独占インタビュー「ラノベの素」 逢沢大介先生『陰の実力者になりたくて!』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2026年4月1日にエンターブレイン単行本より『陰の実力者になりたくて!』第7巻が発売された逢沢大介先生です。陰の実力者に憧れる少年の語った妄想が、実は世界の真実で、当の本人だけがそれに気づいていないという勘違いコメディを描く本作。2022年と2023年に放送されたTVアニメも人気を博しており、2027年には劇場版の公開も予定されています。強烈な個性を持った主人公・シャドウについてはもちろん、七陰や表の世界を彩るキャラクターの成り立ちなど様々にお話をお聞きしました。

 

 

陰の実力者になりたくて!7

 

 

【あらすじ】

『シャドウガーデン』を率いる七陰の第一席アルファ――彼女の故郷・エルフの国の王が急死し、次代の王を決める王位継承戦の開催が決定する。エルフの剣聖・ベアトリクスを筆頭に牙を研ぐ強者たち。暗躍する『三大派閥』。その裏に『ディアボロス教団』の影を察知したアルファは偽りの身分にて自らも王位継承戦の渦中に飛び込んでいく……。なんてことは深く気にせず、エルフの少女に弟子入りを志願されたシドは“師匠ポジション”という『陰の実力者』の新たな境地に立って王位継承戦に殴り込み!!

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

逢沢大介と申します。出身は岐阜県で、大学卒業後に東京に出てきました。執筆歴はおそらく15年程だと思います。ただ、僕の場合は1、2ヶ月で10万文字ほど書いて、数年間休むというサイクルを続けていたので、実際に手を動かしていた期間はもっと短いかもしれません。最近はいろんなことに身構えすぎないよう心がけていて、楽に生きようという意識が強くなってきました(笑)。

 

 

――数年という長いブランクがあると、創作への熱意を保ち続けることは容易ではないかと思います。そんな中で、執筆再開のスイッチが入る瞬間とは、どのようなタイミングなのでしょうか。

 

実は、「よし、書こう」と意識してスイッチを入れる感覚はあまりなくて。というのも、元々人と話すのが苦手なのもあって、普段から自分の中に溜め込みがちな性分なんですよね。とはいえ、ずっと世の中に何も発信せずにいると、やはり無意識にアウトプット欲が溜まっていきます。それが一気に溢れ出した瞬間に、自然と執筆のスイッチが入るわけです。

 

 

――世の中に発信する手段として、小説を選んだ理由についてはいかがでしょうか。

 

やはり、手を出しやすいという点が大きかったです。「日記が書けるなら一人称小説も書けるはずだ」と考えていたくらいなので、執筆に対するハードル自体が低かったんです。一人で作業を完結させられる気軽さも、自分には合っていました。それに加えて、『魔術士オーフェン』シリーズをはじめ、小説をある程度読んでいたことも、とっつきやすさにつながっていたんだと思います。

 

 

――小説は読まれていたということですが、それ以外ではどんなコンテンツに触れることが多かったんですか。

 

映画を見ることは多かったです。小学校から高校にかけて、レンタルショップのDVDや「金曜ロードショー」で色々な作品に触れてきました。あとは「ニコニコ動画」もよく視聴していたのですが、あの体験が今思えば創作の助けになっていたと感じています。映画の場合、鑑賞後の感想を知ることはできても、特定の場面に対する「生の反応」まではなかなか分からないじゃないですか。その点、ニコニコ動画は画面上にコメントが流れてくるので、その瞬間ごとの視聴者の反応がダイレクトに伝わってくる。同じシーンを見ているのに受け取り方がこんなにも違うのかという気づきがあって、それがすごく面白かったんです。

 

 

――ニコニコ動画のリアルタイムで感想が流れてくるという特徴は、1話単位で感想が届く「小説家になろう」とも通じる部分があるように感じます。『陰の実力者になりたくて!』は小説家になろうで連載されていましたが、執筆にあたっても「生の反応」がダイレクトに返ってくる環境が、逢沢先生には合っていたのでしょうか。

 

そうですね。1話単位で感想をもらえる環境は、非常にありがたかったです。もともとキャラクターもストーリーも細かく決めずに書き進めるタイプなので、読者の反応に影響を受ける部分が大きいんです。みんなに喜んでもらえるものを書きたいという気持ちが強いので、感想をリアルタイムでストーリーに反映していく方法が自分には合っていました。ただ、今はリアルタイムの反応が見えない分、何を書けばいいか分からなくなることも多くて、手探りで書いている状態です。

 

 

――となると、WEBで連載していたエピソードをベースにした第3巻までと、完全書き下ろしとなった第4巻以降では、執筆時の感覚そのものに大きな違いがあったわけですね。

 

そうですね。WEBだと何十万という読者がリアルタイムで更新を待っていたので、今すぐ出さなければという緊張感が常にありました。まさに「命を削りながら執筆する」という状況だったと思います。今はじっくりと物語を詰めていける分、より丁寧に書けるようになりました。それは本来喜ばしい変化ですが、あの緊張感があってこそ絞り出せたものも、確かにあったと感じています。とはいえ、あのままWEB連載を続けていたら、おそらく心身ともに限界が来ていたでしょうね。

 

 

――ありがとうございます。『陰の実力者になりたくて!』は昨年11月で7周年を迎えました。これまでを振り返ってご自身の中で変化を感じる部分はありますか。

 

環境は大きく変わりましたね。作家になったことで、仕事も生活スタイルもまったく違うものになりました。でも、本質的な部分はほとんど中学生の頃のままで(笑)。変わらぬ感性を持ち続けていることが、小説を書き続けられる要因なのかもしれません。まあ、最近は衰えも感じていますけど。

 

 

――第1巻発売以降の人気ぶりを見ていると、好調そのもののように感じます。それだけに、逢沢先生の口から「衰え」という言葉が出てくるのは、少し意外でした。

 

やっぱり、少なからず「衰え」はあると思います。数ヶ月前に、久しぶりに第1巻の最初の方を読み返す機会があったんですが、読みながら「当時は勢いがあったな」と感じました。年を重ねるごとに、そう思う気持ちが強くなっています。

 

 

――そんな中でも、この7年の間には2022年のアニメ化、2023年の第2期放送と大きな出来事が続きました。ご自身の作品をアニメでご覧になった当時の心境は、どのようなものだったのでしょうか。

 

素晴らしい映像にしていただけたことは本当に嬉しかったです。気の利いたことを言えなくて恐縮なんですけど、関わってくださった皆さんには心から感謝しています。

 

陰の実力者になりたくて!

※2022年と2023年のアニメ放送で、本作はさらに大きな注目を浴びていくこととなった

 

 

――ちなみに、アニメで印象に残っているシーンはどこでしたか。

 

一番は、やっぱり「アイ・アム・アトミック」ですね。あと第2期で描かれたデルタとシャドウの掛け合いのシーンも忘れられなくて。中西監督には小説以上に活き活きとしたシーンにしていただけましたし、山下誠一郎さんやファイルーズあいさんの演技も本当に素晴らしかったです。

 

 

――アニメを含め様々なメディア展開が行われている中で、それらが小説を書く上でのヒントや刺激になるようなことはありましたか。

 

具体的なアイデアというよりは、キャラクターの掘り下げや作品の空気感といった部分で、色々と刺激をもらっています。特にゲームは世界観の広がりがすごいんですよね。小説では深く描いていないキャラクターも多数登場しますし、自分の中になかった視点にハッとさせられることも多かったです。

 

 

――ありがとうございます。ここからは、作品の中身について触れていければと思います。まずは、『陰の実力者になりたくて!』という物語が生まれたきっかけを教えてください。

 

当時の「小説家になろう」では異世界転生ものが流行していて、「自分でも何か書いてみよう」と仕事の冬休みにいくつか案を練ったんです。けれど、どれもこれといった決め手に欠けていました。気づけば冬休みも残り少なくなってきたので、「陰の実力者になりたい少年が異世界に転生する」という設定一つで見切り発車したのが本作になります。当初は「本当にこのままでやっていけるのか」という不安もありましたが、執筆2日目ぐらいに「これ、勘違いものにしたら面白くなるのでは」というアイデアが浮かび、急遽そちらに舵を切ったんです。結果的にそれがうまくハマりましたね。

 

 

――「陰の実力者」という題材を選ばれた理由についてもお聞かせください。

 

「小説家になろう」との相性は強く意識していました。勇者や魔王、悪役令嬢といった定番の転生ものが人気を博す中で、「陰の実力者」にはそれらに埋もれないパンチがあると感じたんです。それに、人間誰しも「陰の実力者」に憧れる部分ってあると思うんですよね。自分自身もまさにそうだったので、これなら熱量を持って魅力的に書けると考え、この題材を選択しました。

 

 

――「陰の実力者」への憧れと題材としてのインパクトが、本作誕生の背景にあったわけですね。その上で、現在はどのような物語を目指されているのでしょうか。

 

最初は行き当たりばったりだったのですが、書き続けるうちに、自分が何を書きたかったのかが少しずつ見えてきました。日本で暮らしていると、ルールやモラルに縛られて窮屈に感じることってあるじゃないですか。「もうちょっとみんな自由に生きていいんじゃないか」、「自分に素直に生きてもいいんじゃないか」、そういう提案が、この作品の根っこにあると思っています。主人公のシャドウは、その体現者なのかもしれません。

 

 

――確かに、シャドウの自分がやりたいことに正直な姿は、見ていてどこか清々しさを感じました。そんな彼のキャラクターを作る上で、大切にされていたことは何ですか。

 

シャドウのキャラクターを練る上で大事にしていたのは、「この男が次にどんなことをするのか。その先が見てみたい」と思えるかどうかでした。彼の行動原理は「いかに憧れの陰の実力者に近づくか」という一点のみ。そのためなら手段を選びませんし、その無邪気なこだわりが、結果として大きな騒動へと発展していくんです。「この男ならもっととんでもないことをしでかしてくれるはずだ」という読者の期待に全力で応え、迷わず突き進んでくれる、そんな主人公を目指しました。

 

陰の実力者になりたくて!

※理想の「陰の実力者」を追い求め、最強への道を突き進むシャドウ

 

 

――「迷わず突き進む」というのは、意識していても実践することはかなり難しいですよね。なぜシャドウは、ここまで憧れに対する熱量を持ち続けられるのでしょうか。

 

子供の頃は誰しも「ヒーローになりたい」といった純粋な憧れを抱くものですが、普通は大人になるにつれて、どこかで折り合いをつけて現実を見始めます。ですが、シャドウの場合はそういった社会的な常識が一切通用しません。彼がずっと「陰の実力者」に向かって突き進めるのは、周囲の目や現実の壁を気にする以前に、自分の欲望に対してあまりに忠実すぎるからです。傍から見れば狂気かもしれませんが、本人にとってはただ「好きなことを全力でやっている」だけ。その「好き」の熱量が、世の中のあらゆるブレーキを上回っている。それが、彼が止まらずにいられる一番の理由なんだと思います。

 

 

――お話をうかがっていて思い出したのは、ローズがシャドウの言葉に触れ、父であるオリアナ国王を刺す決断をした場面。あのシーンはシャドウ本人の意図とは異なるかもしれませんが、「己を貫き通す」というシャドウの生き方が影響を与えた瞬間だったようにも感じられます。

 

それは大いにあったと思います。書いている最中はそこまで意識していなかったんですが、書き終わってみると、シャドウの生き方に触れたキャラクターが「自分を貫き通す」選択をしていく、そういった流れが自然と生まれていましたね。

 

陰の実力者になりたくて!

※シャドウの生き方や言葉が、図らずも多くの人間たちを駆り立てていく

 

 

――また、シャドウは、「ジミナ・セーネン」や「ジョン・スミス」、「ジャック・ザ・リッパー」など、様々な設定の「陰の実力者」になりきって活躍していきます。非常にバラエティ豊かなのですが、特に筆が乗ったエピソードを教えてください。

 

ジョン・スミスのエピソードが個人的には一番好きです。WEB連載時に書いたお話なのですが、すでに書籍化が決まっていたので、担当編集さんに「賛否両論あるかもしれないですけど、やっていいですか」と相談した上で進めたんです。案の定、否定的な意見もあったのですが、賞賛の声もそれ以上に多くて。賛否がはっきり分かれた分、かえって印象に残りましたね。

 

陰の実力者になりたくて!

※シャドウガーデンにとって数少ないピンチであったのが、ジョン・スミスの仕掛けた信用崩壊だった

 

 

――「賛否が分かれるかもしれない」と感じていたのは、具体的にどういったファンの反応を予想されていたからですか。

 

シャドウがシャドウガーデンと敵対するエピソードでしたから、「七陰をいじめるな」という反応は来るだろうなと。ただ、最強のシャドウと、個々がかなりの実力者である七陰の激突を純粋に楽しんでくれた読者が多くて、救われましたね。

 

 

――様々な「陰の実力者プレイ」を楽しんでいるシャドウですが、その先の「最終的なゴール」は見据えているのでしょうか。彼が目指す「陰の実力者像」が定まっているのか教えてください。

 

書き始めた当初から、僕自身の中で「陰の実力者とは何か」はまったく固まっていなかったんですよ。ふわっとしたイメージのまま書き始めたので、その時々のイベントにあわせて理想の「陰の実力者」を演じ分けていく形になりました。ただ振り返ってみると、一つの形に縛られない自由さこそが、彼というキャラクターの本質だと思いますし、今はガチガチに固めなくて正解だったなと考えています。

 

 

――「何にも縛られない自由さ」こそがシャドウの本質である一方で、彼が欲望のままに動きすぎると、物語を進行させることが難しくなる側面もあるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。

 

それについては、アレクシアを表側の主人公として置いたことで、かなり緩和されましたね。シャドウが好き勝手に動けるよう、物語を牽引する役割を彼女に任せて、裏でシャドウが暗躍するという構造にしたんです。今となっては「アレクシアがそこまで主人公していたか?」となるんですけど(笑)。

 

陰の実力者になりたくて!

※表側では「モブ」に徹しようとするシドと彼を振り回しながら物語を牽引していくアレクシア

 

 

――なるほど。「表の主人公」はアレクシアだったのですね。シャドウは常に最強であるのに対し、アレクシアやローズは泥臭く成長していく印象を持っていたので、今のお話で腑に落ちました。

 

あえて「成長」のドラマを彼女たちに任せたことには、実は自分なりの狙いがあるんです。物語を作る時、普通は山があって谷があってといった波を作っていくじゃないですか。でも、谷をしっかり設ける物語と「なろう系」の相性ってすこぶる悪いんですよね。だからシャドウの前には谷を設けず、高みへと突き進んでもらい、代わりにアレクシアやローズなどには山や谷を乗り越えて成長してもらう構成にしたんです。

 

 

――ありがとうございます。ここからは他のキャラクターについても掘り下げていければと思います。個性的なキャラクターの多い本作ですが、逢沢先生のキャラクター作りのスタイルについて教えていただけますか。

 

これについてはなかなか答えるのが難しいんですよね。というのも、僕はキャラクターの細かい設定をほとんど考えないんです。しっかりと考えたのはシャドウぐらいで、それ以外のキャラクターは「こういう役割が必要だ」、「こんなキャラクターがいたら面白いかも」と思ったタイミングで、都度追加していったというのが正直なところです。キャラクターはストーリーを書きながら固めていく、そういうスタイルでやっています。

 

 

――シャドウの脇を固めるキャラクターについては、ストーリーの必要性に応じて追加されていったのですね。では、その中でもシャドウと共に暗躍する七陰たちは、どのように形づくられていったのでしょうか。

 

彼女たちは、「シドが楽しく好き勝手に動ける環境」を整えるための存在として描きました。まず考えたのは、彼が暴れるためのフィールドを完璧に用意してくれるアルファの存在です。彼女が基盤を作り、ベータがそれを補い、ガンマが経済の面で広げていく。シャドウが一切の制約なく自由に振る舞えているのは、七陰たちが多方面から彼を支えているからなんです。

 

アルファ

※シャドウガーデンの実質的な統率者であるアルファ

 

また、ストーリーを盛り上げる面でも彼女たちの役割は大きいです。例えばベータは、シャドウとは別ルートで表舞台のアレクシアやローズと協力関係を築いていきます。本来、「表の人間関係」と「裏の人間関係」は独立していますが、ずっと分かれたままでは展開に広がりがありません。あえてベータを介して両者を同じ事件に合流させることで、二つの異なる視点が重なり合って進む面白さが生まれると考え、彼女を動かしていきました。

 

ベータ

※情報通で表向きには作家としても活躍するベータ

 

ただ、ガンマだけは僕にしては珍しく「意図的に作った」キャラクターなんです。連載開始から1、2ヶ月経った頃、担当編集さんから「もっとヒロインを増やしてほしい。ヒロインに割く文章を増やしてほしい」という指摘をいただいて。それならキャッチーなキャラクターの方がいいと考え、ガンマには頭脳派だけど戦闘センスが皆無なドジという属性をもたせました。他のメンバーが物語の流れで自然と形を成していったのに対し、彼女だけは明確なオーダーから生まれた、稀有なケースでしたね。

 

ガンマ

※シャドウガーデンを支える「ミツゴシ商会」商会長の顔を持つガンマ

 

 

――アルファが組織としての基盤を作り、他のメンバーがそれぞれの専門分野でシャドウを支える。そうした七陰の役割分担の中で、圧倒的な武力を担っているのがデルタかと思います。純粋な戦闘力でいうと七陰最強はやはり彼女なのでしょうか。

 

正面からの戦闘や巨大な標的、集団が相手なら、デルタが一番強いかもしれません。ただ、パワーこそ七陰の中でもトップクラスですけど、いかんせん思考が単純ですからね(笑)。搦め手や読み合いを含めた総合力や対人戦となると、やはり全ステータスがバランスよく高いアルファに軍配が上がると思います。

 

デルタ

※七陰の中でも随一の戦闘力を誇る犬の獣人デルタ

 

 

――圧倒的な武力を誇るデルタに対し、第五席のイプシロンは「技術」を極めた存在です。彼女の緻密な魔力制御は、「理想の体型になりたい」という一心で磨かれたものですが、その執念のあり方にはシャドウの生き方に通ずる部分があるように感じました。

 

言われてみると、確かにそうかもしれませんね。彼女は自分のコンプレックスを埋めるために魔力制御を磨き続けましたが、モチベーションの根源が徹底して「自分の理想」である点はシャドウと同じです。自分の理想を追求した結果として、強大な力を手に入れてしまう。このプロセスのあり方が、二人が似ているように感じる要因なのかなと思います。ただ、実はイプシロンのスライムスーツ設定は、完全に後付けなんですよ(笑)。最初はスパイものによくいる「ミステリアスで綺麗なお姉さん」という役割を想定していました。それが、より面白く、キャラクターを際立たせようと考えていった結果、いつの間にか「胸をスライムで盛るキャラクター」に辿り着いてしまいました(笑)。

 

イプシロン

※理想の体型を追い求めた結果、魔力操作を極めることになった「緻密」のイプシロン

 

 

――第5巻以降で本格的に描かれることになるゼータとイータについてもお聞かせください。この二人は、これまでの七陰のメンバーとはまた少し異なる存在ですよね。

 

ゼータに関しては、単にディアボロス教団打倒の一本道を進むだけだと、ストーリーに刺激が足りないと思い、物語をかき乱すスパイスのような存在として生み出しました。彼女については、昔読んだ『魔術士オーフェン』シリーズのコルゴンというキャラクターに影響を受けた部分もあるかもしれません。

 

ゼータ

※何をやってもそつなくこななせる天才肌のゼータ

 

 

イータも同様の「かき乱し役」ですね。七陰って、ベクトルこそ違えどもアルファやデルタなど、意外とみんな素行がちゃんとしているんです(笑)。だからこそ、モラルを度外視した実験をしたり、予算を無視して発明に没頭したりと、自分の好きなことだけを追求するイータの奔放さが際立ってくるわけです。彼女の「我が道を行く」スタンスは、ある意味シャドウとも少し似ているのかもしれません。

 

イータ

※好奇心や探求心が強く、研究のためなら手段を選ばない発明家のイータ

 

 

――七陰はひとりひとりの個性が非常に際立っていますが、キャラクターによって、書いている時の手応えや感覚に違いなどはあるのでしょうか。中でも特に「動かしやすい」と感じるキャラクターを教えてください。

 

アルファ、ベータ、デルタは特に動かしやすいなと感じています。この三人は主人公との関係性が盤石にできあがっているので、言い方は悪いですが「手癖」で書けるというか、自然に動いてくれるんです。逆に、先ほどお話ししたゼータやイータは、まだ自分の中でも探り探りの部分があって。形が完全に整うまでは、動かし方も慎重になりますね。

 

 

――七陰については各々が別の場所で活躍するシーンが多く、全員が一堂に会する機会は意外なほど少なかった印象があります。あえて全員が揃う場面を描いてこなかったのは、何かこだわりがあるのでしょうか。

 

単純に、描くのが大変だからじゃないですかね(笑)。……というのは半分冗談として、もちろんいつかは集結させようと思っています。ただ、安売りはしたくないというか、読者の皆さんが「待ってました!」と思えるような、ここぞというタイミングでやりたいんです。一応、アニメ第2期の温泉回(第8話「龍の涙」)の原案を小説として書き下ろした際は7人揃っているんですが、あれはあくまでコメディですから(笑)。本編での「全員集合」は、その時が来るまで楽しみにしてもらいたいです。

 

 

――本編での七陰の集結、楽しみにしています。さて、七陰という裏側の重要人物たちについてお聞きしてきたところで、表側のキャラクターについてもうかがっていければと思います。先ほど「アレクシアは表の主人公ポジション」というお話がありましたが、あらためて彼女の立ち位置や、描く上で意識していたことを教えてください。

 

アレクシアについては、表の世界でシドを引っ張り回す存在として描きました。主人公の立ち位置は、周りとの関係性によって相対的に決まるものだと思っています。裏の世界ではアルファたちがシャドウを支えていますが、表ではヒョロやジャガがシドと同じ位置にいて、その上にアレクシアがいるという構図となっています。この上下関係があるからこそ、王女である彼女に構われるとシドが理想とする「モブムーブ」はことごとく阻害されてしまうんです。その計算通りにいかない不自由さが、表の世界のコメディ要素に繋がっていくことになります。

 

 

――シドを振り回す一方で、アレクシア自身も彼から非常に大きな影響を受けていますよね。

 

そうですね。物語を通して、彼女は「ありのままの自分」を受け入れられるようになりました。「自分にできることをしよう」、「自分にしかできないことがある」、そう気づけたことは彼女にとって一番大きな成長だったと思います。

 

アレクシア

※シドとの出会いで、己の剣を認められるようになった第二王女アレクシア

 

 

――表側のキャラクターでもう一人、シドの姉であるクレアの存在感も際立っています。最初は「だらしない弟をまっとうにしなければ」という態度でしたが、次第に「弟を守らなければ」という使命感に変わっていきました。この姉弟の関係性はどのように描こうとされていたのでしょうか。

 

明確な意図があったわけではないのですが、彼女も「主人公ポジション」として描こうとしていた節はあります。漫画やアニメの異能力バトルもので、主人公の隣に「守るべき日常の象徴」として妹が描かれることは多いと思います。本作では、それを「主人公であるクレア」と「守るべき弟のシド」という形に反転させました。その配役の結果、彼女は弟を守るために自ら裏側の世界へ踏み込んでいくことになります。第5巻のクレアがアウロアや魔神ディアボロスの謎を探るエピソードなどは、まさに「異能バトルっぽさ」が表れた部分でした。

 

クレア

※形は変われど、常に弟のことを気にかけている姉のクレア

 

 

――ありがとうございます。ここからは、イラストについてお聞きできればと思います。本作のイラストは東西先生が担当されていますが、これまでを振り返って、お気に入りのイラストや印象深いイラストについて教えてください。

 

最初に「あ、これだ」と思ったのは、第1巻の口絵です。シャドウを筆頭にシャドウガーデンのメンバーがずらりと並んだ一枚なのですが、自分のイメージにぴったり合っていて。当時の編集さんや中西監督も同じようなことをおっしゃっていましたし、この作品を象徴するビジュアルだと思います。あとは、第3巻のカバーイラストも、全体のバランスが良くて好きですね。

 

陰の実力者になりたくて!

 

陰の実力者になりたくて!

※逢沢先生が特に印象に残っていると語るイラスト

 

 

――ちなみに、シャドウはこれまで様々な姿で活躍をしてきましたが、気に入っているシャドウの変装キャラクターデザインはありますか。

 

第6巻に登場する、ピエロの姿をした連続殺人犯「ジャック・ザ・リッパー」です。ビジュアル的なインパクトがとにかく強烈で、非常に印象に残っています。

 

陰の実力者になりたくて!

※悪徳貴族を次々と葬っていく連続殺人犯「ジャック・ザ・リッパー」

 

 

――続いて発売された第7巻の見どころや、注目してほしいポイントについて教えてください。

 

まずは読者の皆さん、大変お待たせいたしました。お待たせしてしまった分、今の自分に出せる全力をすべて注ぎ込んで書き上げました。見どころとしては、やはりジョン・スミスのエピソード以来となる「シャドウVS七陰」の激突ですね。さらに今回は師匠ポジションの名もなき剣士という、これまでにない新機軸の「陰の実力者ムーブ」を詰め込んでいます。シャドウが初めて取った弟子が、彼の教えによってどんな変化を見せるのか、その過程も楽しんでいただきたいです。

 

陰の実力者になりたくて!

シャドウ演じる「ナゾノ・セーネン」と、彼に弟子入りし次期国王を目指すララノアの師弟関係に注目

 

 

――第7巻については、バトルロワイヤル形式の王位継承戦も非常にワクワクさせられました。

 

このアイデアを考え始めたのが3年程前なので、随分温めていましたね(笑)。当時、世間ではバトルロワイヤル系のゲームが流行っていたのですが、それをライトノベルで本格的に組み込んだ作品は意外と少なくて。「書くのは大変だろうけど、ラノベとの相性はいいはずだ」という確信はあったので、誰もやらないなら自分がやってやろうという精神で挑戦しました。

 

 

――ありがとうございます。そして先日、『劇場版 陰の実力者になりたくて! 残響編』が2027年に公開されることも発表されました。公開を心待ちにしているファンの皆さんへ、ぜひメッセージをいただけますでしょうか。

 

中西監督にはすごく熱量を持って取り組んでいただいています。以前、絵コンテを拝見する機会があったのですが、描き込みの密度が凄まじくて圧倒されたのを覚えています。間違いなく素晴らしい映像になると思いますし、原作より面白くなっている部分もたくさんあるはずです。ぜひ楽しみにしていただきたいです。

 

陰の実力者になりたくて!

※『劇場版 陰の実力者になりたくて! 残響編』は2027年公開!

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

とりあえず死ぬまでに『陰の実力者になりたくて!』を完結させたいです。残り10冊程度でまとめたいですね。20冊を越えると多分20年後になってしまいますし(笑)。

 

 

――ちなみに逢沢先生の中で、ラストの構想はすでにお持ちですか。

 

かっちり決めているわけではありませんが、「こんな形で落とそうかな」というイメージはあります。ただ、僕はプロットも立てないですし、キャラクターもかっちり作り込まないタイプなので、今のイメージとはまったく違うところに着地するかもしれないです(笑)。

 

 

――最後にファンの皆さんが一番気になっている「次」についても、あえてお聞かせください。第8巻は、いつ頃になりそうでしょうか。

 

半年ぐらいで書けたらいいな、というのが願望なんですが、実際はなかなかそうもいかなくて……。まずは「1年後」を目標に頑張ります。

 

 

――次の巻も楽しみにしています(笑)。本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

陰の実力者を目指して我が道を行く主人公・シャドウと彼を支える七陰、そして彼らに振り回されるキャラクターたちによる主人公最強×勘違いコメディを綴った逢沢大介先生にお話をうかがいました。陰の実力者になりたい一心で行動するシャドウとシリアスな周囲のギャップはもちろん、シャドウの影響を受けて変化していくヒロインたちや個性豊かな七陰も大きな魅力の本作。演技派らしい陰の実力者プレイで波乱をもたらすシャドウの活躍を、ぜひその目で確かめてください。『陰の実力者になりたくて!』は必読です。

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜・鈴木>

 

©逢沢大介/KADOKAWA エンターブレイン刊 イラスト:東西

©逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン

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[関連サイト]

『劇場版 陰の実力者になりたくて! 残響編』公式サイト

『陰の実力者になりたくて!』公式SNS

 

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