独占インタビュー「ラノベの素」 神岡鳥乃先生『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2026年5月1日にPASH!文庫より『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』第2巻が発売された神岡鳥乃先生です。甘酸っぱい青春ラブコメは物語が進むにつれて、「何かおかしなことに巻き込まれている」という読み味を醸しだし、衝撃的な展開へと至っていく――。読み進めることでジャンルが変遷していく本作の着想や裏話についてはもちろん、シリーズ化において鍵を握る加賀蘇芳というキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。
※本記事では作品の核にあたるネタバレが一部含まれていますのでご注意ください。

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【あらすじ】 高校1年生の門城譲理は、大学推薦を得るため生徒会庶務としてコツコツ内申点を稼ごうとしていた。そんな中、同級生の加賀蘇芳から効率のいい裏技を勧められる。それは「問題児・蛇目花蓮の更生」というミッションだった。気乗りしない譲理だったが、実は花蓮が「昔に出会った初恋の少女」だと気づき、二人の距離は急速に縮まっていくのだが……。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
神岡鳥乃と申します。出身は滋賀県で、高校までは地元で過ごし、大学を富山、大学院までを名古屋で過ごしました。現在は東京のゲーム会社でシナリオライターをやっております。大学院の在学中に、『研究棟の真夜中ごはん』にて漫画原作者としてデビューしました。その後、『空冥の竜騎』で講談社ラノベ文庫新人賞を受賞させていただき、ラノベ作家としてもデビューさせていただいています。『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』はラノベ2作目になりますね。好きなものはあらゆる作品を見たり読んだりすることで、特に武田綾乃先生の『響け!ユーフォニアム』シリーズが好きです。アニメでは『魔法少女まどか☆マギカ』や『コードギアス』のような、いわゆるどんでん返し系の作品が好みです。苦手なものは居心地の良すぎる環境でして、居心地が良い環境だと気が抜けてしまうことが多く……。なので、執筆作業は主に電車の中など、敢えて環境の悪い場所で書いたりしています。
――神岡先生はゲーム会社に所属していらっしゃるんですね。ということはゲームもお好きなんですか。
そうですね。最近なんですけど、Steam Deckというゲームのハードを買いました。これまでインディーゲームはNintendo Switchやプレイステーションなどへの移植を待ってプレイしていたんですが、Steam Deckはそのハードルが低く、マニアックなゲームも多いんです。インディー系のアドベンチャーやノベルゲームをプレイすることが多いですね。
――ありがとうございます。様々な作品を見たり読んだりすることもお好きとのことですが、実際にご自身で小説を書き始めたのはいつ頃だったのでしょうか。
初めて小説を執筆したのは高校生の頃だったと思います。当時は西尾維新先生の『化物語』なども読んでいて、そういった作品に感化され、気づいたら書いていました(笑)。初めて短編を書いて、電撃小説大賞に送った記憶があります。
――なるほど。執筆意欲の向き先はオリジナル作品のみだったんですか。
いえ、二次創作もやっていました。最近では例えば、『響け!ユーフォニアム』のアニメ第3期が2024年に放送されていましたよね。当時、毎週放送後の日付が変わる前までに必ず、SSを13週間連続でアップしたりもしていました(笑)。
――二次創作への熱量も高く持たれていたわけですね(笑)。高校時代に執筆を開始し、公募にも応募されていたということで、いつからプロを目指そうと思ったのでしょうか。
そのあたりは結構ふわふわしていたと思います。気づけば大学院に進んで、プロの小説家になることの難しさも理解していましたし……挑戦してダメだったら理系の仕事や公務員を目指そうと思っていました。とはいえ、夢を諦めきれず、毎年応募は続けていました。その結果8年かかりましたが、講談社ラノベ文庫新人賞を受賞することもできました。受賞当時はゲーム会社に就職して忙しく仕事をしていたこともあって、連絡をいただいた時も「喜ぶのは仕事が終わってから」って感じでしたが(笑)。
――ありがとうございます。さて、ご自身にとってはラノベ2作目となる『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』ですが、第1巻の反響はかなりあったかと存じます。著者としてはどのように読者の反応を見られていましたか。
本当に感謝しかありませんでしたね。毎日感想をいただける日もありましたし、今でも第1巻から半年以上が経っているにもかかわらず、感想を寄せていただくこともあります。書店員の方にもプッシュしていただけたことも嬉しかったです。作品としては飛び道具的なつくりではあったんですけど、好意的な受け止め方をしていただけたのかなと。普段ライトノベルを読まない層にも手に取ってもらえ、面白かったと言ってもらえたのも嬉しかったですね。

※ラノベニュースオンラインアワードでも「総合部門」や「新作部門」など三冠を獲得した
――著者としてはどういった点が読者に刺さったと感じていますか。
おそらくですが、文芸とライトノベルのどちらでも難しい、今までになかったようなことに挑戦した結果なのかなと思っています。普通に文芸作品としてパッケージしたら、この作品は軽すぎたと思うし、ライトノベルという視点でも、キャラクターを尖らせる方向から敢えて外し、ミステリーにしかないようなどんでん返しに挑戦しました。ラノベではミステリー系に寄せ、ミステリー系ではラノベのような展開の速さに寄せた感じです。そういったギリギリの境界線を攻めたのがよかったのかなと思います。
――『魔法少女まどか☆マギカ』や『コードギアス』が好きだとおっしゃっていましたが、本作を読むと「確かに」と納得する人は多そうです(笑)。
そうかもしれないですね(笑)。他の作品だと『進撃の巨人』なんかもそうです。私自身、それらの作品がなんで好きなんだろうと振り返った時、物語が進むごとにジャンルが変わっているような気がしたんです。『進撃の巨人』で言えば、最初はデスゲームやゾンビっぽい世界観から、だんだんと巨人の正体に迫るミステリーのようになっていき、最後には国を巻き込むような物語へと移り変わっていく。『魔法少女まどか☆マギカ』も、最初はほんわかな世界観から、ダークファンタジーのようになり、SFのような物語へと移り変わっていくわけじゃないですか。同じひとつの作品でありながら、展開が進むにつれてジャンルが変わっていくタイプの作品は、俯瞰してみた時に一言で説明しづらいと思うんです。そういった一言で言い表せないことが、面白いんじゃないかなと感じるわけです。
――それではあらためて『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』がどんな物語なのか、第1巻を振り返りながら教えていただけますでしょうか。
『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』の第1巻は、「夢の彼女編」というサブタイトルになっています。夢に出てきた女の子に恋をする残念な主人公・赤月楓くんの前に、夢の女の子にそっくりなヒロインが現れます。その女の子は主人公と同じクラスに転校してきて、住んでいる場所もお隣さん。さらに生活力が皆無ゆえに世話を焼くことになり、向こうの女の子も楓くんのことを想っている両片思い状態。物語の序盤から様々な舞台が揃い、展開していく新感覚なハイスピードラブコメという建付けでやらせていただいています。表面的には王道のラブコメを装っているんですけど、裏ではいろんな仕掛けがあって……というような物語ですね。

※出会いから二人があっという間に距離を縮めていく青春ラブコメディ……?
――本作の着想についても教えてください。
私自身、これまで様々な作品に触れて楽しんできました。一方で、その弊害と言ってしまうとアレなんですけど、悪癖としてメタ読みをしてしまいまして……。元も子もないことを言うと、ミステリーなら「最後はどうせ謎が解かれるんでしょ」とか、バトルものなら「最後には主人公が勝っちゃうんでしょ」みたいな感じになってしまう。当然ラブコメにも「なんやかんや最後は誰かしらと結ばれるんでしょ」みたいな意識で読んでしまうことがあるんですよ。もちろんその過程が楽しいのは間違いないんですけど。
――なるほど……たくさんの作品に触れれば触れるほど、割とぶつかりやすい問題のような気もしますね。
そうですよね。ただ、あらためて自分がワクワクした作品はなんだろうって考えた時に、行きついたのがジャンルを横断する、破壊するような作品でした。結末も全然予想ができない、でもすごく楽しくて目が離せない。そういった作品を面白いと感じていたことを思い出したわけです。ただ、そういった作品が読者にとって非常にハードルが高くなることも自覚しています。たくさんのエンタメがある中、タイパというものも重視される昨今です。読む前からある程度「こういうお話だよね」ってわかってもらえないと、手に取るのも躊躇われてしまう傾向は強くなってきているんじゃないかなと、ゲーム業界にいるからこそ強く感じる部分もあります。そんな悩みを抱えていた時に、どうせなら両方のいいとこ取りをしたいなと思いました。自分が書きたいものと、読者が手に取りやすいものをくっつけたい。その解決策として今作のギミックを考えたんです。最初はジャンルの王道を敢えて踏襲し、読者の方が「こういう話ね」と物語に入ってきたところでひっくり返すことができれば、自分も読者もハッピーな作品ができるんじゃないかと考えました。王道をひっくり返す上では、個人的に「ライトノベル=ラブコメ」の印象も強く、ラブコメジャンルを選択した感じです。
――非常に興味深いお話ですね。となると作品の内容とタイトルはどちらが先に生まれたのでしょうか。
先に考えたのはプロットですね。10回以上、作っては壊してを繰り返し、ようやく形が整った時に自然と浮かんできたのが『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』というタイトルでした。ちゃんとジャンルも言って、何が起こるかも言って、最後のオチも言って、それでも楽しめますよっていうタイトルです。さらに「ここまでタイトルを赤裸々にしているということは、何か思いもよらぬ面白さが待ち構えているんだろう」というメタ読みをされる方や見え方も意識して、付けさせていただきました。
――ありがとうございます。また、もうひとつ気になる点として、本作のシリーズ化は構想段階から意識されていたのでしょうか。
当初はそこまで気合いを入れてシリーズ化しようとは考えていませんでした。ただ、もしシリーズ化させるのであれば、加賀蘇芳を縦軸にするしかないだろうなとは思ってましたね。もちろん、それだけで1巻分のボリュームをまるまる担保するのは無理なので、そこは未来の自分がなんとかしてくれるだろう、と(笑)。第2巻のお話をいただけるとも思っていなかったので、ほぼほぼ白紙で、唸りながら悩んでいました。
――第2巻には、加賀蘇芳が登場することもあらすじ含めて明かされています。第1巻を読んだ方は当然身構えて物語と向き合うことになると思うのですが、執筆の上で悩むことはありましたか。
物語の設計をどうするかについては、かなり頭を悩ませた部分です。ただ、担当編集の方には初期段階から企画を送っていて、第1巻を読んだ後の読者の状態についてはかなり分析したと思います(笑)。第1巻を読んでいることこそが、第2巻を手に取る方にとって最大のミスリードというか、デバフのようになっていることが、第2巻の面白さに繋がるんじゃないかと。具体的にどんな物語にするかは非常に悩みましたが、割とゴールは最初から見えていましたね。

※シリーズ化においてカギを握る存在となった加賀蘇芳
――そういう意味では、私自身もその計算や分析によって導かれた術中にハマっていたんだろうなと感じさせられますね(笑)。ではあらためて、シリーズ化の肝にもなっている「加賀蘇芳」というキャラクターについて聞いていければと思います。まずは彼女が誕生した経緯を教えてください。
これは意外かもしれないんですが、加賀蘇芳は一番最後に生まれたキャラクターなんです。過度なネタバレとなるため詳細は少し伏せますが、当初は早希がすべて一人でこなす予定でした。ただ、そのまま物語を終わらせてしまうことに、何か足りないと感じたんです。そこで本当の本当の真相を明かすキャラクターがいれば、自分が納得できるんじゃないか。そう考え、一度組み上げたプロットを全部壊して、加賀蘇芳というキャラクターありきのプロットに再構成したんですよ。そこが始まりなので、黒幕や先導者として最初から加賀蘇芳を存在させていたわけではなく、最後の最後で衝撃を生み出したいなと思って考えたキャラクターになります。

※実は最後に誕生したキャラクターだという意外性も持ち合わせていた
――物語に衝撃を生み出す存在とはまさにその通りですし、それも彼女の天才性ゆえなのかなと感じました。あらためて神岡先生は、彼女は何の天才だと考えていますか。
人の心に灯った炎をより燃え上がらせる天才なのかなと。早希に対しては、苦しみや悲しみ、憎悪でしょうか。楓に対しては自己責任や罪の意識をどんどんと燃え上がらせ、少し背中を押すだけで自分の思う方向に動いてくれるよう、終始立ち回りました。加賀蘇芳は人を操ったり、人の心を燃やす天才でありつつ、どこか本人は冷めていたりもする。そんなキャラクターですね。
――第1巻の読者はその天才性の使われ方もあり、加賀蘇芳に「悪」という感情を抱いている方も多いのかなと思っています。個人的には既に「完成したキャラクター」であるという印象が強いのですが、シリーズ化において彼女が良い意味で変化していくことはあるのでしょうか。
それについては、第2巻以降の展開になると思います。今後、彼女がどういったキャラクターなのかが掘り下げられていくことにもなるでしょう。完成した存在という点はおっしゃる通りで、変化というよりも彼女の原点に迫っていくような物語になるかもしれませんね。
――では彼女について最後の質問です。著者として、読者は加賀蘇芳とどう向き合っていくことが、本作をより面白く読むことに繋がると考えますか。
そうですね……。第1巻と第2巻では、登場するキャラクターが刷新しています。加賀蘇芳を除くと別の作品と言ってもいいくらいです。ただ、彼女がいることによってシリーズとして成り立っており、読者にとってはシリーズを繋ぐキャラになるわけですね。各巻で加賀蘇芳はどういった役割を演じるのだろうか、ということはもちろん、常に警戒を忘れずに読んでいただければ、ワクワクしてもらえるんじゃないかなと思います。

※加賀蘇芳がこれから演じてく役割にも注目
――ありがとうございます。続いて、本作のイラストについてもお聞かせください。イラストはAちき先生が担当されていますが、最初にイラストを見た時の印象や、お気に入りのイラストがあれば教えてください。
Aちき先生からイラストをいただいた時は、引き受けていただけて本当に光栄だと感じました。綺麗な美少女というイラストの雰囲気を持ちつつ、儚げな雰囲気もあり、ラブコメと銘打ちつつもどこか不穏なタイトルである本作との親和性を感じ、この方しかいないなと思いました。お気に入りのイラストは第1巻の表紙です。私自身、いろんな作品を見ていて思うことなんですけど、ラノベのイラストは作品との親和性が必要だと思うんです。Aちき先生には作品の意図をすごく汲み取って描いていただけたので、表紙は特に気に入っています。じっくりと表紙を眺めたことがないという方は、この機会にあらためて見てみると何か発見があるかもしれないですね(笑)。もう1枚、第2巻にもお気に入りの挿絵がありまして、ラノベの特性でもある、たまに入る挿絵でやれることがあればと思い、描いていただいた1枚になっています。


※神岡先生が特に気に入っているというイラスト
――また、村乃まち先生によるコミカライズ企画も進行していますよね。あらためて漫画版ならではの見どころや楽しみなことを教えてください。
コミカライズについては監修にもがっつり入らせていただいていて、ネームなどもいろいろ拝見させていただいています。全編わたって、活き活きとしたキャラクターが描かれるのが楽しみですし、物語的な転換点や衝撃的なシーンをどのような演出で見せてもらえるのか、とても楽しみにしています。
――あらためて本作の見どころを教えていただけますでしょうか。
本作の見どころはサクサクと進んでいく展開だと思います。ラブコメではなかなか進展しないやきもきした関係性なども魅力だと思いますが、本作ではそのあたりがサクサクと進むスピード感が面白いかなと。ぜひ主人公とヒロインが両想いとなり、お家にお邪魔するところまでは読んでほしいなと思います。そこまで読んでもらえれば、最後まで読みたくなるんじゃないかな(笑)。
――そして待望の第2巻も発売となりました。あの第1巻からの第2巻ということで、注目すべき点があれば教えてください。
雰囲気としても第1巻とはかなり異なる作品になっているので、そこで新しいなと思っていただけるんじゃないかなと思います。ヒロインも第1巻とは違う感じに可愛くなっていると思いますので、そこも注目してもらえたら嬉しいですね。そしてあらすじにも書いてありますし、このインタビューでもお話してきた通り、加賀蘇芳も登場します。物語がどのように転がるのか、予想しながら楽しんでいただけたらなと思います。

※第2巻における主人公とヒロインの青春ラブコメからはいろんな意味で目が離せない
――今後の目標や野望について教えてください。
第1巻発売の際、紀伊國屋書店新宿本店に「アニメ化・ドラマ化・映画化希望中!!」とデザインされた大きな拡材をPASH!文庫さんから掲出していただいたので、すべてを実現したいです(笑)。あとは私自身、いろいろやりたがりな性格ではあるので、別の挑戦もしてみたいなとは思います。文芸系のミステリーの賞に応募してみたり、ゲームを作ったりしたいですね。あとは大学院時代の思い出もいろいろあるので、科学系のお話も書いてみたいなと。
――それでは最後に、ファンの方に向けてメッセージをお願いします。
こんな時代ですので、嫌なことや退屈な日常があったりすると思うんですけど、そういった時間を少しでも吹き飛ばせるような作品を書いていければと思いますので、よろしくお願いします。
――本日はありがとうございました。
<了>
軽快なラブコメストーリーから始まり、予想だにしない展開へと進みだす新感覚ハイスピードラブコメを綴った神岡鳥乃先生にお話をうかがいました。読者の予想を超えていく物語だけではなく、加賀蘇芳というキャラクターの言動からも決して目を離すことができない『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

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