独占インタビュー「ラノベの素」 竹町先生『スパイ教室』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2020年12月19日にファンタジア文庫より『スパイ教室』第4巻が発売された竹町先生です。第1巻刊行時にもインタビューにはご登場いただいており、早くも2回目の登場となります。シリーズ発売以降、本作の話題は瞬く間に広がり、2020年上期のライトノベル新人賞・新作売上がNo.1となるなど大きな注目を集め続けています。あらためて激動ともいえるこの1年を振り返りながら、本作についてはもちろん、もうひとつの『スパイ教室』と言っても過言ではない漫画版についてなど、様々にお話をお聞きしました。
※フリーペーパー「ラノベNEWSオフライン12月号」には本記事未掲載のインタビューも掲載されています。
【第4巻あらすじ】 宿敵である謎のスパイチーム『蛇』の尻尾を掴んだクラウスは、その正体を暴くため敵の潜伏場所へ『灯』全員で向かう。しかし一同に待ち受けていたのは、恐怖渦巻く戦場に、想像を絶する強大な悪だった……。 |
――ご無沙汰しております。約1年ぶりのご登場となります。
ご無沙汰しております。こちらこそ、あらためてよろしくお願いします。
――シリーズ累計10万部を突破、早くも第4巻が発売となった『スパイ教室』ですが、あらためてこの1年を振り返っていただけますでしょうか。
発売前は売れるかどうか心配だった部分が非常に大きかったんですけど、ありがたいことに売上も好調で、様々な方に手に取ってもらえているという実感もあり、心境としてはホッとしたという気持ちが強いです。ドラゴンマガジンの表紙を飾らせていただいたり、編集部を通して推していただけていたこともあって、非常にありがたいと感じていました。だからこそ、その期待に応えるために頑張らないといけないという気持ちが、日に日に増しています。リアルタイムでプレッシャーをかけ続けられている感じでもありますね(笑)。
※ドラゴンマガジン2020年9月号では表紙を飾った
――年4冊というかなりハイペースな刊行となりました。
正直、ちょっと大変な時期もあったにはあったんですけど、勢いのままに安定して新刊を出して行かなきゃいけないという意識は常に持っていました。
――前回のインタビューで、ライトノベル媒体ならではのチャレンジをしていきたいというお話もありました。ここまでそのチャレンジは実践できていますか。
そうですね。毎巻、そういった試みは強く意識して筆を執っています。現時点で、自分の中で一番気持ちよく仕掛けられたのが第2巻でした。イラストと組み合わせた伏線をはじめ、イラストを用いての情報開示。小説という媒体を活かして一定の情報を伏せながらも、ライトノベルのイラストの強みを活かして情報の提示や開示ができたことは、ライトノベルならではの趣向としても非常に満足しています。幸いにも読者さんからの評判も良くて、とても嬉しく感じています。もちろん、うまくいかなかったなと思う部分もなかったわけではないのですが、今後も仕掛けられるところではどんどん仕掛けていきたいと思っています。
――そして竹町先生が第1巻を刊行された後、世の中の状況はコロナ禍で大きく変わりました。第2巻は緊急事態宣言の真っ只中での刊行となるなど、執筆や気持ちの面で変化はありましたか。
4月はめちゃくちゃ書店が休業状態になりましたし、同期のファンタジア大賞受賞作の第1巻がそのタイミングに被ったりもして、なんとなく空気が重かった部分もあったと思います。自分はSNSで作家さんのつぶやきを見るのが好きなんですけど、やっぱりコロナの影響を受けている方もいらっしゃったりして、外的な変化は結構あったように思います。ただ、自分としてはひすたらに作品を書くしかなかったので、ただ書き続けてきた感じです。執筆環境は喫茶店で書くことも多かったんですけど、コロナの自粛の影響もあって、自宅にこもって書く時間が増えたくらいでしょうか。自身にとっての大きな変化を感じることは少なかったので、その点だけはよかったのかもしれません。
――また「このライトノベルがすごい!2021」にて文庫部門2位に選出されました。あらためておめでとうございます。
ありがとうございます。「このラノ」に関しては、よかったというのが率直な感想ですね。もちろん、もっと上が狙えたという意味では悔しさもあります。でもかなりいい順位をいただくことができ、大変嬉しいです。『スパイ教室』という作品が「このラノ」という媒体でウケるかどうかは、当初まったく自信がなかったのでなおさらでした。ここ数年は市場でもラブコメや青春ものの作品が注目されていましたし、『七つの魔剣が支配する』や『錆喰いビスコ』のように、世界観を緻密かつ大胆に作り上げたファンタジー作品が上位に選ばれているイメージでした。『スパイ教室』は読みやすくわかりやすく、手軽な読み心地なども意識していたので、上位に選ばれる要素というか、イメージもあまりなくてどうなるのかなと。そういった不安もありつつ、本当にホッとしています。自分がこれまで第1巻から第3巻までやってきたことは、決して間違っていなかったということの証左でもあるので、今後も続けていけたらと思っています。
※このラノ2021では文庫部門と新作部門で2位に選出!
――そういった不安も抱えつつ、読者の反応や反響、作品そのものへの手応えはしっかりと感じられていたのでしょうか。
自分で言うのもあれですけど、SNSで検索をかけてみたりすると、好評な感想を目にする機会も多かったですし、実際の書店で『スパイ教室』を手に取り、レジまで持って行ってくれたお客さんの姿を見る機会もありました。そういう意味では手応えというか、嬉しさは常にありましたよね。一方で巻数を重ねるたびにプレッシャーも強くなっていて、次はどのように読者さんを楽しませようだとか、どう驚かせようだとか、頭を悩ませながらも、読者さんの反応が大きなモチベーションになっていました。
――『スパイ教室』はどんな要素が読者に面白いと感じてもらえたと思いますか。
難しい質問ですね(笑)。恐らく、たぶん、と前置きをさせていただいた上で回答させていただくならば、『スパイ教室』自体、王道を外して執筆しているつもりは一切ないので、そこが強みになっているのかなと思います。もちろん、スパイというちょっと変わった題材であるとか、物語展開や文章の見せ方などの工夫はしています。でも根っこにあるのは落ちこぼれの少女たちが、孤独を抱えた主人公と共に、大きな敵を倒したり、ミッションを成し遂げていく物語です。わかりやすい王道の軸をしっかりと作れたことが、読者さんの反響に繋がっているのかなって思いますね。異世界ものや学園ラブコメが多い中で、新しさを装いつつも、受け入れてもらいやすい王道から外さないよう頑張った結果が今なのかなって思います。
※物語の王道的な軸や面白さも本作の大きな魅力となっている
――第3巻までに竹町先生が盛り込んだ、【読者を騙す】という仕掛けや目論見はうまくいきましたか。
竹町先生:そうですね。先ほども触れた第2巻の感触は良かったですし、うまく読者さんも巻き込めているのかなと。そういった想定通りの反応もありつつ、中には想定とは違う反応をされていた読者さんもいて、「なるほど、そういう捉え方もできるのか」という気付きも多々ありました。それでも概ね、予想通りの反応で受け取ってもらえているので、ホッとしています。第3巻に関しては特にそうですね。発売前は読者さんがどんな反応を示されるのか非常に不安だったので、狙い通りに驚いていただけたことに安心こそしていますけど、そういった反応を見られるまでは、ずっとドキドキしながら大丈夫かなと考えていました。毎巻そうですが、「狙い通り、しめしめ」という感情以上に、「伝わった、よかった」という安心感を抱く方が強いです。
――このたび発売された第4巻で『スパイ教室』のファーストシーズンが幕を下ろすわけですが、セカンドシーズンの構想は既にあるのでしょうか。
具体的なことはまだ決まっていないので発信しづらいのですが、クラウスを中心としつつ、物語として描かれていくのは少女たちが中心になるのかなとイメージしています。クラウスがひたすら任務に挑み続ける以上に、「灯」のメンバー全員の頑張っている姿や活躍する姿をお届けできたらなと考えています。
――そして今年5月には『スパイ教室』のコミカライズもスタートしました。前回のインタビューでは本作のメディアミックスの難しさについて触れられていたと思うのですが、漫画化のお話を聞いた時の感想をお聞かせください。
コミカライズのお話をいただいたのは第1巻発売の直後だったと記憶しています。第一印象は「早いな」でしたね(笑)。コミカライズにあたっては、コミカライズならではの仕掛けや見せ方で挑もうという話を担当編集さんとしていました。お話をいただいたことは非常に嬉しかったですし、小説とは違ったチャレンジができるという気持ちも大きかったです。コミカライズの脚本については、漫画用の脚本としてすべて自分が書き下ろしているので、原作としても相当関わっている方だと思います。作画を担当していただいているせうかなめ先生にもご協力をいただいて、楽しくやらせていただいています。
※コミックアライブ2020年7月号よりコミカライズ連載も開始
――脚本をすべて書き下ろされているのですね。コミカライズの脚本ならではの難しさはありますか。
漫画は月1回の連載で30ページ前後が掲載されることになるのですが、その中に物語の起承転結を作って、物語を締めなくちゃいけません。小説の場合は1冊の中に起承転結を収めると言う意味で、幅が広いわけですけど漫画はそうじゃない。表現のボリュームという部分ではかなり苦労しました。一方で、漫画ならではの表現や、楽しさを感じながら取り組めているとも思っています。例えばキャラクターをたくさん登場させるにあたっても、小説ではワンシーンに一人一人を描写しようとすると苦しくなっちゃうじゃないですか。でも漫画では極論、ひとコマでたくさんのキャラクターを登場させることができるし、雰囲気作りもできるわけです。コミカライズ1章ではスパイ教室の少女たちがクラウスに挑み、負けながらも成長する姿を描きました。コミカライズでは小説とは違った仕掛けを用意しながら物語を進めていますので、期待していただけるとありがたいですね。
※コミカライズでは小説とは異なる仕掛けも用意されているという
――脚本を新たに書き下ろされているとなると、コミカライズはある意味でもうひとつの『スパイ教室』なのかもしれませんね。
そう言っていただけるとありがたいですね。物語としての大枠こそ変わっていませんが、過程に関しては小説版とかなり変わっています。小説第1巻では、特定のスパイ見習い以外はほとんどフォーカスされていなかったかと思います。一方のコミカライズでは、一人一人のキャラクターにスポットをあてながら、任務に挑んでいく物語となっているので、彼女たち個々の活躍にも注目をしていただけたらと思います。
※コミカライズ版はもうひとつの『スパイ教室』!
――あらためて発売された第4巻はどんな物語なのか、そして見どころを教えてください。
ネタバレにならない範囲でざっくりとお伝えすると、「灯」のメンバーは【蛇】の一員が潜んでいる合衆国へ潜入することになります。少女達の前には【蛇】のメンバーである「紫蟻」の手先が現れ、追い詰められていくことになります。それでも必死に戦いながら情報を集め、【蛇】と「紫蟻」と雌雄を決していく、というのが第4巻のおおまかなストーリーです。第4巻ではティアに注目していただけたらというのと、第2巻と第3巻で登場した「屍」というキャラクターが物語のポイントにもなるかと思うので、あわせて注目していただけたらと思います。
――さて、第33回ファンタジア大賞「大賞」受賞作もいよいよ翌月に発売となります。同じ「大賞」受賞作家として、そして後輩に向けてぜひアドバイスやメッセージをひとつ(笑)。
私自身、アドバイスなんてできるような立場じゃないですからね!(笑)。作品にはまだお目にかかっていないので、それこそ楽しみにしている読者さんと同じ目線で情報を追っている状態です。『魔王2099 電子荒廃都市・新宿』については、いち読者として楽しみにしているので、ぜひ面白い物語を読ませてください。サイバーパンクのラノベはもちろんあるにはありますけど、全体的な比率で言えばそこまで多いとは言い難いジャンルだと思っています。どんな風に料理されているのかとても楽しみにしています!
――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。
まずは、第1巻、第2巻、第3巻と読んでいただいている読者のみなさまには、応援していただき本当にありがとうございます。「このラノ」に投票いただいた方もたくさんいると思います。本当に光栄な身に余る順位をいただけたので、とても嬉しく思っています。「灯」のメンバーはこの第4巻でひとつ大きな壁に立ち向かっていくことになります。ぜひその結末を見届けてもらえたらと思います。そして第5巻以降のセカンドシーズンは、読者のみなさんにどんな反応をしてもらえるだろうかとビクビクしているところではありますが、自分としてもかなり攻めた物語にしようと思っているので、クラウスと少女たちが不可能任務に挑み続ける姿を引き続き応援していただけたらと思います。そしてコミカライズ版にもぜひ注目いただけたらと思います。小説第4巻のすぐ後に、コミックス第1巻も発売されます。コミカライズの1章、2章は原作に沿う構成ですが、後半に行けば行くほど漫画ならではの物語や設定をお披露目していきます。キャラクターは変わりませんが、ストーリー的な差異や、漫画オリジナルのストーリーを楽しんでいただきたいです。コミックス第1巻の5章は書き下ろしの完全オリジナルストーリーです。せうかなめ先生にも非常に頑張っていただきました。漫画版の『スパイ教室』にもご期待ください。
――本日はありがとうございました。
<了>
ファーストシーズンを締めくくる『スパイ教室』第4巻が発売となった竹町先生にお話をうかがいました。読みながら「そういうことか!」と思わせられること間違いなしの本作。世界最強のスパイ・クラウスはもちろん、「灯」の少女たちの成長からも目が離せません。激動のファーストシーズンからセカンドシーズンに向けて動き出す『スパイ教室』は必読です!
©竹町/KADOKAWA ファンタジア文庫刊 イラスト:トマリ
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