【このライトノベルが売れて欲しい!】第23回『ボイス坂』1人の少女が刻む、意地と夢のサクセス・ストーリー。
「――だから今日ダメだったら、全部あきらめるつもりで来ました」
ということで始まりました。続きが読みたい!メディアミックス展開して欲しい!単純に沢山の人に手に取ってもらいたい!という願望を織りまぜてオススメラノベを紹介する『このライトノベルが売れて欲しい!』第23回でございます。
今回ご紹介するのは高遠るい先生の
『ボイス坂』!!
ボイス坂 〜あたし、たぶん声優向いてない〜 (集英社スーパーダッシュ文庫)
著:高遠るい
イラスト:高遠るい
~あらすじ~
内の女子高に通う藤林沙絵は、熱烈なアニメ・声優ファン。
「見て・語る」だけのつつましいオタクだった沙絵は、親友・千歌子にノセられて、コスプレやネットへの動画投稿に手を染める。
目覚めた承認欲求はやがて、憧れの対象だった「声優」という夢へ彼女を誘うのだった。踏みこんだ未知の世界で、沙絵が見たものは一体何か!?
新たな出会い、挫折、引きこもり、オーディション、爆弾テロ、ツキノワグマ…。
予測不能な難関の数々が、夢見る乙女を叩きのめす!目覚めよ、眠れる力!這い登れ、夢の坂道!
これは、世にも打たれ弱い残念少女・藤林沙絵と、声優をめざす仲間たちの、友情と、努力と、勝利の保証なき青春の記録である―。
●『声優』を目指す少女、その決意の先にあるものは?
――声優。
それは今やアイドルと同等なほど脚光を浴びる職種。アニメや映画の吹き替えのみならず、様々なイベントに登場し、歌手活動、果てはコンサートなどを行う声優も多くいるほどだ。
そんな華やかに見える声優という職種を夢見る少年少女も沢山いることだろう。
本作、『ボイス坂』の主人公、藤林紗江も声優を夢見るオタクな女子高生だ!!
アイドル声優ユニット『COSMIQUE(コズミーク)』のライブを見に行った紗江。
キラキラと煌く彼女達を見て、自らの『あちら側』に立ちたいと強く願うようになる。
――自分なら、きっと声優になれる。
元々、紗江は親友の千歌子と共に、動画サイト(ニコニコ動画的なもの)に『歌ってみた』動画をアップしていた。整った容姿も相まって、コスプレをしてアニソンを歌った動画は多くの人間に再生され、賛美のコメントがつけられる。元来、他人に認めてもらいたい思いが強い紗江の中に、チヤホヤされることの異常な高揚感と、自分は特別であるという思いが芽生え始めていく。
コアなアニメオタクな2人の紗江(左)と千歌子(右)。
紗江は親友の薦めで、『歌ってみた』動画を作っていくことになる。
自分ならきっと声優になり、彼女たちのように誰からも認められる存在になれるはずだ、という考えは実にリアリティがあり、また痛々しい!!
思春期にこういった思いを抱いた人は多いのではないだろうか? 目指すものは違えど、誰もが抱く将来への希望、自分自身の自己承認欲求、それは自分の中の『痛い部分』を的確に貫いていく!! 「うわぁぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!」と心の中で叫んでしまうこと必死だろう。
そして、高校3年生であった紗江は、親との喧嘩の末、声優を目指すために『専門学校』の扉を叩く。声優という夢を叶えるため、ボイス坂を登り始める――
そこから始まるサクセス・ストーリー。
ライバル達との出会い、切磋琢磨し技術を磨いていく彼女たち。
声優という仕事の難しさに悩む紗江の元に、彼女を支えてくれる恋人ができて――
――なんて、そんなわけがない
現実とは、常に厳しいものなのである。
●挫折、逃避、そしてその先にある大切な思い――
本作、ボイス坂は主人公のメンタルのみならず、我々読者の内側までも掻き乱していく!!
『声優専門学校』に意気揚々と通い始めた紗江は、『現実』と直面していく。
天才的な演技力を持つ同期生との出会い。他にも、高校時代から切磋琢磨し、地道に研鑽を行なってきた彼ら彼女らの演技を見て、紗江のプライドはズタズタに引き裂かれていく。
自分に言い訳をし、他者を馬鹿にすることでしか自分のプライドを保てない紗江。その姿は、きっと誰もが一度は経験したことがある姿だろう――
――そして転落が始まる。
声優学校から逃げ出し、夢から弾きだされた彼女は、ただひたすら転落していく。
自堕落な日々、無為にした時間、夢を追っていた過去の自分への罪悪感。友人は華々しく大学デビューを決め、取り残されていく自分。
「来年こそ本気だす」そう言って自堕落な日々が始まる――
どうしてこうなったのだろう。こんなはずではなかった。もっと上手くやれたはずだったのに。なんでこんな無謀な夢を追いかけたんだ――
心を引き裂くような生々しい心理描写は圧巻の一言。「や、やめてくれ…」と懇願すること必死!! 読者の古傷を容赦なく抉ってくる。作者の体験談を元にしているというから、作者も相当傷つきながら本作を書いていることだろう。
夢を抱き、夢を目指し、それに押しつぶされようとしていた紗江。
それでも紗江の中に残っていた本当に純粋な思いが描かれる様は、ぜひ本書を読んで確認してみてもらいたい。
決して挫折だけを描く重い物語ではなく、エンターテイメントとして素晴らしいものになっているぞ!!
打たれ弱い少女を支えてくれる友人、家族、そして何よりも『夢を追うこと』の辛さと素晴らしさを描く本作。
ファンタジー的な部分もあるが、それ以上に紗江の思いに心動かされるはずだ!!
特に何かに負けてしまった人、負けようとしている人、夢敗れようとしている人、そういう人たちに読んでもらいたい1冊だ!!
台詞から心理描写まで、心を貫く真に迫った文章が多く、何度もはっとさせられた。
ぜひ、多くの人に読んでもらいたい!!
ということで、第23回【このライトノベルが売れて欲しい!】は以上になります。
本作『ボイス坂』は漫画家である高遠るい先生が、イラストと文章を担当した作品ですが、文章自体も非常に巧みで素晴らしい作品でした。
漫画版も『スーパーダッシュ&ゴ-』本誌に掲載されており、メディアミックス前提とした作品となっていますが、ライトノベル版でもしっかりと締まった物語なのでご安心を。
また、作者のあとがきを読む限り、このラノベ版も継続して出す可能性がある模様。
ぜひ、漫画版と同時にラノベ版も読みたい!!
ということで、ぜひ皆様、お手にとってみたはいかがでしょうか?
それではまた、私情入り混じるカオスな記事でお会いしましょう!!
【記事:ゆきとも】
(C)集英社 高遠るい