独占インタビュー「ラノベの素」 伏見七尾先生『獄門撫子此処ニ在リ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年8月18日にガガガ文庫より『獄門撫子此処ニ在リ』が発売された伏見七尾先生です。第17回小学館ライトノベル大賞にて「大賞」を受賞し、満を持してデビューされます。地獄の鬼の血を引き、人間と化物の狭間に立つ少女が、様々な怪異と厄介極まりないキャラクターたちと共に闇夜を駆る伝奇ファンタジー。作品の見どころについてはもちろん、関係性や距離感に独特の魅力を有するキャラクターたちについてなど、様々にお話をお聞きしました。

 

 

獄門撫子此処ニ在リ

 

 

【あらすじ】

獄門撫子。化物すら畏怖する凶家『獄門家』の末裔。化物を喰らうさだめの娘。それなのに……自らを怖れぬ胡乱な女、無花果アマナとの出逢いが撫子を変える。花天井に潜むもの。箱詰人身御供。あざなえる呪い紐。人を取り替えるけもの。次々と怪異に挑むうち、二人は目を背けていた己そのものと対峙して――「あなたさえいなければ、わたしは鬼でいられたのに」鬼の身体にヒトの心を宿した少女と、ヒトの身に異形の魂を抱えた女の縁が、血の物語の封を切る。うつくしくもおそろしい、少女鬼譚。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

伏見七尾と申します。出身は石川県の金沢で、その後は関東や関西などを転々としていました。正確な執筆歴は覚えていませんが、おそらく10年は超えていると思います。好きなものは小説や漫画、ゲームといったエンタメ全般、そして物語を書くことが大好きです。あとは食べることも好きですね(笑)。苦手なものは積んだ本やゲームを崩すことと、ビビりなんでホラーもすごく苦手です。また、最近は週一でジム通いを始めました。本当はキックボクシングのジムも考えたんですけど、いかんせん体力がなく……。今後は執筆しながら本業を続けていくことも考えると、やはり体力がいるなと思い、基礎体力をつけようと頑張っています。

 

 

――小説の執筆は10年以上続けていらっしゃるとのことですが、最初に書き始めた理由はなんだったのでしょうか。

 

小説、というよりまず文章を書き始めたのは小学生の頃だったように思います。アニメや漫画の好きなキャラクターを、頭の中で思い切り活躍させていました。そこから自分の考えたオリジナルキャラクターを登場させたり、二次創作的なところから始まって、オリジナルの要素が段々と加わっていった感じだと思います。それを画用紙に書き始めたのが本当の最初だと思いますね。ゲームを遊ぶようになってからは二次創作も本格的に手掛けるようになりました。

 

 

――具体的にはどんな作品で想像を広げていたんですか。

 

最初は『美少女戦士セーラームーン』だったと思います。そして表には一度も出しませんでしたけど、とにかく考えていたのは『犬夜叉』でしたね。決定的に人生が今の方向に向いた原因ですし、『犬夜叉』がなかったら、私はここにいないと思います(笑)。触れていた作品は伯父の書斎にあったものが多くて、『うしおととら』や『GS美神 極楽大作戦!!』、『封神演義』などもそうですね。ライトノベルでは成田良悟先生の『バッカーノ!』や『デュラララ!!』、時雨沢恵一先生の『キノの旅』、三雲岳斗先生の『ダンタリアンの書架』などもすごく好きでした。

 

 

――なるほど(笑)。表に出さずともご自身で執筆したものは、誰かに見せたりはされなかったんですか。

 

身内には見せていなくて、それこそ家族に見せるようになったのも最近ですし、妹に見せるくらいなんですよね。そして理由はまったく思い出せないんですけど、初めて自分の創作物を見せたのは学校の先生でした(笑)。中学や高校時代に仲の良い先生がいらっしゃって、400字詰めの原稿用紙を持って行ってましたね。「すごくおもしろい」と言ってもらえたのが嬉しかったことを覚えています。ただ、この当時は物語を完結させる力がなくて、見せていたものも第一章や冒頭の部分だけでした。なので、物語のお蔵入りがずっと続いていたんです。それこそ長編を完結させることができたのは、公募に出した1作目ですね。

 

 

――公募に応募を始めたのはいつ頃からだったのでしょうか。

 

大学を卒業してからだったと思います。大学時代も応募しようとは思っていたんですけど、完結までもっていく自信がなくて、時間ばかりが過ぎていきました。大学の卒業後に何かがきっかけで踏ん切りがつき、物語を完結させて応募できるようになったんですよね。一度完結させられれば自信もついて、どんどん完結させることができるようになっていきました。数をこなすことと経験が大事だなって、あらためて感じました。

 

 

――小説家を目指そうと思った理由は覚えていらっしゃいますか。

 

子供の頃から表現することが大好きで、何も知らない当時は漠然とデザイナーになりたいって考えていました。でもいつの間にか、いろんな想像をして、物語を書いているうちに、執筆が大好きだなって感じるようになっていました。中学生くらいからですかね、具体的に小説家になろうって思ったのは。

 

 

――ありがとうございます。それでは第17回小学館ライトノベル大賞「大賞」受賞の率直な感想からお聞かせください。

 

めちゃくちゃ嬉しかったんですけど、動揺もしました(笑)。選考をどんどん通過し、最終選考まで残って、そして「大賞」を受賞させていただいたわけなんですけど、喜びと動揺が順繰りに膨れ上がっていきました。それこそ去年の今頃とか、自分がこういう状況になっているであろうこともまったく想像していなかったですからね。それでも長年夢に見てきていたことでもあったので、作家になったんだなっていう、喜びはじわじわと感じています。受賞の連絡はお電話でいただいて、東京から着信が何本か残っていたことに気付いて折り返した感じです。詐欺の可能性も感じつつ、でも東京から電話がかかってくる用事もこれくらいしか思い浮かばなかったので、恐る恐る折り返しました(笑)。

 

 

――あとがきでは、未だに夢じゃないかと思う時もあると書かれていましたが、現実味は感じられるようになりましたか。

 

そうですね。自覚のきっかけは本当に些細なことでした。担当編集さんとリモートで打ち合わせをしていた際に、担当編集さんがお子さんとお話されていたんですね。そこで「今ちょっと作家の先生とお話しているから」と言われていた言葉を聞いて、「私は作家になったんだ」ってそこでようやく現実味を感じました。さらに打ち合わせが進んでいくにつれて、期待に応えないといけないという責任感や、いつまでもオドオドしていても仕方ないぞという感情が芽生えてきました。大勢の人の助力を得て、作品が世に出ようとしているわけですから、堂々と責任をもって書き続けなきゃいけないんだろうなって今は思います。日々、じわじわと現実に近づきつつあります。

 

 

――それでは「大賞」受賞作『獄門撫子此処ニ在リ』についてどんな物語なのか教えていただけますでしょうか。

 

ジャンルとしては伝奇ものになります。人間と化物の狭間にある少女と、ちょっと胡散臭くて食えない性格をしている女性が絆を深めながら、様々な怪異と出会ったり、美味しい物を食べたり、癖のある人々と交流したりして、大きな怪異を解決していきます。また、多くのキャラクターたちが自らの内に抱えるどうしようもない苦悩と向き合っていく物語でもあります。私自身、狙って伝奇ものを書いたというわけではなく、応募作で洋風のファンタジー作品が続いていたので、和風で行こうと思い、好きなものを詰め込んだ結果伝奇になった感じです(笑)。

 

獄門撫子此処ニ在リ

※地獄の鬼の血を継ぐ少女の怪異譚が幕を開ける――

 

 

――作品の着想についても教えてください。

 

本作はタイトルにもなっている獄門撫子という人物が先に成立し、物語は後になってから決まっていきました。構想自体は数年がかりだったんですが、獄門撫子という女の子に何をさせようか、どんな舞台にあげようか、それらをずっと考えていました。このキャラクターは身内でよくやるお題遊びと言って、個々でキャラクターを考え、即興の会話形式で物語を組み立てていく遊びの中から生まれたキャラクターなんです。我ながら名前のインパクトが強烈で、遊びだけで終わらせてしまうのももったいないなと思って書き出したのがきっかけですね。一時期は舞台が大正時代だったり、和風のサイバーパンク世界で怪盗まがいのことをさせたりもしていましたが、ここ2、3年で伝奇としての形に定まっていきました。

 

 

――なるほど。キャラクタースタートの作品だったんですね。設定もかなり最初からしっかりと固まっていたんですか。

 

いえ、鬼や地獄と繋がっている設定もかなり後の方でした。最初の頃はそれこそ、もっと冷徹で言葉遣いは敬語、二人のメイドを侍らせて……みたいな時期もありましたね(笑)。でも禍々しさを感じさせるという点は、変わらずに残ったままな気もします。

 

 

――それでは本作に登場するキャラクターについて紹介をお願いします。

 

獄門撫子は地獄の鬼の血を継ぐ家系の末裔です。その中でも先祖返り的な、少し異質な存在として扱われています。化物の血肉を食わねば生きていくことができない体質でもあり、夜ごと狩りに繰り出しています。すました装いや時折見せる怖い一面もありますが、根は素直な良い子です。感性はズレていますが、普通の子だと思います。作中では野良猫と揶揄されていたりもしますが、私自身も猫を意識しながら撫子を書いている節もあって。なかなか素直にならないところや、控えめにデレるところなど、注目してもらえたらなと思います。

 

獄門撫子

※独特の感性も見どころの獄門撫子

 

無花果アマナは撫子を惑わす魔性の女ですね(笑)。胡散臭く、人を手玉に取るような言動を取ることが多いのですが、彼女も凄まじい苦悩を内に抱えています。超然としているのに、時々弱い一面も垣間見せる。でも決して小物なキャラクターではなく、底知れない要素も内包する複雑なキャラクターでもあります。私にとって思い入れの強い妖怪を、自身で再解釈して描いたキャラクターでもあります。作中で一番厄介なキャラクターですね。

 

無花果アマナ

※胡散臭さが際立つ無花果アマナ

 

獄門桐比等は撫子の叔父です。撫子の唯一の家族でもあります。作中では撫子に対して容赦のない言動を繰り返していますが、彼女が生きていけるよう育てている人間でもあります。桐比等自身も、とんでもないものを抱えている人間で、愛するものより憎むものが多い複雑な人物でもあります。撫子に対する過保護さが歪んでいるキャラクターですね(笑)。

 

獄門桐比等

※キツい言動は過保護の裏返しかもしれない獄門桐比等

 

冠鷹史は祀庁の儀式官です。一見冷徹に見えますが、本当は優しい人です。ただ優しいからこそ苦しんでいるところもあって、本来であれば無耶師には向いていない人なんだろうなと思います。

 

冠鷹史

※癖の強い部下を連れる儀式官・冠鷹史

 

真神雪路は準一等儀式官で、アマナとは犬猿の仲です。二人は年齢が近いこともあるんですけど、根本的に性格が合わず、顔を合わせるたびにいがみ合っている感じです。生真面目で正義感があって、自分にも他人にも厳しい性格です。

 

真神雪路

※アマナとは常に喧嘩をしている真神雪路

 

四月一日白羽は二等儀式官で、可愛いんですけど、闇の深さを感じるキャラクターでもあるかなと。どんな状況でもヘラヘラしているんですが、どんな状況でもヘラヘラできていることこそがある意味異常なんですよね。どんな凄惨な現場にいてもテンションが変わらない人間です。

 

四月一日白羽

※緊張感のなさが際立つ四月一日白羽

 

 

――本作は様々なものを抱えるキャラクターが登場するわけですが、キャラクター同士の距離感が独特といいますか、身内だろうがなんだろうが、自身の内に踏み込ませないラインを引いた上で関係を築いている、そんな印象を強く受けました。

 

そうですね。キャラクター同士の距離感については、作中世界だと化物や呪術など、人間の精神の闇の部分と結びつき、深く掘り下げるような世界観ではあるので、登場人物たちそれぞれに踏み込まれていいラインとそうではないラインが、結構はっきりと存在していると思います。特に顕著なのはアマナですね。自身の表面から先には絶対に踏み入れさせたくないし、見せたくない。見せることが怖いと感じている人物なので。皆、自分にとっても相手にとっても精神的に許せる瀬戸際で応対しているというのはあると思います。

 

 

――なるほど。それを踏まえた上で、ご自身として書きやすいキャラクター、そうでないキャラクターはいましたか。

 

尋常じゃないくらいに書きやすいのは桐比等ですね。得体の知れない、主人公にとっての保護者的な立ち位置のキャラクターで、苦悩や抱えている後悔が明確ゆえに、ちょっとキツい態度を取ってしまうというのが割とはっきりしているタイプです。なので、実は素直という意味でも、非常に書きやすいです。逆に書きにくさぶっちぎりはアマナです(笑)。撫子はひねくれてこそいますが、まだ素直でわかりやすい。でもアマナはひねくれすぎて、書いている私もちょっと予測がつきません。アマナは内心と体面がバラバラになりすぎていて、本人でさえも把握しきれていないところがある難しいキャラクターでもあって、私もかなり悩まされました。どこからどこまでが演技で、どこからどこまでが本心なのか。そんな彼女が時に本心を垣間見せてくれると、『こういう一面もあるんだな』って私自身も魅力を感じたりしています。物語の最終盤では、アマナも心の内を晒して語ってくれているので、急に書きやすくなり私も驚きました(笑)。

 

獄門撫子此処ニ在リ

※終盤まで書きにくさぶっちぎりだったというアマナの変化も見どころとなっている

 

 

――つかず離れずの距離感、そしてひねくれた性格をしている二人だからこそ、撫子とアマナの関係性と掛け合いには大きな魅力を感じずにはいられませんでした。

 

ありがとうございます。二人の掛け合いは近すぎず遠すぎずみたいな距離感で描かれていきます。読んでいると意外に近いように感じると思うんですけど、やはり自分の領域のようなものを二人ともしっかりと持っています。本作は女の子に少年漫画のようなことをさせたいがために書いたものでもあるので、二人の関係性はあまり密着し過ぎない感じです。ある程度、余白を意識して書いています。個人的に余白の美というものに魅力を感じているので、読者さんに想像の幅を広げていただけるよう、重視しながら書きました。

 

獄門撫子此処ニ在リ

※物語が進むにつれての撫子とアマナの在り方も必見

 

 

――ありがとうございます。それでは書籍化に際してイラストをおしおしお先生が担当されています。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。

 

これまでファンアートのようなものをいただいたことはあったんですけど、一からキャラクターデザインやビジュアルを描き起こしていただいたのは初めてで、ものすごく感動しました。おしおしお先生の作風は流麗で透明感があって、ちょっとポップな存在感もあると思っています。これまでも自分の中でキャラクターたちはもちろん生きていたんですけど、ビジュアル化されたことによって、よりはっきりとした息遣いを感じられるようになりました。キャラクターとしての生命力が増したと思います。お気に入りのイラストはかなり迷うのですが、赤と青の対になっている撫子とアマナの口絵イラストはぜひ見ていただきたいです。対照的な色調もあって非常に印象に残っています。あとはネタバレになってしまうのでこのインタビューの記事には載っていないと思いますが、第四章から最終章に収録されている挿絵イラストは全部好きです!

 

獄門撫子此処ニ在リ

 

獄門撫子此処ニ在リ

※撫子とアマナの対照的な2枚のイラストに注目してもらいたい

 

 

――あらためて、著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。

 

見どころは撫子とアマナのそれぞれの関係性です。ひねくれた二人組が、近づいたり遠ざかったり、時には反発しあったりしながら、夜の世界を生き抜いていく世界観が魅力だと思っています。そして登場する数々の化物も見どころかなと思っています。正統派の鬼や狐はもちろん、オリジナルの化物も登場させています。撫子とアマナの二人がそういった化物と闘っていく姿が魅力かと。また、本作はダークっぽく見えますが、中身は大衆向けなのかなと思っています。想定読者もティーンエージャーで、男女問わず楽しんでもらえる作りを意識しました。ちょっとだけ前のライトノベルが好きな人は、この作品を好きになってもらえるんじゃないかと思っています。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

いくつか思い浮かぶんですが、パッと浮かんだのはゲーム化ですね! とはいえ、ゲーム化できる展開になっていたら、なんでもできている状態だとは思うんですけど(笑)。それも、据え置きゲーム機で遊べるような、死にゲーっぽいものになったら嬉しいですね。あとは私自身、読者さんの解釈を見たり聞いたりするのが大好きなので、ファンアートも見てみたいなって思っています。そしてもちろん、最大の目標は本作をしっかりと完結させることです。コツコツと書き続けて、いろんな作品を世に送り出したいです。

 

 

――最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。

 

どなたでも遠慮なく本作にお入りください(笑)。物語としても敷居は低めに設定しておりますし、自分の好きなものを読みやすく入りやすく書いたつもりです。どなたでも入りやすく、一度読めばそこから逃がさないような作品になっているかと思います。読んだ方を楽しませます。どうぞよろしくお願いします!

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

様々な葛藤と苦悩を抱えながら、多くの怪異や化物と相対していく伝奇アクションを綴った伏見七尾先生にお話をうかがいました。やはり見どころは獄門撫子と、無花果アマナの二人でしょう。凸凹なコンビとしても、今後の関係性としても楽しみな『獄門撫子此処ニ在リ』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©伏見七尾・おしおしお/小学館「ガガガ文庫」刊

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[関連サイト]

『獄門撫子此処ニ在リ』特設サイト

ガガガ文庫公式サイト

 

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獄門撫子此処ニ在リ (ガガガ文庫 ガふ 6-1)

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