独占インタビュー「ラノベの素」 鞘童子先生『幕末エルフ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2026年1月20日にファンタジア文庫より『幕末エルフ』が発売された鞘童子先生です。第38回ファンタジア大賞にて「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。幕末を舞台に描かれる、己の武士道を見失い刹那に生きる浪人と、魔術を操る長命のエルフが邂逅して始まる、超王道のボーイ・ミーツ・ガールを描く本作。作品執筆に至るまでの裏話や、キャラクターを考える上でのこだわりなど、様々にお話をお聞きしました。

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【あらすじ】 時は幕末。京都にて異端の浪人・時代己道はエルフの少女のため天才剣士・沖田総司と剣を交え、その命を散らす。「――なんで生きてんだ、俺」「おにーさん! よかった!」 だが少女・メスティーの身を賭した魔術により蘇生された!?「私の何を捧げても、おにーさんに生きて欲しかったの」 当初命の執着などなかった己道だったが、沖田総司との再戦、そして己道に生きてほしいと語る少女の声を経て一つの覚悟を決める。「メスティー。お前のために、俺は生きよう」 死ぬためでなく生きるため。魔導の力を身につけた侍は少女と共に幕末を駆ける。新時代のボーイ・ミーツ・ガール、開幕! |
――それでは自己紹介からお願いします。
このたび第38回ファンタジア大賞で「大賞」をいただいた鞘童子と申します。出身在住ともに鳥取県鳥取市で、執筆歴は15年ほどになります。小さい頃から本が好きで、『ズッコケ三人組』や『ダレン・シャン』などを読んでいました。ライトノベルは中学時代に同級生から薦められて読むようになりました。また、時代劇がとても好きで、子供の頃から「スカパー!」の時代劇専門チャンネルに釘付けでしたね(笑)。苦手なものはホラーや絶叫系でしょうか。
――時代劇がとてもお好きとのことで、時代劇の中でもこの作品がイチオシというものがあれば聞いてみたいです。
作品という意味でも、好きなシーンという意味でも、黒澤明監督の三船敏郎さん主演『椿三十郎』が、ぶっちぎりで好きな作品です。見たことがない方は、ラストシーンだけでも見ていただきたいですね。椿三十郎と、敵対している仲代達矢さん演じる室戸半兵衛が、居合いで勝負するシーン。静寂の中から抜き打ちをするのですが、あらゆる時代劇の中で、一番素晴らしい抜刀シーンだと個人的に思ってます!
――その熱量の高さから本当にお好きなんだという気持ちが伝わってきます(笑)。また小さな頃から本もお好きだったというお話ですが、ご自身で小説を執筆しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
もともと小さい頃から、人に見せるようなものではありませんでしたが、物語のようなものは書いていたんです。本格的に書こうと思ったのは大学に入ってからで、授業やバイト以外の余っていた時間を使って、何かひとつ打ち込めるものに挑戦してみようと思って書き始めました。
――なるほど。公募への応募も同時にスタートしたんですか。
そうですね。ライトノベルは中学以降読むようになり、小説の中でも一番身近な存在になっていきました。やがて自分もこういう作品を書いてみたいと考えるようになり、執筆の開始とあわせて公募にも挑戦するようになりました。なので、公募歴も執筆歴とほとんど変わらず15年になると思います。
――ありがとうございます。そしてこのたび第38回ファンタジア大賞にて「大賞」を受賞されました。15年越しの受賞ということで、率直な感想をお聞かせください。
嬉しいという感情の後に、安心……というか、安堵の感情がありました。今回に限らず、作品を応募する時は、「ものすごく良い作品が書けた」、「最高の出来の作品だ」と思って送っています。一方で、結果が発表されるまでは「本当に面白い作品だったのか?」という不安も生まれ、情緒の波があるんですよね。なので、最初にお電話をいただいた時は、すごく嬉しい気持ちと、ホッとした安堵の気持ちでいっぱいでした。それから「大賞」の受賞が決まった時にも連絡をいただいて、お風呂場で雄叫びをあげたのもいい思い出です(笑)。本作の執筆は、ちょうど娘が生まれたタイミングでもあって、この作品がダメだったら、この先小説を書き続けるのは難しいかもしれないと思っていたんです。今作は和風ではありますが、多くの人に受け入れられやすい作品を目指して、王道ファンタジーという間口の広いジャンルで執筆をしました。「大賞」という結果は本当に嬉しかったです。
――受賞にはご自身も様々な思いがあったと思いますが、ご家族の反応はいかがでしたか。
娘は1歳だったのでわからないんですけど、妻は僕が学生の頃から小説を書いていることを知っていたので、確か「おめでとう」という反応だったと思うんですけど……どうだったかな?(笑)。でも「いつ本になるのか」といった話は、根掘り葉掘り聞かれた気がします。
――ありがとうございます。やや余談ではありますが、鞘童子に改名する前のペンネームも特徴的でしたよね。担当編集さんからは「受賞の判断において、ややマイナスの要素になっていた」というお話もうかがいました(笑)。
僕としては1回聞いたら誰もが忘れにくい名前、かつ応募する作品の要素を象徴するような、そういう意図をもってペンネームを変えながら公募に挑戦していました。できるだけ目立つようにという思いはあったんですけど、おっしゃる通り、担当編集さんからも「変なペンネームでの投稿は推奨しない」と言われました。「名前は心配だったけど、作品のクオリティから受賞の判断だった」とのことで、少しヒヤヒヤしましたね(笑)。
――これから公募に挑戦される方は参考にしていただくといいかもしれません(笑)。それでは受賞作『幕末エルフ』の物語についてもお聞きできればと思います。あらためて本作はどのような物語なのでしょうか。
本作はタイトル通りの作品となりまして、幕末という時代、鎖国をしていた日本に魔術やエルフが渡来してくるというストーリーです。物語は侍でありながら魔術を使う異端の浪人と、海外の文化に異を唱える攘夷志士に襲われていた、エルフの魔術師が出会うところから始まります。

※エルフの魔術師・メスティーとの出会いから物語は大きく動き出していく
――本作の着想について教えてください。
実のところ、本作の原案を考えたのは小説の執筆を始めた15年前になるんです。当時、どんな作品を書こうかと考えていた時、一般的に王道と言われるファンタジー作品を書こうと考えました。ただ、僕が西洋の文化や作品にあまり触れてこなかったので、西洋ファンタジーに馴染みが薄かったんです。そこで、好きなものでもお話したと思うのですが、時代劇を取り入れ、世界観を和風にしようと考えました。
――時代劇好きから和風のファンタジーへ繋がっていったわけですね。
そうですね。ただ、最初の構想では、物語の舞台は幕末ではなく江戸時代初期、天草四郎の島原の乱にしようと考えていました。しかし当時の自分の技量不足で、軍勢によるバトルシーン、そこから個人にスポットをあてる作品作りがうまくいかず、難航した結果、舞台を幕末に変えました。閃いた当時は、我ながら素晴らしい発想だと思っていたんですけど、結局執筆には至らなかったんですよ。
――それは何か理由があったのでしょうか。
アイデアを閃いてから、たまたま本屋に立ち寄ったのですが、第16回電撃小説大賞の「大賞」受賞作『幕末魔法士』という作品を目にしてしまい、「これは被った!」と思ってしまったんです(笑)。さすがにこれから執筆するのは気が引けるところもあり、お蔵入りすることにしました。しかし今回、新作を書くために過去の作品を漁っていたところ、当時の走り書きの原型データを見つけ、今回こそ完成させようと考えました。
――なるほど。本作については読み進めるほど作品として「王道」の雰囲気を感じました。15年前に「王道」を強く意識していた作品ゆえでもあったわけですね。
ありがとうございます。そういった理由もありつつ、ひとつ前の第37回ファンタジア大賞に応募した作品がかなり捻くれた作品だった影響も大きいかなと……(笑)。次は広く受け入れてもらえる作品を書こうという反動のような思いもありましたし、タイミング的にも執筆を続けていけるのかどうかという状況。だからこそ「王道」で勝負して、一番を狙いに行こうと考えた次第です。
――ありがとうございます。受賞後は改稿作業も行ってこられたと思いますが、振り返っていかがでしたか。
断言できるのは、改稿を経て投稿時よりもいい作品になっていると思うことでしょうか。担当編集さんからも作品としての弱い部分であったり、逆に伸ばした方いい部分など様々なアドバイスをいただき、しっかりと補強させていただきました。意に沿わないような改稿もなく、すごく書きやすかったです。一方で、投稿時点では存在していなかった島田アキというキャラクターを追加しているのですが、彼女のキャラクター設定を考えるのには結構悩みました。新選組側に登場するキャラクターであり、かつ世界観を象徴するキャラクターでもあるので、どんなキャラクターにすべきか、どう活躍させるか、考えるのは大変でした。改稿作業で一番大きく変わったところでもあるかなと思います。

※改稿作業によって物語に登場することになった島田アキ
――それでは本作に登場するキャラクターについてご紹介をお願いできますでしょうか。
主人公の時代己道は、兄を攘夷論者によって殺され、復讐に囚われた剣客になります。そんな過去を抱えるがゆえに己の武士道を見失っていたわけですが、ヒロインでもあるエルフのメスティーと出会い、少しずつ自分の武士道を取り戻していきます。己道は僕の考える一番格好いいキャラクターであり、多くの人に受け入れてもらいやすいキャラクターを目指して書きました。

※魔術を使う異端の浪人・時代己道
メスティーはエルフのヒロインで、中身を見ていただければわかると思うのですが、メスガキのキャラクターを目指して書きました(笑)。生意気で小憎たらしくて、でも調子に乗っていたら痛い目を見る。常に動きがあって、主人公と一緒に物語を引っ張ってくれるキャラクターを目指して書いていたところ、自然とメスガキのようなキャラクターになっていました。

※魔導書を探して旅をするエルフの魔術師・メスティー
沖田総司については、主人公の相棒兼ライバルという感じになります。彼が設定を考える上で一番苦慮したキャラクターでもあります。実在の人物であり、かつ様々な媒体でキャラクター化をしている人物になるため、パブリックイメージが固定化されていると思ったんです。そういったキャラクターを描くにあたっては、固定化されたイメージをあえて崩し、独自のキャラクターにしていくのか、または幕末や新選組で読者が求めているようなキャラクターにしていくのか、ずっと悩んでいました。最終的には、読者の方が抱く幕末の新選組・沖田総司への期待や求めるものから大きくズレないようにしつつ、内面というか性格に本作ならではの要素を取り入れました。

※新選組一番隊組長・沖田総司
島田アキは、新選組に所属するハーフエルフです。先ほども触れた通り、応募原稿時には存在していないキャラクターでした。主人公やヒロインと敵対したり、世界観であったり、新選組やエルフという種族を知ってもらう上では、とても重要なキャラクターになっています。

※新選組に籍を置くハーフエルフ・島田アキ
最後にもう一人、敵キャラクターである九城レオンハルトについても触れさせてください。僕は作品を書く上で、主人公とヒロイン、または主人公と敵対キャラクターに、何かしらの対比関係や類似要素を入れるようにしています。主人公とは復讐者という意味で共通しつつ、それぞれどういう結末を迎えるのかを考えながら執筆したキャラクターになります。

※徳川幕府の調魔番・久城レオンハルト
――本作については世界観をはじめ、キャラクターの在り様からもシリアスな雰囲気や要素を感じる一方、キャラ同士のコミカルなやり取りも印象的に残っています。そのあたりのバランスはどのように考えていらっしゃいましたか。
僕はシリアスな作品を執筆する際、暗くなり過ぎないように気を付けています。本作については要素のひとつに復讐があるわけですが、読んでる読者が暗くなりすぎないよう、笑って泣いての要素も織り込みました。もちろんコミカルなシーンはノイズにならない程度を意識していますが、殺伐としたキャラクターだけよりも楽しく読んでもらえるんじゃないかなと思っています。

※己道とメスティーの軽快でコミカルなやり取りも注目ポイントのひとつ
――コミカルさで言うと、沖田総司もある意味でお茶目ですよね。ヒロインのメスティーはメスガキを目指して執筆したとおっしゃっていましたが、沖田総司もどちらかというと「煽り系」のキャラクターなのかなと。鞘童子先生のメスガキ好きが、いろんなキャラクターに派生しているのではないかと邪推した部分もあったり(笑)。
なるほど……。意識的に書いていたわけではないんですけど、そう言われて「確かに」と思いました(笑)。
――それだけ筆が乗られていたということでもあると思いますが、あらためて鞘童子先生が執筆する上で強く印象に残ったキャラクターは誰でしたか。
主人公が一番、僕が思っていた以上に動いたなと感じています。ネタバレになるので深くは言及できませんが、最終決戦における主人公の選択は、自分の中で書こうと思っていた行動とは少しだけ異なる動きをしたんです。気付いたらそういう風に書いてしまっていて、僕の中でもすごく印象的というか、象徴的なシーンとして残ってますね。

※一度自らの武士道を失った時代己道が歩む新たな武士道の行方とは――
――ありがとうございます。続いてイラストについてもお聞きしたいと思います。書籍化に際してはイラストを刀 彼方先生が担当されました。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。
キャラデザを最初に拝見した時は感無量でした。僕は作品を執筆する際、「こういったキャラクターにしよう」というイメージをほとんど持たないんです。たとえばメスティーの場合、「髪は白くて目が赤い」という最低限の特徴くらいで止まってるんです。髪型や目つき、雰囲気などはまったく考えません。なので、キャラデザを拝見した時に初めて「このキャラクターはこんな顔だったのか」と、非常に感慨深かったです。刀 彼方先生のデザインは、僕のキャラクター造詣に馴染んだものばかりだったので、どのキャラクターも違和感なく受け入れることができました。お気に入りのイラストについては、全部好きだという前提はありつつも、選ぶなら表紙ですね。ヒロインのドヤ顔エルフが可愛いですし、男キャラ二人が背を向けている構図もすごく格好いいです。素晴らしいセンスだなと思いながら眺めています。

※鞘童子先生がお気に入りだというカバーイラスト
――著者として本作の見どころや注目してほしい点を教えてください。また、どんな読者が読むと、より本作を楽しめると思いますか。
執筆の上で一番意識したことは、王道であり読んでいる人が熱くなれる、燃える展開を意識しました。バトルものが好きなので剣戟描写にもこだわりましたし、ヒロインがどういう結末を迎えるのか、読んでる方が一気に引っ張られるような作品に仕上げたつもりです。舞台として幕末が好き、刀が好き、ボーイ・ミーツ・ガールが好き、主人公がボロボロになりながらも戦う姿が好きなど、そういう方にもぜひ手に取っていただきたいです。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
人気が出てからだとは思うんですけど、コミカライズやアニメ化ですね。あとは実写のドラマ化です。個人的に見放題系の配信サイトでも『SHOGUN 将軍』や『イクサガミ』など、時代劇が国を問わず広く受け入れられて人気になっている気がするんです。僕の中では時代劇の波が来ているので、本作も実写化に向いているんじゃないかなと。メスティーのメスガキ要素が足を引っ張る可能性はありますが(笑)。
――それでは最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。
読んでいただいた方には絶対に損をさせない作品に仕上がったと思っています。買っていただいた方には「2026年で一番面白い新作」、「買ってよかった」、「続きが読みたい」と思っていただける作品になったと思うので、みなさんぜひ手に取っていただけたらと思います。
――本日はありがとうございました。
<了>
幕末を舞台に浪人とエルフが魔術を介して出会う和風王道ファンタジーを綴った鞘童子先生にお話をうかがいました。主人公とヒロインのコミカルな展開はもちろん、剣に生きる者たちが幕末の時代に様々な想いを抱きながら激突していくバトルファンタジー。一人のエルフのために生きることを誓った男の行く末から目が離せない『幕末エルフ』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©鞘童子/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:刀 彼方

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