『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』有能な騎士団長たちが一人の少女に振り回される傑作コメディ!

世の中の重い空気を吹き飛ばすくらい、笑える作品が読みたい。そんな読者のみなさんにオススメしたいのが、アース・スターノベル刊『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』だ。本作の面白さは、超が付くほどに有能な騎士団長たちが、300年前の大聖女の生まれ変わりでありながら騎士となった少女に振り回され、その有能さが霞んで見えてしまうコメディ要素にほかならない。もちろん、物語には前世における大聖女の物語や、300年をかけて歪んでしまった聖女の在り方といった、本質的なテーマもしっかりと描かれている。だからこそ、物語上で生まれるギャップが本作の「笑い」や「面白さ」に拍車をかけている。天真爛漫で自由奔放な少女の物語を紹介していきたい。

 

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す4

 

 

主人公は300年前の大聖女の生まれ変わりであるフィーア・ルード、15歳。騎士の家系に生まれ、自身も立派な騎士となることに夢焦がれるお転婆な少女である。そんな少女は、「成人の儀」の最中に見つけた瀕死の黒竜に手を差し伸べ、前世の記憶を取り戻すことになる。現在ではおとぎ話となった大聖女の力、失われた魔法の力を惜しげなく使う前世の自分。その力も一緒に取り戻したフィーアは思う。「何よこのでたらめな力は!世界の理が狂ってしまうわ!!」。もし自分が大聖女の生まれ変わりだとバレてしまえば、前世で目を付けられた魔王の右腕に再び命を狙われかねない。フィーアは自らが大聖女の生まれ変わりであることを隠し、騎士として身を立てていくことを誓うのだが……。

 

一方で、成人の儀を介してフィーアは伝説の黒竜ザビリアを従魔化する。家族は当然、大して力のないフィーアが黒竜を従魔化できるわけがないと現実逃避を繰り返し、「黒っぽい竜っぽい従魔」とシラを切り続ける姿を随所で垣間見ることができる。騎士を目指すフィーアに興味を抱いていなかった父や兄といった家族が、冷静に慌てふためく姿は笑えるポイントのひとつになっている。

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠すイラスト01

(c)Touya / chibi 2020

 

 

本人も前世を隠したがっているし、聖女ではなく騎士を目指すというフィーア。「前世が大聖女であることを隠しながら、うまく立ち回れるのでは?」と思う方もいるかもしれない。だが彼女を甘く見てはいけない。フィーアの天真爛漫さは、読者の想像の斜め上を突き抜けていくからだ。そもそも目先の出来事にばかり目がいきがちで、先のことまで考えるのがやや苦手という、ちょっと「アホな子」な側面は否めない。相手の言葉や思考を都合よく曲解するし、お酒を飲めば記憶を飛ばして何も覚えていない。前世が大聖女であることを隠す気がないのではないか、と思わせる言動を連発するのだから、彼女の周囲の人間も自然と振り回されていってしまう。それでもそんなフィーアを捨て置けないのは、彼女が徹頭徹尾有している彼女なりの「優しさ」や「気遣い」をはじめとした善性が大きな魅力になっている。アホな子ほど可愛いではないが、彼女を嫌いになれる人間もまたいないということである。

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠すイラスト02

(c)Touya / chibi 2020

 

 

ナーヴ王国黒竜騎士団に見事入団を果たしたフィーアは、王族警護の第一騎士団に配属されることになる。同期のイケメン・ファビアンは、ある意味でフィーアの影響をうまく受け流している一人で、非常に稀有な存在である点は読んでいただければご理解いただけるものと思う。なぜなら立派で有能な騎士団長諸君が、フィーアと関わることによって「なぜか次々とおかしくなっている」と言わせしめる(フィーア本人談)のだから、影響を受けずに日々を過ごしていることの意味は何気に大きい。さて、以下に相関図があるのだが、つまるところこの図はフィーアに振り回されている方々の一覧と言っても過言ではないので、少しばかり見ておきたい。

 

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す相関図

 

 

サヴィスはナーヴ王国の王弟という立場であり、騎士団総長でもある騎士たちの憧れの的。新人の入団式でフィーアの視線を受け、「あれは支配者側の人間だ」という感想を抱いたことからフィーアに興味を持ってしまう。まだ振り回されていない人物の一人ではあるが、寡黙なキャラクターゆえに振り回されてしまった時のリアクションがとにかく気になる。

 

シリル第一騎士団長はフィーアの直属の上司で、「王国の竜」と呼ばれる程の強さを誇る人物。フィーアがお酒に酔いながら発した聖女に対する考え方に衝撃を受けつつ、凛々しく穏やかなキャラクター像がじょじょに崩れつつあるのが心配の種。フィーアの一言に何気ないダメージを負うこともしばしばで、フィーアに対する過保護感も次第に強くなっている気がする。

 

デズモンド第二騎士団長は、ある意味ここまで(第3巻)で最も被害を受けている人物のひとりと言える。憲兵司令官として、言動鋭いフィーアの素性を調査するも、ちょっと勘が良い程度の情報しか掴めず、自信を失いつつある。フィーアと黒竜・ザビリアとの関係性が明るみに出てからは、その奇行が一層際立つようになってしまった可哀相なお人でもある。王城警備の最高責任者であり、めちゃくちゃエラい人物なんだけど、ザビリアの報復を恐れて奇抜な言動を繰り返している。

 

クェンティン第四魔物騎士団長は、相手のエネルギーを知覚できる能力を持つがゆえに、初対面のフィーアとザビリアに最初から屈服してしまう。崇拝という関係性は本当にその通りで、騎士団長としての威厳を最も損なってしまった人物の一人でもある。他の騎士団長からは、本来の姿が欠片も見えないくらいの奇行に走っているように見えている。ただ、本人としては脅威が明確に知覚できているので、本能としては致し方ないのだろう。不憫さの中に幸せも入り混じり始めているので、これはこれでいいのかもしれない。

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠すイラスト04転生した大聖女は、聖女であることをひた隠すイラスト03

(c)Touya / chibi 2020

 

 

本当にこの騎士団は大丈夫なのかと心配になってしまう面もあるだろうが、黒竜騎士団は王国が誇る由緒正しき騎士団であり、実力は折り紙付き。だからこそ、真面目な騎士団長たちの言動が、読者にとっては意図しないコントのように読めてしまうのだから面白い。

 

さて、少しだけ本作の真面目な部分にも触れておきたい。現世において聖女の数は極端に減少しており、聖女もまた聖女という役割の上に胡坐をかいている状態である。現世の聖女の在り方と300年前の聖女の在り方に違和感を持ち、少しずつ過去と現在を紐解きながら繋ぎ合わせていく、フィーアの姿にも注目してもらいたい。決してその場しのぎのお転婆少女というだけではないのだ。

 

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠すイラスト05

(c)Touya / chibi 2020

 

 

『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』は、アース・スターノベルより第3巻まで発売中。最新4巻も2020年12月16日発売。

 

 

現在、コミック アース・スターにてコミカライズも連載中です!

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す コミカライズ

 

 

©十夜/アース・スターエンタテイメント刊 イラスト:chibi

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[関連サイト]

『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』特設ページ

アース・スターノベル公式サイト

 

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転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す (アース・スターノベル)
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転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 1 (アース・スターノベル)

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