【このライトノベルが売れて欲しい!】第28回『サクラダリセット』儚く、傲慢で、優しい未来を目指す者たちの決意。
「春埼、リセットだ」
ということで始まりました。続きが読みたい!メディアミックス展開して欲しい!単純に沢山の人に手に取ってもらいたい!という願望を織りまぜてオススメラノベを紹介する『このライトノベルが売れて欲しい!』第28回でございます。
今回は『このライトノベルがすごい!2013』発売記念!
ということで、このラノ2013でトップ10入りした作品の中で、私が特にオススメな1冊(シリーズ)をご紹介したいと思いますよ!!
ということで、今回ご紹介するのは
『サクラダリセット』!!
著:河野裕
イラスト:椎名優
~あらすじ~
能力者が集う街、咲良田。記憶を保持する能力をもつ少年・浅井ケイと、「リセット」――世界を三日分、元に戻す能力を持つ少女・春埼美空は、「猫を生き返らせてほしい」という依頼を受けるのだが……。
●能力者が普通に生きる街、咲良田。そこで紡がれる儚くも優しい物語たち
本作『サクラダリセット』の舞台である『咲良田』という街には、能力を持った人々が普通に暮らしている。空間を超えて他者に声を届けることができる能力、猫の視点や考えがわかる能力――様々な能力を持った人間たちが、管理を受けながらごく普通に生活を送っていた。
そして、本作の主人公、浅井ケイもまた能力を持っていた。それは『記憶を保持する』能力という少し地味な異能。そして、彼と共にあるヒロイン、春埼美空は『リセット』と呼ばれる『世界を三日分、元に戻す』、強大な能力を持っていた。
『リセット』はあらゆる物事を三日前まで巻き戻す強力な能力だが、使用者である春埼の記憶は保持されない。そのため、単体では全く機能しない能力だ。しかし、ケイの持つ能力によって、リセットはとても大きな意味を持つ。リセット後に記憶を持ち越せるのはケイただ一人だったからだ。ケイと春埼の2人は、2人だからこそ『三日前』をやり直す力を持っていた。
そんな2人が『奉仕クラブ』と呼ばれる能力者のトラブルを解決していくクラブ活動を通じて、様々な能力者たちの想い、願い、希望に触れていくのが、本作『サクラダリセット』だ。
世界を三日分巻き戻すということは、その世界の三日分が死ぬことに等しい。
その罪深さを理解しながらも、ケイと春埼はリセットを使う。
本作は能力を一切戦いというものに使用しない。能力は『想い』の象徴であり、その人間の願いそのものだからだ。一貫して『人の想い』に焦点を当て続けた本作は、とても繊細に人と人の関り合いを描いていく。勿論、その中には、美しいばかりではない、傲慢さや欲望という面もしっかりと描かれていく。
また、本作は文章面でも非常に優れたライトノベルであり、著者である河野裕先生の文章が、優しさと儚さが同居した透明感のある情景をしっかりと伝えてくれる。また、イラストレーターの椎名優先生の淡く繊細なタッチで描かれるイラスト、挿絵の巧みな使い方などが相乗効果を起こし、作品としての完成度が非常に高い作品となっているぞ!
こういった挿絵の使い方も多い本作。
挿絵が演出として機能している稀有なライトノベルだ。
●人間味溢れる、優しく歪んだキャラクター達に注目!!
本作の魅力の1つは、キャラクター達の在り方だと言えるだろう。
主人公、ケイは一見して人間味のない、ロボットのように冷静な少年のように感じられるが、その実、自らと他者の幸せを傲慢なほどに願い、それを叶えるためにあらゆる手段を用いる。
メインヒロインである春埼も、物語序盤は感情の欠落した少女ではあるが、物語が進むにつれ、自らの欲求、愛情というものを強く持ち始め、非常に素晴らしいヒロインへと昇華していく。この2人の持つ歪み、人間的な成長、その胸に抱えた想いが本作の魅力の1つだろう。
そして、本作で絶対に触れておかなければいけないキャラクターがいる!!
それは本編より2年前に死亡している少女『相麻菫』という名の少女だ。
彼女はケイや春埼にとって、非常に大きな存在として、現在に影響を残し続けている。
彼女の決断、自己犠牲、愛、どれもが最高に素晴らしく、また切ないのだがネタバレになってしまうので多くは語れないのが残念だ。本作をすでに読んでいる読者の方々は首を大きく縦に振っていることだろう。
ケイ、春埼、相麻――三人が目指すもの、願うものが物語の主軸となっていく。
その他にも、能力を管理する組織の大人たち、主人公を取り巻く友人達など、誰一人として欠けてはならないと思えるキャラクターばかり。
本作は能力を巧みに組み合わせた非凡なストーリーと、信念を持った魅力的なキャラクターが登場する素晴らしいライトノベルと言えるだろう!
●優しく、傲慢で、儚い、美しく完成された物語に感動。
本作は2012年、全7巻で完結したライトノベルだ。
正直に言って、これほどまでに美しく、無駄なく完結したライトノベルは五指にも満たないだろう。シリーズモノのライトノベルの中で屈指の完成度を誇るシリーズとしてオススメだ! すべての伏線が美しく収束する最終巻は必見!
今回、『このライトノベルがすごい!2013』第9位という結果も、この完成度の高さと、シリーズ通しての物語の一貫性、その素晴らしさが評価された結果だろう。
本作の作風は、現在のライトノベルの主流とは言えない。物語としての激しさは少なく、描かれるのは人の想いや願いという内面的な部分が大きいからだ。
だが、だからこそ多くの人達に読んでもらいたいと、心から願っているシリーズでもある。
是非、この機会にシリーズ通して読んでみてはいかがだろうか?
ということで、第28回【このライトノベルが売れて欲しい!】は以上になります。
今年もまた『このライトノベルがすごい!』が発表になりましたが、皆さんはすでにご覧になっているでしょうか? 個人的な感想としては、東雲侑子とサクラダリセットが上位にあるからヨシ!! という感じでしょうか。
どちらもすでに完結してしまった作品なので、これが最後のエントリーとなるわけですし、これを機に沢山の人が読んでくれることを切に願っています。
そして、あわよくばアニメ化を……アニメ化を……っ
【記事:ゆきとも】
(C) 角川書店 河野裕/椎名優
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