独占インタビュー「ラノベの素」 久慈マサムネ先生『エクスタス・オンライン』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2016年12月28日にスニーカー文庫より『エクスタス・オンライン』第2巻が発売となる久慈マサムネ先生です。TVアニメ化が行われた『魔装学園H×H』のインタビュー以来、2回目のご登場です。『魔装学園H×H』のアニメを終えた感想にも触れつつ、好調なスタートを切った新シリーズについて、テーマや見どころはもちろん、第2巻の展開などについてもお聞きしました。

エクスタス・オンライン2

【あらすじ】

最強魔王の力――重課金アダルト魔法でクラスメートを撃退した堂巡(どうめぐり)。でも、憧れの朝霧(あさぎり)さんは打倒魔王に燃えて、反対にツンドラ美少女の雫石(しずくいし)は魔王信者になってしまった!? 堂巡がクラスメートとのややこしい関係に悩む中、奴隷の哀川(あいかわ)さんから嬉しいニュースが。なんと修正プログラム“Santa-X(サンタ-クロス)”が適用され、クリスマスになれば全員が助かるというのだ!! しかし同時に「魔王殺しの剣(ホーリーグレイヴ)」の入手クエストが2Aギルドに発生して――!?

――ご無沙汰しております。『魔装学園H×H』のアニメもお疲れ様でした。

ありがとうございます。忙しくて今年は旅行に行けないなと思っていたんですが、『魔装学園H×H』のサイン会で台湾に、それとプライベートで香港に行くことができました。香港では半分ホテルに缶詰めでしたが(笑)。

――台湾のサイン会は凄い熱狂ぶりだったと聞きました。

僕も噂には聞いていたんですけど、熱狂ぶりが本当に凄くてびっくりしました。まるで自分が芸能人にでもなったんじゃないかって気分でしたね。会場も200人から300人くらいお客さんがいらっしゃってるような場所でやらせていただいたんですけど、まさか壇上に上がるなんて思ってもいなくて(笑)。控室でもインタビューをするというお話があったんですけど、連れていかれた場所はVIPルームのような部屋で、記者会見のような形式でインタビューを受けるという貴重な経験もあり、驚きづくめでした。ファンの方からは作品やキャラクターのことであったり、僕のことであったり、凄く好きだとストレートに言っていただけて、本当に嬉しく楽しいイベントに出させていただきました。台湾には良い思い出しかないです。

――あらためて、『魔装学園H×H』のアニメを終えていかがですか。

スタッフのみなさんお疲れ様でした。そしてファンのみなさんも本当にありがとうございました、という気持ちですね。たくさんのアニメ作品がある中、『魔装学園H×H』はウリがエロスな部分にもあって、なかなかストレートに好きだとか、面白いだとか言いづらい作品だったとも思うんです。なので、放送中あんまり視聴してもらえないんじゃないかと心配だったんですけど、意外と見ていただけていたようで、結果的に成功といえる結果にも結びつけることができました。非常に良かったなぁと。

――声優さんの演技も素晴らしかったですよね。

声優さんにも本当に感謝していて、アフレコ現場にも何度か見学に行かせていただきました。先も言った通りウリにはエロスな部分もあったので、声優さんたちも及び腰かなと思っていたんですけど、全然そんなこともなくて。楽しい収録をされていて、見ている自分も楽しかったですね。アフレコ現場に行きながら、半分くらいは編集さんと小説の打ち合わせをしていましたが(笑)。そこで『エクスタス・オンライン』のプロットもだいぶ詰めていたので、アフレコ現場に通っていたからこそ刊行に至れた面もあるかもしれません。ただ、アニメを実際にどう作っているのかであったり、実際に脚本のお仕事もさせていただいて、本当に良い経験ができたなと思ってます。特に脚本のお仕事は、小説とは必要になる素養が違うなと感じる部分もあって、とてもプラスになりました。

――それでは久慈マサムネ先生の新シリーズ『エクスタス・オンライン』の物語についてまずはお聞かせください。

『エクスタス・オンライン』はゲームの中に主人公が意図せず閉じ込められてしまう物語なんですが、若干毛色が異なっていまして、主人公が魔王役でログインしてしまうことがひとつめの特徴です。ゲームの中には主人公が在籍する学校のクラスメイトもログインしていて、クラスメイトたちは魔王を倒せば現実世界に帰れると思っています。ただ、その情報もすべてが正しいというわけではなく、魔王となった主人公が倒されることで、全員が死んでしまうという側面もあるんです。そしてこの作品のもうひとつの特徴が、魔王ヘルシャフトとして魔王軍と関係を持つだけではなく、クラスにおけるスクールカースト最底辺としての堂巡駆流の立ち位置も存在しているわけです。いくつもの顔を使い分けながら、バランスを考えて目的を達成しなくてはいけない。それがこの作品の面白さに繋がっていると思います。クラスメイトは死んでも復活できますが、堂巡や哀川さんは敵役であるがゆえに、死んだら復活することもできない。仲間にバレればクラスメイトを道連れにする形で死ぬことになり、魔王としての威厳を損なえば魔王軍によって殺されてしまう。どちらにも明かせないデスゲームとして、息つく間もない孤独な戦いを描いている点は、『魔装学園H×H』とはだいぶ違う点だと思います。ただ、こういうとすごく重い話のようですが、実際の読み口としては深刻さやシリアスさはほとんどないと思います。賑やかなキャラクターたちによる凄く楽しいストーリーだと思うので、構えず読んでみて下さい!

――第1巻のあとがきで『魔装学園H×H』とは違った物語を書きたかったと仰られていましたが、本作はどんなテーマを持っているのでしょう。

『魔装学園H×H』は個人的な悩みや問題を個々のキャラクターたちが抱えていて、乗り越えていくお話ですよね。第1巻で書いた「人間の価値は能力の高い低いではなく、どう生きるかにある」が『魔装学園H×H』のテーマだと自分は思っています。一方で『エクスタス・オンライン』は、人間関係がテーマになっていると思います。人と人との関係性がすごく重要になっていて、複雑な造りになっているんです。この点を違うテイストとして、『魔装学園H×H』よりもさらに多くの読者に読まれるギミックになればと思っていました。

――人間関係がテーマというだけあって、登場人物も多いですよね。本作で注目のキャラクターは誰ですか。

やはり、主人公の堂巡駆流&魔王ヘルシャフトにすごく思い入れと愛着がありますね。当たり前ではあるんですが、主人公が一番の肝と言いますか、彼のキャラクターがどうなるかにすべてがかかっているくらいの気持ちでいるので。あとは魔王ヘルシャフトをどう表現するのかはだいぶ悩みました。挙句、出てきたのが魔王ポエムかよって感じですけど(笑)。

ヘルシャフト

※魔王ヘルシャフト(堂巡駆流と同一人物)の熱いポエムも見どころのひとつ

――ページを捲ると見つけやすいあの魔王ポエムはどうやって考えてるんですか?(笑)

……あれはですね、なるべく痛い人になりきって、部屋の中でポーズをとりながらやってます(笑)。今までフォントをいじることもやったことがなかったんですけど、少しお願いをしてやらせていただきました。どれだけ自分のナルシシズムを引き出すことができるのか、まだ見ぬ自分との孤独な戦いですね(笑)。

――魔王軍の中で堂巡が唯一の顔見知りでもある哀川愁子も重要なキャラクターですよね。

そうですね。現実世界では社畜で苦労人。堂巡にとってはバイト先の上司でもあります。ただ、魔王軍の中では堂巡と情報の共有ができる唯一の人で、感情表現が豊かなこともあって、非常に面白いキャラクターになったなと(笑)。魔王が土下座する勢いで従わなければならない相手である一方、対外的には哀川さんは奴隷なので、奴隷として魔王から命令される立場でもある二重の関係性があり、そのギャップも楽しいところですよね。

哀川

※主人公の上司であり奴隷でもある哀川愁子

あとは雫石乃音が個人的には好きになりましたね。第1巻に魔王にいたぶられてしまって、本人的には相当ショックだったわけですが、部屋に閉じこもっている間に心境も変化して、気付けば魔王ヘルシャフトに憧憬さえ抱いている。彼女もいろいろと悩みを抱えているのですが、それを突破できずにいるんです。だからこそ、魔王ヘルシャフトに感じ入るところがあって、憧憬だけではなく崇拝にも近い感情を持つようになったんだと思います。

雫石

※魔王ヘルシャフトを憧憬するようになる雫石乃音

――でも雫石は堂巡のことを心良く思っていないですよね。なのに同一人物であるヘルシャフトには心酔しているわけで、複雑な関係性です(笑)。

仰る通りで(笑)。雫石は、ある意味朝霧さん以上に面倒な性格かもしれないです。堂巡は朝霧さんのことをすごく見ていますが、堂巡により強い影響を与えているのは朝霧さんよりも雫石なのかもしれません。

――注目のキャラクターを含めて第2巻では現在登場しているクラスメイト、そして魔王軍のヘルゼクターなど各キャラクターにスポットがあてられていますよね。

テーマでお話した人間の関係性については踏み込んで描きたかったんです。スクールカースト底辺の主人公が、ぼっち状態なんだけどクラスメイトたちを守らなくちゃいけないわけで。そこからどんな方法や想いが生まれるんだろうと考えると、どうしても触れておきたかった。堂巡はもともと他人とのコミュニケーションにほとんど価値を見出していなくて、コストに対してリターンが圧倒的に少ないと思っている。だけどクラスメイトたちと関わりを持ってしまったことで起こる気持ちの変化もあるわけです。第1巻から引き続きではありますが、雫石に付け狙われたり、意外なところではクラスを引っ張るリーダー的存在だった一之宮との思わぬ関係性が生まれたり、見どころは非常に多いと思っています。作品のリアリティラインが高めなので、2巻ではよりリアルな人間関係を丁寧に書いているつもりです。

――クラスメイト側での人間関係はもちろんですが、第2巻では世界の広さも明るみになり、魔王軍サイドでの関係性にも大きく踏み込まれましたよね。

そうですね。クラスメイトはもともとの人間関係があって、現実の関係がそのままあるわけじゃないですか。でも魔王軍は人間ではなくAIで作られたキャラクターなので、リアリティラインが低いんです。言うなれば人間よりもキャラクターキャラクターしている存在なんですね。『エクスタス・オンライン』で面白いのは、ひとつの作品の中にリアリティラインが2つあることなんです。魔王軍サイドにも踏み込んだのは、ギャップがあるゆえにどちらも平等に書きたかったというのもあります。そうすることで堂巡がこの先、どちらを大事に思うようになるんだろうという隠れたテーマも見えてくる。正直、これは僕自身もまだわかっていないので、自分でも楽しみにしながら書いている面もあります(笑)。架空のキャラクターに想いを寄せていくのか、それとも現実を大切に思うのか、どっちなんだろう、と。そういった天秤を選択する展開が、ひょっとしたらこの先出てくるのかもしれないですね。

――本作では堂巡だけが半年遅れてログインした理由や、クラスメイトの残り24人の行方など、謎がひしめいています。教えてください!

さすがに詳細には語れませんが、堂巡がとてつもなくイレギュラーな存在であることは間違いありません。クラスメイトの残り24人も重要な役割を持って登場する予定ではあります。まだお話がそこまで進んでいないので、第2巻はもちろん、今後の続刊を楽しみにしてもらえればと思います。

――謎が謎を呼びますね……。第2巻を読むと更に感じるのですが、先の展開が大変読みづらい作品だと思っていまして、本当に気になることが多いんですよね。

そう思っていただけるのは嬉しいですね。意外な展開や先の読めない展開はすごくやりたい演出のひとつだと思っていて、第1巻からも積み上げてきています。例えば、哀川さんと外の世界との関係にしても、本当に哀川さんの言葉通りに受け取っていいのか……ということも考えられるかもしれません。哀川さんからは様々な外の情報が伝えられてくるわけですが、本当に外の現実世界がそういった意図を持っているのか、舞台となっているVRゲーム《エグゾディア・エクソダス》も開発中とはいえ、どこまで作られているのか……その真実は実はわからないんですね。説明ではサーバーの中で人とデータが混じったと言われているわけですが、これが本当に事故なのか、それとも誰かの意図なんじゃないのかとか。その辺りも、実は疑おうと思えば疑えるんです。哀川さんはあくまで自分が受け取った情報を堂巡に伝えているだけに過ぎないわけですから、もしかすると、このゲームの世界には、実質的に現状をきちんと理解している人間が本当はいないのかもしれない。そう考えると、けっこう怖い世界観ですよね(笑)。情報は拠り所になっているはずなんですけど、不確かであるがゆえの怖さがあって、意外と絶望的な環境ともいえます。……なんてちょっと脅かすようなことを言いましたが、読んだ方はお分かりの通り、ギャグもたくさんあるし、キャラクターも緩いので、読んでいて楽しい作品であるというのは大前提です。そもそもがスクールカースト最下層にいた人間が魔王になって、クラスメートと魔族の間を行ったり来たりしながら解決に奔走するというお話ですしね。ただ、意外な展開や先の読めない展開というのはこれからもどんどん追求していきたいと思っています!

――続いてはオーディドラマについてお聞きします。キャストも含めてお話を聞いた時はいかがでしたか。

驚いたのはもちろんですが、実際にどうなるんだろうという思いはありましたね。声優さんたちのイメージが、別の作品の他のキャラクターを演じているイメージが強くて。ただ、蓋を開けてみたらもう凄いなという感想しか出てこなかったです(笑)。魔王ヘルシャフトやフォルネウスは特に自分の中で想像できていなかったんですけど、見事に演じていただいて。

――オーディドラマはどんな内容なのでしょうか。

笑える内容になっていると思います。初めて『エクスタス・オンライン』に触れる方も対象としているので、若干説明的な内容も盛り込まれていますが、全体を通して楽しんで聴いてもらえると思います。この作品の重要な部分を知ってもらうために書いた脚本でもあるので、堂巡の立ち位置であったり、使命であったり、シリアスな内容というよりは笑える内容になりました(笑)。堂巡と朝霧さんの掛け合いも楽しいですよ。僕の脚本以上に、キャストのみなさんの力がほとんどすべてという感じです。主人公を演じる島﨑信長さんのノリノリの芝居も、哀川愁子を演じる高橋李依さんのキレっぷりも面白いです。あと、フォルネウスがしっかりとフォルネウスだなぁと(笑)。

エクスタス・オンライン 特製オーディオドラマ試聴版

※試聴版も公開中。第2巻購入者は試聴版の続きを含んだ完全版を視聴することができる。詳しくは原作小説第2巻のオビをチェック(※期間限定なのでご注意ください)!

――印象に残った演技やシーンなどがあれば教えてください。

みなさん凄く個性的で素晴らしい演技をしていただきました。朝霧さんもザ・ヒロインという仕上がりだったと思いますし、雫石の少しひねくれた感じも良く出ていて、一人一人が全部よくて面白かったです。それでも選べというなら、やっぱり島﨑信長さんの演技ですね。堂巡駆流と魔王ヘルシャフトのキャラクターの使い分けであったり、出番も自然と多くなって、トリッキーな役作りも含めてとても面白かったです。

――修正プログラム“Santa-X”の存在、「魔王殺しの剣」、それ以外にも怒涛の展開を迎える第2巻の注目ポイントを教えてください。

各キャラクターの様々な掘り下げの面はやはり見どころです。一人一人がどんな人間であるかだとか、そういった面を見てもらいたいですね。《エグゾディア・エクソダス》の世界の広がりに関しても、第1巻では描けていなかったことなので、こんなにも広い世界なんだよっていうのを読んでもらいたいです。

――第2巻での特に注目すべきキャラクターを教えてください。

僕的にはサタナキアかなと。次点は雫石か一之宮か……難しい。サタナキアは魔王軍側のヘルゼクターの一人で、今後の魔王軍のひとつの指針になる存在だと思います。ゲームのAIキャラクターではありますが、彼らにも過去があり、悩みがある。もちろんゲームとして造られた設定ではあるんですが、魔王ヘルシャフトとして接する堂巡が、もはや設定として受け取ることができなくなってきている点も、感じてほしいところですね。

サタナキア

※魔王軍ヘルゼクターの1人、サタナキア

――それではまだ『エクスタス・オンライン』を読んだことがない読者にPRをどうぞ。

VRゲームを扱う作品はたくさんあるんですが、『エクスタス・オンライン』はやや毛色が違い、他の作品にはないカタルシスをご提供できるのではないかと思っています。展開も一筋縄でいかない展開が待っています。ぜひ手に取って楽しんでいただければなと。あとは、前作『魔装学園H×H』を読んで、ちょっと苦手だなと思った読者の方にも勧めたいですね。エロス的なシーンはあるにはあるんですが、『魔装学園H×H』よりは、広い間口で楽しんでもらえる内容になっていると思うので、前作が肌に合わなかったという読者にもぜひ読んでいただきたいです。

――最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。

月並みの感謝の言葉しか出てこなくて恐縮ですが、『魔装学園H×H』から続けて読んでいただいている読者も多いと思うので、いつも応援していただいてありがとうございます、と。『エクスタス・オンライン』は、面白いギミックを多く詰め込んだ作品になっています。これからまだまだ楽しんでもらえる展開が続いていくので、引き続き応援していただけると嬉しいと思っています。

――本日はありがとうございました。

<了>

『魔装学園H×H』とは異なるテーマで新作を綴る久慈マサムネ先生にお答えいただきました。オーディオドラマの公開も行われ、発売となる第2巻では驚きの展開も待ち受けている本作。『エクスタス・オンライン』第2巻も必読です!

©久慈マサムネ/KADOKAWA 角川書店刊 イラスト:平つくね

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『エクスタス・オンライン』特設サイト

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