独占インタビュー「ラノベの素」 橘公司先生『王様のプロポーズ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年4月20日にファンタジア文庫より『王様のプロポーズ』第2巻が発売される橘公司先生です。世界最強の魔女の死に際で邂逅し、身体を共有することになってしまう彩禍と無色。300時間に一度訪れる、世界滅亡の危機を防ぐ王道ファンタジーを描きます。アニメ第4期の放送もスタートした『デート・ア・ライブ』のお話も交えながら、新シリーズに対する想いと、作品を通して描きたいことなど、様々にお話をお聞きしました。
※フリーペーパー「ラノベNEWSオフラインvol.8」には本記事未掲載のインタビューも掲載されています
【あらすじ】 世界最強の魔女・久遠崎彩禍の生活にも何とか慣れ始めた玖珂無色だったが、〈庭園〉とは別の魔術師養成機関〈影の楼閣〉との交流戦代表メンバーに選ばれてしまう。さらに魔術師専門動画サイト『MagiTube』の超人気配信者・鴇嶋喰良には彼ピとして、全世界に紹介され!? 事態の収拾を図るべく彩禍の姿で交流戦に参加しようとするも……。「魔女様! むしピのカノジョの座を賭けて、アタシ様と勝負っす!」〈楼閣〉側の代表メンバーだった喰良から宣戦布告を受けることに――。自分(彩禍)で自分(無色)を争奪するという絶対に負けられない恋と魔術の戦いが始まる! |
――本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。
橘公司です。第20回ファンタジア長編小説大賞の準入選作『蒼穹のカルマ』でデビューしまして、作家歴は今年で13周年ですね。好きなものはシュークリーム、苦手なものは春菊でしょうか(笑)。最近ハマっているもの……というより、遊んで面白かったのは『Inscryption』というゲームです。メタゲーで面白かったですね。
――ゲームをはじめとしたエンタメのインプットには結構時間を取られたりしているんですか。
できるだけ摂取しようとは心がけています。ただ、小説の読書量に関しては、デビュー前から比べるとだいぶ減ってしまいましたね。いや、学生時代読み過ぎていたというのもあるかもしれませんが。単純に昔ほど時間が取れないというのも大きいですが、もしかしたら仕事の一部になってしまったという意識があるのかもしれません。本を読んだとき、頭のどこかに、その物語を仕事に役立てようとする自分がいるというか。そういう意味では、デビュー前に読んでいた娯楽作品の記憶は一生ものの財産であるような気がします。年齢的なものもありますが、そのときでないと感じられないものがあったのかもしれないな、と。
――ちょうどデビュー前とデビュー後の違いのようなお話になりましたが、あらためて作家デビュー13周年おめでとうございます。この13年を振り返り、ご自身の中で考え方など変化はありましたか。
そうですね。デビュー作の『蒼穹のカルマ』、2作目の『デート・ア・ライブ』、ちょっと特殊なケースですが『いつか世界を救うために -クオリディア・コード-』、そして『王様のプロポーズ』と、ファンタジア文庫で書かせていただいているんですけど、一番考え方に大きな変化が現れたのは、『デート・ア・ライブ』の時だったと思います。本当に長く続いたシリーズでしたし、ありがたいことにアニメやゲームをはじめ様々な展開をしていただけました。それまでは空想だったものに対して手が届いたという感覚もあったので、一気に世界が広がったように思います。それとあわせて、自分の中でハードルがかなり上がってしまったという思いもあり、『王様のプロポーズ』は『デート・ア・ライブ』の時以上の大きなプレッシャーを感じていました。『デート・ア・ライブ』をこれだけ大きく展開してもらったんだから、次も期待されているものを出さなきゃいけない、みたいな(笑)。失敗できない感というか、良くも悪くも緊張感が昔よりある気がしますね。
――ご自身を大きく変えるきっかけにもなった『デート・ア・ライブ』は2020年に完結しました。あらためて本作を振り返っていただけますでしょうか。
長かったですね(笑)。長かったんですけど、振り返ってみれば一瞬だったような気もする不思議な感覚です。『デート・ア・ライブ』の当初の想定では、精霊が10人、ボスが1人、全11巻くらいを目標にしていたんです。ただ、蓋を開けてみたら、倍の22巻になっていました。物語の後半になればなるほど、登場するキャラクターの人数も増えるので、個々の活躍を描くために段々と増えていったんじゃないかなと思います。しかし完結まで9年……そんなに経ちますか。歳も取るわけですね(笑)。最近感慨深いのは、作家さんやイラストレーターさんで、「中学時代に『デート・ア・ライブ』を読んでいました」っていう方がちらほら出てきているんですよ。そんな人が出てくるんだなあって、時の流れを感じています(笑)。
※シリーズの完結、そして10周年を迎えている『デート・ア・ライブ』
――シリーズは22巻で完結となったわけですが、作品の終わりを明確に意識したのはいつ頃だったのでしょうか。
『デート・ア・ライブ』に関しては、最初から結末の形はなんとなく決めていて、とにかく強烈にやりたい話があったんですよ。それをどうしてもやりたくて書いたシリーズなんですけど、達成できたのが17巻の最後くらいでした。なので、明確にここからがクライマックスだと思い始めたのは、17巻か18巻くらいだったんじゃないですかね。本当は19巻で物語を終わらせるというお話もあったんですけど、そこで終えてしまうと澪の話で『デート・ア・ライブ』が終わってしまうので、十香の話で終えるために22巻まで書かせてもらいました。結果、最初に想定していなかった十香の『デート・ア・ライブ』になったのかなと思います。
――アニメ4期となる『デート・ア・ライブIV』も放送されますが、日本だけではなく世界を股に掛けたビッグコンテンツになりましたよね。
ありがたい話です。海外の展開についてはそこまで詳しく知っているわけではないんですけど、『デート・ア・ライブ』はタイミングが非常に良かったという話は聞きますね。特に中国で日本のアニメが本格的に配信されるようになったタイミングで、『デート・ア・ライブ』第1期が最初のラインナップに入っていたらしく、原体験のひとつになったんじゃないかという説を聞いたことがあります。「アニメといえば」で思い浮かぶ作品のひとつに『デート・ア・ライブ』が出てくるとかこないとか。あとはもう、時崎狂三の存在ですよね(笑)。もちろん僕も人気になってほしいと創り上げたキャラクターではあるんですけど、その予想をはるかに飛び越えた人気を獲得してくれました。グッズも非常に多く作られていますし、ここまでアニメが続いているのも、何割かは狂三のおかげなんじゃないかなと思っています(笑)。そして中国で作られたゲームが、いよいよ日本でも展開されることになりました。最初は中国だけだったのですが、今は世界各国で配信されています。もう4周年くらいになるんですかね。結構長く続いているゲームなので、ぜひ日本のファンの方にも楽しんでいただけたらなとは思います。
――狂三の人気はもちろん、彼女のフィギュアはバリエーションも含めて本当に多いですよね。
狂三のフィギュアは本当にびっくりするくらい多いですね。たぶん発売予定のものも含めると、『デート・ア・ライブ』全体で100体を超えると思うのですが、その7割くらいは狂三なんですよ(笑)。しかもまだ数が出ているので、そのうち単独で100体いっちゃうんじゃないかって。すごいなーって思って見てます(笑)。
――狂三については、どんなところが人気に繋がったと考えていますか。
時崎狂三というキャラクターについては、いろんなインタビューでちょこちょこと触れているんですけど、『デート・ア・ライブ』の中で最も古参のキャラクターです。作品のために考えたキャラクターという視点からは少し外れるんですけど、原型は僕が高校生の頃に考えていたキャラクターなんですよね。本当に黒歴史の産物ではあるんですけど、リアル高2の時に、ルーズリーフにシャーペンで書き留めていたわけです。設定だけじゃなく、拙いながらも自分でイラストも一緒に描いていました(笑)。当時から小説やTRPGのシナリオは書いていたので、いろいろとキャラは作っていたのですが、狂三(の原型)はその時の僕にとっても会心の出来でした。ゴスロリでツインテールで、左目が時計。うーん、あまりに格好よすぎる。当時の僕の『格好いい』の粋を集めたキャラクターです(笑)。
※シリーズ屈指の人気キャラクターとなった時崎狂三
――いわゆる黒歴史ノートのようなものが存在していたんですね(笑)。
そうですね、ノートを捨てた記憶はないので家の中を探せば出てくるんじゃないかな(笑)。あの頃はもう「これはいける!」「いつか世に出してやるぞ!」と本気で思っていました。それから本当に世に出すまで10年くらいかかりましたけど、実現させることができてよかったです。正直、今同じキャラを作ってくれと言われても多分できないです。今は失われてしまったであろう、いろんなものが積み重なってのものだと思いますし、計算だけでは作れないキャラなのかなとも思います。それが人気になってくれたのは非常に嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、という感じではあるんですけど。
――そうだったんですね。ご自身が高校時代に考えたキャラクターを、プロになってから使おうと思ったきっかけはなんだったんですか。
僕はラノベにおける3巻目って、一番面白くて脂がのった、非常に重要な巻だと思っているんです。今は当時と比べて状況は多少違うかもしれませんけど、いろんなシリーズの3巻目はやっぱり、序盤の盛り上がりの巻だと思うんですね。僕はそこでちょっとアクが強くて、それこそ物語をぶっ壊してくれるくらい強烈なキャラクターが欲しいと思ったんです。その時に自身の手持ちの中で一番強いキャラクターを持ってこようと思って、ノートの中から召喚したわけです。作品の性質上、名前に数字を入れなきゃいけなかったので、いろいろとチューニングを施して今の「時崎狂三」になりました。ただ、この名前、最初はボツをくらっていたんですよ。「狂」の文字の入るキャラクターはどうなのかということで。ただ、その後いくつかアイデアを出したんですけど、「狂三」以上にインパクトのある名前が出てこなくて、これでいきましょうという結果になりました。
――それではあらためて、放送開始となるアニメ『デート・ア・ライブIV』の見どころについても教えてください。
正直、アニメがここまで続くとは思っていなかったのでびっくりなんですけど、ついに本条二亜と星宮六喰というキャラクターが登場します。これで最初に想定していた10人――まあ八舞姉妹がいるので正確には11人なんですけど、全ての精霊がアニメに登場します。念願だった全精霊に声がつくという目標を達成することができました。生天目仁美さん、影山灯さんのお二方とも素晴らしい仕事をしていただいているので、ぜひ楽しみにしてもらいたいです。また、アニメ三期までとスタッフさんもがらりと変わっています。まあ制作会社が変わるのはいつものことなんですけども。『デート・ア・ライブ』は渡り鳥みたいなところがあるので(笑)。ただ、今回の制作会社は以前『デート・ア・バレット』を作っていただいたGEEKTOYSさんなので、初めてというわけではないですね。監督の中川淳さんと、キャラクターデザインの中村直人さんが非常にこだわり屋で、絵作りがすごいことになっています。これまでにはなかった演出やらなにやら、新しい『デート・ア・ライブ』を楽しんでいただけたらと思います。
※アニメ『デート・ア・ライブIV』は4月より好評放送中!
――ではここからは新シリーズ『王様のプロポーズ』についてうかがいたいと思います。まずは大長編を終えての新シリーズの始動について、率直な感想をお聞かせください。
『王様のプロポーズ』は1巻の著者プロフィールにも書いたんですけど、『デート・ア・ライブ』から10年ぶり、『いつか世界を救うために -クオリディア・コード-』から数えても6年ぶりの新作で、非常に久々の新シリーズ立ち上げになりました。当時は作家業12年目だったと思いますが、メンタルはもう新人の頃そのままで、本当に大丈夫だろうかとずっと思っていました。そこに『デート・ア・ライブ』のプレッシャーものしかかってくるわけですから、本当に大変でしたね。
――第1巻刊行時は精神的にも非常に苦労されていたようですが、執筆面ではいかがでしたか。
久々の新シリーズだったということもありますが、まあすんなりとはいきませんでしたね。『デート・ア・ライブ』の時もそうだったのですが、僕はとにかく1巻の執筆がスムーズにはいかないんですよ。直しに直して、分量で言ったら2、3巻分は書いたんじゃないかなと思います。『デート・ア・ライブ』の1巻も、一度最後まで書いた原稿を全ボツにして、また一から書いたりしてましたからね(笑)。
――そうなんですね。世間のイメージでは面白い原稿をバシッと一発で出しているように見えてしまいますからね(笑)。
いやいやいや、もう水鳥のように水中でバタバタ足掻いてますよ(笑)。基本的に心配性なので、毎回執筆中に、本当に今書いているこれは面白いのかなって思っちゃうんですよ。書いている最中は自分で判断がつかなくなるので、担当編集さんにチェックしてもらっています。ただ、大丈夫と言われても、「本当に大丈夫なのか?」と思ってしまうことも多いです。料理の味見をしすぎると、濃いのか薄いのかわからなくなったりするじゃないですか。それと一緒で本当にわからなくなるんですよ。最後のジャッジに担当編集さんがいないと、果てしなく直し続けてしまう気がします。なので、最初からビシッと書ける方には憧れますね(笑)。
――様々な苦労がありながらも、昨年9月に『王様のプロポーズ』は刊行され、多くの好評の声がありました。第1巻刊行後の反響をどのように受け止めていますか。
ネットの反応を見ていても、1巻は非常に好評をいただいていて、自分でもびっくりしています。ひょっとしたら『デート・ア・ライブ』の時の方が、まだ賛否が多かったんじゃないかなと思うくらいで。僕としてもこの反応を好意的にとらえるなら、10年分の成長だと思いたいですね。ありがたい話です。
※第1巻は多くの好評の声が届いたという『王様のプロポーズ』
――『王様のプロポーズ』は世界の滅亡を阻止するという王道なファンタジー路線をベースにしつつ、男女合体という特殊なギミックも特徴的な作品です。本作の構想はいつ頃から行われていたのでしょうか。
構想自体は『デート・ア・ライブ』の終わりが見え始めてきた17巻、18巻くらいからで、担当編集さんからも「次はどんな作品にしましょうか」という話を振られていました。最初に担当編集さんと話していたのは、男主人公と女主人公のダブル主人公ものでしたね。担当編集さんは、僕のデビュー作である『蒼穹のカルマ』が女主人公だったこともあって、もう1回書かせたいと思っていたらしいです。そこから「男と女になれる主人公がいいのではないか」といった話も飛び出したり、本当にいろいろな話をした結果、男女合体ものになりました。
――ダブル主人公の想定から紆余曲折を経て、より難易度の高そうな男女合体ものへと変遷していったんですね(笑)。
本当に担当編集さんの無茶振りですよ(笑)。とにかく解決しなくちゃいけない要素が多くて、メインヒロインと合体してしまうと、主人公はヒロインと話せないし、イチャイチャもさせられない。二人のシーンが描きづらいという問題が念頭にありました。いくつか考えたパターンの中には、騎士的な女の子と主人公が合体して、お姫様をヒロインポジションに、という構図もありましたね。これであれば成立こそするんですが、主人公が騎士の女の子のポジションを簒奪して、お姫様とイチャイチャする構図に、個人的にすごく抵抗を覚えてしまい、違うなと(笑)。それをなんとか成立させるために頭を捻りに捻ったのが、1巻の終盤のシーンと設定です。メインヒロインと合体しつつ、メインヒロインとのシーンを描くにはこれしかない。何かの飲み会の帰りだったんですが、駅から自宅まで歩いている途中で思いついて、すぐさま担当編集さんに電話をかけたのを覚えています。「これならいけます!このアイデアがOKなら男女合体主人公書けます!」って。
※紆余曲折を経て男女合体ものの主人公となった本作
――まさに天啓(笑)。アイデアはいつどこで降ってくるのか、本当にわからないものですね。
男女合体の構想自体、かなりピーキーでしたから、きちんと読者さんに届くのかなっていう不安も正直ありました。なので、知り合いの作家さんにざっくりとお話の概要を聞いてもらったりもしていたんですが、もう見事なくらい、みんなに「それ本当に大丈夫?」と言われました。それで、なんか逆に楽しくなってきちゃって(笑)。少なくとも、僕が相談した方々はそれを書かないわけですから、うまく収められればオンリーワンになれるって思ったんです。びっくりするくらい、みんなには「大丈夫か」って言われたんですけど。心配性のくせに、ひねくれ者なんでしょうね、きっと(笑)。
――また本作のタイトルについても気になっている読者の方は多いのかなと思っていまして、タイトル決定までの経緯についても教えてもらえますか。
僕の場合、タイトルの発案は基本的に担当編集さんなんですけど、本が出るまで不安でしたよね。「本当にこのタイトルで大丈夫!?」って、ずっと言ってましたから。「プロポーズですか? 本当にプロポーズですか!?」って(笑)。一応僕からもいくつか候補はつけてたんですよ。「無色と極彩」とか「世界王」とか。でも担当編集さんから、「ダメだ!プロポーズだ!」って。今になって思いますけど、自分のタイトルだったらここまで売れてなかったのかなって思います(笑)。
――橘先生はこれまで様々なファンタジーシリーズを手掛けてこられていますが、もともとファンタジーはお好きなんですよね。
僕がライトノベルを読み始めた時に読んでいた作品が、『フォーチュン・クエスト』や『スレイヤーズ』だったりするので、ハイファンタジーの世界観を書きたい欲求は正直ありますね。それに『フォーチュン・クエスト』も『スレイヤーズ』も両方女性主人公じゃないですか。『蒼穹のカルマ』が女性主人公になったのも、そのあたりの影響を受けています。そういう意味では『王様のプロポーズ』も、最初はハイファンタジーの世界観で書く構想もあったんですよ。
――なるほど。でも実際、ジャンルとしてはローファンタジーになりますよね。
そうですね。作品の広がりや、地続き感を考えて、展開しやすい現実世界をベースにしたローファンタジーにしてほしいと言われて、今の形に落ち着きました。また、今作は魔術学校が舞台なんですけど、世界に魔術学校が存在する場合のパターンとしては、大きく2つに分かれると思うんですよ。ひとつは世界に魔術が広く知れ渡っている世界。もうひとつは魔術という存在が秘匿されていて完全に学校も秘されている世界。前者は社会的評価やランク付けみたいな見せ方ができますし、後者は自分たちだけが世界の真実を知っているという特別感を描くことができます。『王様のプロポーズ』はどちらかというと後者寄りではあるんですが、上手いこと前者の美味しいところも取り込めないかなと思っています。ちなみに魔術師養成機関〈空隙の庭園〉は、表向きにも学校として存在していて、あくまで普通の学校だと思われています。放課後も街に繰り出すこともできたりと、バランスも持たせています。
――今作は特に、主人公の玖珂無色の影響も大きいと思いますが、コメディ的な要素も大きめだなと感じました。
シリアスとコメディのバランスって言えばいいんですかね。以前はあまり意識していなかったんですが、知り合いの作家さんに「橘さんの武器は、軽い読み口で読ませて、最後にエモい路線に持っていくこと」って言われてから、具体的に意識するようになりました。あとは、本作のプロトタイプを執筆していた時に、無色のキャラクターが固まっておらず、どうしても『デート・ア・ライブ』の五河士道っぽくなってしまっていたことも大きかったです。これはよくないと思って、『蒼穹のカルマ』のエッセンスを少し入れつつ、主人公を突飛な感じにしてみようと思いました。主人公が突飛な感じになると、会話も自然と突飛な感じになるんですよ(笑)。実際にやってみたら意外と面白いなと思って、そっちに強めに振ってみようと。会話が面白いって、もうそれで勝ちだとも思うので。まったくバランスを意識していなかった投稿時代、ダークファンタジーばかり書いて落選を繰り返していた時期もありますし、初めて書いた長編コメディの『蒼穹のカルマ』が受賞したりもするわけですから、やりたいものと書けるものが同じとは限らないんだなって常々思いますね。
――橘先生はダークファンタジーがお好きなんですね。投稿時代というお話でしたけど、今現在で書きたい欲は残っていたりしないんですか。
以前よりコメディの必要性も理解しているので、ゴリゴリのダークファンタジーとまでは言いませんが、やっぱりハイファンタジーは書いてみたいんですよね。冒険や旅ものが好きなので、ファンタジー世界を旅して、いろんな場所に行く話を書いてみたいです。
――では続いて、本作に登場するキャラクターについても教えてください。
久遠崎彩禍は世界最強の魔女で、他に並び立つ存在がいないキャラクターです。主人公である無色にとっても、そして読者にとっても憧れの存在になってもらえたらいいなと思っています。1巻時点では1ページ目から死んでいるという、まさに「魔術師はもう、死んでいる。」な立ち位置ではありますが、1巻を通して彼女を好きになってもらえるよう書きました。世界に現れる滅亡因子を打倒し続けてきた、人類圏における最強の存在。つなこさんには「美しい感じで!」「極彩の双眸で!」など、結構な無茶振りをさせていただきました。世界最強の魔術師って書くと、『デート・ア・ライブ』ファンからは「エレンのことかな?」ってよく言われますね(笑)。
※世界最強の魔女・久遠崎彩禍
玖珂無色は当初の想定からかなり変更されたキャラクターです。とにかくヒロインが大好きすぎる主人公で、自分がめちゃくちゃ大変なことになって、とんでもない世界に巻き込まれているのに、それを告げられたときの第一声が「なんて素敵な名前だ」ですからね。かなり大変なことを押し付けられていますが、割とそつなくこなしていますし、目に入るのは全部彩禍様のことだけっていう、あまり見かけないタイプの主人公になったのではないかと思います。
※魔女様大好き主人公・玖珂無色
烏丸黒衣は彩禍様と同じく、当初の想定通りというか、無敵に素敵なクールメイドですね。主人公が完全にボケ側なので、ツッコミキャラクターとしての役割も果たしています。企画当初から、主人公とヒロインが合体していることを知っているキャラクターが一人は欲しいと思っていました。ギミックの鍵を握ることで今のポジションを確立しています。それに加えて、ちょっとした怪しさや、背徳的な雰囲気など、いろんな要素を併せ持つ贅沢なキャラクターでもあります。
※本作のキーキャラクターでもある烏丸黒衣
不夜城瑠璃も、無色同様に二転三転したキャラクターです。これは無色が定まっていなかったので当然なんですけど。主人公とかなり根が一緒で、魔女様大好き、お兄様大好きなキャラクターになりました。魔女様を兄妹二人が崇拝しているという図は僕としてもツボで、推し事しているファンの図でもあるんですよね。無色と瑠璃の会話は非常に書きやすいですし、ひたすらに魔女様をポジティブにとらえてくれる、『デート・ア・ライブ』にはいなかったタイプのキャラクターです。これも知り合いの作家さんに言われたんですけど「主人公と同じムーブをする女の子が、主人公にも同じ感情を向けてくれることによって、そこが面白く回った」とのことで。瑠璃は最初の想定よりも本当に面白くなってくれたと思います。
※お兄様と魔女様が大好きな妹・不夜城瑠璃
――そして『王様のプロポーズ』も前作に続いてつなこ先生とのタッグとなりました。
次回作を構想し始めた段階から、僕からも「次もつなこさんいけますか?」と続投希望を出していました。作家とイラストレーターのコンビの続投については、前作程売れなかったりする場合も当然考えられるので、難しいことだとは思っていました。ただ、『デート・ア・ライブ』で10年一緒にやらせていただいて、つなこさんへの信頼度は非常に高いですし、僕の視点からもまだまだ引き出しを持っているなって思ったんです。もちろん長年のお付き合いということで、僕の呼吸を完全に理解してもらえているというのもありがたいですし、是非にとお願いさせていただいた次第です。
イラストは相変わらず素晴らしい出来です。『デート・ア・ライブ』時代は、精霊の霊装に、淡く光ったビーム部分を作るのがお決まりだったのですが、『王様のプロポーズ』では、それが界紋のバリエーションという形で生きているのなと思います。第2巻の表紙の喰良(くらら)も素晴らしいので、ぜひ細部まで見ていただきたいですね。
※界紋のバリエーションにも注目していきたいジャケットイラスト
――『王様のプロポーズ』を一緒にやられるにあたって、つなこ先生とはどんなお話をされましたか。
今回は1巻の前にリモートでがっつりとキャラクターデザインについて打ち合わせをさせていただきました。『デート・ア・ライブ』の時もそうだったんですが、直接打ち合わせをするとデザインの精度がぐんと上がるんです。十香もかなりのパターンを描いていただいたのですが、一度直接打ち合わせしたあとに上がってきたものが今の十香です。『王様のプロポーズ』でもかなり長い時間打ち合わせをさせていただき、申し訳ないと思いつつ、やって非常に良かったと思っています。それと、つなこさんは毎回原稿に感想をくれるんですよ。僕としても非常にモチベーションに繋がりますし、そういうところも続投の要因のひとつだったかもしれません。
――第2巻では他所の魔術養成機関との交流戦なども予定されていると聞いています。概要や見どころについて教えてください。
2巻については魔術学校について掘り下げています。であるならば、やはり他校との交流戦だろうと。ありがちかもしれませんが、みなさん好きですし、僕も好きです(笑)。そして温めていた喰良というキャラクターが登場し、1巻目で落ち着いた無色と彩禍様の関係性に割って入ってくることになります。あらすじにも書いてありますが、いきなりの彼ピ発言から始まり、余裕で構えていた彩禍様も「ほん?」ってなるわけです。喰良が起こすひと悶着に注目していただきつつ、二校の交流戦がどうなるのか、そしてその裏に渦巻く新たなる敵など、注目していただけたらなと思います。喰良は個人的にも好きなキャラクターなので、無色、彩禍様との関係性とあわせて楽しみにしていただけたらと思います。
※無色と彩禍の関係に割って入ってくる新キャラクター「喰良」から目が離せない
――今後の目標や野望について教えてください。
面白い話を書いてみなさんに楽しんでいただく以上の目標などあろうはずもありません(くもりなき眼)。いや、嘘ではないですって。もちろん、『王様のプロポーズ』を広く展開して、コミカライズやアニメ化をしたい……というのもありますが、それはあくまで面白い話を書いた結果ついてくるのが理想だと思っているので。あと2年もすれば作家生活15周年を迎えるわけですが、それまでには、小説50冊も達成できるのではないかと思うので、頑張っていきたいと思います。あとはそうですね、小説以外の目標でいうなら、今までゲームのシナリオやアニメの脚本など、様々な仕事に携わらせていただきましたが、コミカライズ以外の漫画原作はやったことがないので、いつかやってみたいですね。あとはオリジナルアニメの脚本は機会をいただければもう1回やってみたいです。
――それでは最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。
長い方は13年お付き合いをいただいていると思いますが、久方ぶりの新シリーズということで、13年分の熱やノウハウを注ぎ込んで書いておりますので、きっとお楽しみいただけるんじゃないかと思います。男女合体ものと聞くと、ちょっと抵抗を覚える方もいらっしゃるかなとは思うんですけど、大丈夫です。僕も一緒です。本人が本当に大丈夫かなって思ってました(笑)。それをなんとかするために頭を捻った話でもありますし、読みやすいよう工夫もしておりますので、ぜひ1巻からご一読いただけたらと思います。そして『デート・ア・ライブIV』も4月より放送開始となります。ついに全精霊が揃いますので、是非チェックしてみてください。最後になりますが、『王様のプロポーズ』2巻は4月20日発売ですので、よろしくお願いします!
――本日はありがとうございました。
<了>
憧れで世界最強の魔女と合体して、世界の滅亡に立ち向かう王道ファンタジーを描く橘公司先生にお話をうかがいました。『デート・ア・ライブ』という大長編を経て動き出した新シリーズも、前作以上の魅力を持ち合わせていることは間違いありません。ファンタジー展開はもちろん、彩禍と無色のラブコメ展開からも目が離せない『王様のプロポーズ』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©橘公司/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:つなこ
©2021 橘公司・つなこ/KADOKAWA/「デート・ア・ライブⅣ」製作委員会
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