独占インタビュー「ラノベの素」 夢見夕利先生『魔女に首輪は付けられない』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2024年2月9日に電撃文庫より『魔女に首輪は付けられない』が発売された夢見夕利先生です。第30回電撃小説大賞にて「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。超凶悪犯である囚人の魔女たちが属する極秘分署に送り込まれた捜査官が、魔女に追い詰められ翻弄されながら事件に挑む本作。一癖も二癖もある魔女たちについてはもちろん、スリルある作品を追い求めた中で生まれた物語についてなど、様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 貴族階級が独占していた魔術が大衆化するとともに、犯罪率が急増。対策として皇国には魔術犯罪捜査局が設立された。捜査官であるローグは上司ヴェラドンナの策略により〈第六分署〉へと転属。そこは、かつて皇国に災いをもたらした魔女と共に魔術事件を捜査する曰くつきの部署だった。厄災をもたらすまでの力を有するが故に囚われ、〈首輪〉によって魔力を制限された魔女たち。だが、〈人形鬼〉ミゼリアをはじめ、魔女たちはお構いなしにローグを振り回し――!?「どうする、ローグ君? 手段を選ばない方法で検討してみるかい?」 魅力的な相棒(魔女)に翻弄されるファンタジーアクション! |
――それでは自己紹介からお願いします。
夢見夕利です。執筆歴は大学の卒業まであと1年というタイミングから書き始め、そこから5年目でこのたび受賞をさせていただきました。好きなものはホラーと百合で、苦手なものは恐怖体験です。創作物として怖いものを見たり書いたりする分にはどんどんやっていきたいと思うのですが、ジェットコースターやバンジージャンプ、お化け屋敷などは本当に苦手で……。また、趣味のようなもので言うと、小説を執筆するようになってからなのですが、ホラー系の作品を視聴した時に、「どういうところが怖いか」、「どうしたらこの怖さを小説で再現できるだろうか」といったことをノートにメモしたり、どこまで要素を分解すれば再現できるようになるのかを分析したりするようになりました。時には執筆よりも時間をかけてしまい、執筆の方が進まなかったっていう時期もありましたね(笑)。
――怖いものを好きなものと苦手なものとで挙げていただきましたが、お化け屋敷は創作物にはあたらない感じですか(笑)。
映像や書籍だと視覚と聴覚だけじゃないですか。でもお化け屋敷では嗅覚や触覚も混じってくるので……。レジャーランドにあるような回転する空中ブランコに振り回されるのも本当にダメですし、ディズニーランドにあるホーンテッドマンションもギリギリ無理って感じです(笑)。
――ありがとうございます。あらためまして、このたびは第30回電撃小説大賞「大賞」受賞おめでとうございます。まずは率直な感想からお聞かせください。
正直、実感がなく夢見心地といいますか。いよいよ自分の本が発売されるわけですけど、それすらもふわふわした感じです。実際に本が発売されて、読者の方から感想をいただいたりすれば、意識的にも変わるのかなとは思うんですけど、現状はひたすらふわふわしている感じですね。最終選考に残りましたという連絡から、受賞の連絡をいただくまでが一番緊張していた気がします。
――最終選考から受賞発表までの期間はどのようにして過ごされていたんですか。
受賞前は本当に緊張していて、受賞できなかったらどうしようとか、また1から始めなきゃいけないのかとか、どんな賞でもいいからとにかく受賞したいっていう気持ちでした。期間中は近所の神社にも受賞できますようにって何回もお参りに行っていましたね(笑)。そうして受賞発表の当日こそ嬉しかったんですけど、その翌日からは「本当に受賞したのかな?」みたいな感じになって、担当編集さんからメールを受けたり、イラストのラフとかも見せてもらったりして、「受賞したのは現実らしいぞ」って受け止めることは少しずつできるようになってきた感じです(笑)。
――小説の執筆を始められてから5年越しの受賞となったわけですが、そもそもの執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。
いよいよ大学四年目を迎えるという時期でした。そろそろ就職活動をしなきゃいけないぞという状況で、自分は就職活動をしたくなかったんですよ(笑)。そんな時に、電撃小説大賞の締切が1ヶ月後にあるということを知って、1ヶ月で1本を書き上げて応募しました。その応募作が一次選考を通過したこともあり、それがモチベーションとなって執筆を続けるようになりました。それからはとにかく受賞してデビューを目指そうということで、いろんなレーベルの公募に応募していました。大学を卒業するまでの1年間で8本ほど書いたと思います。
――ジャンルとしてライトノベルの公募へ応募したのはどういった理由だったのでしょうか。
小説についてはアクション系やホラー系のものを好んで読んでいて、電撃文庫さんだと『バッカーノ!』や『デュラララ!!』、『ヴぁんぷ!』といった成田良悟先生の作品が好きなこともあり、電撃文庫という存在は知っていました。角川ホラー文庫の公募も少し考えたことはありましたが、受賞できるような作品を書けるとはあまり思えず、どちらかというとライトノベルのようなエンタメ要素の強い方が自分には合うんじゃないかなと、飛び込んでみようと思ったのが理由でしたね。
――受賞までの5年間で14本の作品を書かれたとあとがきでも触れられていましたが、一時期心が折れそうになったタイミングもあったとか。
そうですね。自分は公募に応募する際、常にペンネームを変えて応募していたんですが、第34回ファンタジア大賞にて、『魔法使いは魔法を使えない』という作品で入選させていただいたんです。入選作品でも刊行されることはあるのですが確約ではなく、結果として受賞もできずで、私自身の実力不足もあり、刊行されることはありませんでした。そこからはひたすらスランプが続いて、1年近くまともに作品を書けていなかったと思います。カクヨムでも別名義で作品を投稿していますが、作品の方向性がまったく違うものを置いていたりもするので、驚かれる方もいるかもしれませんね(笑)。
――ありがとうございます。それでは受賞作『魔女に首輪は付けられない』がどんな物語か教えてください。
物語の舞台は、魔術が一般社会に浸透したことで、犯罪率がめちゃくちゃ急上昇した世界です。捜査官であるローグは、とある理由から国家に仇名す囚人で、伝説の存在とも言われる魔女たちが籍を置く第六分署に異動することになります。非常に恐ろしい魔女たちと共に、命をたびたび脅かされながら、表側では捜査の難しい事件に挑んでいく物語になっています。
※魔女が属する極秘分署に異動させられた主人公を待ち受けるものは……
――本作の着想についても教えていただけますでしょうか。
あとがきにも書いたのですが、『羊たちの沈黙』という作品の影響を受けています。同作には精神科医のハンニバル・レクターというキャラクターが登場するのですが、精神科医ということは精神に干渉もできるだろうと考え、今作の魔女のひとりであるミゼリアが生まれました。作品の構想自体は5年前からあり、当時はたくさん存在している魔王を取り締まる部隊として考えていたりもしましたね。あらためて執筆に取りかかった際は、レクター博士的なキャラクターを相棒にするところから始まり、ヒロインの数も増え、最終的には12人の魔女を考えました。構想時点から変わらないところとしては、魔女のミゼリアによる、人の善悪を試すところでしょうか。自分の命が助かるならば、他人の命を捧げることができるのか、そういった主人公を揺さぶるようなシチュエーションは残ったままになっています。
――夢見先生はホラーやスリルのある作品がお好きとのことですが、具体的に好きになった要因はなんだったのでしょうか。
気が付いた時には好きになっていたんですが、中学時代に読んだ奥浩哉先生の『GANTZ』の影響はあると思います。ほかには舞城王太郎先生の『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』や、狂気太郎先生の作品、あとは平山夢明先生の短編集や冲方丁先生の『マルドゥックシリーズ』、遠藤浅蜊先生の『魔法少女育成計画』とかですね。とにかく人が生きるか死ぬかのギリギリのラインでサバイバルする作品は面白いなって感じていましたし、自分でも書いてみたいなと思うようになりました。
――夢見先生にとって、ホラーやスリルのある作品ならではの魅力はどんなところにありますか。
人間を肉体的にも精神的にも極限まで追い込み、トラウマのようなところもひたすら深掘りしていく構図は非常に好きです。それによって主人公の魅力も引き出されるし、極限状態から助からなければ気分は最低まで落ちますし、逆に助かれば最高のカタルシスを得られるのが魅力ですね。いち創作者としては、どんどん登場人物を追い込んでいきたい(笑)。
――ありがとうございます。では続いて本作のキャラクターについても教えてください。
主人公のローグは、腕力と格闘に優れる捜査官です。一時期それでやりすぎてしまい、「血塗れのローグ」と言われるようになりました。本人はそれを恥ずかしがっているというか、あまり悪目立ちしないよう、静かに過ごそうとしています。口は悪いですが優しい心の持ち主で、理不尽には反抗するという信念も持っています。その信念は魔女に対しても大きくブレることはありません。早く現場から退いて管理職になりたい人です。
※第六分署へ異動することになったローグ(キャラクターデザインより)
ミゼリアは「人形鬼」と呼ばれる、齢1200歳の十三番目の魔女です。人を揶揄うのがとにかく好きで、そのためならば自分が貶められることすら厭わないという、非常に迷惑な性格の持ち主でもあります。かつてミゼリアは、自分の魔術で周囲の近衛兵すべてを人形にし、皇族を殺め囚人となっています。彼女の言動や態度がどこまで本気でどこまで嘘かは、読者の方も悩みながら読んでいただけるんじゃないかなと思います。
※「人形鬼」と呼ばれる魔女のミゼリア
ヴェラドンナはローグの直属ではありませんが、上司です。普段はふざけた態度を取りつつ、やる時はやる人です。周囲に自分の存在を低く小さく見せ、相手を騙していくタイプですね。ローグも薄々気付いてはいますが、騙されてしまいます。もともと面食いな部分もあって、第三分署で働いていたローグを気に入り、直属の上司をすっ飛ばして交流が生まれていました。
※ローグに異動を通達した上司のヴェラドンナ
カトリーヌは「聖女」と呼ばれる三番目の魔女です。弱気な性格で、ドジっ子要素を持っています。人を助けたいという思いを強く持ち、自分の身を削っても構わないという性格の持ち主でもあります。聖女なのに魔女扱いされているのは、善意でやっていたことを災害的な扱いにされてしまい、その結果魔女として扱われている感じですね。
※「聖女」と呼ばれる魔女のカトリーヌ
――第1巻では全部で12人いる魔女のうち4人が登場しました。今後も含めて注目してもらいたい魔女を教えてください。
少し気の早い話ではありますが、第2巻には「幽騎士」ジゼルという魔女が登場する予定です。魔女なのに聖女と呼ばれるカトリーヌ同様に、魔女なのに騎士という……。ほかにも厄介なロリババア的な魔女もいますし、ミゼリアと同格クラスの魔女も順次登場します。第1巻ではローグとミゼリアのバディものとして読むことができると思いますが、好意だけでなく悪意で接する魔女もいますし、ローグと魔女の関係性はバリエーションを持たせていきたいと考えています。私自身心掛けていることですが、とにかく攻めの姿勢を忘れないことです。ローグと魔女の関係性は一箇所に落ち着かせることなく、読者の方にも安心できない関係性をお見せし続けていければと思います。
――ありがとうございます。続いて書籍化に際してはイラストを緜先生が担当されました。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。
私自身の執筆スタイルとして、ビジュアルを想像して書くことがほとんどなかったので非常に新鮮でした。まずミゼリアのデザインを拝見した時には、こんな顔だったんだって思いましたね(笑)。デザインを拝見して以降は、描いていただいたキャラクターでイメージが固定され、緜先生の描いたミゼリアが想像の中で動き回るようになり、これがイラストの力かと感動しました。アンジェネという魔女も第1巻では登場するのですが、このキャラクターのデザインも非常に良くて、イラストを拝見したことでもともと考えていなかった設定を新たに思いついたりもしました。イラストの力によって、発想をもらったというか、引き出してもらったなという。
※キャラクターのデザインによって多くのインスピレーションを得たという夢見先生
お気に入りのイラストについては、終盤にある挿絵が印象的ではあるのですがネタバレになってしまうので、ここで挙げるとするとミゼリアの登場シーンでしょうか。ミゼリアの自分の中のイメージは、格好良くて胡散臭くて可愛いみたいなところがあります。イラストでそれらの要素を引き出し、いかにも怪しいことを企んでいるぞっていう微笑みが非常に気に入っています。事務員のリコや魔女のフマフのデザインも本当に気に入っています。
※ミゼリアの絶妙な表情がお気に入りという一枚
また、魔女のデザインに関してですが、各キャラクターにはその魔女にナンバリングされている番号が表現されているんです。フマフでいうと髪のピン留めですね。各魔女のデザインはタロットカードがモチーフになっているので、番号と照らし合わせていただければ、どのタロットかはわかるかと思います。読者の方にはそのあたりもぜひ注目しながら見ていただけたらなと思います。
――あらためて、著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。
この作品で注目してもらいたいところは、まず魔女のバリエーションです。魔女は12人おり、個々の性格面でもとにかく悪いことをしているので、様々なスリルが味わえるかと思います。魔女は猛獣で、主人公は猛獣の檻の中に放り込まれたといっても過言ではありません。そんな主人公の姿を追いかけるのも楽しみのひとつになっていくと思います。そして次はどんな魔女が登場するのか、先の展開はとにかく読ませないぞという意気込みではありますので、緊張感持ちながら読んでもらえたらなと思います。キャラクターが精神的に追い詰められていくシチュエーションが好きな方には好んで読んでいただけると思います。また、選評でもいただきましたが、主人公の捜査官に対して魔女がたくさんいるという構図のお話なので、いろんなヒロインを見たいぞっていう方にもおすすめできるかなと思います。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
一生働かなくていいくらいめちゃくちゃ売れたいですね(笑)。それはそれとして、執筆することでご飯を食べていくことが一番の目標です。そして二番目の目標としては、『魔女に首輪は付けられない』で漫画やアニメといったメディアミックスを目指していきたいです。とにかく作家として生き残っていくこと、そして自分の好きなホラーや百合作品をたくさん執筆できる環境を作っていくこと。公募の時から、ラノベにどうホラーを持ち込むか。大衆に引かれず、受け入れてもらえるホラーとは何かを考えながら執筆活動を行ってきました。『魔女に首輪は付けられない』も、それらを考え続けた中で生まれた作品です。いろんな攻め方に挑戦をしながら、電撃文庫でホラー百合を出すぞ!(笑)。
――最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。
テンポの良さとスリルが持ち味の作品になっていますので、最後まで緊張感をもって読んでいただけると思います。最後の最後まで裏切り続けますので、どうぞよろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました。
<了>
恐るべき力を持つ魔女に振り回されながら、事件の解決に挑む魔女と捜査官の物語を綴った夢見夕利先生にお話をうかがいました。魔女たちの本質は読み進めなければ見抜くことは難しく、好意と善意と悪意と非道とが入り混じる魔女たちに、読者も翻弄されることになるかもしれません。様々な魔女たちからも目が離せない『魔女に首輪は付けられない』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
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