独占インタビュー「ラノベの素」 理不尽な孫の手先生『オーク英雄物語 忖度列伝』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2025年6月20日にファンタジア文庫より『オーク英雄物語 忖度列伝』第7巻が発売された理不尽な孫の手先生です。オーク英雄(ヒーロー)の主人公・バッシュが国を発ち、「あるものを探す」旅を描く本作。あらゆる国々で出会う「あるもの」の候補者たちはもちろん、バッシュの真の強さを知るキャラクターたち、そして物語執筆の裏側など様々にお話をお聞きしました。

※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインVol.21」は本記事と連動しています。

 

 

オーク英雄物語7

 

 

【あらすじ】

国を巡り、様々な種族の美女にプロポーズしたバッシュは初心に立ち返り、ヒューマンの女を嫁にするため、ヒューマンの飛び地へ向かう。その道中、『英雄』は『賢者』と出会い……。「私はあなたに、私の知りうる限りの知識を授けましょう」 女を口説き落とし、妻と子供を手にしたオークメイジに弟子入りしたバッシュは、人生初めての師から知を授かり――。デーモン王復活の鍵となる最後の一つが保管されたブラックヘッド領で、再会したナザール、サンダーソニア、ジュディスらが緊張状態で見守る中、『英雄』は動き出す。「お前と話せてよかった……ところで部屋を取ってあるんだが」 そう、ナンパに!

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

「小説家になろう」にて『無職転生』という作品を書いていたらランキング1位になってしまい、そのまま商業作家として活動することになりました理不尽な孫の手と申します。好きなものはシュークリームで、苦手なものはゴキブリですね。そろそろ見かける時期も近づいており、戦々恐々としています(笑)。基本は毎日執筆とゲームの日々なんですけど、最近家を建てまして……。今まで大量に送ってもらっていたグッズ類をようやく飾る場所ができたことや、新しい家具を入れたりなど、充実した日々を送っています。

 

 

――家を建てられたということは、正真正銘の『無職転生』御殿ですね。夢があります(笑)。

 

そうですね(笑)。場所も住んでいる家のほぼ隣なので、セカンドハウスって感じです。小説を書いて家を建てられるわけですから、みなさんも小説を書いてほしいですね!

 

 

――理不尽な孫の手先生は2014年1月に商業作家としてデビューをされて、今年で12年目を迎えているかと思います。あらためてデビューから今日までを振り返っていただけますでしょうか。

 

時が過ぎるのはあっという間という感じです。正直なところ、10年前と今とで生活はほとんど変わってないんですよ。「小説家になろう」投稿時から、朝起きて小説を書いて、ゲームして飯食って寝るみたいな生活をしていたわけですけど、今もそんなに変化はなく(笑)。もちろん10年という年月が経ったことで環境も変化しましたし、やらなきゃならないことも増えていると思いますが、根本的な部分はそのままです。でも、仕事として小説を書くことで金銭を得られるようになり、以前に感じていた漠然とした不安はなくなりました。ほかに変わった部分で言うと、作家という存在に対する認識でしょうか。

 

 

――具体的にどう認識が変わられたんですか。

 

作家、もとい漫画家に対してもそうだったんですけど、昔は得体のしれない存在だと思っていたんです。でも実際に作家として活動し、同期や横の広がりができてくると、案外自分とそんなに変わらないなって感じたんです。考え方もそうですし、自分が思っていた以上に、どこにでもいるような人たちが小説を書いているんだなっていう認識に変わりました。

 

 

――なるほど。作家というお話で言うと、以前暁なつめ先生にインタビューをさせていただいた際、仲の良い作家仲間として理不尽な孫の手の先生のお名前も挙がったりしていました。交流は今も続いているんですか。

 

仲が良いつもりではいたんですけど、名前を挙げてくれていたことに嬉しさを感じますね(笑)。作家間の交流は、コロナの影響で途絶えてしまった人もいるんですけど、「みんなで飲みにいくよ~」みたいな場には、自分も暁先生もお互い足を運んでいることは多いです。そもそも僕は岐阜に住んでいますし、人を積極的に誘ったりするタイプでもないのですが、暁先生がいる飲みの場へ行かないという選択肢はないなって思ってます(笑)。

 

 

――ありがとうございます。あらためてこの10年の振り返りのお話に戻るのですが、『無職転生』の大ヒットはどのように感じていらっしゃったんでしょうか。

 

難しい質問ですね……。そもそも「小説家になろう」で書き始めた時、ランキングに載ることの意味も理解していなくて。最初は新しい作品を書く人が少ないから、みんなランキングに載るものだと思ってたんですよ。でも、どうやらそうじゃないらしいっていうのがある程度わかってきて、「なんかすごいことになってるぞ」と気が付いた感じでしたね。商業からの大ヒットに関しては、やっぱり出版社様の力が強いなって感じます。どれだけ作品が面白くても、宣伝がうまくいかなければ売れないと思っているので。コミカライズやスピンオフ、出来の良いアニメ。お手伝いはちゃんとしていたつもりでしたけど、僕の目からは勝手に大きくなっていったという感じですね(笑)。

 

 

――『オーク英雄物語』第2巻のあとがきで、『無職転生』にかける時間が多くて他のことに手をつけにくい……というお話もされていらっしゃったかと思うのですが、『無職転生』の書籍版も完結したことで、状況に変化はありましたか。

 

そうですね。『無職転生』は完結しましたし、続きも出ないので、なるべく新しい作品に力を入れたいなとは思ってます。とはいえ、アニメの続編もありますし、毎週のようにやってくる諸々の監修もちゃんと見なきゃいけないわけです。その都度『無職転生』という作品を読み返して、設定を頭に入れなきゃいけない大変さはあります。それらと並行して『オーク英雄物語』の設定も頭の中に入れながら書き続けるとなると、結構混乱しちゃうんですよね。重なる時期は特に頭の切り替えに時間がかかってしまい、進みがよくなかったりしました。切り替えが早い方は、スパッとできていると思うので、そこは僕の弱点なのかなと思います。

 

 

――ありがとうございます。そういった真面目なことにも触れつつ、面白おかしいあとがきも印象的です(笑)。

 

いろんなところに行っていると見せかけて、実際はゲームの話をしているだけなんですけどね(笑)。よく作家や漫画家がゲームの話題を出すと、「ゲームで遊ぶ時間がある」と思われ、忙しくなさそうに見えたりするじゃないですか。実際普通に忙しくても、他の人はそう受け取ってくれないわけですよ。ゲームの時間と執筆の時間は、それこそプライベートと仕事くらい別物なわけで、勘違いが生まれないよう、なるべく面白おかしくした方がいいのかなと思いながら、いつもあとがきを書かせてもらってます(笑)。

 

 

――ちなみに今はどんなゲームを遊ばれているんですか。

 

最近は『ドラゴンクエストX』を遊んでいますね。最初はあまり良い噂を聞かなかったんですけど、現在のバージョンが7とかで、アップデートを繰り返されているだけあってちゃんと面白かったです。『ファイナルファンタジーXIV』も遊んで面白かったですけど、方向性の違う面白さを感じてます。金曜日によくカジノにいますよ(笑)。

 

 

――『ドラクエX』を遊ばれている方は、ゲーム内で理不尽な孫の手先生に会えるかもしれませんね(笑)。それではあらためて、『オーク英雄物語 忖度列伝』についていろいろお話をお聞きできればと思います。まずはどんな物語なのか教えていただけますでしょうか。

 

本作はオーク英雄のバッシュさんが、各地で虐げられている者たちを助けながら、オークという種族の誇りを取り戻していく話っス!……という体で、バッシュが世界各地を巡りながら自分の嫁を探し歩いていくという感じですね。

 

オーク英雄物語

※英雄なのに童貞なオークの嫁探しを描く本作

 

 

――作品の着想についてもお聞きしたいのですが、サブタイトルにもなっている「忖度」という言葉は、2017年の新語・流行語大賞にも選ばれていたかと思います。タイトルを考える際の参考にされたりしたんですか。

 

タイトル自体は2018年に考えているので廃れ始めたタイミングだったとは思うんですけど、影響はありましたね。また、作品そのものについても直接的に影響を受けた作品があるんです。小説投稿サイト「ノクターンノベルズ」に投稿されていた『童貞オークの冒険譚』。この作品が本当に面白くて読んでいたんですけど、読みながら「自分であればこうする」という考えが次第に生まれていったのがきっかけでした。『童貞オークの冒険譚』の主人公・ヴォルゴが、オークらしいのにハードボイルドで非常に格好良く、魅力的だったんです。オークを題材にしているのに、性格がいまいちオークっぽくない作品も結構あって、そういった作品と『童貞オークの冒険譚』を読み比べたことであらためて、「オークはオークらしく書いてこそ面白い」と感じるきっかけになったんです。そうしていろいろと考えていく中で、方向性とゴールが見え、本作を書き始めることになりました。

 

 

――なるほど。世の中の流行もそうですが、WEB小説はもちろん、そういった中での流行りや廃り、それらの比較など、かなりしっかりと見ていらっしゃるんですね。

 

そうですね。なるべく見るように心がけています。流行がなぜ面白いのかって、振り返ってもやっぱりその当時しかわからないと思うんですよ。5年や10年が経っちゃうと、当時流行っていたという事実こそ確認はできますが、何が面白かったのか全然わからない。でも流行っている時点では、空気感を理解しやすい。流行っているうちに言語化したり、自分の中に理屈として落とし込むなりして、面白さの根底部分をわかっておきたいと思うんです。だから流行を斜に構えて見ないようにはしています。

 

 

――ありがとうございます。また、『オーク英雄物語』を執筆するにあたっては、『無職転生』と共通したアプローチや異なるアプローチを意識されながら執筆されていたりはしたんでしょうか。

 

アプローチという意味ではそこまで変わりはないかなと思っています。ただ、作品の作り方として『オーク英雄物語』の方がしっかりとプロットを作り、1話1話を執筆するというやり方を取っています。『無職転生』のアニメ化が始まって、どうしても忙しい中で執筆をする必要があるので、とにかく勢いで書かないように注意しています。勢いやモチベーションは、言ってしまえば執筆のための燃料で、日々すり減っていくものだと思ってます。もし勢いだけで書き始めてしまって、ロクに時間も取れない状況に陥ってしまうと燃料不足、すなわちモチベーション低下の原因になると思うんです。そうならないための実験的な執筆を本作では行っています。これはモチベーションが低いというわけではなく、どれだけ自分の中で燃料がなくても書けるのか。勢いなしに書くにはどうすればいいのかを考えながら執筆しているわけですね。間違いなく『無職転生』以上に考えながら書いていますよ。

 

 

――執筆方法の変化で何か掴んだものはありましたか。

 

あらためて感じたこととして、長い物語や大きい物語を書こうと思った時は、間違いなく一気に書いてしまった方がいいなってことでしょうか。人間のメモリー容量には限界があるので、ひとつのことに集中した方が、より深いものを作れるのかなと感じてます。もちろん本作は技術的な面を含めて、新たなやり方でちゃんと作品になっているとは思うんですけども(笑)。

 

 

――それでは続いて、本作に登場する注目してほしいキャラクターについて教えてください。

 

まずオーク英雄(ヒーロー)であるバッシュですが、真面目なオークです。「同人で描かれるようなパブリックイメージからの脱却を目指すオーク」というテーマを持ったキャラクターです。バッシュは童貞ではあるんですけど、性格は喧嘩も女も大好きなパブリックイメージを踏襲しております。一方で、パブリックイメージとは関係のない部分では、とんでもなく真面目な性格をしています。目の前の課題に苦しくても真っ向から取り組み、継続できるタイプのオーク、それがバッシュです。これはオークに限らず、苦しいことを継続できる人ってそんなにいないと思っていて、人はどこかで手を抜いたり、楽をしようと考えちゃう。でもバッシュはそれがない。サボったことがある人はそういう自分の弱さに直面しているわけですし、理由をつけて正当化しながら生きている。だからこそ、サボってない人を見た時に「あいつすげーよ」って感じると思うんです。逃げないやつは本当に格好良いですよね。バッシュはそういう主人公です。

 

バッシュ

※オークの種族の中ではまさにヒーロー的な存在

 

フェアリーのゼルは、例えるならバッシュの外付けCPUですね(笑)。オークという種族柄、バッシュは頭が悪いので、自分で何かを思いついたり、新しい発想を持って動くということはできません。そこでゼルという外付けのCPUを装着することにより、物事が変な方向に進んでくれるわけです。そういった理由もあって、ゼルは本当に書きやすいキャラになりました。フェアリーという種族柄、何をやらせてもいいし何を言わせてもいい。嘘をついても頓珍漢なことを言っても、1秒前に言っていたことと真逆のことを言わせてもいいんです。作品そのものの書きやすさに貢献しているキャラクターでもありますね。

 

ゼル

※戦時下、バッシュと共に様々な死線を潜り抜けてきた相棒

 

ヒューマンのジュディスは1巻を書くにあたって、オークと女騎士という様式美を前提に考えたヒロインになります。そういった背景もあり、ヒロインとしての魅力は他のヒロインよりも少しだけ落ちちゃったのかなという反省点もあるキャラクターですね。様式美通り、オークに対して居丈高、でも実力は全然なくてあっさりと窮地に陥ります(笑)。なので、彼女の言動と対をなす存在として、豚殺しのヒューストンというヒューマンの英雄を登場させています。ジュディスがオークを小馬鹿にした態度を取る時、誰がどんな反応をしたら面白いかなと考えた結果生まれたキャラクターですね。ヒューストンはジュディスと違って、バッシュの凄さを理解しているので、そのギャップが注目のポイントかなと。『オーク英雄物語』には毎巻ヒロインが登場しますが、セットでバッシュの凄さがわかるキャラも登場しています。バッシュの凄さを理解しているキャラたちが、「あのオーク英雄!?」と驚く様子を楽しむ作品なんですよ。ひょっとしたらそっちが本当のヒロインなのかもしれないですね(笑)。

 

ジュディス

 

オーク英雄物語

※様式美通り、バッシュに向かって強気に食って掛かる女騎士(そして現場に遭遇する上司)

 

エルフのサンダーソニアは、ジュディスとヒューストンをあわせたようなキャラクターです。驚き役でありながらもヒロイン役。彼女はすべてのエルフにとって、世話焼きでお節介で口うるさい近所のおばちゃんです。みんな自分の甥っ子や姪っ子みたいに見てるんで、口うるさく言っちゃうんだけど、親しみも含めて小馬鹿にされちゃうこともある。時には酷い言われようだったりしますが、気安さもあるし、みんなから愛されているのはわかってもらえるんじゃないでしょうか。根本的に僕がこういうキャラクターを好きなのもあって、好きだからこそ魅力を余すことなく書けているんじゃないかなと思ってます。だから読者人気も高いのかなって感じてますね。

 

サンダーソニア

※エルフの大魔導で実力は折り紙付きだが、結婚してくれる相手が見つからない

 

あとは6巻で登場したデーモンのお姫様であるアスモナディアでしょうか。彼女は序盤でドラゴンに特攻して負けるところから始まっており、なんか頭のいいフリをしていますが、基本的にはポンコツです(笑)。ちなみにアスモナディアというキャラクターについては、当初6巻で登場させるつもりはありませんでした。イラストレーターの朝凪さんが「次はデーモンですよね。早く出してください」って言うもので、これは出さなきゃダメかって背景あっての登場です(笑)。彼女の登場は物語構成の変化にも影響しているんですよ。いつも序盤でヒロインが登場し、終盤でプロポーズをさせる流れではあるのですが、6巻に関しては「実はそっちのヒロインではなくて」という構成になっています。なので、アスモナディアがちゃんとヒロインとして活躍するエピソードはもう少し先になりますが、用意はしているので楽しみにしてもらいたいです。バッシュに至っては、まだアスモナディアの顔すら知りませんからね。いずれ、凄い美人のデーモンから告白されることになるんでしょうけど、その時に「今まで会ったことがある女がたくさんいる。が、一番前にいるやつだけわからん」みたいなことになるでしょう、たぶん(笑)。

 

アスモナディア

※自らをバッシュの嫁だと流布しながら各地を巡ることになるアスモナディア

 

 

――ありがとうございます。せっかくなので、主人公のバッシュについてもう少し掘り下げてお話をおうかがいできればと思います。まず、バッシュの強さはかなり際立っていると思うのですが、この世界ではどのくらいのレベルにあるのでしょうか。

 

一番です(笑)。ドラゴンに一人で勝てるやつは他にいません。裏を返せば、オークという種族のほとんどが、それくらい強くなれる資質を持っているということなんです。でもみんなそこまで努力ができないので、普通に強い程度に収まってしまっているわけですね。僕自身、オークという種族を真面目に考えてみた時、シンプルに至った結論が「成り立たない」だったんです。戦闘の途中に女を連れ帰ってしまうような種族は、普通に考えたら強くないし、むしろ滅んでいてもおかしくない。だからこそ、根本的な部分でオークという種族は相当に強いんだろうなっていう前提が出てくるわけです。その中でサボらず、戦闘に特化し続けたオークだから、むしろ一番強くないとおかしいっていうのが、僕の考え方ですね。

 

オーク英雄物語

※オークという種族の根本的な強さを究極に仕上げたのがオーク英雄のバッシュ

 

 

――なるほど。本作にはオークよりも序列の高い種族がたくさんいると思うのですが、バッシュと同等の努力ができる他種族のキャラクターが登場したとすると、バッシュ以上に強くなる可能性がありそうですね。

 

恐らくはそうなると思います。たとえばデーモン。彼らは頭がいいので、戦闘面でそんなに努力はしないですし、伸ばす方向性が頭の良さに偏っちゃう。いい例が七種族連合をまとめたゲディグズですね。ゲディグズは賢さ特化ですが、この世界の登場人物の中で総合値が一番高いキャラクターでもありました。先を見通す目と力を持ち、様々な種族に対する知見も豊富でした。ゆえに連合のトップとして君臨し続けることができていたわけです。

 

 

――オークの種族の解釈は大変面白いなと感じました。作中に登場する他の種族についてもお聞きしたいです。

 

作品のテーマがパブリックイメージからの脱却を目指すオークではあるので、他の種族もパブリックイメージ通りに書かなきゃいけないなという思いはありましたね。たとえばエルフであれば森に棲んでいて、木と共に生きる生命体。排他的で、他の種族を差別するし、すごく攻撃的……みたいな感じです。さらにエルフに限らずすべての種族に「1万年以上もの間、戦争を続けてきた」という背景をスパイスとして加えています。作中でエルフが「ペッ」って唾を吐くのも、その1万年の中で培われたものであり、どこかの種族の真似をしたのかもしれないわけです。2巻で描いたエルフが結婚する時に白い花を付けるというお話も、ヒューマンが指輪を付ける文化からきているものかも、みたいな感じで。どの種族もパブリックイメージを持っており、長く続いた戦争がようやく終わったことで、各種族の文化的な面が少しずつ浮き彫りになってきている感じでもあります。

 

 

――各種族感を考えていく上で、一番頭を悩ませた種族はなんだったのでしょうか。

 

一番考えたのはサキュバスでした。『オーク英雄物語』は全年齢対象の小説なので、パブリックイメージに寄せすぎると成人向けになってしまうなと(笑)。僕の考えるサキュバスのパブリックイメージは、性行為をして生き永らえていく生物なわけですけど、そのまま書いたらただのエッチな種族になってしまいますからね。本作のサキュバスは性行為を食事としていますが、自分たちと同じ見た目の相手を食料として見るのは、すごい失礼っていう文化も育っています。頭の良い種族なので、その行為自体が嫌悪されることに気付いているわけです。世界観としてそこは禁忌としつつも、食べ物として見ちゃう葛藤を感じていたり、個人的にはバランスの取れた面白い種族になったんじゃないかなって思います。

 

オーク英雄物語

※種族を考える上でサキュバスを一番考えたという

 

 

――本作のサキュバスは敗戦国でもあるがゆえに、非常に厳しい状況に追い込まれていて、そもそものパブリックイメージを強く想起できない状況に陥っているじゃないですか。見せ方としても非常に印象的ですよね。

 

これはサキュバスに限らず、敗戦国はどこも追い込まれてます。特にサキュバスは、女性からめちゃくちゃ嫌われるはずですからね。特にエルフとは戦争でもバチバチにやり合って男性をかなり減らしたので、仲もめちゃくちゃ悪い。そもそも論として七種族連合と戦ったヒューマン、エルフ、ドワーフ、ビーストの四種族同盟の根底には、「お前らは本当に滅んだ方がいい」っていうくらいの憎しみがちゃんとある。オークもヒューマンからめちゃくちゃ恨まれているし、デーモンも滅ぼすつもりであそこまでやられているわけなので。種族問わず、敗戦国はずっと厳しい状況ですね。

 

 

――種族というお話でいうと、リザードマンとハーピィからは嫁候補が登場していないですよね。

 

そうですね。でもこれから出せるかどうかはわかりません。割と現状で出揃った感もありますし、これ以上増えると構成的にキツいかなというのもあります。あとは……バッシュにも一応好みがあるので(笑)。好みじゃないヒロインをわざわざ出すのも、バッシュが可哀想だなっていう気持ちもあります。そもそもハーレムを形成したいわけではないですし。

 

 

――一人の嫁を探すための旅ですもんね(笑)。

 

本当にその通りで、童貞さえ捨てられれば、なんなら嫁でなくてもいいとさえ思ってますからね(笑)。

 

オーク英雄物語

※バッシュが童貞を捨てられる日はやってくるのか……

 

 

――バッシュについて、最後にもうひとつだけ。そんな未来はやってこないと信じてはいますが、オークは童貞のまま30歳を迎えるとオークメイジになってしまうわけじゃないですか。仮にバッシュが魔法戦士になってしまったら、どうなるのかというお話も興味があります(笑)。

 

魔法も技術なので、習得後に練習をしないとバッシュといえどすぐには使えないでしょう。戦闘力もいきなり大きく変化はしないと思います。それでも適切な魔法の先生がバッシュに付いて、レクチャーを受けていけば、圧倒的な魔法戦士であるオークメイジが誕生してしまう可能性はありますね(笑)。とはいえですよ。そもそもオークにとって魔法戦士はめちゃくちゃ不名誉なんですよ。逆に魔法戦士になってしまった瞬間、バッシュのモチベーションが急激に落ち込んで弱体化すると思います。バッシュを倒すとしたらそこしかないんじゃないですか(笑)。

 

 

――続いて作中でのお気に入りのキャラクターを教えてください。

 

5巻に登場するサキュバスのヴィナスですね。特にキャラクターデザインが気に入っています。このキャラクターだけ、民族衣装と軍服を着ている2パターンのデザインがあるんですけど、軍服の胸元を見ると、素肌の上に軍服を着ているんですよ(笑)。もう朝凪さん天才だなと思って。本当にフェチというものをわかっていらっしゃる。

 

ヴィナス

 

オーク英雄物語

※サキュバスの国でバッシュたちの案内役を務めるヴィナス

 

 

――朝凪先生のお名前も出ましたので、イラストについてもお聞きしていきたいと思います。まずはお気に入りのイラストを何点か挙げていただいてもよいでしょうか。

 

1巻のジュディスがバッシュの妄想の中で孕まされてしまうという1枚ですね。朝凪さんらしいエッチな1枚でありながら、左下のバッシュがすごく良い表情をしています。あとは2巻のバッシュが花を持って、一人のエルフにプロポーズをしている1枚でしょうか。こちらはエルフの表情がめちゃくちゃ調子こいてて好きです(笑)。6巻の表紙もすごくよくできているなって思います。ヒロインを抱きかかえてドラゴンと戦うオークの絵なんですけど、戦っているのもヒロインっていう(笑)。叙述トリックのようなことを絵でもできるのが、WEBではできない商業ならではの面白さだと思いますね。

 

オーク英雄物語

 

オーク英雄物語

 

オーク英雄物語

※様々な視点からピックアップされた理不尽な孫の手先生のお気に入りイラスト

 

 

――理不尽な孫の手先生が絶賛されている朝凪先生のイラストの魅力はどんなところだと感じていますか。

 

やっぱり太ももが太いことですかね(笑)。基本的に朝凪さんのイラストの強みは、女の子をすごくエッチに描けることだと思うんです。加えて、きちんと描き分けができて、みんな可愛い。ヴィナスのデザインのお話もそうですけど、「これでしょ?」っていう癖のツボを押さえてくるところも強みなのかなって思いますし、その根っこには朝凪さんの理解度の高さがあるんだと思います。著者が思い描いていることへのディレクション能力がとにかく高いんだろうなと。ひょっとしたら朝凪さんの負担が大きくなっている部分なのかもしれませんけど、理解度が高い方へは、ある程度自由にお任せすることが一番なのかなって思います。

 

オーク英雄物語

※朝凪先生のイラストの大きな魅力は太ももが担っている!?

 

 

――ありがとうございます。それではあらためて、著者の視点から本作の見どころについて教えていただけますでしょうか。

 

注目していただきたい点としては、バッシュの成長と、バッシュが現れた時にバッシュを知っているキャラクターたちがビビる姿ですね(笑)。読者のみなさんには、ぜひ自分がオークの若者になった気分で本作を楽しんでもらいたいです。自分達の英雄が活躍する姿を、子供のようにワクワクしながらね!

 

 

――そして第7巻も発売となりました。最新刊の注目ポイントを教えてください。

 

7巻ではバッシュがめちゃくちゃスマートに女の子をナンパしている姿を見ることができます(笑)。書籍7冊目の冒険にして、ようやくここまできたかっていう気持ちを念頭に置いて楽しんでほしいです。世界情勢的な部分としては、書かなきゃいけないから書いていますが、ぶっちゃけバッシュの物語とあんまり関係がなかったりもします(笑)。ただ、いずれバッシュにもかかわってくる話でもあるので、ちょっと覚えておいてねって感じでしょうか。世界の成り行きも楽しんでもらえればとは思いますが、オークの若者にはちょっと難しい話だと思うので、話半分くらいで読んでもらえたら幸いです。

 

オーク英雄物語

※華麗なるナンパ師(?)となったバッシュの姿を追いかけてもらいたい

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

作家として『オーク英雄物語』をしっかりと書き切りたいです。現状そういった予定はないですけど、仮に書籍が打ち切りになったとしても、WEBでは完結させたいと思います。『無職転生』のアニメもやっていますので、こちらも最後まで責任を持ってかかわり続けていきたいなと思います。逆に言うと、この2つが終わったら商業作家としてやりたいことは概ね全部やったのかなと思っているんです。そうしたら一旦廃業して、一人のアマチュア作家に戻り、またWEBで書いていけたらなと思っています。別に商業が嫌だとかそういうわけではないんですけど、何をするにしても時間がかかってしまうと言いますか……。そのスピード感が、自分の燃料やモチベーション、勢いの減退に繋がっている部分もあるので、一度それらを取り払い、もう一度一人で全力疾走したいなという気持ちがあります。野望というか、老後の夢?みたいな(笑)。

 

 

――なるほど。とはいえアマチュアに戻ったとしても、WEBで連載を開始すれば十中八九……それどころか100%書籍化のお声がかかると思うんですけど、その場合はどうするんですか(笑)。

 

うーん、仮に書籍化するとなると、また1巻相当部分の見直しから入り、修正を入れて、仕事としてSSを書いたりもして、ってなるじゃないですか。そうなるとWEBの最新ストーリーの執筆のスピードが落ちてしまうので、1回全部終わらせてから見直していく形の方が、モノとしての出来がよくなるのかなと感じます。完成した後にやってもいいかなと思えばやるとは思いますが。あとは年齢的なものですね。ひとつのことを集中して実践するって、結構エネルギーを使うと思うんです。まだまだ先ではありますけど、60歳や70歳を超えて、1年とか2年、ひとつのことをすごく集中してやり遂げられるかというと、ちょっと自信がない。集中力は年々落ちていくものだと思っているので、保てるうちにやりたいなって思っちゃいます。それこそ10年前の自分と今を比較しても、集中力は落ちてると感じるんですよ。変な言い回しですけど、集中してなくてもやれてしまう、少しなあなあになっている部分が出てきている。なので、もう1回くらい、失われたあの頃の何かを取り戻しにいきたいですね(笑)。

 

 

――ちなみに現時点でこんな物語を書きたいという構想はあるんですか。

 

既に公言はしていますが、今考えているのは『無職転生』の世界の80年後のお話ですね。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんに向けてメッセージをお願いします。

 

いつも応援ありがとうございます。これからも完結まで頑張っていきたいと思いますので何卒よろしくお願いいたします。バッシュさんの活躍を楽しみにしていてください。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

嫁を探すため、そして童貞を捨てるため、真の漢であるオーク英雄の物語を綴る理不尽な孫の手先生にお話をうかがいました。英雄が魔法戦士になるわけにはいかない……その思いで各地を旅し、出会うヒロインたちとの今後の展開が気になる本作。そしてようやく訪れた平和な世界で暗躍する者たちとの邂逅など、オーク英雄バッシュの物語から目が離せない『オーク英雄物語 忖度列伝』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©理不尽な孫の手/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:朝凪

kiji

[関連サイト]

『オーク英雄物語 忖度列伝』特設サイト

ファンタジア文庫公式サイト

 

※このページにはアフィリエイトリンクが使用されています
オーク英雄物語7 忖度列伝 (ファンタジア文庫)
オーク英雄物語 忖度列伝 (ファンタジア文庫)

ランキング

ラノベユーザーレビュー

お知らせ