハッピーエンドへ突き進む。

前に進むためには痛みを伴うということを知った。それは別のものを手に入れるためには避けられない痛みであるということも。清川くんが弱さを露見させてしまった理由。清川くんと入れ替わってしまった理由。すべての物語はハッピーエンドを迎えるためにある。そして清川くんと流は、ハッピーエンドを手にするために決心する。

本作の見どころは、単純な強さや弱さ、格好良さや格好悪さというお話ではなく、誰もが等しく持つ心にアプローチし、清川くんと入れ替わってしまった流が成長していく姿です。男子高校生として完璧な清川くんと、ぱっとしない高校生の御手洗流。対照的なポジションにいた二人が、真反対にいたにもかかわらず、同じことを考えたからこそ生まれてしまったちょっと不思議な物語です。違う立場にいる人間が、どんな問題を抱えていたりどんなコンプレックスを抱えていたりするのかは、その人物と入れ替わってみて初めて理解に至るという一面。そして清川くんの姿でありながらも、心は御手洗流のままであったことへの葛藤も、大きな見どころでしょう。本作はテーマやストーリー性からしても単巻タイプではありますが、だからこそ1冊にきちんとおさめられた物語は非常に面白く読むことができました。入れ替わった流や清川くんがどんな物語を紡いでいるのか、オススメしたい1冊となっています。

人気者と入れ替わってしまった自虐系男子の物語を、ぜひ手に取って読んでみてください。

©文野はじめ(佐藤喬)/Discover イラスト:白身魚

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