【特集】ドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』放送直前記念 蝉川夏哉先生×品川ヒロシ監督スペシャル対談

2020年5月15日(金)よりWOWOWプライムにて放送開始となるドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』の放送を記念して、原作者である蝉川夏哉先生とドラマの監督・脚本を務める品川ヒロシ氏のスペシャル対談をお届けする。文庫版第6巻も4月7日(火)に宝島社文庫より発売されたばかりで、アニメに続いてドラマ化を果たす『異世界居酒屋「のぶ」』の見どころや魅力について語っていただいた。

 

 

異世界居酒屋「のぶ」対談01

 

 

『異世界居酒屋「のぶ」』は中世ヨーロッパのような異世界の古都・アイテ―リアに繋がってしまった居酒屋「のぶ」を舞台にしたグルメファンタジー。小説投稿サイト「小説家になろう」での投稿から始まり、2014年には書籍として刊行。翌2015年には「ヤングエース」にてコミカライズの連載がスタートしたほか、複数の関連コミックも始動する中、2018年のアニメ化でも大きな話題を呼んだ。そんな本作が、WEB発から人気を博している「異世界もの」として初のドラマ化を果たす。本作の監督は映画『ドロップ』などで監督を務め、我々にはお笑い芸人としても馴染み深い品川ヒロシ氏。原作者と監督お二人の貴重な対談をお届けする。

 

 

■ドラマ化の最初の印象はお互いに「無理、不可能」だった

 

――『異世界居酒屋「のぶ」』のドラマ化に関して、まずは率直な感想をお聞かせください。

 

品川ヒロシ(以下、品川):最初にお話をいただいた時、「これは不可能だ、無理だ」と一瞬考えたのをよく覚えています(笑)。

 

蝉川夏哉(以下、蝉川):私も最初にドラマ化の話を聞いた時、「これは無理だろう、不可能だろう」って思いました。

 

品川:やっぱそうですよね(笑)。

 

蝉川:もちろん、ありがたいやら嬉しいやら、信じられないやら、ポジティブな気持ちにもなりました。その一方、役者さんは日本の方がやられるだろうし、異世界を舞台にした物語でもありますから、小道具やセットもどうするんだろうって。本気でやりますというお話が、軌道に乗った状態で私のもとにやってきたわけですから、ただただ驚きでしたね(笑)。

 

品川:異世界を舞台に日本人が中世ヨーロッパの人たちのような恰好をして、居酒屋にやってくる。なおかつ日本語で語り合う図があるわけじゃないですか。小説や漫画では成立してるけど、ドラマでは成立させられるのかって考えましたよね。ハリウッド映画のようなセットで撮影に臨めるわけじゃないし、原作に忠実でありながら実写として魅力あるものにする。そして当然ですけど、安っぽいコントのようにはしない。そんな脚本をいったいどう書けばいいのかっていうのは、すごく悩みましたね。

 

蝉川:私も撮影現場の見学に行くまで、「やっぱりコントになるんじゃないの?」っていう先入観はずっとありました。でも撮影現場に入った瞬間、すべて氷解したんですよ。「本気」の空気が一瞬で伝わってきたし、セットも本当に素晴らしくて、驚いた気持ちとありがたい気持ちでいっぱいになりました。

 

品川:脚本を書くにあたっては、一度壮大に描いてから現実に落とし込んでいくことを意識しました。そして美術装飾のみなさんと話をして、セットや衣装をどの程度再現できるのか、みんなで突き詰めました。蝉川先生にも喜んでいただけたようで本当に嬉しいです。

 

蝉川:セットも小物も、すべてに使用感があるんですよ。異世界の景色や小物に使用感を出すってすごくないですか? この世界に本当に人が住んでいるんだって、暮らしている人達がいるんだって、それが如実にわかる街並みになっているんです。そこに居酒屋があれば、間違いなくいろんな人が足を運ぶだろうなっていう情景を自然に受け入れることができたんです。本当にすごいなって思いました。

 

品川:生活感を出すことにはすごくこだわりました。道ひとつ取っても馬車が走ってなくちゃいけないわけで(笑)。のぶの世界観全体を見ると、舞台が異世界なので「できないこと」が圧倒的に多いんです。だからこそ「できること」を徹底的にこだわらないと本当のリアリティがなくなってしまうし、それこそコントになっちゃう。逆に言えばテレビのコントにおけるセットのクオリティって昔から高いじゃないですか。「ダウンタウンのごっつええ感じ」もそうですよね。僕もテレビのコントを昔から見て育ってきたわけで、そこに何かをプラスすることを考えた結果、生活感だった。リアリティを出すなら、そこを突き詰めるしかないと。

 

 

――特に注目してほしいセットや小道具ってあったりするのでしょうか。

 

品川:セットや小道具も大事なんですけど、やっぱり見てもらいたいのは物語ですよね(笑)。セットや美術があって、はじめて物語へと入ってきやすくさせるものなので。

 

蝉川:すべてストーリーに繋がるものですからね。壁に掛かったプレートに【火元責任者・矢澤信之】って書かれていたりして「おっ」と思うところもありますけど、注目すべきはそこではなくて、役者さんの演技や表情、紡がれる物語、それを切り取られた品川監督の素晴らしい手腕を堪能していただければなと思います。

 

品川:小道具という扱いではないですけど、料理には注目してほしいです。料理のシズル感と温かさはもちろん、リアルにみんなが食べて美味しいものを目指しました。料理はかなりこだわって撮れたと思うので。

 

蝉川:品川監督が撮影の際に、同じシーンを何回も何回も撮っていて、これだけ真摯に撮ってくれているからこそあれだけいい映像が撮れるんだと思いました。

 

品川:ありがとうございます(笑)。

 

 

異世界居酒屋「のぶ」対談02

 

 

■ドラマ版にもしっかり残る原作の雰囲気を感じてもらいたい

 

――あらためて実写版ならではの魅力や、実写だからこそ苦労した点があれば教えてください。

 

品川:ロバート秋山が演じているんですけど、神様をどう表現しようかってすごく悩みました。「まるで○○のようだ」っていう表現は、漫画だと宇宙って言ったら宇宙が広がったりするじゃないですか。どうやって表現しようかと考えました。非常に苦労はしたんですが、そのぶん面白く撮れたかなって思います。あとはどうしても心の声が多いので、そこをどう表現するかも悩みましたね。ナレーションにしすぎると映像としてどうなんだろうっていう思いもあり、かといって独り言をずっと言わせるわけにもいかなくて。僕の映画では心の中の声を別の世界に見立てるっていう手法が多いんですけど、今回はそのテイストがうまく合致したなと思っています。一方で役者さんはかなり大変だったと思います。なにせものすごい台詞量を覚えた上で演じなきゃいけないわけで。

 

蝉川:たまたま見学にお邪魔した時、ゲーアノートが問い詰めるシーンだったんですけど、ゲーアノートを演じられる波岡さんの台詞も長いし、原作者としても申し訳ないことをしたなあって思いました(笑)。

 

品川:まず言葉が難解なんですよね(笑)。名前からしてベルトホルトとかバッケスホーフとか耳馴染みがないですし、日本語ではない言葉も多いじゃないですか。脚本を書く時もめちゃくちゃ苦労したところで。脚本でも大変だったのに、役者さんのみんなに言わせるのも酷だなって。でもみんなすごいんですよ。ものすごい熱量で演じられていて。

 

蝉川:普通のドラマと比べると全体的に少し早口かもしれませんね。普通だったら「ため」を持たせるようなシーンでも、次から次へと言葉が紡がれていくんです。でもそれが実際に居酒屋で会話をしている雰囲気みたいで心地よさもあるんですよ。

 

品川:演じてもらう上では、大将としのぶの二人には現代劇のテンションでやってください、というお願いをしました。逆に異世界の人たちには舞台演劇のテンションで演じてくださいという形で、棲み分けもしているんです。日本人はリアルドラマのテンション。異世界人は演劇や舞台、それこそ宝塚や劇団☆新感線のようなノリでお願いしますと。なので、役者さんたちも大きく手を広げながらであったり、のびのびと楽しく演じてもらえたんじゃないかなって思ってます。

 

蝉川:そうなんですよね。役者さんの出自も名バイプレイヤーやモデルさん、アイドル出身の方など様々で、そのごった煮になっているシーンがお店の中で展開される。これぞまさに異世界というシーンを覗き見ているような感覚なんです。

 

品川:結構いろんな役者さんに、「どれくらい宝塚感を出していいんですか」って聞かれたんですけど、いつも「全開で出してください」ってお願いしていました(笑)。そうじゃないと異世界にならないので。その一方で、みなさんには最初に「演技を面白くしようと考えなくていいです」とも伝えさせていただいていて、みなさん本気の大真面目で演じてくれている点も見どころかなって思います。ゲーアノートの波岡くんがナポリタンを食べて目に涙を浮かべるんですけど、あれは本当に真似できないと思います。みなさんの演技には本当に感心しました。

 

蝉川:本当に素晴らしいので、ぜひオンエアー楽しみにしてください(笑)。

 

品川:蝉川先生もいるので言うんですけど、僕はこう見えてあんまり嫌われたくないんですよ(笑)。誰に嫌われたくないかっていうと、原作者の人に「ああ、これ俺の作品じゃない」って言われることが一番嫌で、脚本を書く時からすごく意識してたんですよね。脚本を書く時にはどうしても台詞をつけ足したり削ったりしなくちゃいけないんですけど、原作者が面白いと思っているだろう箇所を膨らませて、削るときは原作者の言いたい意図を消さないようにしました。やっぱり尺の問題もあるし、ドラマなんで縦軸も作らなくちゃいけない。そういった足し算や引き算の結果、蝉川先生が「どこまでが俺が書いてどこまでが品川さんが足したんだっけ」って思わせられる脚本が理想でしたし、目指したんですよ。

 

蝉川:自分はメディアミックスをする時って、自分の娘だ、孫だくらいのつもりで送りだすんです。そして今回のドラマ版は、送り出しただけじゃなくて親の元に子供や孫を連れて帰ってきてくれているんですよね。しっかりと原作の雰囲気を残してくれている。それだけ忠実なドラマ化なんです。

 

品川:その言葉が何よりもうれしいですね。

 

 

異世界居酒屋「のぶ」対談03

 

 

――それぞれ印象的なキャラクターや役者さんがいらっしゃれば教えてください。

 

品川:一人を選ぶのは難しいですよね。みんなだとしか(笑)。

 

蝉川:みなさん、ですよね(笑)。それぞれ個性的ですし、異世界のキャラクターをしっかりと演じてくれた上で、すごく美味しそうにご飯を食べる。本当にみなさんよかったです。

 

品川:各キャラクターにはそれぞれ主役の回があるんですけど、そこから少し外れて唯一、肉屋のフランクと、原作には登場していないフランクの嫁がちょいちょい登場するんですね。この二人がなんとなく、繋がっていない話を繋げてくれるし、ちょっと笑えてちょっとほっこりするんです。本編には絡まないけど端々に登場する人物を作りたくて、そういう意味では少し思い入れはあるかもしれないですね。本当は全話に登場させたかったんですけど、スケジュールや尺の問題もあって実現こそしませんでしたけど(笑)。

 

蝉川:実は原作側でもフランクは後から追加したキャラクターなんですよね。原作の小説があって、ヴァージニア二等兵さんのコミカライズが始まり、その後に転さんのコミカライズが始まった。フランクはそこから追加登場したんですよ。かなり特殊な経緯で登場したキャラクターでもあるので、そういう風に扱っていただけるのは原作者としても非常に嬉しいですね。脚本も拝見させていただいて、本当にいいキャラクターになってくれたなって思います。

 

品川:『スター・ウォーズ』に登場するR2-D2やC-3POのように、徐々に主要キャストになっていってくれたらという思いで登場させました。主要キャストに注目してもらいながら、ちらちらと注目していただければと思います。

 

 

――それでは最後に原作ファンのみなさんへメッセージをお願いします。

 

蝉川:本当にこの実写化は当たりなので、ぜひ観てください!

 

品川:うれしい……。

 

蝉川:本当にご飯も美味しそうで、ドラマを見たら居酒屋に行きたくなると思います。ぜひ各回に登場する料理を用意して見ていただけたらなと思いますね。

 

品川:僕の中では蝉川先生やヴァージニア二等兵先生に喜んでいただけている時点で、ゴールテープを半分切っています(笑)。後はみなさんが大好きな『異世界居酒屋「のぶ」』を観るために足しげくWOWOWに通っていただければなと思います!

 

 

異世界居酒屋「のぶ」対談04

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

ドラマでは原作の雰囲気をそのまま感じることができるという蝉川夏哉先生と品川ヒロシ監督。毎話登場することになる異世界の住人たちも、早く見てみたいという気持ちが一層強くなる対談だった。居酒屋「のぶ」を舞台に描かれるドラマの放送まで、発売されたばかりの宝島社文庫刊『異世界居酒屋「のぶ」』第6巻を読みながら楽しみに待ってほしい。ドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』は2020年5月15日(金)より毎週金曜深夜24:00からWOWOWプライムにて放送開始!(全10話/第1話無料放送)

 

 

ドラマ 異世界居酒屋「のぶ」キーカット

 

 

WOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』

原作:蝉川夏哉『異世界居酒屋「のぶ」』(宝島社刊)

監督・脚本:品川ヒロシ

出演:大谷亮平 武田玲奈

   白洲迅 小林豊(BOYS AND MEN) 堀田茜 新谷ゆづみ 阿部進之介

   八木アリサ 庄司智春(品川庄司) 小越勇輝 三宅克幸 渡部龍平 早霧せいな

   木村祐一 小杉竜一(ブラックマヨネーズ) 秋山竜次(ロバート) 忍成修吾 品田誠 木下ほうか

   波岡一喜 梶原善 田山涼成 篠井英介

 

 

【あらすじ】

京都の寂れた通りに店を構えた居酒屋「のぶ」は、正面入口がなぜか中世ヨーロッパのような異世界・アイテーリアへと繋がってしまう。元は料亭の板前だった大将こと矢澤信之(大谷亮平)と明るく利発な看板娘の千家しのぶ(武田玲奈)は、アイテーリアで店を始めることに。すると冷えたビール“トリアエズナマ”が人気となり、徐々に店は繁盛していった。兵士、職人、商人、貴族など、仕事も身分も様々な客たち誰もが気軽にちょっと一杯。彼らは「のぶ」で未体験の料理とお酒の美味しさに驚きながら、幸せな時間を過ごし日々の疲れから解き放たれていく。

 

 

 

 

ヘアメイク:TAKACO

kiji

[関連サイト]

WOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』特設サイト

『異世界居酒屋「のぶ」』原作公式サイト

宝島社(このライトノベルがすごい!文庫)公式サイト

 

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