独占インタビュー「ラノベの素」 井上かえる先生『女子高生の放課後アングラーライフ』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2021年10月1日にスニーカー文庫より『女子高生の放課後アングラーライフ』が発売された井上かえる先生です。第26回スニーカー大賞にて「優秀賞」を同作で受賞し、満を持してデビューされます。かつて友達だと思っていたクラスメイトにいじめられ、人間関係に線を引いてしまった女の子が、釣り同好会を通じて少しずつ心を開いていく女子高生の青春ライフを描く本作。作品の着想や登場するキャラクター、そして釣りの魅力まで様々にお聞きしました。

 

 

女子高生の放課後アングラーライフ

 

 

【あらすじ】

同級生からイジメの標的にされ、関西の高校に転校した追川めざし。登校初日、同じクラスの白木須椎羅に「これは運命やでっ! めざしちゃん!」と迫られ、そのまま彼女が会長を務める海釣り同好会「アングラ女子会」に入会することに。同好会のメンバーであるクール系女子・汐見凪と副会長で勝気な性格の間詰明里から釣りの基本を教えられ、女子高生アングラーとしての生活をスタートさせる。めざしは少しずつ魚釣りの面白さと彼女たちのボケとツッコミが入り乱れる楽しい雰囲気に居心地の良さを感じはじめるのだが……。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

兵庫県出身の井上かえるです。初めて小説の公募に投稿したのは2013年で、小説を書き始めてから受賞するまで7、8年かかった計算になります。好きなものは阪神タイガースで、ハマっているものも阪神タイガースで、おもしろいものも阪神タイガースです。もう15年以上優勝してないんです! 今年はチャンスなんです! 優勝してくれ! 頼む!

 

 

――熱烈な阪神タイガースファンのようで(笑)。また、小説の執筆から7、8年越しの受賞となりました。あらためて、第26回スニーカー大賞「優秀賞」受賞の感想をお聞かせください。

 

受賞して小説家デビューすることを目標に執筆・投稿を続けていたので、やっぱり嬉しかったです。ただ、担当編集さんに電話をいただくまでは半信半疑でした。実は怪しい電話かと思って知らない番号からかかってきた電話を2回程スルーしていたんですけど、さすがに3回目は出ないといけないなと思い出てみたところ、担当編集さんからの電話でした。趣味の話だったり好きな作品の話だったり、1時間程話したと思うんですが、通話を終えた後にじわじわと実感しました。本当に受賞したんだ、と。

 

 

――何回かスルーされていたとのことでしたが、電話をもらった時は何かをされていたんですか。

 

いえ、最終選考に残っていると連絡を受けたのは別の原稿を書き終えてすぐのタイミングで、次はなにを書こうかとぼぅーっといろいろ考えていた時だったと思います。なので、本当にビックリしました。あとがきでも書いていますが、本当に途中の選考結果を確認していなかったので。「は?」と(笑)。

 

 

――それでは受賞作『女子高生の放課後アングラーライフ』はどんな物語なのか教えてください。

 

友達だった子達からSNSいじめの標的にされていた主人公の追川めざしは、父親の夢の実現のために東京から関西へと引っ越すことになります。海辺の町で喫茶店を開く。父親からそう聞かされていためざしでしたが、引っ越してみるとそこは海あり港あり漁船ありの漁港町でした。友達が突然いじめの加害者に変わった過去を持つめざしは、「友達」というものを恐れるようになってしまいました。友達みたいな関係は作らない。めざしはそう心に決めるのですが、そんな彼女の決意を邪魔するように、転校先のクラスメイト白木須椎羅はめざしをある会へと勧誘します。その会とは、女の子だけの海釣り同好会・アングラ女子会でした。アングラ女子会のメンバーは個性派揃いで、元気娘に、クール女子に、椎羅愛。そしてボケとツッコミ。そんな彼女たちとの釣りや触れ合いを通して、めざしは次第に心を開いていきます。いじめにより心に傷を負った一人の女の子が、自分の居場所を見つける。そんな瑞々しくもほろ苦い青春と友情の物語です。

 

女子高生の放課後アングラーライフ

※個性派揃いのアングラ女子会の一員になって物語は動き出す

 

 

――本作は「釣り×女子高生」がひとつのキーワードになると思います。執筆における着想についてもお聞かせください。

 

「釣り×女子高生」で描こうとしたものは、「女の子のたくましさ」です。釣りってなんとなく男の趣味というか、もっと言うとオジサンの趣味みたいなイメージがあるように思います。それをあえて女の子にやってもらう。道具の準備から、仕掛け作り、エサつけ、釣った魚の調理、道具の片付けまで全部です。すべて女の子だけで完結させる。それで女の子のたくましさを描こうとしました。なので、本作に男の子は出てきません。オジサンは出てきますけど(笑)。

 

 

――釣りについては、井上かえる先生もやられているとのことですが、釣りを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

 

あとがきでも書いていますが、私は釣りライト勢です。そして、私の父はガチ勢です。釣りのためなら車を片道300km以上走らせますし、釣りのためなら車中泊もやってのけます。そんなガチ勢を父に持った私の生活空間には当たり前のように釣りがあって、物心がついた頃にはもうすでに釣りをしていました。結果としてガチ勢にはなりませんでしたけど(笑)。私の釣り場は海で、その魅力はなんと言っても釣った魚が食べられることだと思います(笑)。釣りは楽しくて美味しいですし、どうやって釣ろうかと策を練ったり、アタリが来た時のワクワク感も魅力ですが、自然や四季を感じられるのも魅力のひとつだと思います。喧騒から離れて自然の中に身を置く。そんな時間も良いものです。

 

女子高生の放課後アングラーライフ

※作中では釣りの魅力も多く描かれている

 

 

――受賞後は書籍の発売に向けて改稿作業などにも注力されてきたかと思いますがいかがでしたか。

 

改稿作業で何が一番大変だったかと言うと、自分の性格と向き合うことでした。私はどこか完璧主義者みたいなところがあって、そこにデビュー作というプレッシャーが乗っかり、改稿作業にはとんでもなく時間を要してしまいました。大丈夫かな……大丈夫だろうか……と、完璧主義というよりはただのビビりなんでしょうけど(笑)。なので、ずっと待ってくれていた担当編集さんは私以上に大変だったと思います。そして改稿作業の中で強く感じたことは、担当編集さんという存在のありがたさでした。

 

 

――具体的にはどんなところが「ありがたい」という感情に繋がったのでしょうか。

 

私は投稿サイトなどで作品の公開や連載を行っておらず、公募のみで作家デビューを目指していました。そのため、評価シートを除いて自分の書いた小説に感想をもらうことはありませんでした。知人に読んでもらうこともなく、ずっと一人での執筆・投稿活動を続けていました。そのおかげで心は随分と強くなりましたが、自分の小説の良し悪しを理解せずに執筆・投稿を続けていた面もあったんです。担当編集さんは良し悪しの意見をくれるので本当にありがたいですし、孤独感を感じなくなったこともプラスに働いたと思っています。作品を自分一人ではなく、担当編集さんと一緒に作っていっている感じですね。

 

 

――ありがとうございます。それでは続いて本作に登場するキャラクターについても教えてください。

 

追川めざしは、内気で臆病な女の子です。友達だった子たちから突然いじめの標的にされた過去を持ち、「友達」というものを恐れるようになってしまいます。椎羅たちには丁寧過ぎる言葉遣いと作り笑顔で応対します。なにがあっても絶対に「ノー」と言いません。なぜなら、もういじめられたくないと怯えているからです。アングラ女子会に入会するまで釣りをやったことはありませんでした。

 

追川めざし

※他人との距離に敏感な追川めざし(キャラクターデザインより)

 

白木須椎羅は、元気印で天真爛漫な女の子です。アングラ女子会の会長になります。小柄で小動物めいた外見はとても可愛く、中身も非常に幼くてよく粗相をしてしまいます。とにかく釣りが大好きで、なにかとボケたがる。ある理由により、めざしに運命を感じて彼女のことをアングラ女子会に勧誘します。距離感が近くてスキンシップを取ることが多く、めざしをよくドキドキさせます。

 

白木須椎羅

※釣り好きで天真爛漫な女の子・白木須椎羅(キャラクターデザインより)

 

汐見凪は、思慮深くてクールな女の子です。アングラ女子会のお母さん的ポジションの彼女は、幼馴染みの椎羅に対するとさらにお母さんになります(笑)。相手の顔色や反応から、心の内を察する能力に長けていて、めざしに警戒されています。明里とはよく言い争いになりますが決して仲は悪くないです。相手をバッサリと斬り伏せるツッコミ役。そんな彼女はみんなのことを見守っています。

 

汐見凪

※アングラ女子会のまとめ役でもある汐見凪(キャラクターデザインより)

 

間詰明里は、ケンカっ早くて直情的な女の子です。アングラ女子会の副会長でもあります。知らないうちにアングラ女子会に入会していためざしのことをあまりよく思っておらず、凪とはよく言い争いになり、そしてそんな彼女は椎羅のことが大好きです。ちょっぴり乱暴な性格でもありますが、根は思いやりがあって照れ屋でもあります。妄想しがちなところがあって、椎羅のこととなるとさらに暴走します。

 

間詰明里

※椎羅のことが大好きな間詰明里(キャラクターデザインより)

 

 

――本作は女子高生の青春物語でもあり、作中ではちょっとした百合っぽさも垣間見えるシーンがありますよね。

 

はい。ガチガチの百合ではなくて、青春や友情の中で生まれる、ちょっとした百合っぽさですね。そのあたりの強弱は少し難しくはありました。とはいえ、彼女たちのスキンシップはもちろんですが、メインは彼女たちの青春と友情ですので、そのあたりにも注目しながら読んでいただけると嬉しいです。

 

女子高生の放課後アングラーライフ

※女の子同士の距離感の近いスキンシップも見どころのひとつ!?

 

 

――本作のイラストは白身魚先生が担当されています。あらためてイラストの感想やお気に入りのイラストがあれば教えてください。

 

なんと言うか、幸せ過ぎでしょ、と(笑)。担当編集さん経由で白身魚先生のイラストが送られてくるのですが、そのたびに圧倒されていました。すべてのイラストがお気に入りです。その上でいくつか挙げるとするなら、まずはカバーイラストですね。釣り、夏の空、女の子たちの青春。それぞれの性格もよく出ていて素敵な一枚です。

 

女子高生の放課後アングラーライフ

 

見開きで「ドン!」と描かれている口絵も素晴らしいです。特に椎羅が良いですね。ヒマワリみたいな元気娘、まさに椎羅です。背景込みで素晴らしい一枚です。挿絵だと、明るかったりギャグ感が溢れていたりするイラストの中に唯一あるシリアスな一枚。あれは見ていてうるっとくるものがあります。「そのめざしのカット入れちゃいます?」と。いろいろと想像してしまって胸が締め付けられます。本当にすべてのイラストがお気に入りなので、1枚ずつ紹介したいところではありますが、それは読者の皆様に楽しんでいただくということで控えておきます。ぜひ読者の皆様にもお気に入りを見つけてほしいです。

 

女子高生の放課後アングラーライフ

※イラスト1枚1枚にも見どころが多いのでぜひ注目してもらいたい

 

 

――著者として本作はどんな方が読むと、一層面白く感じてもらえると思いますか。

 

なんだか毎日がつまらない。そんなふうに感じている方が読むと、少し心が軽くなったり毎日の見え方が変わったりするかもしれません。もちろんそうでない方にも楽しんでもらえると思います。見どころは彼女たちの青春と友情です。溢れるエネルギーというか、瑞々しさというか。若いっていいですね。羨ましいです。

 

 

――今後の目標や野望があれば教えてください。

 

授賞式の総評でスニーカー文庫の編集長が「ブームは乗るものではなく、起こすもの」というようなことを話されていました。実は私も同じような考えを持っています。ないものを創る。新しいなにかを生み出す。それが私の創作活動の中心にあるものです。本作を書こうと思った動機もそうです。「こういうのってないよな……斬新で面白いかも……よし、書こう!」と。なので、今後も自分の感性を信じて、変わらず新しいなにかを生み出していきたいと思います。

 

 

――それでは最後にご自身のファンの方、そして新たに本作を知った方へ一言お願いします。

 

本作『女子高生の放課後アングラーライフ』は、釣り・青春・友情・ほんのり百合・笑い、と幅広い方に楽しんでいただける一冊になっています。可愛くて、美しくて、うるっとくるイラストも必見です。彼女たちの青春と友情の物語をぜひ楽しんでください。よろしくお願いします。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

女子高生たちが織り成す釣りと友情と、ほんの少しほろ苦い青春を綴る井上かえる先生にお話をうかがいました。女子高生たちのボケやツッコミ、彼女たちの持つ強さも大きな見どころのひとつとなっている『女子高生の放課後アングラーライフ』は必読です!

 

<取材・構成:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©井上かえる/KADOKAWA スニーカー文庫刊 イラスト:白身魚

kiji

[関連サイト]

『女子高生の放課後アングラーライフ』特設サイト

スニーカー文庫公式サイト

 

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女子高生の放課後アングラーライフ (角川スニーカー文庫)

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